失踪日記:私の好きだった吾妻ひでおの「その後」の日々

失踪日記
 
 8月になりましたが相変わらず暑いですね。夏真っ盛りの昨今です。このブログも足かけ4ヶ月目に突入しましたよ。

 暑さとは何の関係もなく、本日は吾妻ひでおの「失踪日記」を紹介します。

 吾妻ひでおは1970年代に少年チャンピオンによく連載を持っていました。私は子供心にこの人のマンガが好きでした。当時ヒットした「ふたりと5人」はエロとナンセンスが中心であまり好きではなかったのですが、「チョッキン」とか「ちびママちゃん」(これは月刊少年チャンピオンでした)とか「みだれモコ」とか「シャン・キャット」とかはシュールでSFがかってたりして大好きでした。ただ残念ながら、私好みの作品はすぐに連載が終わってしまうのでしたが。80年代に入ると少年誌からは離れてしまい、青年誌やマニア誌に活動の舞台を移して行きますが、1979年には「不条理日記」で第10回星雲賞コミック部門を受賞しています。その後、「ななこSOS」や「オリンポスのポロン」はアニメ化されるとともに、吾妻ひでおの描く美少女達はロリコンブームの火付け役になったとも言われています。こうして80年代半ばころまではすっかりメジャー化した漫画家さんになりました。
ふたりと5人

 その後の活動はあまり知らなかったのですが、悠々自適に生きてらっしゃるのかと勝手に思っていましたが……その実態はこの「失踪日記」が如実に描かれています。

 「失踪日記」は3部に別れています。

 第一部「夜を歩く」は1989年11月、仕事を放り出して行方をくらまし、山で首つり自殺を図るが失敗し、その後野外生活を始めたころを描いています。ホームレスとなってゴミ箱を漁って食料を確保したり、畑から大根を抜いたり、他のホームレスの食べ物を盗んだりした生活が描かれていますが、深夜に駅前でシケモクを漁っていたときに不審者として警官に捕まり、家人から捜索願が出ていたこともあり、自宅に戻ることになります。この際、漫画家だと言っても信じてもらえないので実際にイラストを描いたり、漫画ファンの刑事を呼んだところ吾妻ひでおであることに驚いて「先生ともあろう方がどうしてこんな…」と泣かれたというエピソードが入っています。
チョッキン
 第二部「町を歩く」は、仕事に復帰したにも関わらず、1992年4月に再失踪し、しばらくホームレスとして生活したのち、同年7月ごろに配管工としてスカウトされ、仮名で働き始めます。この間、社内報に「ガス屋のガス公」というマンガを投稿して採用されたりしていますが、本人の写真付きで掲載されにも関わらず、誰も吾妻ひでおだと気づかず、「つくづくマイナー」であることを思い知らされたりしています。翌年春頃にスカウトした人(実は悪い人で金せびりに来たりローンで買わされた家電を持って行かれたりと「食い物」にされていました)に貰った自転車が盗難車だったため警察の取り調べを受け、家族に連絡されて2度目の失踪が終了しました。実は家に帰った後もさらに半年間配管工として働き続けていますが、先輩社員のいびりを理由に退職し、漫画家に復帰しました。
ちびママちゃん

 第三部「アル中病棟」は、アル中で入院する直前の様子を描いた「アル中時代」と入院後を描いた「アル中病棟」からなっています。吾妻ひでおは1980年代半ばからさかんに飲酒して「アル中」を自称していましたが、1998年頃から、本当のアル中状態(眠っている時以外は酒を絶やさない)となり、幻覚や妄想を見るようになり、同年12月25日、家族に強制入院させられています。ホームレス体験や異業種就職体験もそうですが、アルコール依存症の恐さや同病の人々の奇癖などについても悲惨さを前面に出すことなく、淡々と伝えています。これは、あくまでエンターテイメントとしての作品を目指したためで、「洒落にならない部分」はカットしたということです。
みだれモコ

 本作は発売とともに各メディアで話題となり、第34回日本漫画家協会賞大賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第10回手塚治虫文化賞マンガ大賞、第37回日本SF大会星雲賞ノンフィクション部門を受賞し、「このマンガを読め!2006」の第一位にも選ばれており、奇しくも吾妻ひでお最大の話題作となりましたが、実は連載していた出版社は、当時吾妻ひでおの単行本の売り上げが悪かったことから本作の出版企画を見送っています。その後出版を決定した出版社でも反対の声が多かったということです。

