夜明けの街で:東野圭吾初の「不倫恋愛」小説

角川文庫版
 
 昨日よりは寒さは緩んだ感じがしますが、宴会や追い込みの残業などでノロウイルスやインフルエンザにの脅威にさらされやすい日々が続きます。明るく穏やかな正月を迎えるためにも皆さんご自愛下さい。

 本日紹介するのは私の贔屓作家の一人、東野圭吾の「夜明けの街で」です。本書は2007年6月に単行本が刊行されました。東野圭吾といえばミステリーという印象が強いですが、本作ではミステリーの部分もありますが、基本的には不倫を主軸としており、東野作品としてはこれまでにない新境地の作品といえるでしょう。

映画の壁紙

 文庫版の表紙裏の内容紹介は

 不倫する奴なんて馬鹿だと思っていた。ところが僕はその台詞を自分に対して発しなければならなくなる―。建設会社に勤める渡部は、派遣社員の仲西秋葉と不倫の恋に墜ちた。2人の仲は急速に深まり、渡部は彼女が抱える複雑な事情を知ることになる。15年前、父親の愛人が殺される事件が起こり、秋葉はその容疑者とされているのだ。彼女は真犯人なのか?渡部の心は揺れ動く。まもなく事件は時効を迎えようとしていた…。

となっています。

DVD.jpg

 読書をするとき、主人公を好きになれるかかどうかは重要だと思います。例え悪人が主人公であっても、その人の心情に共感出来る場合は好きになることができるのですが、本書の主人公渡部に関してはどうにも好きになれませんでした。彼自体はごく普通の人間なのだと思います。故に良い格好しながら臆病になったり、言葉の裏に存在する狡猾さとかも、普通の中年が不倫すれば、そりゃそうなるよなという感じはあるのです。そして東野圭吾もそういうヒーロー的でない男を意図的に作り出していると思われるのですが……あまりにも不倫に不適な人物像になってしまった感じがあります。また、不倫の契機となる問題なんかが家庭とか仕事にでも存在すればいいのですが、主人公の場合はそういったものは一切なく、たまたま職場に美人がやって来て偶然が重なって恋に落ちたところまではともかく、一回こっきりの浮気ではなく本気の不倫に陥っていく過程にやや無理があるような。

 まあ秋葉が抱えた闇(それが何なのかは徐々に判明していくのですが)に苦しんでいる姿を見かねてということなのでしょうが、主人公には同情と愛の区別がつかなくなっているというか。

 オチを言っては何ですが、主人公は妻と別れて秋葉と一緒に生きる決意をするのですが、その希望は叶いませんでした。しかし仮に希望が叶ったとして、妻に離婚を切り出した場合どうなるかと考えると、とても幸せになれるとは思えませんね。100%夫有責で妻が離婚に同意しない場合は、離婚自体が非常に困難でしょうし、離婚が成立するにしても慰謝料養育料などは莫大な額になるでしょう。主人公は一介の会社員なので、そうした償いを行った後、秋葉と生計を立てることが可能なのかどうか。秋葉にも慰謝料請求はあり得ますね。こちらはお父さんが裕福そうだから援助を求める余地はありそうですが。

恋に落ちる和夫と秋葉

 まあ読みどころはそんな処ではなく、セックスしなければ浮気ではないとか、浮気してもちょっとした火遊びだ本気じゃないと自分に言い聞かせながらどんどん深みにはまっていく主人公の姿なんでしょうね。クリスマスイブは計略で秋葉と過ごした主人公ですが、さすがに正月を一緒に過ごすなんて無理です。秋葉がカナダに旅行に行くというので助かったと思いますが、実は主人公の精神的負担を軽減するための嘘で、一人きりで自宅に籠もっていたことを後で知る……こういうことが恋心を燃え立たせるのでしょう。また、秋葉も秘密にするならずっと秘密を保てばいいのに、ぽろっと言ってしまう辺りにずるさというか本当は理解して欲しいという欲望が見え隠れてしています。不倫は許さない、殺すなんて最初は言っていたのになあ。

