魔法少女まどか☆マギカ考察:魔獣(その1)

こんばんは。今日も寒さ控えめで、暖冬が来たのかしらんと思ってしまいますね。正直もうあまり寒いのはいらんのですが、これでまた寒さがぶり返すと一段と厳しく感じたりしてしまいます。
さて、本日は久々に考察をやってみようかと思います。およそ一ヶ月前に見た「魔法少女まどか☆マギカ 新劇場版 叛逆の物語」がようやく自分の中でこなれてきたみたいなので、「魔法少女まどか☆マギカ」で考察します。
以下、「叛逆の物語」の核心に触れるネタバレは行いませんが、テレビ放映版については激しくネタバレを行いますので、テレビ版を未見の方はご覧にならない方がいいと思います。映画未見の方は多分大丈夫です。テーマは「魔獣」です。

1.魔獣の概要

魔獣はテレビ版第12話(最終話)「わたしの、最高の友達」にちらっと登場する、まどかによる世界改変後に魔女に代わって出現している怪物です。魔獣については、終盤のキュゥべえとほむらの会話の中で、キュゥべえが「君が言う、『魔女』のいた世界では、今僕らが戦っているような魔獣なんて、存在しなかったんだろう?」で名称が判明しました。
魔獣の特徴は、本編を見る限りでは
① 白く巨大な男性型。聖職者(坊さん?)のような服を着ている
② 顔にはポリゴンのようなものがかかっているが、何となく神々しいイメージ
③ 一度に大量に出現
④ 四角く小さなグリーフシードを作る。ソウルジェムの浄化が可能だが、沢山必要
などが挙げられるでしょう。また公式ガイドブックに収録されてりる魔獣の設定資料には

① 魔女と比べて能力が男性的。魔女が女性的な力で曲線的、ランダム性、増殖を特徴としているのに対し、魔獣の力はシンプルで直線的、規則性、収縮を特徴とする
② 魔法とは違う力で動いており、グネグネになった世界のバランスを戻すためグリーフシードを集めている
③ 技は手から繰り出す糸状のレーザー
④ 大きさは3メートル
⑤ グリーフシードは小粒で四角い
⑥ 神々しいイメージ
⑦ ほむらの方が悪役に見える
などと記載されており、さらに裏設定として

(クリックすると拡大して読めます)
① 魔法とは違う力で動いている。
② ぐねぐねになった世界のバランスを戻すため、グリーフシードを集めている
③ 魔法の元となる感情を吸い上げ体内でグリーフシード化させる
④ 吸われた人間は廃人になる
と記載されています。
2.なぜ魔獣は出現するのか

第12話のほむらのモノローグによれば“たとえ、魔女が生まれなくなった世界でも、それで人の世の呪いが消え失せるわけではない”“ 世界の歪みは形を変えて、今も闇の底から人々を狙っている”ということなので、魔獣とは、魔女の代わりに世界の歪みが実体化したものと言えるようです。
まどかの願いは「全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい。全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女を、この手で。神様でも何でもいい。今日まで魔女と戦ってきたみんなを、希望を信じた魔法少女を、私は泣かせたくない。最後まで笑顔でいてほしい。それを邪魔するルールなんて、壊してみせる、変えてみせる。これが私の祈り、私の願い。さあ!叶えてよ、インキュベーター!!」というものでした(泣けるなあ、このシーン)。

その結果、まどかは未来永劫に終わりなく魔女を滅ぼす概念としてこの宇宙に固定された訳ですが、ここではまどかはの願いが魔女の消滅であって、魔法少女の消滅ではないことに注目したいと思います。魔女は魔法少女のなれの果てなので、魔法少女そのものが存在しなければ出現することはないはずの存在です。
第9話でのキュゥべえの発言を要約すると
① 宇宙の寿命を延ばすため、熱力学の法則に縛られないエネルギーを探し求めていた
② 知的生命体の感情をエネルギーに変換するテクノロジーを発明したが、自分達には感情がなかった(全くないわけではなく、極めて稀な精神疾患として知られていたということで、感情の研究自体は可能だった模様)
③ 宇宙の異種族を多数調査し、人類を発見した。一人の人間が生み出す感情エネルギーは、誕生から成長するまでに要したエネルギーを凌駕するので、エントロピーを減少させるためのエネルギー源となる
④ 最も効率がいいのは第二次性徴期の少女の希望と絶望の相転移である
⑤ ソウルジェムになった少女の魂が燃え尽きてグリーフシードへと変わるその瞬間、膨大なエネルギーが発生するので、それを回収する
ということから、年端のいかない少女達を言葉巧みにだまくらかして契約し、せっせと魔女化させることでエネルギーを回収していたわけです。第11話でキュゥべえはまどかを言葉責めにする際に、家畜を例にとり、人間の糧になることを前提に生存競争から保護され、淘汰されることなく繁殖していると言っています。すなわち魔法少女はキュゥべえにとっては家畜同然であり、肉や乳の代わりにエネルギーを提供する見返りに願いを叶えてやっているということになります。

