時生:息子が父を導くタイムスリップ譚

時生
 
 今日は出かける用事があるので早朝更新です。しかし…雨はあがったけど風が強くなってきました。無事に外出できるのか不安ですが、やるべきことはやっておかねば。

 さて、本日は東野圭吾の「時生」(トキオ)です。SFファンタジー小説で、2002年7月に「トキオ」のタイトルで講談社から単行本が発行され、2005年8月に講談社文庫版が発行された際に「時生」に改題されました。10年以上前の作品ですが、漸く手にすることが出来ました。東野圭吾の作品は、図書館で見つける度に片っ端から借りるのですが、いまだ未読の作品が多いので、生きる縁にしようかと思います。
 
 例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。

 不治の病を患う息子に最期のときが訪れつつあるとき、宮本拓実は妻に、二十年以上前に出会った少年との想い出を語りはじめる。どうしようもない若者だった拓実は、「トキオ」と名乗る少年と共に、謎を残して消えた恋人・千鶴の行方を追った―。過去、現在、未来が交錯するベストセラー作家の集大成作品。

韓国語版

 ここでは不治の病はグレゴリウス症候群とされています。これはおそらく作者の考案した架空の病気でしょう。遺伝病で、思春期以降に発病し、運動機能を徐々に失って寝たきりになり、内蔵機能が低下し、意識障害が発生して死に至ります。X染色体に欠陥遺伝子が乗る伴性遺伝病で、女性はX遺伝子が二つあるので発症することは少なく、大半の患者は男性という病気です。

 巧実はこの病気のキャリアである麗子と、子供を作らない約束で結婚し、避妊の不注意で妊娠すると、生むよう説得します。生まれた子供男の子で、時生と名付けられ、案の定15歳で発病することになります。

 物語は時生の死の間際から始まります。意識の戻らない時生の入院する病院の深夜の待合室で、巧実は20年前に起きた不思議な事件について麗子に語り始めるのです。

時生の名言その1

 ストーリーの大半は、巧実の23歳の頃のものです。内容紹介にあるとおり、どうしようもない青年でした。確かに同情する余地はあるのです。生みの母から里子に出され、養父母を本当の両親と思って成長した巧実は、高校入学の際に戸籍謄本を見て真相を知ります。以後も何事もないかのように振る舞う家族でしたが、ストレスで養父が浮気や事故を引き起こし、家庭の空気は冷え切り、家族はバラバラになってしまいます。高校卒業と同時に家を飛び出した巧実は、職を転々とし、どれもこれも長続きせず、生まれを呪い、世を恨んで、努力も我慢もせず、一発当てることだけ夢想しています。

 生みの母は再婚し、名古屋で大きな和菓子店を営んでいるのですが、自分を捨てた母への反発から、重病でもう長くないと知らされても会いに行こうとはしません。

 そんな状態の巧実の前に姿を現したのが、トキオです。理解できないことばかり言ってはつきまとうトキオと寝食を共にしながら、二人は徐々に打ち解けていきますが、恋人の千鶴の失踪を機に、巧実の運命は大きく変わっていくのです。

時生の名言その2

 読者にはすぐに判明することながら、トキオは巧実の息子の時生です。トキオの魂は時間を遡り、過去に戻ったのでしょう。肉体は?という疑問が湧きますが、これについてはラスト付近で説明がつきます。

 自分の知っている父はかなり立派な人だったのに、時生が会った独身時代の巧実は若気の至りとはいえあまりに粗暴、無頼、無礼、無教養、無責任で時生も呆れかえっています。しかし息子だと言っても信じる訳もなく、時生自身も17歳の若者なので、劇的な解決法も思い浮かばないままに、何とか若き日の父を正しい方向に導こうとするのですが……

 時生は母麗子と結ばれる以上、当時の恋人である千鶴とは結ばれないことを知っていますが、失踪した千鶴を探すという巧実を止めることができません。おまけに謎の組織が絡んできて、千鶴の失踪に大きな影がまとわりついていることが示唆されます。時生としてはなるべく巧実に無事でいて欲しいのですが、未来を信じない・未来を受け止められない巧実は短絡的行動を繰り返していきます。

時生の名言その3

 時生の登場は、過去の改変にはならなかったようです。実は彼はラスト付近で過去改変の危険性を承知である大事件を防ごうとするのですが、歴史は全く変わりませんでした。しかし、巧実は思うのです、トキオのおかげで死傷者の数は減っていたのではないかと。そして、歴史は変わっていないかも知れませんが、トキオがいたことで、現在の巧実があるというのも間違いのないことなのです。

 そして、あの時のトキオが時生なのではないかということも、時生の死ぬ寸前に思い出すのです。この辺りはタイムパラドックスが起きないような仕組みがあるのかも知れません。実は母の麗子も、上記事件に巻き込まれているのですが、無事脱出できた背景にはトキオの活躍があったことを思い出しますが、それも同様に時生の今際の際です。

 巧実はトキオに反発しつつも、名古屋・大阪と旅をしながら次第に成長し(はっきり成長が感じられるのはラスト付近で、それまでは相変わらず短絡的なバカ一直線ですが)、漸く大人への道を一歩踏み出します。

DVD.jpg

 千鶴との別れを受け入れ、真面目に働き、生みの母にもきちんと会い、実の父の身の上も知る…負うた子に教えられるという諺がありますが、生まれてもいない子供に導かれるというのもなかなか得がたいというか情けない経験というべきか。

 本書のキャッチコピーは
・ あの子に訊きたい。生まれてきてよかった?
・ 明日だけが未来じゃない
・ 悩む妻に夫が語る、過去からの伝言

 東野作品を語るとよく行き当たるのですが、本書も映像化されていました。「トキオ 父への伝言」のタイトルでテレビドラマ化され、2004年8月30日から9月30日までNHK夜の連続ドラマで20回に亘って放送されました。巧実をTOKIOの国分太一が、トキオを嵐の櫻井翔が演じています。TOKIOだけに、国分太一がトキオの方がいいという気もしますが(笑)。

NHKドラマ

 2004年から25年前に当たる1979年にタイムスリップした拓実(国分太一)の息子・トキオ(櫻井翔)が、25年前の拓実の恋人であった千鶴(富田靖子)を探し、列島縦断の旅に出て、共に1979年の世界で生活をしていくといくというストーリーらしく、タイムスリップの期間とか、時生の年齢とか、細部には若干相違があるようです。が、舞台が1979年というのは同じなんですね。日本ダービーでのカツラノハイセイコーの勝利を覚えていたことで交通費を稼ぐことができたという設定上、過去の年代は同じにしないといけないのでしょう。

 悲しい物語ですが、時生の死の間際に至って、時生の過去の活躍を思い出した二人は、多分さほど悲しまなくて済むでしょう。少なくとも、彼は生まれてきて良かったと思っていることが明確に分かるので。肉体は死んでも魂は滅びず、再び旅に出かけている、そう思えるようなラストは、切ないけどさわやかです。

 ただ、若き日の巧実が立ち直るのにこれほどの体験が必要だとすると、世にひねくれたまますさんだ暮らしをしている人間が少なくないのも不思議ではないような。こういうファンタージは滅多に起きません。ほとんどの人間は、自分は自分で救わないといけないというのが人生の辛いところです。

単行本

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