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ほうき星:幕末に向かう深川・女の一代記

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 いやいや今日は暑くなりましたね。スーパークールビズをいいことに上着をオミットして出勤したりして。え?ネクタイ?そんなもんとっくに外してますよ。「俺は会社の犬じゃねー!」とか吼えながら。実態は首輪を外してどや顔している飼い犬そのものというか、尾崎豊の歌を歌っていっぱしのワルを気取ってる小僧みたいなもんなんですけどね。

 さて本日は山本一力の「ほうき星」です。上下巻の大作でした。

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 「ほうき星」は産経新聞の朝刊に2007年5月1日から2008年4月30日まで連載されていた新聞小説で、単行本としては2008年に発行されています。文庫版は、角川文庫から上下巻ともに2011年12月22日に刊行されています。著者の最新作ではありませんが、私が読んだ作品としてはもっとも新しい作品です。

 例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

上巻:天保6年、76年に一度現れるほうき星が江戸の空に輝いた夜、気鋭の絵師・黄泉と、日本橋の鰹節問屋の娘・さくら夫婦の間に、さちは生まれた。深川に隠居所を構えた祖母・こよりも加わり、家族の愛情をいっぱいに受け、下町の人情に包まれて育つさちを、思いがけない不幸が襲う。両親の突然の死、そして、慈しんでくれた祖母の死。しかしやがて、絵師としての天分を発揮してゆく。苦難を乗り越え、凛として生きた娘の感動長編。

下巻:亡き父・黄泉から受け継いだ天分を発揮し、さちは絵師としての才能を見せる。しかし、祖母・こよりに託された珊瑚商いへの思いも捨てきれない。そんな揺れる心に、いつしか幼馴染みの幹太郎への思いが高まっていく。自分の進むべき道、選ぶべき人生とは?自分の迷いに答えを出すため、さちはこよりの故郷、土佐の地を踏む。ほうき星の運命を背負い、人生を切り拓いていった娘の物語、感動の結末へ。著者初の、江戸人情大河小説。

ほうき星(上)

 著者にとっては初の上下巻ということで、「江戸人情大河小説」と銘打たれていますが、内容的には著者がよく描く深川もので、“深川女の一代記”としては当ブログでも昨年10月26日の記事で「梅咲きぬ」を紹介しています。

 さち5歳から23、4歳ころまでを描いており、女の一代記というよりは幼女から大人の女性への成長ぶりを描いた作品というべきかも知れません。才能ある若手絵師の娘として生まれたさちは、何も怒らなければ何不自由なく成長したのでしょうが、7歳の時に両親が回難事故で亡くなり、数年後には保護者であった祖母こよりも亡くしてしまいます。

 こう書くと一気に極貧生活突入かと思われますが、さちの母さくらの実家は日本橋の老舗の鰹節問屋「土佐節屋」で、伯母のききょうや従兄弟の大助もいるので、生活に困窮することはありません。しかも山本一力描く夢のような深川人情がたっぷりとさちを包んでいます。

ほうき星(下)

 父の大師匠である岡崎俊城に師事して絵を学び、大いに天分を発揮しますが、師の死去によりさちの心は揺らぎます。絵師として生きるのか、祖母の果たせなかった珊瑚の商売に手をつけるのか?腰が定まらないままに数年間を無為に過ごしてしまった理由の一つは、鮮魚商の幼馴染みである幹太郎の存在がありました。かねて両思いの二人であり、家族ぐるみのつきあいも深いので、さちさえ嫁入りする気があれば何の問題もないのですが、絵師になるにせよ珊瑚商いをするにしても、鮮魚商のおかみさんとの“二足の草鞋”は不可能に近いのです。

 恋か夢かで悩んださちは、一度は恋を捨てようとするのですが……。以前読んだ深川女の一代記「梅咲きぬ」の主人公玉枝(四代目秀弥)は、小藩の侍である八木仁之助との叶わぬ恋に殉じて一生独身という勢いでしたから、さちも仕事に生きるのかと思いきや、ここはちょっと違っていました。

黒船来航

 時代は幕末。さちが20歳になる前に黒船が来ており、物語終盤では年号は安政になっています。もちろん市井の一住人であるさちやその周囲の人にとっては、幕藩政治の動揺とかは全く実感できるものはありませんが、10年を経ずして明治維新という激動の時代ですから、それまでの安定した江戸時代の身分差とか分相応といった生き方は変わっていってしかるべきでしょう。

 さちは欲しいもの(幹太郎と珊瑚商いと絵師)を同時に手に入れよう、そのためにあらゆる努力をしようと決意するところで作品は終わっています。長生きすれば1910年のハレー彗星接近を見ることができるでしょうが、その頃までにさちは一体どのような生涯をおくっているのかは大いに気になりますね。

 山本一力は高知県高知市出身で、深川を第二の故郷のように愛していますが、さちは深川出身で、祖母こよりは土佐から土佐節屋に嫁入りした人であり、作者の二つの故郷につながるヒロインです。さちは当初から鰹節を使った土佐風料理になじみ、祖母直伝の土佐弁も多少は操ります。後半になると、さちは絵師として、また珊瑚商いのために土佐に赴き、鯨漁の様子を目の当たりにしたりするのですが、これで土佐女の血が覚醒した様子があります。

 「はちきん」という言葉があります。「男勝りの女性」を指す土佐弁であり、同時に高知県の女性の県民性を表した言葉ですが、話し方や行動などがはっきりしていて快活で、気のいい性格で負けん気が強いが、一本調子でおだてに弱いといわれています。深川の辰巳芸者の気っ風と似通っていますね。「はちきん」という言葉ですが、4人の男性(8つのキンタマ)を手玉に取る女性ということから由来するという説があり、これは本書でも言及されていますが、実際の所はよくわからないようです。Wikipediaでは、“西日本を中心に日本全国で「ハチ」をお転婆の意で使うことから、数字の八と解釈するのも一説にすぎない状態である。”と記載されています。キンタマ説だと、現代の高知県女性はあまり「はちきん」と呼ばれたくないでしょうね。

