冬のオペラ:名探偵の解く事件は切なく哀しい…

冬のオペラ
 
 いやーしかし寒いですねえ。クリスマスは終わってもクリスマス寒波が去りません。正月にはまた正月寒波が来るらしいし、秋口に暖冬とか言ってたやつちょっと来い。

 本日は先日読了した北村薫の「冬のオペラ」です。北村薫はこれまであまり読んだことがなかったのですが、この前読んだ「六の宮の姫君」の属する「円紫さんと私」シリーズの描くところの“日常の謎”が非常に興味深くまた面白かったので、これからは機会があれば読んでいこうと思っています。

 殺人事件とか重大犯罪事件は、一般人は通常関与することはできませんし、そんなに頻繁に発生しても困るのですが、“日常の謎”は観察力があればいたるところで見つけることができるような。例えば通勤時に毎日すれ違う中学生に今日は会わないのはなぜかとか、位置も同じ車両に乗るおっさんが今日に限って隣の車両に乗り込むのはなぜかとか。大抵はしょぼり理由なのかもしれませんが(前の例では運動会の振替休日とか、風邪ひいてお休みとか。後ろの例では尿意を催してトイレの付いている車両を選んだとか)、場合によっては深い理由が隠れ潜んでいるものもあるかも知れません。

単行本

 アガサ・クリスティ作品に登場するミス・マープルは田舎暮らしの独身のおばあさんながら、ポアロと並ぶ名探偵ぶりを発揮します。作品の中で彼女が遭遇するのは重大事件が多いですが、彼女の推理法は、起こった出来事もしくは話された内容を、彼女が住むセント・メアリ・ミード村で過去にあった出来事に当てはめるというところに特徴があります。周囲の人々はそんな田舎の話なんてと途中までは馬鹿にした態度を取ることが多いですが、マープルは常日頃“日常の謎”を解明することで観察力や推理力を磨き、人間性格などに関する洞察力を深めていたのでしょうそのため、マープルの登場する作品は、物的証拠をもとにした推察よりも、動機面から推理を始める傾向が強いようです。

 で、「冬のオペラ」ですが、こちらも「円紫さんと私」シリーズ同様女の子が主人公です。ただ「私」ではなく「姫宮あゆみ」というちゃんとした名前があります。彼女は高校を卒業してから東京で叔父の経営する不動産会社に勤めています。どうやら数年前に父親がなくなってお嬢様暮らしから転落してしまったようなのですが、作品内ではあまり詳しく触れられていません。不動産会社勤務は叔父の援助的な側面があるようですが、あゆみはゆくゆくは文筆業を職業としたいという望みが有ります。そんな中、叔父のビルに入居して「名探偵事務所」を構えたのが「名探偵」巫(かんなぎ)弓彦です。

 巫弓彦は「人知を越えた難事件を即解決 身元調査等、一般の探偵業は行いません」としています。知名度もないし、そんな事件はそんな難事件はそうそうないので、彼は様々なアルバイトで生計を支えています。探偵を職業とするのなら、浮気調査とかいなくなった飼い犬の捜索といった地味な仕事をこなす必要があると思いますが、彼は探偵ではなく「名探偵」なのでそういうことは一切しません。

中公文庫版

 探偵が難事件を数多く解決することで人々から「名探偵」と呼ばれる…そういうものだと私は思っていたのですが、巫弓彦によれば「名探偵とは存在であり意志である」のだそうで、例え事件を一つも解決していなくても名探偵たりえるのだそうです。以前はサラリーマンだったようですが、ある日突然、自分が「名探偵」であることに気付き、会社を辞めて「名探偵事務所」を開きました。

 本作は2本の短編と1本の中編で構成されていて、ラストの中編「冬のオペラ」が白眉となっています。“日常の謎”と言いましたが、短編2本(「三角の水」と「蘭と韋駄天」)確かにそのカテゴリーに入りますが、「冬のオペラ」は殺人事件なので重大犯罪事件ということになるでしょう。いずれも姫宮あゆみが遭遇して巫弓彦に持ち込んだ事件ということになりますが、報酬はほとんどない、というか交通費など持ち出しになっていて、「名探偵」が活躍するほどに巫弓彦は貧乏になっていくという皮肉な現象が起きてしまいます。

 姫宮あゆみは若いに似ず物事に動じない冷静さを持っており、その背景には実家の没落などが影響しているのかも知れませんが、年上の人との交流を全く苦にしない様子がうかがわれます。巫弓彦は年齢は40歳前後で独身です。多分「名探偵」は家族を養っていけないのでそれは正解な気がします。濃い眉に射るような眼をしており、きつく結んだ口は定規で引いたようだと描写されています。

コミック版

 巫弓彦の推理法ですが、さすがに名探偵、あゆみが話す事件の概要を聞くだけで事件の真相や犯人を一瞬で見抜き、解決してしまいます。故に、本書ではまずあゆみが事件を見聞し、それを巫達彦に話すことで解決し、何らかのアフターケアを行うという構成になっています。短編2本は“日常の謎”ですが、犯罪性自体はあるといえばあるのですが、犯人は指摘しても穏便に済ませる方向に動くのが巫流のようです。さすがに殺人はそういう訳にはいかないでしょうが、直接警察に告発するようなことはせず、自首を促しています。

 表題作「冬のオペラ」は殺人事件なのですが、殺人に至る経緯などが明らかになると、非常に哀しいものがあり、私が裁判員なら執行猶予付き判決にしてあげたいと思うほどです。殺すまでしなくてもとは思いますが、長年の経緯が激情を呼び起こして図らずも殺してしまったというところが真相でしょう。

 ぜひシリーズ化して姫宮あゆみの成長とともに巫弓彦の名探偵ぶりを描いて欲しいのですが、これまでに続編は出ていないようです。1993年の作品ということで既に20年近く経過しているのでもう無理なのでしょうか?2002年に角川書店で漫画化されていますが、角川書店のサイトを見ると「品切れ重版未定」という残念なことになっています。

森永チョコレート

 なお、2006年に森永製菓が“くつろぎのひと時を楽しむ主婦のための、ちょっと贅沢なチョコレート”というこでチョコ化しています(笑)。本書との関係は…おそらくないでしょうね。お菓子の「冬のオペラ」は、“食感が異なる三層のチョコレートの絶妙なハーモニーが楽しめる、オペラケーキをイメージしたチョコレート”だということで、「オペラケーキ」はチョコレートとコーヒーを使ったケーキでパリのオペラ座にちなんで作られたものだそうです。

オペラケーキ
パリのオペラ座

 「名探偵シリーズ」ということで3~4冊出してくれればテレビドラマ化に良い作品だと思うのですが。姫宮あゆみは高田理穂に演じさせたいなあとか勝手に考えたりして。切なく哀しい真相に直面するたびに美しくそして大人になっていく高田理穂……なかなかに素敵ではありませんか?

高田理穂
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