「秒速5センチメートル」考察(その7):終わりに/付録

闇夜の鳥達

 一週間に亘って長々と語らせていただきました「秒速」考察もとうとう最終回です。ここまでお付き合いいただき本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございました。

 それでは、「秒速5センチメートル」の考察その7です。

7.終わりに
 私の「“理想の恋”理想の恋呪縛説」は、大林宣彦監督、原田知世主演の映画「時をかける少女」の冒頭字幕に想を得ています。そこにはこう書かれていました。

         ひとが現実よりも、
                   
        理想の愛を知ったとき、
                    
        それは、ひとにとって、

         幸福なのだろうか?

         不幸なのだろうか?

原田知世
 映画の中で、知世さんは本来あり得ないはずの「未来人との恋愛」を経験してしまいます(それが彼女にとっての「理想の恋」なのです)。未来人は未来に帰るにあたって、彼女の記憶を消してしまいますが、「理想の恋」をしたという記憶だけは残り、未来の彼女(30代?)は幼馴染の誘いもあっさり断り続けており、高校の実験室でラベンダーの匂いを嗅いだ影響なのか、大学の薬学部に残っても研究を続けています。

 この映画は傑作だと思います。私は同時上映の薬師丸ひろ子映画(確か松田優作と共演した「探偵物語」)を目当てに行ったのですが、この映画ですっかり原田知世ファンに鞍替えしてしまいました。もっともその後の映画はこれに比べるとどうも……

 もちろん作品の鑑賞の仕方や感想は人それぞれなので、いろいろな考え方があっていいのは当然のことです。私の解釈が絶対正しいなんて夢にも思っていませんが、まあこういう解釈もありかな、と思っていただければ幸いです。
弓を射る貴樹

8.付録

 「秒速5センチメートル」は短いですが極めて密度の濃い作品です。なお残る謎(?)が我々の前に立ちはだかっています。以下の「謎」に独自の解釈をしてみましたが、皆さんはどう思いますか?
坂道を走る

① 二人の親の職業は?

 二人とも「転勤族」の子供だったということですが、明里さんは岩舟市、貴樹君は種子島に転居して以降引っ越しはありません。一体ご両親はどういう職業の人なんでしょうか。

 貴樹君のお父さんは(登場しないけど)ロケット関係の仕事なのかなという気もします。第二話で打ち上げてたロケットに関係しているのではないでしょうか。それで貴樹君も理系の道へ。第三話で打ち上げた宇宙船が搭載してたらしい宇宙探査機の記事を立ち読みしてますが、あれも「親父の探査機だ…」みたいな気持があったのでは。明里さんの両親は第三話でちらりと登場していますが、さすがにあれでは職業不詳(笑)。しかしあれ以降もずっと岩舟に住んでいるということは、脱サラして農業とかでしょうかね。
電車の貴樹

② 無断外泊の「けじめ」は?

 これはまずい。絶対まずいですよ。特に明里さん。中学生の女の子が一晩帰ってこないなんて。家には連絡したんでしょうか。連絡したって普通「帰ってこい」って言われるだけだろうから、無断外泊っぽいですよね。不純異性交遊というより、犯罪に巻き込まれたんじゃないかって心配するでしょうね、親御さんは。朝帰りして家に戻った明里さんを待っているのはパトカーと警官の群れだったりして。

 貴樹君だって無断外泊はやばいよ。「女に会いに行って一晩一緒に過ごした。」なんて正直に言ったら藪蛇だ。「テヘペロ」で済むものか。

(コミック版を読んでの追記)
 この辺りの疑問について、置き手紙(貴樹)、お弁当作りを手伝ってもらってそれとなく理解してもらっている(明里)というフォローが入ってました。とはいえ帰宅後は二人とも叱られたんでしょうね。それとも二人とも普段の素行は良さそうだから、大丈夫だったかな?

③ そ、その「隣の男」は誰だ!?

