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ライオンハート:恩田陸が描くロマンスの極致がここに

ライオンハート
 
 暴風はどうやら収まったようですが、汚染水が漏洩するとかミサイルが飛ぶとか、物騒な話題に事欠きませんね。平和は日本はもう戻ってこないのでしょうか。当ブログはなるべく平和ボケした話題でやっていきたいと思っています。疲れたあなたのオアシスになれたら……いや、なれやしないか(笑)。

 それはさておき、本日は恩田陸の「ライオンハート」です。私も好きな「麦の海に沈む果実」はかなり人気作のようで、いまだに拍手をいただいたりしていますが、本書もまたロマンチックの極致のような作品です。きっとファンも多いのではないでしょうか?

リチャード1世

 “Lion Heart”は英語の慣用句で「勇敢な心」を意味するほか、イングランド王リチャード1世(1157年9月8日~1199年4月6日)の異称でもあります。

 この人は生涯の大部分を戦闘の中で過ごし、その勇猛さから獅子心王(Richard the Lionheart)と称されました。中世ヨーロッパにおいて騎士の模範とたたえらましたが、10年の在位中イングランドに滞在したのはわずか6か月だけで、その統治期間のほとんどを戦争と冒険に明け暮れたというすごい王様です。

らいおんハート

 またSMAPの楽曲に「らいおんハート」(2000年)というのがありますが、リリースは8月で、本書の単行本発行が同年12月なので、さすがに「らいおんハート」の影響というのには無理がありますね。

ケイト・ブッシュのライオンハート

 あとがきによると、本書はケイト・ブッシュのセカンドアルバム「ライオンハート」(1978年)及び収録曲の「ライオン・ハート」(原題は“Oh England My Lionheart”)に影響をうけています。そういえば物語の始まりも1978年です。タイトルのとおり、「ああ、イギリス、私の獅子の心」(“Oh! England, My Lionheart ”)のフレーズを何度も繰り返しています。いい曲なので、良かったらどうぞ。

Oh England My Lionheart

 http://www.youtube.com/watch?v=Ydls3iAcs0A

 それでは例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

 いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ……。17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、フロリダ。時を越え、空間を越え、男と女は何度も出会う。結ばれることはない関係だけど、深く愛し合って――。神のおぼしめしなのか、気紛れなのか。切なくも心暖まる、異色のラブストーリー。

 本書はけっこうボリュームのある長編ですが、5章立てで、それぞれ年代や場所が異なっています。一番古くは1603年、一番新しいのは1978年。しかし物語のラストシーンは1855年ということになるでしょうか。

 エリザベスとエドワード。男女二人の魂は、生まれる前から、死んだ後まで、常にお互いを求め合って彷徨います。待ち望んだ出会いは歓喜をもたらしますが、それは長い時の中ではごく一瞬です。しかもどんなに愛し合っていても、決して結ばれることのない関係。

 さらに、お互いの輪廻転生の順序は食い違っているらしく、初めての出会いが同じ時間と場所ではないというのも、彼らの出会いを複雑なものにしています。エドワードが初めてエリザベスに出会うのは1932年ですが、12歳の美少女エリザベスは漸く会えたという喜びで一杯であるものの、青年エドワードは多額の負債で学業も放棄してお先真っ暗という状態です。一方、エリザベスがエドワードに初めて出会うのは1978年で、その時エリザベスは20代半ばの美女、エドワードは66歳の老教授となっています。その年齢差はどうしたことだ?と思われるでしょうが、1932年のエリザベスはエドワードの命を救って代わりに死んでしまうのです。すなわち、1978年のエリザベスは生まれ変わりと言ってもいいでしょう。

 そう、これは転生を繰り返す二人の魂の物語なのですが、転生の順番はばらばらなんです。その発端は1603年にあるのですが……。その謎についてはぜひ一読していただきたいと思います。本書は素晴らしくロマンチックなラブストーリーなので、お好きな方は絶対はまります。

 魂は全てを凌駕する。時はつねに我々の内側にある。
 命は未来の果実であり 過去への蘆舟である

 これは19世紀半ばのフランスに生まれたエドゥアールが、祖父の日記の末尾に見つけた一文です。これだけでは意味が良く分かりませんが、全部読むと、「ああ、なるほど」と思うことになる訳です。

 各章は絵画から名付けられており、同名の絵画とセットになっています。

 第一章「エアハート嬢の到着」

エアハート嬢の到着

 雨の中、アメリカから飛行機で渡ってきたアミリア・エアハートの到着を待ち受ける人々を描いた作品です。

 12歳の美少女エリザベスは重篤な病に罹っていてもう長くはない体ですが、失意の底に沈むエドワードと出会うために病をおして外出します。しかしこの時、エドワードはエリザベスとの初めての出会いだったため、仕方がないのですが、後から見ると極めて冷淡な態度を取ります。

 未来に出会う話をしても、エドワードを全く信じません。未来の彼は著名な大学教授になっているというのですが、八方塞がりの今の彼にそんな未来が信じられないのは仕方ないことなのかもしれません。失意のエリザベスは、しかし最後にトラックに轢かれそうになったエドワードを救います。今際の際に渡したハンカチには“from E. to E. with love ”の刺繍が。

