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電車:岡村孝子が歌う「儚くしたたかな者たち」

電車
 
 朝起きるのが辛い季節ですね。夜はイルミネーション華やかで綺麗なのですが、一旦布団にはいるともう動きたくありません。しかし、ご飯を食べていくためには出て行かねばなりません。そこが人生の辛いところです。

 そうそう、辛いといえば本日は岡村孝子の「電車」をご紹介しましょう。岡村孝子は愛知県出身のシンガーソングライターですが、大学生時代に同級生と組んだデュオのグループ「あみん」でデビューし、ファーストシングルの「待つわ」は1982年のオリコン年間売上1位となる大ヒットを記録しました。「あみん」は83年にシングル4枚で活動を休止し、岡村孝子は85年にソロとして再デビューします。

あみん

 以後「はぐれそうな天使」(86年)、「夢をあきらめないで」(87年)、「Blieve」(88年)などがヒットし、OLが多い同世代の感性を表現した歌詞と曲が若い女性を中心に強い支持を集め、90年代初頭には「OLの教祖」などと称されたりしました。私は94年にリリースしたシングルコレクションの「イストワール」を買いまして、外地で聞いていましたが、名だたる名曲に混ざって特に強い印象を受けたのが「電車」でした。

イストワール

 「電車」は87年7月にリリースした6thシングル「迷路」のカップリング曲でしたが、同年12月に7thシングルとして改めてシングルカットされました。松田聖子の83年のシングル「SWEET MEMORIES」は、元々「ガラスの林檎」のカップリング曲でしたが、ビールのCMソングに起用されたことで大ヒットし、「ガラスの林檎/SWEET MEMORIES」と両A面になりましたが、「電車」は「迷路」と両A面になったわけではなく、別のカップリング曲「リベルテ」と君で再発売されています。これは珍しいケースだそうです。

 歌詞は、「OLの教祖」らしく、キャリアウーマンの仕事ぶりを描いています。主人公はラッシュの電車ですし詰めになって会社に出かけ、悲しい夜ばかりを過ごしていても、オフィスではいつも明るく振る舞っているという気丈な女性ですが、実は自分の生き方がまだ定まっておらず、何を目標に生きていけばわからずに、「私は変わらずに私でいるしかできない」と嘆いています。

 これだけなら、あまり深く考えずに就職した若手サラリーマン・OLにありがちな光景と言うこともできるのですが、比較的淡々と進んできたメロディが、ラストで大きく盛り上がるとともに、意味深長な歌詞が歌われます。

「電車」を歌う岡村孝子

http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=xtxWiuaRzvo

 あなたを失くしてまでも決めた道を
 悔やむほど弱くなった私をしかって

 あなたを失くしてまでも決めた道を
 悔やむほど弱くなった私をしかって

 あなたを失くしてまでも決めた道を
 進むほどずるくなって明日を変えたい


 彼女は目的もなく「でもしか」で現在の仕事を選んだわけではなかったのです。やりたいこと、なりたいものが歴然として存在し、それは以前付き合っていた恋人と別れてまで手に入れたかったものだったのです。

 かつての恋人「あなた」は何を求めていたのでしょうか。専業主婦となって支えて欲しかったのか、家業とか自分の仕事を手伝って欲しかったのか。そういったシチュエーションで恋人や夫の支えになることを選択する女性も多いでしょう。それは安易にいい悪いと第三者が判断することではありませんが、少なくともこの歌の主人公は、自分の目標を「あなた」の希望よりも優先し、その結果別離を選択したようです。

 おそらく彼女は彼を相当深く愛していたのではないかと思いますが、最愛の彼を失ってまでも求めた道が、仕事に追われる日常の中でだんだん見えずらくなっていっている。それが人生の難しさだなあとしみじみ思います。

 「秒速5センチメートル」の第3話(その名もずばり「秒速5センチメートル」)で、貴樹はモノローグとして

 「この数年間、とにかく前に進みたくて、届かないものに手を触れたくて、それが具体的に何を指すのか、ほとんど脅迫的とも言えるようなその思いがどこから湧いてくるのかも分からずに、僕はただ働き続け……」

 「気付けば、日々弾力を失っていく心がひたすら辛かった。そしてある朝、かつてあれほどまでに真剣で切実だった思いがきれいに失われていることに僕は気づき、もう限界だと知った時、会社を辞めた」

 と言っています。「電車」の主人公も、恋愛以上の強い希望を持ちながらも

 何を求めて明日を探せばいいのか
 大きな海を漂う木の葉のようだわ


 と貴樹同様に苦悩しています。こういった悩みに男女差はないのでしょう。ただ、貴樹と違って「電車」の彼女はまだ希望を失ってはいません。もう一度歌詞のラストに注目して下さい。

「電車」PV

http://www.youtube.com/watch?v=PyKyFCVC_3M

 進むほどずるくなって明日を変えたい

 と言っています。経験と知識と(そしておそらくコネとか貯金とかも含めて)増やすことで、狡猾に社会の荒波を渡って「明日」という未来を自分の思い通りの方向に変えたいという意志を抱き続けています。もし文字どおりに実現することができるとするならば、まさに彼女は貴樹以上にしたたかでしなやかな人物であるといえるでしょう。

 願わくば、貴樹のように弾力を失わずに生きて欲しいです。そしてそういった生き方で幸せを感じられる人であって欲しい。別れた彼もきっと彼女が幸せを感じて生きていることを願っているはずですから。Coccoの歌う「強く儚い者たち」が男であるとすれば、この女性は「儚くもしたたかな者たち」であって欲しいです。

岡村孝子

 それはそうと、「秒速」第3話の貴樹の

 ただ生活をしているだけで、悲しみはそこここに積もる。
 日に干したシーツにも、洗面所の歯ブラシにも、携帯電話の履歴にも。


 というモノローグが最近心に沁みて仕方ありません。ちょうどこんな感じです。

 「ジャック…キャビン環境コントロール・システムを点検してくれないか」
 零はヘルメット・バイザを上げて、こぶしで頬をぬぐった。
 「妖風が目にしみる。涙が止まらない」

(「戦闘妖精・雪風」第四話「インディアン・サマー」より)
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