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犯人のいない殺人の夜:東野圭吾の最初期短編集

ハロウィン
 
 こんばんは。今日はハロウィンですね。でもその話はすでに去年のハロウィンでしてますので割愛。しかし、ハッピーハロウィンという言い方は正しいのでしょうかね?怪異が徘徊島倉千代子だというのに。まあバレンタインデーもハッピーバレンタインとかいっているのでいいか。リア充にはそりゃあハッピーだろうけど、そうでなければ一体どこがハッピーだというのか。そういえばクリスマスだって人によってはメリーでもなんでもないではないですか。そうだ、今年から「メリーさんクリスマス」と言い方を変えましょう。“私メリーさん。今クリスマスの後ろにいるの…”

犯人のいない殺人の夜 文庫版

 あんまりやさぐれてないで本題に行きましょうか。本日は毎度おなじみ東野圭吾の「犯人のいない殺人の夜」です。

 「犯人のいない殺人の夜」は初期短編集で、デビューした1985年から88年までの若き日の「昭和東野圭吾」の短編7編が収録されています。1990年7月に光文社から単行本が刊行され、1994年に光文社文庫から文庫版が刊行されています。図書館から借りた文庫は2011年1月でなんと第45刷となっています。

 東野圭吾によると、この頃はまだ短編の書き方が分かっておらず、アンソロジーを読んで話の進め方を参考にしたとそうです。また、子供が主人公の作品が多いのは、まだ大人の犯罪を書く自信が無かったからかも知れないとしていますが、未熟な作品ながら気に入っており、いろんなことを試しながら書いた思い出深い作品だと述べています。

東野圭吾ミステリーズ

 2012年7月~9月に放映されたフジテレビ系列のオムニバス形式の連続ドラマ「東野圭吾ミステリーズ」では、本書の他、「怪しい人びと」「あの頃の誰か」の3冊の短編集が原作として使用され、本書からは表題作の「犯人のいない殺人の夜」の他、「さよならコーチ」「エンドレス・ナイト」「白い凶器」「小さな故意の物語」の5作が各話毎の原作となりました。

 例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 親友が死んだ。枯れ葉のように校舎の屋上からひらひら落ちて。刑事たちが自殺の可能性を考えていることは俺にもわかった。しかし…。高校を舞台にした好短編「小さな故意の物語」。犯人がいないのに殺人があった。でも犯人はいる…。さまざまな欲望が交錯した一夜の殺人事件を描いた表題作。人間心理のドラマと、ミステリーの醍醐味を味わう傑作七編。

 それでは各話のあらすじと感想です。

犯人のいない殺人の夜 POP

 小さな故意の物語

 県立W高校のある屋上から親友の行原達也が転落死します。警察は事件を自殺と考え、達也自身が屋上の柵に上って歩いていたという証言も出る中、自殺と信じられない中岡良は独自に達也の死の謎を調べ始めます。その末に良は、達也が死ぬきっかけとなった当事者の「故意」を目の当たりにします。

 俗に「十で神童十五で才子二十過ぎればただの人」といいます。「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」でも小学生時代の兄京介桐乃のヒーローでしたが、次第に彼の才能は凡俗の域に埋もれていくようになり、桐乃を失望させていくというエピソードがありました。その点、幼馴染みの麻奈美はありのままの京介が好きだったので全く変わらない好意を寄せていましたが。

 死んだ達也も京介タイプで、かつてはヒーロー的存在で、勉強でもスポーツでも良の目標でしたが、次第に良が追いついていき…という状態でした。男同士なのでそれはあまり問題になっていないかったようですが、達也には小学生の頃から交際している恋人がいて、彼女は…というお話です。

 私のような秒速病患者は、「秒速5センチメートル」で貴樹と明里がずっと一緒だったら…と夢想したりするのですが、もしからするとこんな無残な結果が待っていたかも知れないという“恐怖の可能性”を提示する短編です。

 闇の中の二人

 中学教師・永井弘美が担任を務めるクラスの生徒萩原信二の生後3ヶ月の弟(異母弟)がベビーベッドの中で絞殺されました。盗み目的で萩原家に侵入した犯人が、泣き出そうとした弟を黙らせるために殺害に及んだと見られますが、なぜ犯行の日に限って戸締りがされず、犯人が侵入できたのかという謎が残ります。やがて信二と向き合ってきた弘美と捜査を担当する刑事達は事件の真相を知ると同時に、弘美は事件を起こしたある秘密に感付くのでした。

 描写は過激ではありませんが、不倫とNTR(?)が交錯する問題作。犯人はすぐ検討が付いてしまいますが、弘美先生だけが気付いた深層はかなりえぐいですね。本筋にはあまり関係ありませんが、昼夜逆転生活をしていて「丑三つ時ランニング」を趣味にする浪人生が登場しますが、試験は日中ぜよ。

犯人のいない殺人の夜 旧文庫版

 踊り子

 中学生の孝志は、水曜日の塾の帰り道でお嬢様学校として有名な女子高「S学園」の体育館で新体操の練習をしている女子高生に一目惚れしてしまいます。毎週水曜日に少女が体育館に現れることを知り、彼女の姿を見ることを生きがいとしていた孝志は、家庭教師の黒田の後押しもあり、彼女に近付きたいと密かにスポーツドリンクを差し入れしてアプローチをしますが、ある日を境に彼女は姿を見せなくなってしまいます。その後、ひょんなことから孝志は彼女の住所を知り、黒田は彼女の捜索を引き受けますが、そこで黒田は彼女が姿を現さなくなった残酷な真実を知ることになります。