第一章のエリザベスのイメージ

 それがどうして始まったのかは分からない。
 神のおぼしめしなのか,気紛れなのか,手違いなのか。

 私たちは何度も出会っている。結ばれることはない。
 でも,離れた瞬間から,会う瞬間を待ち続けている。

 生まれる前も,死んだあとも。

 いつも,うれしかった。
 覚えていてね,わたしのライオンハート…。

 第二章「春」

春

 フランスの画家ミレーが目撃する1871年のエドゥアールとエリザベトの邂逅の物語。

 戦争で負傷したエドゥアールは、祖父の日記で見たエリザベスとの出会いの光景を求めて軍を脱走します。そして現れた女神のようなエリザベトとの歓喜の出会いの瞬間。しかし、エリザベトは一週間前に意に沿わない結婚をしていたのでした…。

 どんなに愛し合っていても、決して結ばれない運命の二人。今度はエリザベトを落雷から救ってエドゥアールが命を落とします。ミレーが描いたのは、エリザベス(エリザベト)が現れる寸前の光景だったのでした。

 第三章「イヴァンチッツェの思い出」

イヴァンチッツェの思い出

 主人公は妻を殺された実業家です。パナマのホテルで居合わせた人々の中に犯人がいるのですが……。推理小説という訳ではなく、不思議な運命の巡り合わせという話でしょうか。ここでもエドワードとエリザベスは出会うことになるのですが、それは直接描かれていません。老いたエリザベスと若いエドワードの邂逅はやはり非常に短いものだったでしょう。

 第四章「天球のハーモニー」

天球のハーモニー

 1603年のエリザベス1世の物語。エリザベスとエドワード、二人の魂の彷徨の発端が描かれます。しかしここが二人の出会いの始まりというわけではないというのが、この物語の不思議なところです。

 どうして二人が互いに強烈に求め合いながら、決して結ばれないのかの理由もここで説明されます。

 いつもあなたを見つける度に、
 ああ、あなたに会えて良かったと思うの

 いつもいつもあなたに会った瞬間に、
 世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ

 第五章「記憶」

Memories (Lawn Tennis) by Fernand Khnopff

 1855年のオックスフォードでの物語。これは第二章のエドゥアールの祖父の物語です。これは見方によっては二人が結ばれた初めての事例とも取れますが、二人が互いを認識するのが死の直前という意味ではやはり結ばれていないとも考えられます。

 私はその人を愛していた。ずっと昔から。
 ほんの少ししか会えない人なのに。
 いつも悲しい別れが二人を待ち受けていると知っているのに

 私たちはいつも出会う。時を超えて、場所を超えて。
 その短いひとときのために自分の人生を生きてきたの

 二人の関係は悲恋なのでしょうか。しかし、「このために生きてきた」という、人生の意義を見つける瞬間があるなんて、ある意味羨ましいとも言えますね。

 私にとってのエリザベス。それはもしや……あなたなのか?

単行本

 
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読みました。

こんにちは〜

『ライオンハート』、読み終えました。
ロマンチックな物語ですね(≧∇≦)
時代が進んだり後退したりするので、前に読んだページを
めくって確認しながら読んでました
1度だけ実は結ばれていたときがあったんですね
エリザベス一世のは1603年ロンドンでピンときました
エリザベス一世が好きでいろいろその頃の本を読んでいた時期があります
あのような背景がもしエリザベス一世にあったら、
素敵ですね(*^o^*)
次は、『月の裏側』を買っていたのでそれ読みます♪

Re: 読みました。

 かりんさんこんばんは、いらっしゃい。いつもありがとうございます。

 ライオンハートは実にロマンチックですね。こういうストーリーは女性じゃないと書けないのかなあ、なんて思ってしまいます。

 私は特に二話の「春」が好きです。出会うや否や別れというのも、すでにエリザベートは人妻というのも切ない(「秒速5センチメートル」のようです)ですが、彼女を守るという使命を全うできたのは実によかったなと。男たるものかくありたいものです。

 エリザベスⅠ世は何かと悪役をさせられることが多いですが、本作ではいい役回りでしたね。同時代でやはり悪名高いカトリーヌ・ド・メディチを別の側面から描いた藤本ひとみの「ノストラダムスと王妃」も読んだので、そのうち感想などを書きたいと思ってます。かりんさんは「歴女」なんですか?

 「月の裏側」は理瀬シリーズやライオンハートとは全く傾向が異なりますが、不思議な物語です。

私も好きです

ほんとにロマンチックですよね。
私も春が一番好きなエピソードです。
あの、春のミレーの絵なんですが、描かれているのはエリザベスが現れる寸前ではなく、二人の邂逅の場面ではないですか?
奥の林檎の木の下にいる人影が男の人と女の人に見えます。
差し出がましく、すみません。

Re: 私も好きです

maruyaさん、はじめましてこんばんは。こんな僻地にようこそいらっしゃい。

 実にロマンチックな作品ですよね。人間、たまにはこういうロマンスの一つも読まないと心がひび割れてしまうような気がします。

> あの、春のミレーの絵なんですが、描かれているのはエリザベスが現れる寸前ではなく、二人の邂逅の場面ではないですか?
> 奥の林檎の木の下にいる人影が男の人と女の人に見えます。

 ご指摘を踏まえてミレーの「春」をなるべく大きな画像で確認してみましたが、画面中央の樹の下にいるのはうつむいた男性で、少し足を開いて向かって左側を向いて立っているようです。エリザベトの姿は確認できないみたいです。

> 差し出がましく、すみません。

 とんでもありません。コメントありがとうございました。よろしかったら他の記事もご覧いただければと思います。感想をいただけると幸いです。恩田陸作品でいうと「麦の海に沈む果実」の感想が結構人気があるみたいです。
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