小説:パラダイム・シフト(後編)

今日も雨です。この冬は寒いし雨多いしいつもとちょっと違いますね。♪外は冬の雨まだ止まぬ♫という歌が昔あったけど、本当に冷たくて暗くて陰鬱ですね。あんまり積もらないのなら雪の方が綺麗でいいのですが。
さて拙作も最終回。実は今年のGWに作成したもので、「雨傘番組」としてここまで温存しておりました。もうこれでスッカラカン。ストックはもうありません。
パラダイム・シフト(後編)
7
一体どれほどの時間が経過しただろう。その空間には時の感覚がなかった。食事も睡眠も必要なく、ただ欲情だけが存在した。何日か、何週間か、あるいは何年かもかけて、正気を失った僕は欲望の命ずるままに彼女を堪能し、味わい尽くした。かつて僕に告白に来た数多の女生徒達。その度に心の片隅に浮かんでは、厳重に封印してきた様々な欲望。その一つ一つを余さず彼女にぶつけた。ありとあらゆる体位で彼女を貫き、全身を曲げ、吸い、舐めつくした。僕を含ませ、全身に奉仕をさせた。
また彼女を縛め、様々な道具で苛んだ。目隠しをした彼女の背に熱い蝋を垂らし、鞭打った。三角の木馬に載せて彼女の足に錘を重ねた。僕自身が気付かなかった、心の奥底に封印していた様々な欲望達は、彼女を過酷に責め続けた。手錠、足枷、よだれ玉、浣腸、刺青、様々な場所へのピアス…僕が満たそうとする欲望はもはや拷問そのものだったが、彼女はその全てを無抵抗で甘受した。ご主人様と嫋々と訴える声。許しを懇願する声。喘ぎ。悲鳴。おびえた表情。見開かれた目。彼女はそのことごとくが美しかった。
8
気付いた時、僕は職員室で制服姿の彼女と向かい合っていた。時刻は…午後8時前。
彼女に何か…何か言わなければ。だが、何を言えばいいのだろう。
「あ…あの…」
「堪能したかしら。」
にこやかに彼女が言う。まるで何もなかったかのように。
「ぼ、僕は…君に…なんてことを…」
「気にしなくていいわ。あれが補正措置、つまり私が望んだことでもあるのだから。それよりも…」
彼女は振りむいて時計を確認する。
「気付いているでしょうけど、時間は少し巻き戻してあるの。もうすぐ学校一の美少女が来るわ。先生に愛の告白をしにね。テイク2だけど。」
魅力的なウインクを僕に一つ。
「補正措置は完了したわ。もうこれ以上の介入はありません。お別れよ、先生。…さようなら。」
ふと寂しげは表情を浮かべた彼女は、次の瞬間拭い去られたように消えた。
僕の心にぽっかりと空虚な穴が開く。あれは、あの体験は幻だったのか。でも僕の記憶には刻み込まれている。彼女を責め、苛み、愛したことを忘れられる訳がない。
9
職員室の横開きのドアが静かに開き、僕が担任を務める3年C組の夏目千鶴が姿を現した。可憐な顔に緊張感を漲らせている。彼女が要件をもう僕は知っている。そして、彼女を襲うその後の運命も。
「せ、先生…。あの…お話があるんですが…。」
おずおずと話しかける女生徒。僕はどうすればいい。僕は救いを求めるように思わず耳を澄ませる。しかし、周囲には彼女の気配すら感じられなかった。
そうだな。僕ははっきり理解した。彼女はもうこの世界に干渉しない。あれはあくまで例外的な出来事だったんだ。『この世界を回していくのはこの世界に住む者の務めです…良かれ悪しかれ。』彼女の言った言葉が胸の中で蘇る。そう、良かれ悪しかれ僕の行動は僕自身が選択しなければならないのだ。そして、もう悲劇を起こすわけにはいかない。
「こんな時間にどうしたんだい、夏目君。まあそこのソファに座りなさい。」
僕は微笑みを浮かべて彼女を手招きした。
応接のソファで向かい合う。硬い表情の女生徒は膝の上に組んだ両手をもじもじと動かしている。きっかけは僕が作ってあげよう。
「さあそれで…こんな夜更けにわが教会にどんな御用ですかな?」
彼女の緊張が少しほぐれる。彼女は愛の告白を始めるだろう。ここまではさっきと全く同じなのだから。
「先生…。あの、ご迷惑だとは思いますが…どうしても先生にお伝えしたいことがあって…」
うつむきながら言葉を探す様子がいじらしかった。
「何かな?何でも言ってごらん。僕で力になれることなら何でもするよ。」
穏やかな微笑みとともに、これまで幾多の女生徒に言ってきた台詞を繰り返す。
