「言の葉の庭」考察(その1):「秒速5センチメートル」との違い

こんばんは。本日は七夕ですね。札幌では雨こそ降っていませんが、薄雲がかかって星は見えにくいです。月が朧月になっていました。この程度なら逢瀬には問題ないのでしょうかね?

昨日トイレの電球が切れたのでホームセンターに行って買ってきたのですが、あそこは実に危険な場所ですね。目的のものが見つかった後もついつい色んな棚を見てしまい、また色々と欲しくなってしまうという。電球だけなら400円もしなかったのに、何だかんだと5000円近く使ってしまいましたよ。それにしてもホームセンターはおっさんが買い物していても様になるので気楽でいいですね。

本日は「言の葉の庭」の考察(?)を綴りたいと思います。5月26日に初見の感想を書いています(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-721.html)が、昨日再見しましたので。なおネタバレを含みますのでまだ未見の方は「言の葉の庭」を視聴してから読まれることを強く推奨します。できれば「秒速5センチメートル」他の新海誠作品も見ていただきたいです。なお、「秒速」に較べれば相当短いです。

1.はじめに

「星を追う子ども」はなお未見なのです、「ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」そして「秒速5センチメートル」との比較をしてみたいと思います。「星を追う子ども」はジュブナイルということもあり、他の作品とはかなり毛色が違うとのことですが、キャッチコピーが「少年は憧れ、少女は旅立つ」、「それは、“さよなら”を言うための旅。」とのことなので、他作品と共通項がないわけではないと思われますので、いずれ機会を捉えて見たいと思っています。

「言の葉の庭」は公開3日間で興収3000万円というヒットし、「秒速5センチメートル」の観客動員数を10日間で突破し、「星を追う子ども」の動員数も14日間で更新するという、新海作品最大のヒットを記録しています。トータル12万人以上を動員し、最終興収は推定1億5000万円だそうです。

カナダ・モントリオールで開催されたファンタジア映画祭で、アニメーション作品における業績に対して贈られる今敏賞を受賞(「ベルセルク 黄金時代篇III 降臨」と共に)、劇場アニメーション部門の観客賞も受賞したほか、第18回アニメーション神戸賞で作品賞・劇場部門受賞、iTunes Storeが「iTunes Best of 2013“今年のベストアニメーション”」に選出、さらに本年4月にはドイツ・シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭「ITFS」長編映画部門で最優秀賞を受賞するなど、新海作品としては興業的にも作品評価的にも最も栄光に満ち満ちた作品といえましょう。

ただし個人的には「秒速病」に罹ることになった「秒速5センチメートル」ほどのインパクトは受けませんでした。「秒速病」はあっても「言の葉病」はないのではないかと思います。

2.「秒速5センチメートル」との違い

① ヒロインとの年の差

新海作品としては初の「年上の女」雪野百香里(ゆかり)がヒロインとして登場します。しかも年の差なんと12才。「ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」のヒロインが同級生であったことと較べて大きな違いです。光速度でも超えられない圧倒的な距離(「ほしのこえ」)、謎の奇病による断絶(「雲のむこう、約束の場所」)、「距離と時間がゆっくりと、しかし不可逆的に変質させていく“二人の想い”(「秒速5センチメートル」)に対して、「言の葉の庭」では年齢差こそが巨大な壁として二人の前にそそり立っているといえましょう。加えて言えば二人の立場(教師と生徒)もかなり厚い壁となるでしょうね。

ところで、「ほしのこえ」の美加子はさておき、「雲のむこう、約束の場所」の佐由理、「秒速5センチメートル」の明里、そして本作の百香里と、名前に共通点がありますね。ひらがなにして三文字であることと、「り」で終わるところです。「百香里」で「ゆかり」ってちょっと凝ってますけど。この三人、「さゆり、あかり、ゆかり」ですから三姉妹とか三つ子とかでもおかしくないネーミングだと思います。新海誠は「~り」で終わる名前がお好みなのでしょうか。お隣同士の幼なじみなのに一緒に帰ってくれない「しおり」なんかもいかがでしょうか。

② 主人公の特異な志向

「言の葉の庭」の主人公秋月孝雄は15才の高校一年生にして靴職人になるという確固たる意思を持っています。そのために専門学校への進学を目指しており、アルバイトにいそしんでいます。またすでに靴の自作も行っています。他作品の主人公は本来特に自分の将来に強い志望がなかったものが、ヒロインとの関わりによって変化していくという図式ですが、「言の葉の庭では」ヒロインに出会う前に将来の夢が存在しています。

ただ…なぜ孝雄がそんなに強く将来の夢を持っているのか謎に感じるところがあります。一応母の誕生日に父や兄と一緒にプレゼントしたパンプスの美しさに魅せられたという描写はあるのですが、それで15才にして他に道はないように思えるほどに?と思ってしまうのです。もしや孝雄はマザコンなのか。それにしては母の家出にさほどのショックは受けていないような気もしますが……。あれですか、年上の百香里に「母の面影」を見ているというやつですか。

余談ですが兄の恋人さん、なんとなく明里に雰囲気似ているような気が。この兄さんなら明里を預けてもいいかな?…かな?

