ノストラダムスと王妃:リアリティーに溢れた予言者の真実の姿

晩秋のブドウ畑
 
 こんばんは。今日は早速本題に。本日は藤本ひとみの「ノストラダムスと王妃」です。藤本ひとみはこのブログでは初めて取り上げます。

ノストラダムスと王妃(上)

 藤本ひとみは1951年11月2日生。長野県飯田市出身で、12年間の公務員生活を経て作家になりました。第4回コバルト・ノベル大賞を受賞し、ライトノベルのコバルト文庫から出発し、数々の少年、少女漫画の原作も手がけていました。

 その後、西洋史を扱った歴史小説や犯罪心理小説へ活動の場を移し、2010年からは日本を舞台にした歴史小説も発表しています。ライトノベルで発表した大量のシリーズの多くは未完状態であったが、2011年から完結に向けて動き出しています。

ノストラダムスと王妃(下)

 西洋史への深い造詣と綿密な取材に裏打ちされた歴史小説・犯罪心理学小説に評価が高く、ヒットした「ブルボンの封印」をはじめ「新・三銃士」等、大デュマ原作の「三銃士」の翻案・同時代の作品をライトノベル時代から多く手がけています。特にフランスとは関わりが深く、フランス政府観光局親善大使を務めて現在名誉委員となっているほか、アカデミー・ドゥ・カスレ名誉会員、ナポレオン史研究学会の日本人初会員、ブルゴーニュワイン騎士団騎士などに就任しています。

 私は今までに「鑑定医シャルルシリーズ 」「大修院長ジュスティーヌ」「暗殺者ロレンザッチョ」「聖戦ヴァンデ」などを読みました。昔氷室冴子なんかと一緒にコバルト文庫の女流作家として顔出しで売り出されたのを記憶していますが、ラノベの方は読んだことがありません。

 「ノストラダムスと王妃」は、原題「預言者ノストラダムス」で1998年12月に集英社から上下2巻が刊行され、2002年2月に「ノストラダムスと王妃」と改題されて集英社文庫から刊行されました。

 例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

カトリーヌ・ド・メディシス

 (上巻)フィレンツェの富豪メディチ家のカトリーヌは、フランス王太子アンリ二世に輿入れしたものの、夫は寵妾ディアヌの虜。商家の娘と蔑まれ、子供にも恵まれず、宮廷で影の薄い存在だった。自分を守り、権力を握ろうとするカトリーヌは、預言者として評判になったノストラダムスに手をのばす。権謀術数の宮廷大河ロマン。

アンリ2世

 (下巻) アンリ二世の崩御により息子が即位した歓びもつかの間、母后カトリーヌは嫁の一族に権力を握られてしまう。折しも宗教戦争がフランスを揺るがし、貴族達は熾烈な権力闘争をくり広げていた。その頂点を極めようとするカトリーヌは、老獪な野心家ノストラダムスに策を得て―。激動と破綻の時代を生き抜いた共犯者たちを描く歴史大河ロマン。

ノストラダムス

 ノストラダムスはもはや説明不要だと思いますが、かつて「ノストラダムスの大予言」(五島勉:1973年)というキワモノ本が、1999年7の月に人類が滅亡するという解釈を掲載したことにより、公害問題などで将来に対する不安を抱えていた当時の日本でベストセラーとなりました。この本が当時社会に与えた影響は非常に大きく、「ちびまる子ちゃん」でもまる子がどうせ滅びるなら宿題やってもしょうがないと考えるエピソードがありました(お姉ちゃんから「1999年に人類が滅びるかどうかはわからないが、宿題をやらなければ明日確実にお母さんから怒られる」と諭されます)。

ノストラダムスの大予言

 映画化(屈指のトンデモ映画)もされたこの本は、1980年代以降の新興宗教に少なからぬ影響を与えたと指摘されており、この時期の新興宗教には、自分の教団・教祖こそが、世界を救うと主張したりしていました。さらにその後のオウム真理教による地下鉄サリン事件発生の遠因になったとの指摘もあります。五島勉を責めても仕方がない(それそこそんなこと予見できる人ではなかったし)のですが、その他にもキリスト教やユダヤ教の終末論とはかけ離れた終末思想を生み出し、深刻に受け止めた若い世代の読者が、世界や日本の未来のみならず自己の未来をも暗澹たるものと考えてしまったため刹那的な行動に走ったり、将来設計を怠るなどの問題があったという見方があります。

 当時のその状況を憂いた推理小説家の高木彬光は「ノストラダムス 大予言の秘密」という著作で「反論」したほどです。こちらは古いフランス語と独自に翻訳して「五島訳」の誤りや曲解を指摘しまくり、“仮に予言が正しいとして、そもそもノストラダムスは西暦3000年代まで予言しているので、少なくとも1999年に人類が滅亡するはずがない”と結論づけています。

アンボワーズ城

 五島勉自信がキワモノルポライター上がりなのであんまり突っ込んでも仕方ないのでしょうが、本来「百詩篇集」などと訳されるべき「予言集」の主要部分の名称が、英訳からの転訳によって生じた誤訳である「諸世紀」となっていたり、架空の研究家の名前や創作と思われる詩や史料が登場していたり、いたずらに「1999年7の月」の詩を誇張したり、ノストラダムスの生涯に関する記述などにもかなりフィクションが含まれているなど、実際にはノストラダムスの予言解釈本というより、五島勉の小説とでもいうべきものでした。

 しかし、先ほど述べた高木彬光の著作を除いては、長い間そういった問題点はほとんど指摘されることがなく、この著書による誤ったノストラダムス像が多くの人びとに影響を与える結果となりました。

