死亡フラグが立ちました!:ドリフのコントのようなラストには賛否両論?

こんばんは。2013年度最後の記事を…と思ったのですが、送別会などありまして。気付けばもう4月1日。新年度になってしまいました。じゃあもう寝ようかとも思ったのですが、けじめなので一応更新しときましょう。

いつのまにやら桜も満開。この季節は移ろいが激しいですね。時よ急がないでと言いたくなるような。

本日は七尾与史の「死亡フラグが立ちました!」です。七尾与史の作品は初めて読みました。

七尾与史は1969年6月3日生まれ。静岡県浜松市出身です。山村正夫記念小説講座で創作を学び、宝島社主催の第8回「このミステリーがすごい!」大賞に応募した「死亡フラグが立ちました!」が最終選考に残りました。受賞には至りませんでしたが内容が評価され、2010年7月に隠し玉(編集部推薦)として本作で作家デビューしました。売上24万部突破ということで、新人のデビュー作として成功だと思います。。

歯科医として歯科医院を経営する傍ら、執筆活動を続けているということで、デビュー4年目にした多作で、10冊以上の作品を発表しています。「死亡フラグが立ちました!」は「陣内・本宮シリーズ」の一作で、他にドS刑事こと「黒井マヤ」シリーズも人気があるようです。
「死亡フラグが立ちました!」はサブタイトルが「凶器は…バナナの皮!?殺人事件」となっていて、冗長だったとされる応募作を半分ほどに削り込んでテンポを良くしたそうです。
例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

"「死神」と呼ばれる殺し屋のターゲットになると、24時間以内に偶然の事故によって殺される"。特ダネを追うライター・陣内は、ある組長の死が、実は死神によるものだと聞く。事故として処理された彼の死を追ううちに、陣内は破天荒な天才投資家・本宮や、組長の仇討ちを誓うヤクザとともに、死神の正体に迫っていく。一方で、退官間近の窓際警部と新人刑事もまた、独自に死神を追い始めていた...。第8回『このミステリーがすごい!』大賞隠し玉。
主人公は売れないフリーライターの陣内トオルで、ほぼ唯一の収入源である三流出版社・文蔵社のオカルト雑誌「アーバン・レジェンド」のスタッフ総入れ替えで失職の危機を迎えています。打開策は売り上げを倍増させることだという編集長・岩波美里の命により、究極の殺し屋と言われる「死神」の正体を追求することになりますが…
全く進展しない調査に音を上げた陣内は、高校時代の先輩である本宮昭夫に相談を持ちかけます。この本宮という男、風貌は全く冴えないのですが東大卒でデイトレードで百億の資産を持つという天才で、完璧超人的存在です。本宮がホームズ、陣内がワトソンといった感じでしょうか。
タイトルからしてわかるとおり、本格ミステリーではなく、コメディタッチのライトノベルと言った方が適当かと思われます。「死神」に組長を殺されたと考えているヤクザの松重と共に、組長殺害のからくりを調べる本宮・陣内は、「死神」は直接標的に手を下すことなく、ピタゴラスイッチ的に限りなく完璧に事故死を偽装する手口を使います。例えば組長殺害の場合、好きな洋物のAVにサブリミナル効果を狙ってビールの画像を挟み込み、冷蔵庫からビールを出そうとした組長が絨毯の色に溶け込んだバナナの皮で滑って転び、頭を鉄アレイにぶつけてさせて殺します。
「死神」の手口は全てこんな感じなので警察も全て事故で処理していますが、一人だけ板橋という定年間近な警部だけが17年前に起きた殺人事件に疑いを持っており、独自に捜査を続けています。板橋警部の相棒というかお守り役をおおせつかった若手刑事の御室恵介は、板橋の追っている事件の被害者の一人が同級生だったことを思い出したことで、次第に板橋の推理に共鳴していきます。
接点のないままに「死神」の正体を追究していく二組ですが、「死神」はそんな動きを察知済みで、巨大な罠にかかっていくことになります。殺害相手にトランプのジョーカーを送りつけ、24時間以内に必ず殺す「死神」の立てた死亡フラグをかいくぐることができるのか?
ところでこの作品、ミステリーではないと思います。筒井康隆風のスラップスティック・コメディといった方が適切かと思います。なぜミステリーではないかと思うかいえば、「死神」の手口(トリック)はあっさり解明されてしまうし、一回だけならいざしらず、職業として同様の手法で殺しを続けている「死神」の業は人間には不可能だろうと思われるからです。作者も、「死神」どうやって偽装を行うかについてはほぼ放り投げています。
また、「死神」の正体については、ちょっとミステリーをかじった人ならほぼ途中で気がついてしまったりします。実はこの作品、シリアスにやろうとすれば東野圭吾の名作「白夜行」に近いテイストの作品になったのではないかと思いますが、コメディタッチのせいで人は結構死んでいるのに緊迫感がありません。
そして問題のラスト。「衝撃のラスト」と言えば言えるのですが、例えてみれば「8時だヨ!全員集合」の前半コントのオチみたいなのです。音楽が鳴って舞台が反転していくアレです。要するに金田一ものかと思っていたらドリフの金田一コントだったという感じで、Amazonのレビューを見るとかなり怒っている人がいます。終盤ちょっとシリアスになったのに全部ぶちこわしの感があるのでその気持ちをわかります。
ドリフの金田一コントは大好きだったんで、個人的にはそんな嫌悪感はないのですが、「怒る人は怒るよな、これは」とは思いました。
最初からドリフの金田一コントだと承知していればいいようなものなのですが、それならそれでギャグに徹する姿勢でも良かったかなと思います。ミステリータッチのコメディだという姿勢を最初から見せていればそれはそれで面白い作品だったと思うのですが。デビュー作と言うことでそこまで作者が開き直れてなかったのかも知れません。

「死神」のターゲットなった陣内・本宮コンビですが、続編「死亡フラグが立ちました! カレーde人類滅亡?!殺人事件」が出ているので、死亡フラグが立ったにも関わらず助かったんでしょうね。どうやって助かったのかは二作目で説明されているんでしょうか?それとも

という「ザ・松田」的開き直りを見せているのでしょうか。本宮という人物は確かにユニークで面白いのでシリーズ化には賛成ですが、「死神」の魔の手から逃れられるのであれば、ヤクザの松重も助けてやって欲しかったです。トリオで活躍すればなお面白そうなので。
最後に、ミステリーとしては致命的なのは、作者が警察組織に全く無知な点でしょう。元現職警官だった濱嘉之並にとは言いませんが、警官物を書いている作家はそれなりに調べていますよ。少なくとも警部が若手刑事とコンビを組んでいるということ自体、警察小説好きならぶっ飛びます。作中でもネタとしている「太陽にほえろ!」では、石原裕次郎演じるボスこと藤堂俊介が警部なんですから、若手刑事と組む不自然さには気付いて欲しかったです。巡査部長あたりにしておいて貰えれば良かったんですがね。
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