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源内万華鏡:清水義範が描いた「非常の学問芸人」

源内万華鏡
 
 今日は日中はかなり暖かかったのですが、夕方以降は一転して風が冷たくなりました。日暮れが一番早い時期ですね。冬至より今の方が日暮れが早いようです。日の出はこれからさらに遅くなりますが、来週後半以降は日暮れが徐々に遅くなっていきます。

 今日のお題は清水義範の「源内万華鏡」です。清水義範のいわゆる「パスティーシュ」の手法を用いた小説は昔から大好きで、図書館で見かければ即手に取ることにしています。

平賀源内

 パスティーシュとは、文体や雰囲気などを、先駆者に影響を受けて作風が似ることや故意に似せることを指しますが、広義ではパロディもパスティーシュの範疇にはいるそうです。清水義範はパスティーシュの天才といえるでしょう。ジュブナイル中心でSFも相当書いているようですが、すいません、清水義範のSFは一冊も読んだことがないようです。自称SF者(「キリスト者」みたいですな)として正直、スマンカッタ。

正直、スマンカッタ

 パスティーシュ系は結構漁っているんですよ。もはや古典の「永遠のジャック&ベティ」とか「国語入試問題必勝法」に始まって、短編長編色々読んでいます。しかし…近著はいけてません。こちらも正直(ry。

 今回読んだ「源内万華鏡」は2001年10月発行で、何と私が読んだ一番新しい清水義範作品ということなります。ようやく21世紀、しかし10年以上前の作品というのが非常にトホホなところなのですが、どんなに嘆いてこれしかないのでいっちゃいましょう。

 本書はタイトルから判るとおり、平賀源内の一生を描いたものです。江戸時代きっての奇人ともいうべき源内の肩書きは、本草学者、地質学者、蘭学者、医者、殖産事業家、戯作者、浄瑠璃作者、俳人、蘭画家、発明家(Wikipediaによる)と凄まじい物になっています。

火浣布

 家は讃岐高松藩の足軽クラスで、3石一人扶持だったそうです。大江戸捜査網の隠密同心が「30俵2人扶持の低い身分」とナレーションされてましたが、受け取りでいうと実質1石=1俵になるので、隠密同心の十分の一の俸禄ということになりましょうか。これじゃとても食っていけませんが、傍らでやっている(というかこっちが本業かも知れませんが)農家としてはかなり裕福で、幼少期から学問に触れる機会はあったようです。

 源内は学問に精進するため、そして江戸に出て名を挙げるために家督を妹に譲って隠居となり藩の職も辞して一介の浪人という学問をするには自由な身分を手に入れ、長崎、大阪、京都に学んで江戸に出てきます。この源内の一連の行動を講談のようにユーモラスに描いているのが本書となります。
源内焼

 若い頃の源内は自信過剰の気があってちょっと鼻持ちならない感じもしますが、結果的には全然自信過剰ではなく、むしろ自分の才能を正当に評価していたと言うことになるでしょうか。当時の位置中の学者や芸術家と交わり、湯島の聖堂に寄宿したり、賀茂真淵に師事したり、杉田玄白から慕われたり。あまりにも様々な才能に恵まれた反面、一徹に取り組む領域がなく、器用貧乏な感もあります。

 源内の業績を上げてみますと

西洋婦人図

・ 日本人で初めて量程器(万歩計のようなもの)や寒暖計を制作する
・ 後の万博に近い物産博覧会を開催する
・ 日本人で初めて油絵を描き、遠近法など西洋絵画の技法を伝授する
・ 石綿を発見し、火浣布を開発する
・ 「土用丑の日」のキャッチコピーを考案するなど、日本におけるコピーライターのはしりとも評される
・ 人形浄瑠璃の台本を多数執筆(江戸浄瑠璃の創始者)
・ 源内焼(焼き物)の作成
・ 静電気発生装置エレキテルの紹介

エレキテル

などなど、極めて多彩です。これだけ色々やれば大金持ちではないかと思うのですが、実際には裕福ではなかったようです。それは、源内が最も力を入れたのが「山師」だったからです。現在では山師といえば詐欺師とか投機的な事業で金儲けを企てる者を指しますが、本来の意味は鉱山技師です。つまり金山や銀山を発見・採掘する職業です。

 これがどうして現在では詐欺師を指すようになってしまったかといえば、鉱山は当たれば大きい儲けを産みますが、初期投資がかなり必要であることと、結果は掘ってみないとわからないということにあります。つまりどうしても金を集めるために甘言を弄することに成り、夢物語を散々吹聴した上に失敗すれば全く利潤が出ないということから、詐欺師的手口と似ているというように判断されたのでしょう。

タルモメイト(複製)

 源内は長崎で鉱山技術を学び、秋田佐竹藩では鉱山開発の指導を行って感謝されていますが、自身の事業として行った秩父での金山や鉄山開発は失敗し、借金を抱えたりしています。これは製鉄のために確保していた木炭を江戸で売ることでなんとかチャラにしていますが、上記の様々な業績で得た金を生活や鉱山開発資金に充てていたのでしょう。

 清水義範の筆による源内はとても明るく軽く、「学問芸人」としての一生を楽しく描いています。実は源内は人を殺傷して投獄され、破傷風で獄死するという暗い最後を遂げるのですが、清水義範の手にかかると、一生を学問芸人としておもしろおかしく過ごせたことに満足して笑って死んでいっています。そして案外これが真実に迫っているのではないかと思わせてくれます。

平賀源内の著作

 ただ終盤、人を殺す段付近で、「もともと癇癪持ちの傾向があった」と記述しているのですが、そんな気配はこれまで全然なかったし、あなたも描いてないじゃないのとツッ込みたくなります。そういえば、実は獄死ではなく、田沼意次の知遇を得ていたことから、田沼の保護下に天寿を全うしたという説もあるそうで、その最期ははっきりとはしていないそうです。

 杉田玄白は回想録である「蘭学事始」において、源内との対話に一章を割いているほか、源内の墓碑を「嗟非常人、好非常事、行是非常、何死非常」(ああ非常の人、非常のことを好み、行いこれ非常、何ぞ非常に死するや)と記しています。意味は、「あなたは常識を超えた人で、常識を超えたものを好み、常識を超えたことした。だからといって常識を越えた死に方までしなくても良かったのに」とでもいうところでしょうか。玄白が源内の才能に驚嘆し、その死を惜しんだことが伺われます。

 「非常の人」平賀源内、江戸時代のレオナルド・ダ・ビンチと呼んでもいいのではないでしょうか。
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