猫物語(黒):「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」ヒロイン羽川翼の怖さを描いた「物語シリーズ」最新作

「雨ヨと聞いたが雪だった」なんて感じの覚え方がありました。今日は雨だと聞いていたのですが、関東平野部はひさびさの雪模様です。重く湿っているので路地を行く車が難渋しています。電車も運転見合わせや遅延が続出しています。成人式だってのに新成人にとっては迷惑この上ないことでしょう。私の住んでいるあたりは、昨日が成人式だったようです。正解!ナイスだ主催者。

雪を見れば思い出す。さあ皆さん、岩舟に行くときが来ましたよ。雪の日の岩舟駅なんて聖地巡礼の最たるものですよね。これで明里がお弁当持って待っていてくれるなら絶対に行くんですが。しかし、岩舟駅は既に無人化され、待合室のストーブももうないとか。そんな寒い場所に明里を待たせてはおけないので、やはり「桜花抄」ごっこはやめておくのが無難でしょう。

さあ冬アニメもスタートしている昨今、全然何を見ていいのかわからないままなので、本日は大晦日に放映された「猫物語(黒)」を取り上げましょう。もっともこの三連休で見たのですが(てへぺろ)。
「猫物語(黒)」は、西尾維新によるいわゆる「物語シリーズ」の一編です。私はアニメしか見ていないのですが、これまでに「化物語」「偽物語」が放映されています。タイムライン的には「猫物語(黒)」は「化物語」より前に位置していて、主人公阿良々木暦の高校三年生のゴールデンウィークにおける出来事が描かれています。

実は一連の物語シリーズの発端は、暦が三年生に進級する直前の春休みに起きた事件であり、これについては「傷物語」で語られているらしいです。執筆順は「化物語」→「傷物語」なので第二弾で前日譚を描いたことになります。アニメでは「化物語」の初回において90秒ほどのダイジェストで「傷物語」のエピソードが描かれており、劇場用アニメとして2012年公開予定とされていましたが、未だに公開されていないため、私のようにアニメしか見ていない層は、暦と忍の関係などに関し、理解が行き届かなくてはがゆいというかもどかしい部分があります。どうしてこうなったんでしょうか?

「猫物語(黒)」についても、「化物語」で「ゴールデンウィークの事件」として言及されていた気がしました。タイムラインを見ると、「猫物語(黒)」の事件解決直後に「化物語」の「ひたぎクラブ」が始まっており、暦お兄ちゃんもう息つく暇がないですね。しかし最初に「化物語」を見たとき、口腔内をステープルでガッチャンコされる暦の姿に「うわあ…!」と思ったものですが、その前日には胴体から真っ二つにされていたんですね。それに較べたら戦場ヶ原さんのドS行為なんて全然どってことないや。ついでにカッターで口裂け女にされるくらいでも良かったんじゃないですか(笑)?。

今回描かれる怪異は「化物語」の「つばさキャット」に登場した「障り猫」です。またの名を「尾なし猫」「白銀猫(しろがねこ)」とも呼ばれており、 車に轢かれた尾のない白い猫を埋葬した善良な者に取りつき、性格を豹変させるというものです。猫が人に化けるのではなく、人を猫化させる怪異ですね。埋葬という恩を仇で返すとんでもない怪異でもあります。「障り猫」に取り憑かれた者に触れると、精も根も吸い尽くされ(いわゆるエナジードレインですね)、その度合いによっては死に至るという恐ろしい怪異ですが、専門家の忍野メメによれば低級な怪異なのだとか。

羽川翼は轢死した猫を埋めたことから「障り猫」に取り憑かれ、まさにセクシーなキャットウーマンとなってゴールデンウィークに浮かれる世間を騒がせることになります。しかし、羽川翼は単に怪異の犠牲者ではなく、むしろ怪異の能力を利用してストレス解消を図っているのではないか、つまりつまり羽川翼は自我を保ったまま暴れているのではないかという疑惑が浮上してきて、実際そのとおりであることが明らかになりました。

羽川翼は学生生活において常時学級委員長を務めてきたような人で、性格は真面目で品行方正な良識人です。また逆境にある人の立場を思いやることができ、自己犠牲も厭わないという献身的な天使のような女の子なんですが……今回、羽川翼の怖さというか、存在そのものの不気味さが改めて浮き彫りにされました。

実父は誰なのか不詳。未婚の母となった実母は、翼を出産後に金目当てに別の男と結婚しますが、1年後に自殺してしまいます。実母と結婚したその男は現在の義母と再婚するも過労で死亡し、その後義母は現在の夫と結婚しました。ということで、現在の仮初めの両親は、羽川翼とは全く血の繋がりはなく、ある程度存在するであろう羽川一家の財産も、羽川翼とは全く無縁のもの(現在の義父義母は金銭的にいい目を見ているのでしょうが、それは翼のものを横領したという訳ではないようです)となっています。