 第三話、山崎まさよしの歌のバックの断片的記憶描写ですが、貴樹君と花苗さんの描写の後、後姿ですが、明里さんと高校生の男の描写があります。貴樹君もそうですが、明里さんもポストを気にしてて、この辺り文通の終焉期ということを匂わせているようにも思いますが、さてこの後姿の男は明里さんの何なんでしょうか。
ポストを見る明里と野郎A
 がっしりした体格で、スポーツバックを背負ってややガニ股気味のようです。素直に解釈すれば「当時の明里さんの彼」ということになるのかも知れませんが、ちょっと待って欲しい。文通終焉の頃だとしても、二人ともまだ「決定的に切れた」とまでは思っていないんじゃないでしょうか。それなのにいきなり乗り換えるなんて、明里さんはそんなビッチじゃない(断言)。

 また、貴樹君と花苗さんだって傍目に見れば「彼氏彼女」な訳ですが、実際には違います。ということで、私の解釈では、「下校で一緒になった同級生ないし同じ部活の人」。彼は当然気があるけど、明里さんは…といったとこではないでしょうか。明里さん実は彼に「ぞっこんラブ」とかだと、貴樹君に代わってこっちが涙目だ。
花苗と貴樹・ポストの前

④ なぜあの踏切に?
 第三話冒頭及びラストシーンで二人がすれ違う踏切ですが、二人はなぜあの日あの時にあの思い出の踏切に来たのでしょうか。貴樹君は…自宅での仕事に疲れ、ふと見ると満開の桜。気晴らしに散歩にでも行くかと外出すると、足は自然にあの踏切に…というところでしょうか。ということは、会社辞めてからかもしれないけど、昔住んでいたあたりに戻ってきているんでしょうかね。
踏切の貴樹
  明里さんは…マンションのベランダで桜の花を手に受けて部屋に戻るシーンが描写されていますね。くー幸せそうな表情だ。ということは、新婚さんのスィートホームはやはり昔住んでいた辺りということなのでしょうか。なお、このシーンの明里さんの服装は線路での服装と同一のようです。ちょっとした買い物か用事で出かけたのでしょうか。もし旦那と一緒に出掛けていたらどうなっていたのだろう。貴樹君いきなり「通り魔」に変身とか。もっとも、あの日は平日な感じがしますね。貴樹君は仕事の合間に出てきた感じだし。
踏切の明里
 二人ともあの線路の近辺に住んでいるのなら、今後も出会うことがちょくちょくあったりして。

(コミック版を読んでの追記)
 明里さんの旦那は会社らしいのでやはり平日ですね。貴樹君はアニメではフリープログラマーみたいだけど、コミック版では宇宙開発に関係があるらしいような小さな会社に入っています。

④ 明里さんの部活は?

 妙に細かい話ですが、明里さんの中学校での部活は何でしょうね。手紙の中で早朝に登校することがあるということを言っているので運動部なのかも知れませんが、私の一押しは放送部。朝の放送をするために早出をしているのです。もちろん明里さんはアナウンサーです。根拠はありません。でも放送部。絶対。放送部なら、それはとってもうれしいなって。
コミック第1巻
(コミック版を読んでの追記)
 極めて遺憾ながら、明里さん曰く、バスケット部に入ったのだそうです。貴樹君も言ってますが、本当に意外だなあ。フィジカル・コンタクトきつそう。文学少女なのに大丈夫なのだろうか。バドミントン部とか卓球部くらいがいいのでは?でもハードにやる気があるなら、いっそテニス部がいいと思います。明里さん、「岩船の高嶺愛花」の二つ名は君のものだ!
テニスをする高嶺愛花

⑤ なぜ中学から電車通学を?

 栃木県に転校して地元の中学校に通う明里さん。通常中学校って、徒歩圏内か、せいぜい自転車通学程度ですよね。なぜ明里さんは電車通学なのでしょう。いくら岩舟町が小さい町だといっても中学校くらいはあるはずでは。高校ならまあわかるのですが……。ここで大胆な解釈を。
電車を待つ明里
ア 当初岩舟町の中学校に転入(というより小学校卒業後に引っ越して入学式から行っているはずので、入学でいいのかな)。

イ ひどいいじめに遭遇。耐えられず一学期中ないし夏休みの間に転校。
 (とりあえずいじめた奴ちょっと来い)

ウ そのため域外通学となり、電車を利用。

 こういうことなら、電車通学もありかとは思うのですが…。そして、二学期に入って貴樹に手紙を出したのも、新しい学校でまた一からやり直さなければならないという辛い状況から、思わず救いを求めたということで……。しかし友達をなかなか作れないタイプではあっても、いじめの対象となるという感じでもないのですがね、明里さんは。性質の悪い女子グループにでも遭遇したのかな。都会的な感じが妬まれたとか、スケ番が片想いしている男子が明里さんににちょっかいを出したので逆恨みされたとか。
コミック第2巻

⑥ 「明里」と「花苗」の名前の由来は?
 