ハレー彗星

 ちなみに“76年に一度現れるほうき星”は皆さん予想通りハレー彗星で、このときは1835年の出現でした。この彗星は、イギリスの天文学者エドモンド・ハレーの研究によって周期彗星であることが初めて明らかになった彗星でした。

 ハレー彗星のように大きく明るい彗星で、人間の寿命とほぼ同程度の短さの回転周期を持つ彗星は他にはなく、古来より多くの文献に記録されてきています。明確にハレー彗星と思われる記録は紀元前240年で、「史記」の「秦始皇本紀」始皇帝7年条に「彗星先ず東方に出で、北方に見ゆ。五月西方に見ゆ」との記載があります。彗星が太陽に接近して見えなくなったのち、近日点通過後再び姿を現した状況までもが記載されており、中国の史官の正確な記録には驚くばかりです。

1910年の接近時にこの世の終わりを唱えた人々を皮肉る風刺画(フランス)

 紀元前616年の「春秋」魯文公14年条(紀元前613年)での彗星の記録や、紀元前466年の「史記」「周本紀」貞定王2年条(紀元前467年)の彗星の記録、大プリニウス著「博物誌」第2巻第58章に記載された第78オリュンピアード2年(紀元前467年)に現れた彗星についても、ハレー彗星ではないかとする説がありますが、いずれも年代が合わないので、確実なのは紀元前240年の記録ということになるでしょう。

空気がなくなる日

 1910年の接近では、彗星の尾に含まれる猛毒成分(シアン化合物が含まれていることは知られていました)により、地球上の生物は全て窒息死するという噂が広まりました。また、地球上の空気が5分間ほどなくなるという噂が一部で広まり、自転車のチューブを買い占めてチューブ内の空気を吸って一時的な酸素枯渇に備える裕福な者、水を張った桶で息を止める訓練をする者、全財産を遊びにつぎ込む者、世界滅亡を憂えて自殺する者などが現れたそうです。

空気のなくなる日

 日本でのこの騒ぎの顛末は、1949年(昭和24年)、日本映画社製作の「空気のなくなる日」という映画に描かれています。この映画は児童向け小説「空気がなくなる日」を原作としており、私の小学校時代に図書室で見かけた記憶があります。読んだ記憶はないのですが、誰かにどういう話か聞いて、空騒ぎの話とわかって読まなかった気がします。本当に空気がなくなる「もしもの世界」だったら絶対読んだでしょうが。

もしも酸素がなくなったら


 前回は1986年に回帰し、便乗商品が色々でましたね。「星化粧ハレー」とか。でもこの時は過去の出現の中でも、地球からの観測に最も不向きだったということで、私も肉眼で見ることはなかったような気がします。次回は2061年夏に出現すると考えられていますが、私が見ることはないでしょう。まさに一生に一度の彗星です。

前回の接近時
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書評にとどまらない書評

はじめまして。若くはありませんが、ツガイの♀です。
♀も見てますよのアピールでコメントを残します。

どの書評も紹介本だけにとどまないところが素晴らしいですね。
今後の参考にさせていただきます。とりあえず、「猫のゆりかご」を
kobo用にDLしました。「スローターハウス5」はその次の楽しみに。

ちなみに、たまたまdocomoのdビデオで「秒速〜」を見て(しまい)、
このモヤモヤをどうしてくれようかと「ハッピーエンド」でググって
こちらに辿り着きました。そして救済されました。感謝です。

アニメネタはよくは分かりませんが、江戸モノも好物ですし
またちょこちょこお邪魔させてください。
(アイドルネタも美味しくいただきました♪)

Re: 書評にとどまらない書評

 淡路さんこんばんは、初めまして。こんな僻地にようこそいらっしゃい。

> ♀も見てますよのアピールでコメントを残します。

 ありがとうございます。「このブログに女性閲覧者は実在した!」というタイトルで川口浩探検隊がやってきかねないところです。男女比は工業高校みたいになっているのではないかと思いますが、女性がいらしてくれて嬉しいです。
 
> どの書評も紹介本だけにとどまないところが素晴らしいですね。
> 今後の参考にさせていただきます。とりあえず、「猫のゆりかご」を
> kobo用にDLしました。「スローターハウス5」はその次の楽しみに。

 おお、SF者でいらっしゃる?女性でSF好きとはかつてはそれはそれは貴重な存在でした。今でもそんなに多くはないんじゃないかと思いますが、ありがたいことです。

> ちなみに、たまたまdocomoのdビデオで「秒速〜」を見て(しまい)、
> このモヤモヤをどうしてくれようかと「ハッピーエンド」でググって
> こちらに辿り着きました。そして救済されました。感謝です。

 そう、女性が「秒速」を見てどのような感想を持つのかについては、ぜひ知りたいのです。男だって色々な感想を持つ人がいるでしょうから、もちろん一概には言えないのは判っていますが、花苗に感情移入する人が多いとか、貴樹に批判的になりがちとか巷間言われていますが、そうなんでしょうかね?

 あの妄想ハッピーエンドは私自身の気持ちを納得させるためのものなんですが、お役に立てたのなら恐悦至極です。 

> アニメネタはよくは分かりませんが、江戸モノも好物ですし
> またちょこちょこお邪魔させてください。
> (アイドルネタも美味しくいただきました♪)

 あははは…まあ我ながら妙な趣向のブログなんで、ご興味のあるところだけさくっと見ていただければと思います。またいつでもいらして下さいね。
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