禁煙小説:喫煙者は時代の流れに逆らい、そして力尽きて禁煙する(ボトムズ予告風)

ね、昨日言ったとおりでしょう(ドヤ顔)。大騒ぎしたわりに全然大した雪でなくて。そのくせ勝手に前日に運行3割削減したJRは、そのせいで混雑して遅延したという責任をどう取ってくれるのでしょうか。こんなことなら通常運転しておけば良かったのに。ドアを開けっ放しでいつまでも停車していたから寒気で全身がガタガタいいましたよ。風邪のせいかも知れないけど。プンスカ!
さて、話は変わって本日は初めて読む作家、垣谷美雨(かきや みう)の「禁煙小説」です。

垣谷美雨は兵庫県出身、1959年9月生まれで明治大学文学部文学科(仏文学専攻)卒業後、ソフトウェア会社勤務を経て、2005年に「竜巻ガール」で第27回小説推理新人賞を受賞しました。2008年に刊行した「リセット」は、昨年9月に「リセット~本当のしあわせの見つけ方~」というタイトルでMBS系でドラマ化されています。

鈴木保奈美、高島礼子、坂井真紀という40台女性が頭の中はそのままに17歳に戻って人生をやり直すという面白そうな話です。若き日の鈴木保奈美は志田未来が演じるんですね。

「禁煙小説」は原題は「優しい悪魔」で、2008年に刊行されました。2011年に双葉文庫から出版される際に「禁煙小説」と改題されたようです。そのものずばり、禁煙に挑戦する話です。

「優しい悪魔」とは、当然タバコのことなんですが、私的にはキャンディーズの歌を思い出してしまいます。あっちは「やさしい悪魔」で、恋人のことを悪魔にたとえているようですが。歌う際のコスチュームが、当時は話題でした。今見ると別に大したことはないんですけど。

