「見栄講座」:バブル前夜の「時代の証言者」か!?

いやー個人的な話ですいませんが、一段落つきました。来週に持ち越しにならずに本当に良かった。枕を高くして眠れますよ。
ところで今朝の雨はすさまじかったですね。道が川のようになっていて、ホントくじけて家に帰ろうかと思いました。重大な仕事があったのでそういう訳にはいかなかったのですが、おかげで靴が一日中びしょびしょでしたよ。
さて、今夜ご紹介する「見栄講座 ミーハーのための戦略と展開」はホイチョイ・プロダクションが1983年に出版した処女作です。
ホイチョイといえば、ビッグコミック・スピリッツで連載していた「気まぐれコンセプト」が思い浮かびますが、なんと調べてみたら今なお連載中のようです。1981年連載開始というから、もう30年以上連載している訳ですね。何気にすごい長寿漫画。サザエさんの後番組にどうだろうか。バブルの頃は読んでいたのですが、バブルに踊りまくる広告マンばかりを描いていたような気がするので、バブル崩壊とともに連載も終わっているとばかり思っていました。
バブルといえば、いわゆるバブル景気は1987年から始まるとされますが、「見栄講座」はその4年まの作品ながら、既にその前兆を感じさせる作品でもあります。
その内容はといえば、「とにかく女の子にもてるにはどうしたらいいか」という目的を第一に、
① テニスやスキーといったスポーツでは上級者がモテる
② 下手でも上級者のふりをすればモテる
③ 上級者のふりをする=見栄を張るにはどうすればいいか
という論法の下、上級者のする行動・ファッション・くせなどを事細かに解説しています。

そして見栄の張り方はスポーツにとどまらず、見栄フランス料理(フランス料理店で常連のふりをするにはどうすればいいか)、見栄軽井沢(軽井沢の別荘族のふりをするにはどうすればいいか)、見栄海外旅行(海外一人旅の達人のふりをするにはどうすればいいか)など、多岐にわたっています。
内容の一例を上げると、「見栄キャリア・ウーマン」では、「料理・掃除・洗濯は大の苦手、おまけに極めつけのブスというあなたでも、バリバリのキャリア・ウーマンのふりさえすれば、その実体は神秘のベールに覆われ、ミーハーな男の目をくらませて、そこそこのレベルと結婚ができます。」としたうえで、キャリア・ウーマンのふりをするために必要な、キャリア・ウーマンの定義、ファッション、オフィスでの行動、生活、ナイトライフ、性、読書傾向などについて細かく解説しています。

例えば定義については、キャリア・ウーマンはオフィスで人目を気にせず堂々とタバコが吸え、自分の名刺(角が丸くないヤツ)を持っていなければならず、東大・早稲田・津田塾・立教のどれかを卒業していなくてはいけないとしています。他の三校はともかく、なぜ立教?ミッション系は華やかなイメージがあるんですが…
そしてファッションはとにかく男っぽく、手帳は何でもいいからびっしり予定を書き込め、港区のマンションに生活感なく住めなどと指南しています。
本当にこの本のとおりにすべきなのか、という点ですが、あとがきによれば「『見栄』のノウハウをこと細かに教えるようなふりをして、その実、実際にそれを実行しているミーハーたちを徹底的に糾弾する」という趣向だそうです。本来その道の上級者・達人というものは、長く苦しい練習や辛い経験を経てそうなっていくものですが、この本の登場した80年代前半において、すでに「上手そうに見られたいということばかり考えている」連中が跋扈していたことを、ホイチョイは憂いていたのでしょうか。
しかしこの本、ベストセラーになりましたが、実際にはミーハーの糾弾・撲滅に役だった訳ではなく、見栄を張りたくてもそのノウハウを知らなかった「ミーハー予備軍」に、どうすれば見栄を張れるのかを教授してしまうという、逆説的効果を絶大に生みだしたのでした。そしてバブル景気が到来。
正直、バブル時代の浮かれた人々の見栄の張り方の一部には、この本の影響があったんではないかとさえ思われます。言い過ぎかな?
出版されて30年近く経って改めて読んでみても、面白く読めるし、バブル前夜という時代を写す鏡みたいなところもあって、ある意味貴重な本のような気もします。ですが、さすがに30年前の風俗、今から見ると笑ってしまう部分も多々あります。
例えば「見栄フランス料理」では、食前酒には日本では誰も頼まないキールを注文すると店の人が大変喜ぶとしていますが、今時キールなんか子供でも知ってそうです。また、ワインの注文は難しいので、オールマイティーなボージョレーを頼むといい、特に12月初旬頃に「ヌーボーある?」と聞くと大変な尊敬を得られると書いてありますが、これは(笑)。今時口説きたい女の子をビストロにつれて行って、解禁日以外にボジョレー・ヌーボーなんか注文したら失笑されてしまうこと請け合いです。
ところでホイチョイプロダクション、何かと言えば「女の子にモテるには…」ということを強調しがちなところがありますね。バブル真っ盛りの1990年に制作したテレビ番組「カノッサの屈辱」は傑作番組でしたが、なにかというと「男女の生殖活動云々」というフレーズが出てきて閉口しました。若人にとっては重大な関心事かもしれないけど、そればっかりというのも格調に欠けるなあと。
なお、見栄講座の成功に気を良くしたのか、二匹目のドジョウを狙ってテレビ番組を解説した「OTV」という本を1985年に出版したのですが、これは売れなかったようです。個人的には読んでみたいので、アマゾンで探してみようかな…
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