魔法少女の悲劇を未然に防止するのであれば、まどかは「キュゥべえは未来永劫地球に来るな」とか「キュゥべえ達の文明の滅亡」などを願えば抜本的解決になりそうです。しかしまどかは魔法少女の存在そのものは肯定しているのです。
まどかが魔法少女の存続を認めたのは、魔法少女そのものを消し去ると、最強の魔法少女であるまどかの存在そのもののと矛盾が生じるということの他、以下の理由が考えられます。
① キュゥべえの手段は卑劣そのものであるとしても、エネルギー回収の目的(宇宙の寿命の延伸)自体はまっとうであったこと
② 第11話のキュゥべえの言によれば、彼らは有史以前から人類の文明に干渉してきており、魔法少女達の犠牲によって人の歴史が紡がれてきており、キュゥべえが地球に来ていなかったとしたら、いまだに人類は洞穴に住んでいた可能性が高い

すなわち、人類が今日の繁栄を続けるためにはキュゥべえの存在と人類との接触は認めざるを得ないし、それは将来的に宇宙の存続(=人類の未来)にも繋がるのだということをまどかは正しく理解していたといえます。さんざんキュゥべえの言葉責めに泣かされてきたまどかですが、彼の言葉はちゃんと理解していたということになりますね。
さて、歴史に転機をもたらし、社会を新しいステージへと導いてきた魔法少女そのものは人類に必要だとしても、キュゥべえは「どんな希望も、それが条理にそぐわないものである限り、必ず何らかの歪みを生み出すことになる。やがてそこから災厄が生じるのは当然の節理だ。そんな当たり前の結末を裏切りだと言うなら、そもそも、願い事なんてすること自体が間違いなのさ」と言っています。つまり魔法少女の希望が魔女という災厄を生み出すのは必然だということですが、ここでまどかは魔法少女の存在はそのままに、魔女という災厄だけを消し去ってしまったのですね。
第12話でほむらはモノローグで“たとえ、魔女が生まれなくなった世界でも、それで人の世の呪いが消え失せるわけではない”“世界の歪みは形を変えて、今も闇の底から人々を狙っている”と言っています。希望が歪みを生み出すのに、災厄として出現するはずの魔女はいない。そこで代わって出現するようになった「世界の歪み」が魔獣なのだといえるでしょう。つまり、魔獣は魔女だけ消して魔法少女を消さなかったまどかの願いの代償として必然的に登場した存在だといえると思います。

さらに、魔獣の存在はキュゥべえを地球に来訪させ、人類に干渉させるためにも必要です。魔法少女の魔女化に較べれば効率は悪いでしょうが、人間の感情エネルギー自体がエントロピー減少をもたらすエネルギー源であると言っていることから、魔獣のグリーフシード回収はキュゥべえにとって依然としてペイするものなのでしょう。そうでなければキュゥべえは他の効率のいいエネルギー源を探して他の星に行ってしまうことでしょう。
まどかによる宇宙改変後のほむらの話を聞いて、キュゥべえは「浄化しきれなくなったソウルジェムが、何故消滅してしまうのか――その原理は僕たちでも解明できてない。その点、君の話にあった『魔女』の概念は、中々興味深くはある。人間の感情エネルギーを収集する方法としては、確かに魅力的だ。そんな上手い方法があるなら、僕たちインキュベイターの戦略も、もっと違ったものになっただろうね」と言っています。ほむらはこんな話をキュゥべえにするべきではなかったのです。キュゥべえは決してあなどってはいけない存在なのに……。この点については「叛逆の物語」で明らかになります。……いや、ほむらはあえてキュゥべえに語ったのかも。
魔獣の目的など、続きはまた近日中にお送りしたいと思います。
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