文庫版裏表紙の内容紹介は、
どこに行っても喫煙者は肩身の狭い時代になった。主人公の早和子は、禁煙にチャレンジしつづけて二十年経つが、未だにタバコへの依存から抜けられない。しかし会社の数少ない喫煙女子社員が次々に禁煙し、いよいよ早和子も本気を出すことに。禁煙本も禁煙ガムもニコチンパッチも挫折した彼女だが、意を決して禁煙外来の門を叩く。果たして早和子は禁煙に成功するのだろうか。
となっています。私はそもそも喫煙したことがないのですが、本書前半を読むと禁煙したい喫煙者の苦悩がよく判ります。止めなきゃと思えば思うほど吸いたくなるというところは、まさに「優しい悪魔」です。
主人公の早和子は40代の兼業主婦です。夫が絵本作家崩れでカルチャースクールの講師などをしていますが、稼ぎが良くないので家計の主力を担っています。一人娘の日香里は背が高くて美人なので中学生の頃からモデルとして働いています。
夫もタバコを吸っているとし、娘も特に咎めているわけではないのですが、早和子は喫煙習慣から脱したいと常に思っていて、何度も禁煙を試みてきたのですが、毎回挫折してきました。そんなに吸いたければ吸っていればいいじゃないかと思いますが、世間の風当たりの厳しさはなかなかのものがあったようです。
オフィスが全室禁煙になって、タバコを吸うならビルの外の喫煙所(灯油の空き缶が灰皿替わり)まで行かなくてはいけないのですが、一時間に一回も行っていれば上司や同僚の視線が痛い(実際非難しているかどうかは別として、非難されていると感じてしまう)。学校のPTAに参加しても女性喫煙者はほとんどいないので学校全体が禁煙となり、禁断症状に苦しむ彼女は同級生のお母さんたちと一緒にお茶することもできずに喫煙場所を求めて血眼にならなければならない。そして受験関係の情報交換ができないことを娘に申し訳なく思います。
そうこうする中、世間の禁煙状況はさらに厳しくなり、禁煙タクシーや喫煙席のない喫茶店も登場、ますます早和子の肩身は狭くなっていきます。ひょんなことから、駅で痴漢を捕まえていた凜々しい女性が禁煙外来の医者であることを知り、最後の手段として彼女の元を訪れることになるのですが……
実は医者のアドバイスは結局彼女の喫煙習慣を打破することはできませんでした。同居する夫(早和子ほどは吸いませんが禁煙は諦めています)がすぐそばで吸っているというのも環境的には良くないですし。しかし、会社の夏休みの9日間間、夫も娘も仕事が忙しいので自分一人となるこの一週間を全力で禁煙に充てたらどうか?と早和子は考え、実行することにします。
作者の垣谷美雨自身が禁煙経験者なのだそうですが、それだけに後半登場する早和子の禁煙日記は非常にリアリティがあります。こんなにも苦労しなければならないのなら、本当に喫煙習慣がなくて良かったなと胸をなでおろしたいところです。娘も母の姿を見て「私は絶対吸わないよ。お母さんがやめられなくて苦しんでいる姿を見てると、絶対吸えない」と言っています。この日香里ちゃんが実に良い子なんですよ。
で、タバコをやめるとどうなるかというと、運動しても息が切れない、肌が綺麗になる、深く眠れる、歯茎や唇の色が綺麗になる、肩こりがなくなる、頭痛がなくなる、生活が便利になる(喫煙場所を捜す手間や火事の心配がなくなり、喫煙に充てていた時間を他のことに使えるようになる)、お金が浮く、といいことづくめです。私は最初から吸っていないので正直「そこまで?」という気もしますが、これほどのデメリットを背負いながら、それでも止められないタバコって本当に怖いですね。その習慣性は下手な麻薬より上なんでは?
ネタバレして申し訳ないのですが、早和子は禁煙に成功し、劣等感から解放されます。往々にして禁煙に成功した元喫煙者の方が、喫煙者に厳しい態度で臨むらしいのですが、彼女の場合はそういうことはなく、喫煙している若い女性と目があったとき、叱られた幼い子供のような怯えた目をしたのを見て、「軽蔑なんてしてないよ。タバコを吸うくらいのことで、そんな目をしないで」と優しい気持ちを持っています。
実は早和子、夫の実家に行くとヘビースモーカーの義父や義姉がスパスパとタバコを吸う傍らで喫煙を必死に我慢していたのです。夫は吸っていいのだと何度も言っているのですが、タバコを吸わない姑の手前吸うことができなかったのです。しかし終盤、その姑が実はヘビースモーカーで、隠れてタバコを吸いまくった挙げ句に肺をやられて車椅子と酸素吸入が必要になってしまいます。早和子はそれが判明して姑にこれまでにない親近感を抱くのですが、もう姑は長いことはないでしょう。
こうなってくると、夫も禁煙に挑戦するかも知れません。ぜひ喫煙習慣と手を切って、夫婦仲良く長生きして色々と楽しめればいいですね。タバコ販売の大元であるJTの調査によれば、2012年の喫煙者率は、男性32.7%、女性10.4%で全体では21.1%だそうです。2011年比0.6ポイントダウンで、喫煙者率は減少傾向を続けているようですね。男性の喫煙者率、ちょっと昔は非喫煙者率がそれくらいの数字だったような気がしますが、時代は変わったのですね。
ここまで魔女狩りのように禁煙を強制しなくてもいい気がしますが、おそらく禁煙ムーブメントの推進者は、最初から喫煙していない人ではなく、禁煙に成功した元喫煙者なのではないかと。彼らからすると、未だに喫煙している人は、許せない怠惰な人物として写るようですから。確かに副流煙を吸い込む危険が少なくなったのはありがたいのですが。
確かに喫煙者は、かつてのさばりすぎていた感はあります。所構わずスパスパ吸って、オフィスの蛍光灯なんか黄色くなってましたからね。その復讐のような感覚が存在しているのかも知れません。PC導入といったOA化がオフィスからタバコを駆逐したのだとしたら、OA化万歳ではあるのですが(笑)。しかし憎しみは憎しみを生みます。憎しみの連鎖はよくないので、この辺りである程度寛容になったほうがいい気もするのです……

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