どうやら世間体とかで外見上は家族の体裁を取っているようですが、羽川翼は事実上の天涯孤独で、しかも現在の義理の両親との関係は冷え切っているようです。いや、“冷え切っている”という表現が正しいのかどうか。羽川翼の家に忍び込んだ暦は、6つもある部屋のどれもが羽川翼の部屋ではないという事実に驚愕し、劇中激し過ぎる動揺を見せました。一体羽川翼はどういう私生活を送っているのか?いつも制服だけど制服以外の服を持っているのか?食事や洗濯や入浴はどうしているのか?など数々の疑問が浮かんできますが、知りたいような知りたくないような(笑)。ただ、下着だけはやたらセクシーなんですが、これは羽川翼の趣味嗜好なのか、「鬱憤晴らし」の一環なのか。とりあえず暦を虜にしたことは確かですね。また、発育具合からみても積極的な虐待を受けてきたというわけではないようです。

冒頭、羽川は義父に殴られて頬を怪我していますが、常時暴力を振るわれているという訳ではなく、これが初めてだったようです。どんな理由であれ女の子を怪我するほど殴っていいとは思いませんが、「愛の反対は憎しみではない 無関心だ」というマザーテレサの言葉に鑑みると、経緯は不明ですが、羽川翼にとっては無関心でいられるよりはまだ憎しみのあまり殴られた方がましだったのかも知れません。

ありとあらゆる不幸・逆境に置かれていながら成績も素行も優等生そのものの羽川翼。どんな状況にあっても「優等生」という自分自身の生き様を貫くのが羽川翼であるのだとしたら、それはそれで凄いことだと思うのですが、やはり家族と愛の不在、無関心に晒され続ける毎日は確実に羽川翼の心に負荷をかけ続けていたようで、「障り猫」という怪異に遭遇することで出現したのが、羽川翼の自我を持ちながら「障り猫」の能力を得た「ブラック羽川」(命名忍野メメ)という新たな怪異です。

当初は「障り猫」に身体を乗っ取られたかの見えていた羽川翼ですが、実際には途中からは完全に自我を取り戻し、自ら積極的に事件を引き起こしていたことが判明します。だから人を殺すまでには至らず、暦にしても腕をもぐ程度で済ませています(羽川翼は暦が吸血鬼化した事件を知っていて、この程度は暦にとって大したことではないと判断してやっていると見られます)。そしてその博識さで、怪異の専門家である忍野メメの怪異対策をことごとく跳ね返しました。

羽川翼の博識ぶりは暦もかねてから感心しており、暦に「お前は何でも知ってるな」と感心されると「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」と返答することが通例となっていました。分析力や推理力など頭の回転も並外れており、必ず解答にたどり着くという完璧超人ぶりですが、ブラック羽川になって超常能力を身につけたことでやや傲岸不遜となったのか、「何でもは知らないわよ。知っていることだけ」という謙虚な態度を忘れたことにより、自分よりはるかに頭の回転の悪いはずの暦の「肉を切らせて骨を断つ」捨て身の戦法(胴体から真っ二つにされているので本当に文字通り「捨て身」)に不覚を取ることになりました。

しかし、ブラック羽川を挑発するためにあえて行っていたのでしょうが、暦もかなり辛辣なことを言っていましたね。羽川翼もストレスをあそこまで溜め込むくらいなら、世間一般の子供達のようにぐれるとか遊びまくるとかした方が良かったような気がしますが、そうできない、限りなく善の方向にねじ曲がって言ってしまうのが羽川翼という存在のありようなのでしょう。その結果およそ人間離れするほどに「正し存在」になってしまい、そこにいるだけで周囲の人にとって迷惑千万な存在になってしまいました。羽川翼にそこにいると、自らの邪悪さ・卑小さ・貪欲さなど、普段は自ら瞞着しているもろもろの悪徳が、羽川翼という限りなく清らかな鏡を前に全て白日の下に晒されてしまうのです。これはブラック羽川以前に羽川翼そのものが一種の怪異ですね。

吸血鬼・忍の助力もあってブラック羽川は一旦姿を消し(「化物語」の「つばさキャット」で復活しますが)、羽川翼はゴールデンウィーク中の事件の記憶を全て失ったそうですが、事件の元凶は羽川翼自身だと看破した忍野メメは凄いですね。この人がいなくなったから「偽物語」はややパワーダウンしたという感じがしていました。羽川翼は「ストレスを貯めない照魔鏡」になって欲しいのですが、実際には品行方正に振る舞うことによるストレスを溜め込む癖をなくすことができず、今度は暦が戦場ヶ原ひたぎに奪われたことによりストレス充填120%で再び猫化することになります。

「猫物語」には「猫物語(黒)」のほか、「猫物語(白)」があるようなので、いずれ羽川翼については改めて映像化されることでしょう。それにしても羽川翼及び「障り猫」やブラック羽川を演じる堀江由衣、長台詞の嵐お疲れ様でした。ほっちゃんの凄さを改めて再認識させてもらいましたよ。流石私が「好きな声優さん」として選んだ13人衆だけのことはあります。

以前は暦は羽川翼と付き合えばいいのにと思っていましたが、今回「猫物語(黒)」を見て、戦場ヶ原ひたぎを彼女にしたことは正解だったのではないかと思い始めました。羽川翼を「助ける」「救う」みたいな不遜な動機での交際は羽川翼に失礼だし、彼女と対等な関係を築くのは、言っちゃあ悪いけど暦程度の男では無理でしょうから(笑)。「神に最も近い男」(乙女座のアイツです)とか「神の化身」(双子座のヤツです)あたりでも持ってこないと。
あー誰か冬アニメのお勧めを教えてくれないでしょうかねえ。

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