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狼になりたい:鳥にも風にもなれずに地を這う者の怨歌

狼になりたい
 
 関東平野部、今日は比較的寒さも緩んで、ちょっと一息付けた感じです。前回の冬もなかなか寒かったような気がしますが、この冬もかなり寒いですね。これでも30~40年前に較べればやはり温暖化が進行しているらしいですけど、進展しているんでしょうけど、どれだけ寒かったんだと思いますね。

 ランキングの方は順調に低下しつつあります(涙)が、本日は拍手を2つもいただきましてホクホクです。コメントも来ているし賑やかでいいですね。懐は寒いですが心が温かい内に本日の本題に行ってみましょう。今日は中島みゆきの「狼になりたい」です。 

親愛なる者へ

 「狼になりたい」は中島みゆきの5thアルバム「親愛なる者へ」に収録されています。「親愛なる者へ」は初めてアルバムで首位を獲得した作品で、1979年3月にリリースされました。

 中島みゆきといえば、松任谷由実と並ぶ女性ニューミュージック・シンガーの双璧ですが、イメージは極めて対照的です。ユーミンの歌から連想するイメージは、山の手・お嬢様・セレブ・ハイソな生活・裕福・レジャー・バカンス……。そういう感じの歌ばかり歌っている訳ではないのですが、そんな雰囲気がします。バブル期に売れまくったのも時代の風潮とイメージが合ったから(バブルの雰囲気にユーミンが乗ったとも言えますが)ではないかと思います。

中島みゆき

 対してみゆきのイメージは貧困・孤独・放浪・垢抜けない小娘・失恋・ひどい世の中・恨み・不平不満……ああ、お先真っ暗だ!もちろんみゆきもそういう歌ばかり歌っている訳ではないのですが、そんな雰囲気がするのです。この暗くて思い作風とラジオでのやたら明るい語り口のギャップにびっくりした青春時代が私にもありました。そう、本人は別にいつも眉をしかめて眉間にしわを寄せたりしている訳ではない(ユーミンだって四六時中華やかに遊び回っている訳ではないですが)のですが、陋巷の人々の人生や心情を深くえぐる、或いは掘り下げるような歌詞を得意としていると思います。ユーミンが人々を楽しませ、自身も享楽的な女神のような存在であるとすれば、中島みゆきはどうしようもなく愚かな愛すべき人類よ、なんて闇の中で呟いている女悪魔……私の独断と偏見からのイメージはそんな感じでしょうか。

疾駆する狼

 さて、「狼になりたい」ですが、タイトルからしてユーミンが絶対に作らない歌だなという感じがしますね。歌詞には高度成長期もほぼ終わろうとする時代の猥雑な雰囲気が良く出ています。夜明け前の牛丼屋(吉野家と名指ししています)に集まった場末の人々。化粧のはげかけた女の子と送り狼(この狼になりたいのではないですよ)の若者が居眠りしています。おっさんは一人でくだでも巻いているのでしょう、見苦しい限りです。自分も唯一の自慢であるナナハンで女の子をナンパしたいのですが、今日は朝早くから仕事があるらしく断念です。

 そんな彼の頭の中を渦巻いているのは「みんないいことしてやがるのに、俺だけどうして…」というやるせない不満。そんな不満を一杯に抱えながら、それでも日常生活を送っていかなければならないやるせなさ。そして彼は願うのです。

 狼になりたい 狼になりたい ただ一度

 何にも縛られない自由な存在というと、鳥が真っ先に思い出されます。「翼をください」なんて名曲もありますし。しかし「狼になりたい」の主人公の若者は、狼に憧れるのです。何者にも束縛されずに大地を疾駆して獲物を狩り、牙を剥いて怒りを示す狼。そう、彼は単に逃避したいのではなく、世界に自分の“怒り”を表明したいのです。獲物(この場合は女の子か)も狩りたいのです。束縛なき自由と“雄”らしさの発揮、これが彼をして狼に憧れさせるのでしょう。

怒れる狼

 この時期、平井和正はウルフガイシリーズを書いてヒットしていました。この人も作品内で狼の高潔や威厳をやたら強調していたので、私も狼に憧れました。この作家、それ以前は虎で、狼の後は幻魔になってしまいましたが、今でもウルフガイシリーズは続けているのでしょうか。映画化された「狼の紋章」でも狼の尊厳とか孤高さは遺憾なく発揮されていました。10月1日付の当ブログ記事で「狼の紋章」を取り上げていますのでよろしかったらご覧下さい。

 実際には狼は群れを作って生活しているので、そんなに自由な訳ではないでしょうし、文字通り“一匹狼”は集団で獲物を狩ることが得意な狼からすれば非常に生きにくいのではないかと思いますが、若者の様々なもの(社会とか境遇とか自分自身とか)への不平不満へのやり場のない怒りを仮託する対象としては狼がふさわしかったのでしょう。

狼の遠吠え

 だったら虎とかライオンの方が強そうだし、陸上最強は熊じゃないかとかいう意見もあるでしょう。しかし虎やライオンは強すぎ、威厳がありすぎるという感じがしますね。特にライオンの雄なんて王者の風格があって、世塵まみれの一介の若者が憧れるには眩しすぎます。また熊は本性とは裏腹に「森のクマさん」とか「くまのプーさん」みたいなユーモラスな感じがあるのでちょっとなりたいという感じがしません。やはりちょっと薄汚れた感があって、悲しみをたたえたような遠吠えをしたり、怒りに満ちた表情をみせる狼がイメージ的には適切なような気がします。

SURF SNOW

 私自身も、憧れるのはユーミン的世界なのですが、実際の心はみゆき的世界に近いかなあと思います。「サーフ天国スキー天国」に行きたいと願いながら吉野家で牛丼の並を喰らっている……。嗚呼、私も狼になりたい。

 YouTubeで聴けます。素人さんのカバーばかりでなかなか本人の歌声をみつけられませんでした。映像はイメージですが、歌声は本人です。

「狼になりたい」の映像

 http://www.youtube.com/watch?v=7cAy_1iiLYs

 男歌なので男性歌手が歌っていないかと思ったら、根津甚八が歌っていました。

根津甚八版

 http://www.youtube.com/watch?v=IjqBAz6TfWM

 無頼と自由と孤独と漂白と……実際やったらすぐに野垂れ死にそうですが、それでも一匹狼って奴には憧れてしまいす。束縛を嫌うという意味で魂の形が近いんでしょうかね。
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