 そして本作のアル中病棟の前半部分に、これまでの漫画家生活の半生をを綴っているのですが、これを読むと、私が好きではなかった「ふたりと5人」はやりたいことをやれずに編集者の指示に嫌々従って描いていたこと(編集者が台詞を考えたりしてこともあったそうです)、その後SFを取り入れた作風を目指すも「SFは受けない」という理由で中々自由に描くことができなかったこと(私が好きだった「チョッキン」も吾妻ひでお的には不満だったそうで、「絵美ちゃん描くのだけが楽しみ」だったと言っています)。少年マンガに見切りを付け始めた頃に描いた「みだれモコ」や「シャン・キャット」は凄く私好みでしたが、編集部に全然受けなかった(および当時の普通の少年達にも受けなかったのでしょう)ので、超短期で打ち切りになってしまったということです。
コミックにならなかったシャン・キャット

 吾妻ひでおの失踪やアル中、さらにその後の鬱状況は40歳以降に現れています。別に彼のような芸術家傾向はないですが、私もそうなってしまう可能性があるかも知れないと、若い頃には全然思わなかったことを思ってしまう今日この頃です。明日も吾妻ひでおについて取り上げます。
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傑作ですな。

私はSFマガジンに不定期に掲載されていたシュールな作品が好きでした。あと、ハヤカワ文庫のカバー画とか。

この作品は衝撃でしたね。ギャグ作家の失踪は珍しくはないものの、強制入院とかホームレスの実態とか漫画としてしっかり描写されたあたりはすごい。
(同時期の花輪和一の「刑務所の中」とともに堕ち物実録漫画の双璧かと思います。どっちもマイナー漫画家で、転落人生後の漫画のほうが売れてしまったという皮肉めいた展開もよく似てます。)

個人的には、やはりハヤカワ系の横山えいじも好きなんですが・・・この御仁も超寡作で。
吾妻氏のようになってなければいいのですけど。

横山えいじ繋がりで、あのすがやみつるが漫画家を辞めて小説家になっていたことを知ったのも衝撃だったり。
しんどい割には儲かりませんか・・・そうですか。

No title

この本!
本屋でふと開いてみて、余りの衝撃的な内容にびっくりして、
とうとう最後まで立ち読みしてしまったという。。。(買えよ。。。笑)
吾妻ひでおの漫画自体はほとんど読んだ事なかったんですが、
この本はすごかった!
洒落にならない、酷い目に遭ったに違いないのに、
それを感じさせない書きっぷりに衝撃を受けました。
凄い才能だと思います。

Re: 傑作ですな。

こんばんは、いらっしゃい。

元々SFとシュールなネタが好きな人でしたが、少年誌ではなかなか理解を得られなかったようです。私は好きでしたが、メジャー受けはしなかったようですね。いつも「なんでこんなに面白いのにすぐ終わってしまうんだ」と怒ってましたが、私が好きな漫画は割と早くに終わる傾向が…

「刑務所の中」も読みましたが、あちらは精神的にはいたって健全で、刑務所生活ガイドとしては非常に面白く描けていました。映画化もされているし。「失踪日記」ぜひ映画化して欲しいな。

「がきデカ」の山上たつひこも作家になる宣言をしましたが、また漫画に戻ってました。やはり小説には小説の難しさがあるのでしょう。隣の芝生は青く見える?

Re: No title

こんばんは、いらっしゃい。

でもネカマはやめてね(笑)。

死のうとまで思い詰めて、実際に自殺を試みているのに、ここまで客観的にしかも諧謔的に書けるのは凄いですね。やはり吾妻ひでおは天才ですよ。

アル中から脱した後は全然飲んでないみたいですが、中島らもがやはり完全に酒から抜けたように見えてあっさり戻ってしまっているところから、その誘惑の強さと怖さが伺われます。ずっと飲まないで欲しいですが。

私も図書館で借りて読んでいるので面目ないのですが、吾妻ひでおも図書館を多用しているし、立ち読みもしているので、きっと許してくれるでしょう。
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