決戦:新型時代小説「奥右筆秘帳」シリーズ、ここに完結

立春寒波

 ぶるぶる。寒いですね~。ちょっと暖かい日があったから寒さがひとしおです。もう寒いのは勘弁なんですけど、冬季オリンピックはこれからだったりしますしね。

 日付は変わってしまいましたが、本日は上田秀人の「決戦 奥右筆秘帳」です。奥右筆秘帳シリーズ第12弾にして最終巻です。第1弾「密封」が刊行されたのが2007年9月。そして「決戦」が2013年6月。6年に亘って執筆され、現在まで著者最長のシリーズとなっています。

決戦

 私が読み始めたのはブログを開始した2012年5月以前ですが、これまでに2012年11月20日に第9弾「召抱」とシリーズ紹介を、2013年1月8日に第10弾「墨痕」を、2013年8月22日に第11弾「天下」を紹介してきました。人気シリーズらしく、我が図書館が早期に入れてくれたので

 例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

 かなわぬ。隙がない―宿敵冥府防人との生死を賭けた闘い。あらゆる忍を退けてきた最強の相手を倒さねば、衛悟は婚礼を前にした瑞紀のもとに帰ることはできない。義父併右衛門や師大久保典膳の助力は届くのか?そして将軍位をめぐる骨肉の争いの決着は!?大人気シリーズ、堂々の完結!文庫書下ろし。

 最後なのでAmazonの内容紹介も併せてどうぞ。

 「この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」第一位に輝き、圧倒的な読み応えで読者を魅了した「奥右筆秘帳」シリーズが、いよいよ完結! 筆の力だけで身を守り、将軍位をめぐる暗闘を知った奥右筆組頭・立花併右衛門。隣家の次男で剣術の腕のみの若者衛悟を護衛役にする。愛娘瑞紀の拐かしから端を発した陰謀の数々を三人は乗り越え、衛悟を婿に迎えることに。だが、かなわぬ強敵・冥府防人が最後に衛悟の前に立ちはだかっている!

奥右筆秘帳シリーズ

 ということで、これまで続いてきた将軍家斉対その父である一橋治済、そして主人公の橘併右衛門の娘婿でありもう一人の主人公である柊衛悟対冥府防人こと最強の剣士にして甲賀忍者の望月小弥太の対決の結果が描かれています。

 このシリーズの凄さというのは、これまで注目されなかった奥右筆という江戸幕府の中級官僚がいかに巨大な権限を持っていたかということを明らかにしただけではなく、将軍・老中以下の幕府要職についてもとても判りやすく解説してくれたことでしょう。江戸時代の役人というと、現代とは全く別物のように思えますが、その本質は公務員とか会社員とあまり変わっていないことが窺えます。

 また、寛政の改革を主導した松平定信は、清廉な政治家として、また白河藩主としては江戸時代後期の名君の一人として高く評価されていその彼のこれまでのイメージとはかけ離れた野望や策略を描いているあたり、人物像を大きく変える作品だったと思います。

 松平定信といえば、老中としての評価は、政敵だった田沼意次が再評価されるに伴い、田沼の政策を全否定した定信への評価は相対的に厳しいものになっています。例えば池波正太郎の「剣客商売」シリーズなどでは、田沼時代を描いているので松平定信を直接批判してはいませんが、主人公の秋山小兵衛と息子の大治郎は田沼意次と懇意にしており、武芸を奨励し、卓越した大局観と政治力を持つ好人物として描かれていました。

 さらに徳川家斉といえば、歴代最長の50年という将軍在職期間を持ち、将軍位を家慶に譲ってからも実権を握り続けた将軍ですが、その時代は「化政文化」といわれた江戸文化の絶頂期でもあった反面、家斉自身は「俗物将軍」と呼ばれて幕政をほとんど幕閣に任せたほか、遊び狂った「腐敗将軍」とも呼ばれ、大奥に入り浸って多くの子女を儲け、幕府財政を大きく揺るがせた、幕末にも大きく影響することになったとされますが、本書においては極めて英明な君主であり、子作りも単にどスケベだっただけではなく(無論それもあったでしょうが)、彼なりの深謀遠慮があってのことだったとされています。

 ネタバレになってしまいましが、史実を変えることはできない以上書いても差し支えないかと思いますが、一橋治済は結局家斉を倒すことはできず、将軍にはなれませんでした。藤沢周平の作品でも江戸幕府安定期の妖怪・黒幕のように描かれている治済ですが、その内心をここまで描いたのは本書が初めてではないかと思います。

ザ・ビースト

 一方橘衛悟と冥府防人の戦いですが、シリーズ開始前からすれば剣の腕は長足の進歩を遂げていますが、それでもなお冥府防人との実力の差は懸絶しており、全く勝ち目がありません。師の大久保典膳は衛悟の中の「獣」を目覚めさせますが、このあたり、「エヴァンゲリオン新劇場版:破」で登場した「裏コード・ザ・ビースト」の影響があるように感じるのは私だけでしょうか?