仲西秋葉役の深田恭子

 で、秋葉の抱える闇ですが、15年前に、秋葉の父達彦の秘書兼愛人が秋葉の家の居間で殺されるという事件が起きており、当時自宅にいた秋葉(二階の自室でクラリネットを練習していた)と、直後に訪ねてきた叔母の浜崎妙子に容疑が掛かっているというものです。その1年前に秋葉の母は離婚しており、3ヶ月前に自殺をしています。警察はこの自殺と秘書兼愛人の死が関連していると考えており、父と秘書の不倫→父と母の離婚→母の自殺→復讐という絵図面を描いているようです。そして秘書兼愛人の妹もなお事件を追究しています。

渡部和也役の岸谷五朗

 主人公は秋葉の叔母や刑事や被害者の妹らと次々と会って話を聞いて行く中で、「秋葉が殺人者であっても愛することができるのか」という命題を突きつけられていきます。「何の罪もない妻と娘を捨てられるのか」という不倫の命題とともにダブルの十字架を背負い苦悩する主人公。私は主人公に好感が持てなかったので全然同情できませんでしたが。

マダム・カラフル浜崎妙子役の萬田久子

 時効成立直後、秋葉は真相を語ります。それは誰もが思ってもいなかった結末で、なぜ今まで伏せていたかと言うことも含めて秋葉の“復讐”だったのですが、返す刀で主人公との不倫も、復讐の一環だったとして恋のゲームオーバーを宣言します。実際当初はそういう意図があったのかも知れませんが、次第に本気で不倫の恋にのめり込んでいたのは秋葉も同じだったと思いますが、離婚した夫妻の子であった過去もあり、本気で主人公の家庭を壊す気はなかったのでしょう。不倫の精算は身を切るように辛かったと思いますが、それを自らしてのけた点、秋葉には好感が持てます。

渡部有美子役の木村多江

 それにしてもラスト、何も知らないと思っていた妻が何もかも知っていたことを示唆するシーンが鬼気迫っていてぞくっとします。東野圭吾は映画(後述)の公式サイトで「この小説を書く時、面白くて、甘く切なく、そして少し怖い話にしようと思いました。」と言っていますが、「甘く切なく」の部分にはやや疑問は残る(秋葉側からすればそういえるのですが、主人公はどうしても狡猾さが気になって)ものの、面白いことは間違いなく、少しどころでなく怖い話でした。ラストまでは別に怖くなかったのですが(笑)。

秋葉の父役の中村雅俊

 例によって私の知らないところで映画化されていました。2011年10月に角川系で公開されています。主人公の渡辺和也を岸谷五朗が、仲西秋葉を深田恭子が演じています。主人公は40前なので、岸谷五朗では10歳位年長になるのですが、まあ俳優さんは若作りだからいいでしょう。深田恭子は逆にやや年下になってしまいますが、数歳位は女優さんにとっては何でもないのでしょう。しかしフカキョンが相手ならそりゃあ本気になりますよね。

 秋葉の父は中村雅俊、叔母のマダム・カラフルは萬田久子です。青春ドラマの主人公だった中村雅俊もそういう役が似合うようになっているのですね。時の流れは速いなあ。そして渡部の妻有美子は木村多江。何も知らない振りをして実は何でも知っている恐ろしい妻役にはふさわしそうです。映像ならアレを握りつぶすシーンも入っているんでしょうね。

映画チラシ

 なお、前述の公式サイトでの東野圭吾のコメントの続きは、「現在不倫を画策中の人に警告です。まずは、この映画をみてください。それでも尚かつ不倫をするというのなら、もう止めません。どうぞ甘い地獄に堕ちてください。」となっています。作者の意図がやはり不倫はいかんよということなら、主人公に好感が持てなかった理由もうなずけます。主人公に好感が持てるようなら不倫是認になってしまいますからね。

 不倫は犯罪ではありませんし、なりゆきではまってしまうこともあるのでしょうが、「甘い地獄」って、言うほど甘美なものではないと思います。「甘い」部分があるのは救いかも知れませんが、基本的に地獄は地獄ですから。

 なお、末尾におまけとして「新谷君の話」が付いています。作中口を酸っぱくして主人公を諫める新谷君の身に何が起きたかが描かれています。そりゃあこんな経験したら「不倫はやめろ教」の伝道師になりますわねえ(笑)。

単行本

 
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