アリスへの決別:“初山本弘”は短編集

今日も暑かったですね。キャンディーズじゃないけどまさに「夏が来た!」という感じです。仕事場はまだ冷房なんて入れてくれないので、机の上のサーキュレーターを回しています。冬も仕舞わぬ通年作動。でも夜はまだまだ熱帯夜という感じじゃないので助かります。

そういえば「夏が来た!」はキャンディーズ10thシングル(1976年5月31日リリース)であり、かつ7thアルバム(1976年7月21日リリース)のタイトルでもあるんですね。シングル曲のタイトルがそのままアルバムのタイトルになっているなんて珍しいのでは……と思ったら、キャンディーズのアルバムはシングルのタイトルを付けるのが恒例だったみたいです。天地真理とか南沙織のアルバムもそんな感じだし、昔のアイドルのアルバムはなべてそういうものだったんでしょうかね。私がアルバムを意識しだしたのは松田聖子からですが、彼女はアルバムタイトルがシングルと同じだったのは「風立ちぬ」と「Strawberry Time」くらいだったような。あ、私にとってのアイドル・松田聖子は15thアルバム「Citron」までなので、それ以降のことは関知しませんので悪しからず。
なおしつこく余談を続けますと、本日の記事は365回目です。ということで、当ブログもめでたく(?)一周年を迎えることが出来ました。皆さんのおかげです。まことにありがとうございます。一周年ならそれらしいことをするべきだとは私も思うのですが、仕事で遅くなったし、これから深夜アニメを2本見なければならないしで、ぱっとしないまま通常通り続けていくのでした。それどころか、せっかく始めた「中国美女列伝」もいきなりお休みです。すいませんです。来週は何とか。
すいません、さらになお言いたいことが。昨日何と一気に10拍手いただきました。こ・れ・は…!かつてない事態に喜びよりも驚愕が先行してしまいました。自分でも人のブログ記事読んだとき滅多に押してこなかったので、誠に恐縮です。ご面倒をおかけしてあいすいません。でもすごく嬉しいです。ありがとうございます!

では今日の本題です。本日は山本弘「アリスへの決別」です。山本弘の小説は始めて読みました。

山本弘は1956年生れで京都府出身。アマチュア時代に筒井康隆主宰のSFファングループ「ネオ・ヌル」に参加し、1976年からSF同人誌「NULL」で短編小説を発表していたそうです。1978年に第1回奇想天外SF新人賞佳作を受賞した「スタンピード!」でプロとしてデビューしました。このとき同時に佳作を受賞した作家に新井素子がいます。この人、昔は美人SF作家として一部に絶大な人気でした。

ゲームデザイナー集団グループSNEでSF、ファンタジー小説を手がけ、1990年代の著作の大半はライトノベルの長短編でした。2000年代に入ってからSF作品を精力的に発表し、正統派のSF作家としての評価を急速に高めました。長らく候補止まりで受賞がありませんでしたが、2011年、「去年はいい年になるだろう」で第42回星雲賞日本長編部門(小説)を受賞しました。

山本弘はむしろ、トンデモ本を楽しむ集団「と学会」の会長として知られていると思います。「と学会」の本は私も色々と読ませて貰いました。ただ、最初の「トンデモ本を紹介し、主張に突っ込んでネタとして笑って楽しむ」というスタンスから、次第に本気で批判するような色彩が強くなっていったように思います。そういえば最近は読んでないですねえ。外国勤務時代はお世話になったんですが。

