河童が覗いたインド:未だにインド本ナンバーワンの名著

オータムフェスト終わりました
 
 こんばんは。いつの間にか大通公園のオータムフェストも終わって10月です。札幌は一気に秋めいてひんやりしています。ああ冬が怖い。秋にはなるべく続いて欲しいのに。

河童が覗いたインド

 本日は妹尾河童の「河童が覗いたインド」です。外国に暮らしていた頃に楽しく読んだのですが、そのまま置いてきたので、札幌のブックオフで見かけてまた買ってしまいました。

妹尾河童

 妹尾河童は1930年6月23日生。兵庫県神戸市出身のグラフィックデザイナー・舞台美術家・エッセイスト・小説家です。河童は本名で今ならさしずめDQNネーム(婉曲に言うとキラキラネーム)ですが、旧名は肇(はじめ)でした。

ミーナクシー寺院のゴプラムに登る

 もちろん本来は仇名だったのですが、異常なほどに浸透してしまい、勤務先のフジテレビで来客が受付に「妹尾肇を呼んで欲しい」と伝えても「当社にはそのような人物はおりません」と言われるなど業務に差し障りが生じたり、また「妹尾肇」宛の郵便物が近所に住む「松尾肇」という人物に届いたりしてしまい、仕事のみならず生活にも支障が生じたそうです。さらに文化庁から海外に派遣されることになった際、舞台美術の名義がすべて「妹尾河童」なのに対し、文化庁の交付書類では「妹尾肇」となっており、同一人物であることをいちいち説明するのは大変ということで「妹尾河童」に改名を決意しました。

ボンベイその1

 改名を申請した家庭裁判所では「本来改名というのは珍奇な名前で苦しんでいる人を救済するためにあり、あなたのような普通の名前から珍妙な名前は前例がなく、到底認められない」と一度門前払いを喰らったそうですが、なんとか認めてもらいました。

ボンベイその2

 こんなエピソードからもかなりの奇人というか変人であることが窺われますが、娘に「狸」と名付けようとした(読みは「まみ」。「狸穴(まみあな)」という呼称があります)が結局別の感じを当てたとか(巴マミが巴狸だったら…)、むすこに「河太郎」という名前を付けようとしたとか、やっぱり妙な人です(結局「太郎」に落ち着く)。

覗いたシリーズ

 「河童が覗いたインド」は、通称「覗いた」シリーズと言われるエッセイ群の一冊です。姉妹作としては「河童が覗いたヨーロッパ」や「河童が覗いたニッポン」がありますが、特に本書の出来は群を抜いていると思います。

インドのお札

 例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

働く人々

 インドは広く、そして深い。インドを覗くと、何が見えてくるのか?人一倍の好奇心と行動力で“覗きの河童”がスケッチブックと巻き尺を携え、インドの大地を這いまわった。下痢にもめげず、熱射病も乗り越え、体験したものは…。細密イラストと手描き文字で、浮かびあがらせたインドの素顔。上から下から斜めから、“生き生きインド”が見えてくる。空前絶後のインド読本決定版。

アジャンタの石窟

 妹尾河童は1978年と83年にインドを旅しており、本書はその旅行記なのですが、特徴は何と言っても緻密な手書きイラストレーションです。実は文章も手書きとなっています。というか、あとがきまでは活字はなく、全て手書きとなっています。

インドでわしも考えた

 解説を書いている椎名誠によれば、「インドはああいう国(てごわい、要するによくわかんない国)なので、なんとなく行けば誰でもなにがしかのことは書ける」のだそうで、インド本はゴマンとあって、国別に書かれた本の数ではナンバーワンだろうと言っています。椎名誠自身も「インドでわしも考えた」という紀行文を書いています。

サリーの着方

 そうした玉石混淆の山のようなインド本の中で、おそらく30年経ってもナンバーワンなのが「河童が覗いたインド」でしょう。哲学的思索とかはどうでもいいのであって、どんなところなのか、どんな食べ物があるのか、どんな人がいるのかが紀行文の魅力でしょう。そういう意味ではわざわざ生水を飲んで下痢になってみたり、高いゴープラムに登ってスケッチしたりしている本書は、まさに地に這うようにインドを観察していて抜群の面白さです。

インド鉄道紀行

 私もたくさんインド本を読んでいるわけではないのですが、本書と宮脇俊三の「インド鉄道紀行」でインド本のワンツーフィニッシュではないかと。

サリーの着方その2

 それは妹尾河童が実に好奇心旺盛で凝り性であることから来ているのでしょうが、海千山千のインド人相手に一歩も退かない変人振りには、およそ普通の日本人らしくないので、インド人達も驚いたのではないでしょうか。

序盤の聖なる河

 細密画とさえ言いたくなる緻密なスケッチは素晴らしく、写真よりもむしろわかりやすいと思います。猛暑の中でよくもこんなにスケッチしたなと頭が下がります。

インドの弁当箱

 それから泊まったホテルの間取り図もあります。これは「河童が覗いたヨーロッパ」でも既に行っていましたが、本書ではさらに画力が向上しており、まるで天井裏から覗いて描いたかのようです。

インドの弁当箱その2

 妹尾河童は実に面白い人で、家族にいたら鬱陶しいかも知れませんが知人にいると楽しいでしょうね。ただ壮年期までは魅力的な人でしたが、老齢期に入ってからはどうなのでしょうか。読んでいないし、読むこともないと思うのですが、1997年に出版された「自らの記憶と体験を元に書いた作品である」との触れ込みの「少年H」は、児童文学作家の山中恒から、「作中に夥しい数の事実誤認や歴史的齟齬がみられる」「主人公やその家族の視点が当時の一般的な日本人の感覚から大きく乖離している」「戦後になるまで誰も知らなかったはずの事実をまるで未来からでも来たかのように予言している」「自身が編纂に関わった書物の記述がその誤りの部分も含めてまるごと引用されている」などと批判し、「少年H」は妹尾河童の自伝でもなんでもなく、戦後的な価値観や思想に基づいて初めから結論ありきで描かれた作品であると酷評しています。

少年H上巻
少年H下巻

 妹尾河童は山中恒の挙げた具体的な誤りや欺瞞の指摘には口を閉ざし、一切の反論を行っていませんが、「少年H」の文庫化に際しては、指摘された部分を中心に何箇所もの訂正や変更、削除などを行っているそうです誤りをこっそり直すだけでなく、誤りを犯したことをはっきり謝罪するべきではないかと思うのですが、年を取って頑迷になったのでしょうか。作中で少年Hこと肇少年は「大人も新聞もウソつきや」って吼えていますが、その批判はブーメランとなって「オマエモナー」と返ってくるのでした。

「少年H」批判本

 本書はとにかく面白いのであらゆる人に推薦したいですが、上記のようなことがあるので作者を手放しで賞賛することはできません。

講談社文庫版 河童が覗いたインド

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