 いわゆる「日常の謎」系の話ですが、これは切ないです。「雉も鳴かずば撃たれまい」といいますが、孝志が覗き見しているだけに留めておけば何事もなかったかも知れないのに。孝志が日頃推理小説を読むとかしていれば、「踊り子」についてもう少し想像を膨らませることもできたでしょうに。神も仏もないものか。事実を伝えられない黒田の気持ちもわかりますが、もしかすると我々も自分が知らないだけで悲劇的な事件の原因を作っていたりするのかも……

 エンドレス・ナイト

 東京に住む田村厚子は、大阪府警から大阪に単身赴任している夫の洋一が殺されたと知らせを受けます。大阪人は金にがめつい、大阪弁も苦手と毛嫌いするほど大の大阪嫌いだった厚子は、洋一の死を受け大阪に向かいます。現場となった洋一の店まで来た厚子は、担当刑事の番場から、洋一がナイフで刺殺され真っ直ぐに仰向けに行儀よく寝ているようにされていたことを聞かされます。後日厚子は番場の提案で洋一がどんな生活をしていたかを知るため、大阪の街並みを回ることになりますが……

 大阪嫌いがヒロインですが、大阪の人はこらえてつかあさい。東野圭吾は大阪生まれなので、愛ゆえの罵倒なのです。そしてなぜヒロインがそんなに大阪嫌いなのかもストーリーに重大に関わってきます。私も2年間枚方市に住みましたが、別段「大阪嫌い」になるとこはありませんでした。ただ、「食べ物が安くてうまい」とか「大阪人の会話は漫才のようだ」といった俗説は必ずしも正しくないなあと思いました。休みの日にはいつも京都に行っていた(枚方は京都市の大阪市の中間くらいに位置します)のは内緒です(笑)。

 白い凶器

「白い凶器」の戸田恵梨香

 A食品株式会社内で材料課課長の安倍が窓から転落死しました。事件は自殺の線は薄く、腰より高い窓枠から推定体重80kgの安部を突き落すの至難の技とも言えることから捜査は難航する中、今度は係長の佐野が交通事故で死亡するという第2の事件が発生します。佐野の体内から睡眠薬が検出されて、2つの事件の共通項を探る中、事件に材料課員の中町由希子が関与している疑惑が浮上していきます。そして犯人が特定された時、犯人を犯行に駆り立てた思いがけない理由が明らかになります。

 これは虫も殺せないような女性の起こした殺人事件で間違いないのですが、その理由がかなりサイコです。若いのに未亡人になって流産と衝撃が重なった結果、多分罪を問えないほどの精神障害を抱えているといっていいと思うのですが、それでなぜ勤務時は正常に働けたのかがむしろ謎です。ラストシーンが怖い。テレビドラマでは戸田恵梨香が演じたようですが、確かに美人の方が怖くていいですね。私なら石原さとみか堀北真希にやらせたいです。

 さよならコーチ

 ある企業のアーチェリー部の選手・望月直美が自殺しました。彼女はビデオで自らを撮影し、遺書代わりのメッセージを残していました。直美の遺体を発見したコーチは、刑事に直美がオリンピックの選考会に敗れたことを悲観して自殺したという見解を伝えますが、直美の周辺の捜査をしていた刑事は、コーチに自殺と思われた直美の死の真実を告げるのでした。コーチは、直美の死にさらなるからくりが仕掛けてあったことに気付く。

 選手とコーチ・監督の間に師弟愛以上のものが芽生えるというのはフィクションでは良くある話なんですが、実際のところはどうなんでしょうかね?団体競技ではチームワークの乱れに繋がりかねないので難しいのかも知れませんが、個人競技なら…。まして選手一人にコーチ一人だとこれはもう…という感じがします。

 それにしても殺す決意をする位なら奥さんに全てしゃべって謝罪したほうがまだましな気がします。結局ばれればもっと悲惨なことになるのだし。自分は殺されるだろうと予感していた直美も怖いです。判っていてそれでもせずにいられないという人間の業を感じます。

 犯人のいない殺人の夜

実写化された「犯人のいない殺人の夜」。左は主演の坂口憲二

 ある夜、著名な建築家である岸田創介の家で安藤由紀子という女性が殺害されます。偶然居合わせた家庭教師の拓也は、事件を隠蔽したいという岸田からの頼みを受けて隠蔽工作を主導、遺体を隠し由紀子と岸田家の間に関連が無かったように口裏を合わせることで事件を無かったものとして処理しようと画策します。だが由希子の兄・和夫が岸田家を嗅ぎ回り始めたことで拓也達はピンチに陥り、その時を境に完全犯罪に綻びが生じていきます。

 これは読者を欺くタイプの短編です。どう欺こうとするのかはまあ読んでのお楽しみということであえて明らかにしませんが、残念なのは不気味な雰囲気を漂わせる被害者の兄の和夫が、警察の登場と前後して全く姿を消してしまうことですね。あれだけ執拗にまとわりついていたのに。こいつも妹の行方を本気で心配しているというタイプではないようなので、こいつも亡き者にしてしまおうとかした方がもっと面白くなったような気がしますが、尺が足りなかったのでしょうかね。
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