「先生…私、先生のこと…とてもお慕いしているんです。」
「そう、ありがとう。生徒会長にして優等生。さらには学校一の美少女の夏目君に慕われるなんて、教師冥利に尽きるね。」
「先生…どうか茶化さないで下さい。先生に奥さんも子供もいることは知ってます。でも…でも、私はもう自分の心を押さえることができないんです。」
真剣な表情。紅潮した頬。一途な瞳。
「好きです…好きなんです、先生。どうしようもなく、先生が好きなんです!先生のことを想うと、心が苦しくて、切なくて…」
「そうか。ありがとう、夏目君。」
ここまではリハーサルの通り。だが次の瞬間、僕の口はこれまでにない言葉を発した。僕の本音を。
「夏目君。いや、千鶴と呼ばせてもらうよ。僕も君のことが好きだ。好きだよ、千鶴。教師と生徒という高い垣根を飛び越えるほどにね。」
「あ…ああ…」
千鶴の瞳が喜びに震える。
「世間は不倫と呼ぶだろう。だが、僕の君への想いは純粋なんだ。千鶴…君は、僕を受け入れる勇気があるかい?」
「は…はい!先生、私、本当に嬉しいです!」
僕達は立ち上がり、ひしと抱きしめ合う。千鶴が顔を上に向けて瞳を閉じる。かすかに開いた形の良い唇。僕はためらうことなく口づける。僕の背中に回された彼女の腕に力がこもる。
しばらくして彼女の口腔に舌を差し込む。少し驚いたように彼女は首を仰け反らせたが、やがて優しい舌がおずおずと僕に絡みついてくる。
僕にはもう何のためらいもなかった。40数年間の保持し続けてきたモットー、“清く正しく誠実に”。それ自体は間違いではない。しかし、その一方で僕は心の裡に生じた様々な欲望を抑圧し封印し続けてきた。それらの欲望は、強く抑えつければ抑えつけるほどに呪怨となって不幸をもたらし続けてきたのだ。それこそが、世界を滅ぼしかねない原因だった。今の僕にははっきりと理解できる。幸福を願いながら不幸な結果を招き続けてきたのは、虐げられた僕の欲望達の呪怨だったのだ。そして、彼女は怪物のような僕の呪怨を一身に受け止め、その欲望を満たすことで、浄化してくれたのだ。
世界を維持するという彼女の意志に沿うためにも、これからの僕は、心に生じた欲望に素直に生きていこうと思う。不倫とも二股とも、言いたければ好きに言うがいい。世界が滅びるよりはましじゃないか。
その時、愛らしくウインクした彼女の顔が脳裏に浮かんだ。
“君の『補正措置』は成功したみたいだよ。もう世界は大丈夫だね。”
僕の想いを聞き届けたかのように、彼女の微笑みが薄れていき、目の前の千鶴の顔に重なった。さあ、僕はこれから千鶴と『許されざる恋』に没頭するとしよう。外で待ち伏せているはずの不良が、諦めて立ち去るまでね。
(了)
……ということで終了です。お読みいただきありがとうございました。
あとがきというほどでもありませんが、モデルなど。まず“人外”の彼女のモデルはもうおわかりのとおり壇蜜さんです。

天使も悪魔も両方こなせる希有な女優さんになって欲しいですね。その力は既にあると見た。妖艶さばかりに注目が集中していますが、清楚な雰囲気だって出せる人なんですよ。

そして夏目千鶴は高田里穂。

現役美人女子高生ではピカイチですね。ひどい目に遭わせてしまってごめんなさい。時間は巻き戻されて「無かったこと」になってますので。

セーラー服もいいですが…

私服姿も清楚でいいですね。

眼鏡っ娘もグー。賢そうです。
ですが、本来「夏目千鶴」という名前は、私が壇蜜さんに勝手に贈ったものなのです。だって……

ほら、いけるでしょう?一人二役でいいなあと思っていたのですよ。

まあ映画でもセーラー服姿を見せているそう(見てませんが)なのですが、一歩間違えれば失笑を買うところ、エロスで押し切っているあたりは流石美魔女予備軍。ご本人は「永田農法」ということで特別なケアはしてないそうですが、素材がいいんでしょうね。

ただ、この夏目千鶴が告白してきたら加藤先生も最初から陥落していたような気がするので、ここは現役の高田里穂に譲ってもらいました。
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