「アリスへの決別」は2010年8月に刊行された短編集で、表題作ほか7編が収録されています。各短編の初出は2006年~2010年なので、比較的最近の作品と言って良いでしょう。
例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。
少女アリス・リデルの生まれたままの姿を撮影していたルイス・キャロルは、その合間に不思議な未来の話をはじめる…暗黒の検閲社会を描く表題作をはじめ、低IQ化スパイラルが進行する日本社会の暴走を描く「リトルガールふたたび」、夢と現実の中間にある“亜夢界”を舞台に、人間と登場人物との幸福な共存を力強く謳う中篇「夢幻潜航艇」など、SF的想像力で社会通念やカルト思想の妥当性を問い直す傑作中短篇7本。
「アリスへの決別」
一九世紀後半のイギリス。僕――数学者チャールズ・ラトウィッジ・ドジスンの暮らすオックスフォード大学の寮に、金髪の美少女アリスが訊ねてくる。いつものようにヌード写真のモデルになるために。
「ねえ、先生、何かお話して」
アリスにせがまれ、僕は奇妙な物語を語り出す。遠い未来に発明される小さな機械の話を……。
少女ポルノは空想さえ許されず、消去されるという暗い未来を描いています。初出はロリコン雑誌だそうです。しかし、記憶を消去されるのは、脳障害克服のためにチップを埋め込んだ人達だけなのでしょうかね。生身の脳はそうそう簡単に調べられないというか、調べること自体重大な人権侵害だし。
「リトルガールふたたび」
二一〇九年の日本。小学校では教師が子供たちに二一世紀の日本の歴史を教えていた。マスメディアの衰退とネット言論の暴走、大衆の低IQ化スパイラルの進行により、日本がどのように核武装への道を突っ走っていったかを。
ネット依存と衆愚化の果てに日本が進んだバカの極致を「歴史」として描いた上で、北朝鮮化してしまった未来の日本を描いています。二者選択なら後者の方がまだましにも見えますが、ナノモジュールによる脳治療というのが非常に恐ろしいものを連想させますので、「どっちも嫌」が正解でしょうか。でもどっちかと言われたらどっち?
「七歩跳んだ男」
月面基地のエアロックの外で、宇宙服を着ていない男が倒れていた。砂塵の上に残る足跡から、エアロックから飛び出して七歩跳躍して倒れたと推測された。自殺か? 事故か? 他殺か? 月面基地にやって来た男の奇妙な言動の数々には、意外な意味が秘められていた。
作者は“オーソドックスなSFミステリ”と言っていますが、「と学会」会長らしい作風といえばいえるでしょう。ただ、「トンデモ本」の存在とその信者を、わりともろに登場させてしまっている点、ちょっと直截的に過ぎるというか、説教臭いというか。風刺って、もっと緩く迂回してやった方が効果的だと思うのですが。
「地獄はここに」
私はテレビで人気のある霊能者。今回もあるテレビ番組に出演し、一年半前に埼玉県の竹林で起きた少女殺人事件の霊視をすることになった。
現場に出向き、いつものようにデタラメな犯人像を語る私。だが、事件の真相は私の嘘を上回る恐ろしいものだった。
こちらもオカルト批判はいいのだけど、やや直截的に過ぎる気がするかなあと。主人公がいかにして「えせ霊能者」を演じているのかはよくわかりましたが、シリアルキラーはなにゆえにシリアルキラーになったのかについては、本人の告白を聞いてもやはりよくわかりませんでした。その切っ掛けについてはわかったけど、誰もができることではないという点、やはりなんらかの先天的な問題故にシリアルキラーになるのでしょうかね。犯行を重ねていくことも怖いけど、犯人が判明したらしたで主人公にとっても恐ろしい事態になるという点、主人公にとっての地獄はまさにここに。同情は全然できないけど。
「地球から来た男」
シーヴェルの接近による地球壊滅の危機が去って三四年後。一五万人を乗せて太陽系外に向かって旅立とうとしていた小惑星船〈ラウファカナア〉に、一人の青年が密航してきた。二二世紀の現代では珍しいことに、彼は一度も遺伝子改変を受けたことがないというのだ。
作者も言っていますが、これはかなり問題作だと思います。他の作品に較べるとかなり気を配ってる気配はありますが。ただ、「他の人にとっては無価値かほとんど無価値のものを至上のものとして崇拝する」ってことは考えてみれば色々あるので、全てをばっさり切り捨てていいのかどうか。いや、批判はいいのですが、自分が大事に思っている物事を無価値だと断じられたときにも、鷹揚に構えていられるかどうかですね。鰯の頭も信心からと言います。
「オルダーセンの世界」
原因不明の異変によって文明が崩壊した後の世界。宗教的指導者に支配され、禁欲主義を貫くコロニーに、謎の女が現われた。捕らえられて留置場に入れられても、不敵な態度を崩さない。彼女の名はシーフロス。職業は深夢ダイバー。「亜夢界」から来たのだという……。
「夢幻潜航艇」
夢と現実の中間の量子論理世界、亜夢界。そこに危機が訪れた。夢の海の底に潜む〈魚〉が浮上し、夢化率を一挙に上昇させ、大規模なランダマイズ(無秩序化)を惹き起こしたのだ。
深夢ダイバーのシーフロスは〈魚〉の正体を探るため、発明家トールの作った潜航艇に乗り、普通の人間には耐えられない深度の夢に挑む。そこは絶えず現実が変化し、アイデンティティ崩壊の危険にさらされる危険な世界だった。
ラスト二編は深夢ダイバー・シーフロスが主人公の「亜夢界」ものです。「夢幻潜航艇」は書き下ろしですね。因果律が崩壊した後の世界を描いています。なかなかに魅力的な世界ですが、シーフロスの正体が凄い。それがありなら、某TDL関連のキャラとかも「亜夢界」に大挙して存在していてもおかしくはないですね。また、夢に住む他の生物も、ウミサソリ以外に多数いても不思議ではないので、もっと異質な存在の接触とかも今後考え得るということで、なかなかに魅力的な世界です。
もちろん趣味嗜好は人により違いますが、風刺のためにSFを使うというより、SFのために風刺を使うという形のほうが個人的には好きなので、私はラスト二編が好みです。表紙が売り上げを阻害していないかちょっと心配です(笑)。女性店員に差し出しにくい。図書館で借りる時も他の本に重ねちゃいましたよ。
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