新劇場版第10使徒

 ちなみにザ・ビーストによってエヴァは獣化第2形態に移行し、肩や脊椎に打ち込まれたリミッターが解除され、「ヒトを捨て闘争に特化させた形態」になり、身体能力は格段に向上しますが、パイロットには大きな負担がかかります。これに似て、衛悟の「獣」も目覚めると理性を失って周囲の人間を誰彼構わず殺傷してしまう恐ろしいものです。典膳は「飼い慣らせ」といいますが…。

真希波・マリ・イラストリアス

 真希波・マリ・イラストリアスは「裏コード・ザ・ビースト」でエヴァ二号機の獣化第2形態を起動しますが、テレビ版最強使徒である第14使徒ゼルエルに相当する新劇場版第10使徒にはそれでも勝つことができませんでした。同様に典膳によれば、衛悟は獣になっても冥府防人への勝ち目はせいぜい「七分三分」とされていました。その衛悟に勝たせるため、義父である併右衛門が取った作戦とは…。「筆を持って仕える」と胸を張る併右衛門がどのような手段で衛悟を支援するのかは是非一読していただきたいと思います。

 本館で奥右筆秘帳シリーズは完結しますが、終盤登場した江戸城留守居(旗本の最高位にして、城主格の待遇を受け、数々の特権を持つ格別の役職。従来は閑職とされていますが、本シリーズでは独自の解釈が行われています)の本田駿河守が併右衛門と衛悟に注目しており、今後も何とか活用してやろうと考えるところで終了しているので、装いを新たにした新シリーズが執筆された場合、併右衛門や衛悟が準主役とか脇役で再登場することも考えられます。
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意味分かんない❗

上田先生の奥右筆シリーズを読んだことがありますが、こちらの説明でエヴァが比較や例にあげられていますが、それは、こちらをご覧になる方が全てエヴァをご覧になっているとの建前で例にあげられているのですよね?
しかし、すみませんが私は、エヴァを見たことがありませんし、見たいとも思いません。
だから、例にあげられ且つ説明されてもちんぷんかんぷんです。
ですので、こういう場で説明される場合、万人に分かる内容でお願いします。
じゃないと上田先生に失礼なのでは?私は、上田先生を直接は知らないですがこんな内容を喜ばれるような気さくな先生だといいですね。

Re: 意味分かんない❗

 judgmentさん初めましてこんにちは。こんな僻地にようこそいらっしゃい。

> 上田先生の奥右筆シリーズを読んだことがありますが、こちらの説明でエヴァが比較や例にあげられていますが、それは、こちらをご覧になる方が全てエヴァをご覧になっているとの建前で例にあげられているのですよね?

 読書感想文に限らず、当ブログは前提などは一切ありません。わかる人だけわかっていただければというスタンスです。万人に理解して貰おうといったおこがましい考えは持っていません。

> しかし、すみませんが私は、エヴァを見たことがありませんし、見たいとも思いません。
> だから、例にあげられ且つ説明されてもちんぷんかんぷんです。
> ですので、こういう場で説明される場合、万人に分かる内容でお願いします。

 こんな拙文に影響力があるとは思いませんが、仮に「よしそれじゃヱヴァンゲリオンとやらを見てみるか」と思われる人がいたとしたら嬉しいとは思います。でも人の考えは人それぞれですから、どうするかはその人の自由です。

 同様に、どのような感想を持ってそれを書くかはその人の自由。もちろん書く側に書く自由があれば読む側にも読む読まないの自由はあるので、気に入らなければ無視するなり読まなければいいだけのことです。

 万人に理解させる、ということを突き詰めると、そもそも日本語で書くのが正しいのかという話にもなってしまいますが。世界には日本語が理解できる人間より理解できない人間の方が圧倒的に多いと思います。繰り返しますが当ブログはわかる人だけわかって貰えればというスタンスですので。

> じゃないと上田先生に失礼なのでは?私は、上田先生を直接は知らないですがこんな内容を喜ばれるような気さくな先生だといいですね。

 藤子・F・不二雄は「エスパー魔美」の中で、画家である魔美のパパにこういうセリフを言わせています。「公表された作品については、みる人ぜんぶが自由に批評する権利を持つ。どんなにこきおろされても、さまたげることはできないんだ。それがいやなら、だれにもみせないことだ。」
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