 ここまで来るとただ因縁つけてるだけのようですが、なぜヒロイン達はこの名前なのかについてちょっと考えてみましょう。第二話では、虚空をめざす探査機を載せたロケット発射のシーンが印象的ですが、実は、「あかり」という人工衛星があります。以下ウィキペディアより抜粋です。

 あかり (第21号科学衛星ASTRO-F) とは、日本の宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部(旧宇宙科学研究所)が開発した赤外線天文衛星である。別名はIRIS (InfraRed Imaging Surveyor)。2006年2月22日にM-Vロケット8号機によって内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた。
人工衛星「あかり」
 そして「かなえ」ですが、こちらは該当する人工衛星や探査機はないのですが、気になるものがありまして…。それは「のぞみ」です。またもやウィキペディアより抜粋。

 のぞみ(第18号科学衛星:計画名PLANET-B)は、宇宙科学研究所 (ISAS) によって打ち上げられた日本初の火星探査機。1998年(平成10年)7月4日午前3時26分(日本時間)に、M-Vロケット3号機により打ち上げられた。小中学校の教科書に取り上げられるなど広く国民の期待を集め、火星へ約1,000 kmまで接近したものの、最終的には火星周回軌道への投入を断念した。
火星探査機「のぞみ」
 全然関係ないじゃないか?まあもう少し話を聞いてください。この「のぞみ」が成功していたら、ヒロインの名前に使用した可能性はあると思うのですが、失敗したので適当ではないと考えたのかも知れません。貴樹への片想いは叶わなかったという意味では「澄田希美」なんて名前も悪くはない気がしますが。

 ここで、昔なつかしい「わらべ」を思い出して下さい。「欽ちゃんのどこまでやるの!?」(略して「欽どこ」)に出ていた三人娘です。「めだかの兄妹」はヒットしましたね。「もしも明日が…。」なんてのも歌ってました。その「わらべ」、三人姉妹という設定で、上から「のぞみ」「かなえ」「たまえ」という名前で、「希望叶え給え」という語呂合わせになっていたのです。ということで、「のぞみ」が駄目なら「かなえ」にならざるを得ないということで…。
わらべ:左からのぞみ・かなえ・たまえ
 実際、「のぞみ」をやってた高部知子では「花苗」のイメージとはかけ離れすぎており、「かなえ」の倉沢淳美の方がまだしもという気がします。いや、別に「わらべ」から無理にキャスティングする必然性はないんですけどね。

 ということで、私は人工衛星・宇宙探査機から名付けた説を唱えます。まず誰からも支持されないであろう異端の説ですが、オリジナリティだけは十分ではないでしょうか。

 以上で考察駄文は終了です。

 なお、明日からは私のゴーストがそうしろと囁くので書いた、「ぼくのかんがえたとぅるーえんど」を掲載させていただきます。ま、一応二次創作ということになりますか。宜しかったら御一読のほどを…
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No title

お疲れ様でした。
読み応えたっぷり、的確な考察だったのではないでしょうか。
秒速〜にハマった人にオススメですね。

しかし。。。私がたまたまGYAOの無料動画でこれを観て、
軽い気持ちで紹介したものが、ここまでのものになるとは。。。
感慨深いものがありますね(笑)

Re: No title

いらっしゃい、こんばんわ。

おかげ様で一応完結しました。

ご紹介をしてもらうまでは、全然このアニメーション映画も新海さんの存在を知りませんでした。
その後、「ほしのこえ」「雲の向こう、約束の場所」も見て、「彼女と彼女の猫」まで見ましたよ。
メジャー受けまではしないけど、一部に強い支持を受けているようですね。「鬱アニメ」だと嫌ったり怖がったりする人々もいるようですが…。

なんとなく「リア充」街道まっしぐらな人には理解できない作品なんじゃないかと思えます。

そういえば、猫のチョビとミミって新海作品には必ず出てきますね。猫好きだな新海さん。
私も猫が好きです。大昔飼っていた猫の名前はミミでしたよ。

あかりはビッチ

とまでは言わないけど、女の人は切り替え早いよw

Re: あかりはビッチ

 通りすがりさんこんばんは、いらっしゃい。

 「秒速5センチメートル」を見た上であれば、どのような解釈・感想を持とうともそれは個人の自由です。それは十分承知しているのですが、私個人としては、

> 女の人は切り替え早いよw

という「性差」での割り切りをしたくなくて、貴樹と明里の差についてつらつらと書き連ねたのでした。もし二人の立場が逆転していたらなんてと考えると、やはり貴樹に今の立ち位置にいて貰うしかないなと思いますが。