従来の、ヒロインとの関わりのなかで変わっていく主人公というものを踏襲するのであれば、靴職人になりたいという願望はありながらも、自分自身「夢物語」と思っていたところに「うまく歩くことができなくなった」百香里が現れ、彼女の苦しみを知る中で「彼女が歩けるような靴を作りたい」という確固たる意思が生まれるという形のほうが良かったような気がします。

また、ラスト前に孝雄は激情のままに百香里を罵るのですが、その中で「あんたが教師だと知っていたら、俺は靴のことなんかしゃべらなかった。どうせできっこない、叶いっこないって思われるから!」と言っています。この発言は正直「?」でした。だって孝雄は冒頭から一貫して靴職人になることを目指しているという描写が続いており、またそのことは孝雄の兄も知っているのですが、それを笑ったりしている様子はないのですから。もう靴職人になることは孝雄本人の中ではルートとして確定しているのかと思っていましたよ。

確かに他人に靴職人になるのが夢だと話したのは百香里が初めてだというモノローグはありましたが、靴職人になるという夢が家族以外には知られたくない秘密であり、孝雄自身も実現することは困難だと考えているのだとしたら、ラストに至る前にもう少しそういう描写が必要だったのではないでしょうか。そもそも靴職人になることって、そんなに非現実的な夢なんでしょうかね。

むしろそこまで将来の夢が決まっているのなら、やる気もない高校なんかやめてバイトと靴作りに専念したっていいのではないでしょうか。今時高卒くらいは…とは私も思いますが、高校に来て「こんなことしている場合じゃない」と感じているくらいなら、世間体とか親の希望とかそういうしがらみはばっさりぶった切って、自分の道を進めばいいじゃなかとも思います。ただ、ちょっと調べただけですが、靴職人の専門学校は年齢制限はないものの高卒が必要条件となっているようなの
で、孝雄も仕方なく高校に通っているのかもしれません。

③ ヒロインの異色性

出会ってすぐに大人の女性として孝雄を魅了する雪野百香里。あの頃の男子は年上の女性に弱いですからね。百香里の儚げな雰囲気とか、ガキの分際でも守って上げたいなんて思ってしまうことでしょう。そんな百香里のCVは大人気声優花澤香菜で、彼女として珍しく年上の役を演じている訳ですが、その声も孝雄を惹きつける要素となっている気がします。

それにしても百香里は従来の新海作品のヒロインとは一線を画した異色のヒロインです。その異色性を列挙すると、

a.朝からビール飲んでる。酒飲むヒロインは初めてだ…ってまあこれは未成年ばかりでしたからね。厳密には「金麦はビールじゃない」とも言えますが、彼女の部屋には他にもモルツやプレミアムモルツらしい缶が見られます。

b.元カレがいて、しかも同僚教師だった。元カレである伊藤先生は体育教師かな。美人だし27才なんだから元カレの一人や二人いたって驚きませんが、相手が同僚教師でしかも破局というのはちょっといただけませんね。私、実は伊藤先生についてはちょっとした妄想を抱いているのですが…それについては後日詳しく。

c.生徒から壮絶ないじめに遭って登校できなくなった。教師に「いじめ」はおかしいですかね。でも事実上生徒の登校拒否と同様の症状になっています。その影響で味覚障害も併発したらしく、ビールとチョコレートの味しかわからなくなったとか言っています。明里も小学生時代はちょっとしたいじめに遭っていたし、岩船に転校してから電車通学している理由はいじめのせいではないかという仮説も立てたりしています(中学校なんだから普通徒歩や自転車で通えるくらいの距離にあるだろうということで)が、直接描いている訳ではありませんが、こんな壮絶ないじめないし嫌がらせを受けるなんて可哀想としか言いようがありません。これについてもワタクシ、ちょっとした妄想を抱いているのすが、やはり後日後日。

教師というのも大変ストレスフルな職業のようで、精神を病む教師も毎年多数発生しているようです。教師によって精神を病む生徒も結構いるでしょうけどね。学校を去る際の描写を見ると結構生徒に人気があった様子です。孝雄の友人によれば百香里は「優しすぎる」のだそうですけど、なぜか彼女を慕ってくるのが大半女生徒であるというのはどういうことなのでしょうか。

27才といえば(特に孝雄から見れば)大人の女性。そこに花澤香菜の美しく澄んだ儚げな声を当てている点で、孝雄視点でのミステリアスな謎の美女という側面だけでなく、視聴者からするとは大人になりきれていない女性、あるいはある種の甘さが残る女性であるという味方ができるような気がします。本人も自覚しているようですが…

そういえば「秒速5センチメートル」の踏切のシーンを彷彿とさせるシーンがありました。学校の職員室前の廊下ですれ違ってお互いに気付く孝雄と百香里。「秒速」なら小田急線が疾走して姿を隠してしまうのですが、さすがに学校では。だいたい孝雄はともかく、百香里は孝雄が自分が勤務する学校の生徒だと知っていたのだからそんなに驚くところかと言いたいですね。

では次回、私の妄想について語りましょう。
スポンサーサイト