シャンティイー城

 その点「ノストラダムスと王妃」は非常にリアルなノストラダムスと王妃カトリーヌ・ド・メディシスを描いています。カトリーヌ・ド・メディシスはフィレンツェの新興富豪メディチ家出身で、「フィレンツェの商人女」と周囲の貴族達に陰口を叩かれながらも息子3人(フランソワ2世、シャルル9世、アンリ3世)の皇太后としてフランスの国政を担いました。

 また一方で、イタリアの先進文化をフランスにもたらす役割も果たしており、フィレンツェ料理を宮廷に持ち込んでフランス料理を改革させました。それまでフランス人は手づかみで食事をしていたが、カトリーヌがフォークやその他の食器類そして食事作法をイタリアから持ち込んだほか、ソースや地中海産の野菜を取り入れさせてフランス料理のバリエーションの幅を広げるとともに、アイスクリーム、マカロンといった菓子類もフランスに伝えました。

ディアーヌ・ド・ポワチエ

 また、占星術などの占いを好んでいたことでも知られここから預言者にして占星術師であるノストラダムスとの縁が生まれます。しかし実際のところ、王妃時代は夫のアンリ2世は20歳も年上の寵姫ディアーヌ・ド・ポワチエ(美魔女の祖かも知れませんね)に夢中で顧みられることも少なく、息子のフランソワ2世の時代になってもその王妃であるスコットランド女王メアリ・スチュアートとその一族に牛耳られて苦しい立場に立ち続けています。

 そんな中でも強い意志と覇気を持ち続けるカトリーヌに、ノストラダムスはいかなる助言を与えたのかが小説のキモと言えましょう。

現在のサロン・ド・プロヴァンス

 一方のノストラダムスも神秘的な預言者というイメージはなく、改宗ユダヤ人の孫として若くして医学や占星術を学びながら、様々な人生の試練によって名声を上げることがなく、50歳を過ぎて若い嫁を貰ったり子供作ったりとお盛んで、痛風に苦しみながらも美食をやめられないという俗っぽい人物として描かれています。そんなノストラダムスが名声を勝ち取る最後のチャンスとして、アンリ2世の(実際には夫をを介したカトリーヌの)招請に応じてパリに向かいます。

 歴史に悪名高いカトリーヌですが、本書では主人公らしく魅力的な人物として描かれています。嫉妬に苦しみ、宮廷での権謀術数に悩みながらも、才気あふれ、凛々しく健気です。そしてフランスのためには夫も子供も切り捨てるという非情さもあえて示したりします。

ブロワ城

 しかし時代はまさに勃興するプロテスタントとこれを異端と排斥するカトリックの争いが激化する時代。カトリーヌは両派の和解を模索しますが時代の流れに翻弄されて思うに任せぬままに虐殺や反乱に対処しなくてはならなくなります。

 ところで、本書ではノストラダムスの有名な予言について、ユニークな解釈をしています。(以下、仏文はWikipediaから、翻訳は本書から)。

予言集

 百編詩集第1巻35番

 Le lion jeune le vieux surmontera,
 En champ bellique par sigulier duelle:
 Dans cage d'or les yeux lui crèvera:
 Deux classes une, puis mourir, mort cruelle.

 若い獅子が、老いた獅子を打ち倒すだろう
 野戦場の一騎打ちにおいて
 金の籠の中で目をつぶすだろう。
 二つの軍隊は一つになり、無残な死がやってくる。

 この詩は信奉者の著書では必ずといってよいほどに紹介されている有名なもので、カトリーヌの夫であるアンリ2世の死を予言したものとして知られています。高木彬光も「的中した予言」だとしていましたが、本書においては、ノストラダムスはイギリスのヘンリー8世がトマス・モアと離婚をめぐって争い、斬首としたことを示すものだとしています。

ショーモン城

 アンリ2世の死についての予言は別にあり、 

 百編詩集第10巻72番

 L'an mil neuf cens nonante neuf sept mois
 Du ciel viendra un grand Roi deffraieur
 Resusciter le grand Roi d'Angolmois.
 Avant apres Mars regner par bon heur.

 1999年、7の月
 天から恐怖の大王がやって来る
 アンゴルモワの偉大な王が甦り、
 火星の前後に、幸福の名のもとに君臨する

 恐怖の大王とは死を表し、アンゴルモアの偉大な王とはアングレーム伯爵だったフランソワ1世(アンリ2世の父)を指し、「甦る」とは、同じな名前を冠したフランソワ2世(アンリ2世とカトリーヌの子)の即位を示すのだそうです。また年月については入れ替えを行っており、7月はそのままですが、1999年は1559年のことだとしています。
シュノンソー城
 
 「ノストラダムスの大予言」は、この詩こそが1999年に人類が滅亡することを意味するものとしてきたのですが、欧米の研究者の間でもこの詩の読み方は確定していない状況のようです(確定していても的中しているとは限りませんが)。日本においては、現時点で16世紀仏文学・仏語学の知見に裏付けられた信頼の置ける全訳版は存在せず、過去に出版された全訳本は、いずれも英語版からの重訳で、翻訳面では問題点がいくつもあると指摘されています。

 それにしても、ノストラダムスといえども幾度も冷や汗をかき続けなければならない宮廷での権謀術数は凄まじいほどで、何気ない会話の一つ一つに様々な意味が込められていて、それをいかに解釈して切り返すかを常に考えていなければいけません。そんな状況でも一見暢気そうに食事している訳ですが、とても私には無理だなあと思います。いわゆる「便所メシ」の方がまだいけそうです。

シャンボール城
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