 私としては、踏切で明里が待っていて、人妻なのに貴樹にしがみついてくるみたいな展開だったら「明里はビッチだ!」と思ったかも知れません。しかし、私はそうしなかった明里のファンなので、仮に世界中の人が「明里はビッチ」と指弾したとしても、明里の味方をしたいです。

No title

はじめまして。たまたま見た者です。
まず始めに、素晴らしい考察ありがとうございます。
すごく共感しました。

私はこの作品が本当に大好きで、小説は3回読み、アニメは10回くらいは見たんじゃないかと思うくらい好きです(残念ながらコミックスは読んでいません)。

結局貴樹は前に進む事を決意しハッピーエンドだとは思いますが…ただ、見る度にどうしようもなく悲しくなります。
管理人さんは結局この作品は何を読者に伝えたかったのだとお考えでしょうか。
是非それを聞いてみたいと思います。

Re: No title

 秒速ファンさんこんばんは、初めまして。こんな僻地にようこそ。

 熱心なファンでいらっしゃるんですね。「秒速」は全ての人が感動するという作品ではないので、あえて同士と言わせていただきます。

 非常に難しい質問をいただきました。つたないながら誠心誠意答えさせていただきます。

 新海誠監督の初期作品(と言われることになるでしょう)の「ほしのこえ」「雲のむこう、約束の場所」そして「秒速5センチメートル」は三部作と言っていい構成なのだと思います。共通するのは、「時間と距離に引き裂かれていく恋人達」ということになるでしょうか。

 実は前二作では、結局どうなるのかは示唆されていません。というより、むしろ恋愛的にはハッピーエンドになるのではないかという終わり方をしているとも言えます。しかし三部作のトリである「秒速」で示された結末が三部作の結論であるとするならば、「時間と距離」に敗れていく想いというものが描かれているのではないかと思うのです。
 
 どんなに強い想い、熱い気持ちも、永遠に変わらないものではなく、いずれは風化したり色褪せたりして姿形が変わっていくという、仏教でいうところの「諸行無常」を描いたのが「秒速」なのではないかと。

 「秒速」でいえば「雪の一夜」で生じた強い恋愛感情は、次第に形を変えて二人の心の中に残り続けているのだと思います。それが、貴樹と明里がお互いに持っていると思われる「好きなあの人がずっと幸せでありますように」という想いなのではないでしょうか。

 ラストの貴樹の微笑みは、諦めとも取れますが、「好きなあの人」が幸せであることが確認できた安堵とも解釈できると思うのです。

 作品の鑑賞・解釈は人それぞれ。誰もが違った感想を持っていいと思いますが、私見を述べさせていただきました。お粗末様でした。

返信有難うございます。

永遠に変わらない想いなど確かにないのかもしれません。
考えてみると、それも少し悲しいことです。
ただ、形を変えた二人の想いが「好きなあの人がずっと幸せでありますように」という想いだったらいいなと私も思います。

このサイトに辿り着けて本当に良かったです。
お時間取らせて申し訳ありませんでした。
有難う御座いました。

Re: タイトルなし

 秒速好きさんですね。こんばんは、いらっしゃい。

 こちらこそおいでいただきありがとうございました。

 ちょっとくさい言い方かも知れませんが、貴樹の心の中には中学生の明里が、明里の心の中には中学生の貴樹がずっと存在し続けるのだと思います。それは呪いとかではなく、今日の彼・彼女を構成するのに不可欠な一部分、血肉のようなものとなっているのではないでしょうか。

 二人にとっては結ばれることのなかった悲恋となってしまいましたが、二人が相互に持っている想いは、その人が欲しい、一緒にいたいという段階から、どこにあろうとただ相手の幸せを祈るという段階にシフトしたのであればいいなと思います。

 そうは思っても、やはり二人が結ばれた「IF」ストーリー、つまりハッピーエンドを創作せずにはいられませんでしたが。見る者に理性を超える感情のうねりを引き起こす、それが「秒速5センチメートル」の凄みだなあと改めて思います。
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