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星を追う子ども:新海誠の黒歴史と言われますが…

立春

 昨日は節分で本日は立春。暦の上では今日から春ということですが、昨日と何がが違うのかといえば何も変わった気がしませんね。“冬が極まり春の気配が立ち始める日”ということなので真冬の続きと言っても過言ではないでしょう。夏も立秋過ぎてからが本番だったりしますし。でも日脚は延びてきて日暮れもだいぶ遅くなってきました。ぼんやりしている間にも季節は移ろっていくんですね。

星を追う子ども

 本日は正月休みに視聴した新海誠作品第三弾「星を追う子ども」の感想です。当ブログでは“あの!”と言いたくなる「秒速5センチメートル」に続く、4作目の新海誠の劇場用アニメです。公開は2010年5月。

星を追う子どもその2

 メジャー化する前の新海作品とはいえ、興業収入2000万円。これはヤバいですね。前作「秒速」の興業収入は1億円、後作「言の葉の庭」の興業収入は1億5000万円なので、本作の不人気ぶりが際立ちます。正直作品的には「秒速」→「言の葉」の流れであれば非常に判りやすく、新海誠作品を語るのもやりやすいのですが、間に本作が入っているのが何とも異物感を感じさせます。その理由は、①視聴者に子供を想定している(大人の鑑賞に堪えないという意味ではありません)、②良くも悪くもいたるところでジブリ作品を感じさせ(本人も認めています)、特にキャラデザインが違いすぎる(「秒速」と同じ西村貴世ですが、とてもそうは思えない)、③「秒速」と「言の葉」がほとんどファンタジー要素のない現実世界を描いているのに対し、本作はバリバリのファンタジー作品--といったところでしょうか。

明日菜

 小学校高学年の少女渡瀬明日菜の、地底世界アガルタの旅を描いた本作のキャッチコピーは「それは、“さよなら”を言うための旅」。アガルタというのは19~20世紀のオカルト的伝説においてアジアのどこかにあるとされた地下都市で、かつてあった地球空洞説と共に一時期は強く支持され、多くの探検家がアガルタ捜索を行ったとか。しかし科学の発展に伴い、地球空洞説とともに急速に支持を失いました。

惑星アガルタ

 アガルタと聞くと思い出すのは劇場用アニメ第1作「ほしのこえ」。主人公美加子が乗る宇宙戦艦リシテアがワープで辿り着いた「シリウス星系第4惑星」がアガルタの名前で呼ばれていました。生命に溢れた惑星だったので、本来であれば本格的に調査するべき対象ですが、タルシアンの攻撃で全滅の危機に陥り、それどころではありませんでした。

誰かに似てる?
明日菜のラジオ

 辺鄙な場所で母と二人暮らしの明日菜。制服のある小学校に通っていますが、別に私立という訳ではなさそう。学校では優等生で、看護師で多忙なママンに代わって家事を行っている良い子ですが、どうもここは自分がいるべき世界ではないといった疎外感を抱いており、友達といるより一人でいることを好み、近くの山に秘密基地を作り、父の形見の石を使った鉱石ラジオを聞いたり、猫のミミと遊んだりしています。

謎の化け物の出現
シュンと明日菜

 ある日明日菜は見たことのない怪物に襲われますが、これを救ったのはシュンと名乗る少年。彼は「アガルタ」から来たと言いますが、再開の約束もむなしくあっけなく亡くなってしまいます。そんな時担任の先生が産休となり、産休補助教員としてやってきたのが森崎。彼が語る「古事記」での黄泉の国に強い関心を持ちます。

シンと明日菜
アガルタの入り口

 明日菜はシュンと瓜二つの少年シンと出会います。シンはシュンが持っていたアガルタに入ることを可能とする石(クラヴィス)の回収に来たのですが、二人を突然襲撃する謎の兵士と森崎。森崎はアガルタの秘密を狙う組織「アルカンジェリ」の一員だったのです。逃げる過程でアガルタへの道を開いたシン。しかしそれこそが森崎の目的で、彼は組織を裏切ってアガルタに行きます。この世界に疎外感を持っていた明日菜も同行することに。なぜか同行する猫のミミ。

アガルタ生活
森崎

 そこから地下世界アガルタの旅が始まる訳ですが、確かにジブリ要素に溢れています。森崎は「転句の城ラピュタ」のムスカに似ています。自分の目的のために組織を利用し、裏切るあたりが特に。ただムスカほど邪悪ではなく、彼の目的は夭逝した愛妻リサを甦らせることです。仮初めにも教師だったこともあり、明日菜に虐待などはしませんが、起こす際に(軽くとはいえ)足で蹴っていたのはひどい。女の子なんだからせめて手で揺すって起こせ。

猫みたいだけど猫じゃない

 それまでの新海作品には必ず猫が登場しており、雄がチョビ、雌がミミでした。今回はミミ単独出演かと思いきや、実は猫のようで猫ではありませんでした。本来はアガルタの生物だったようですが、これが「風の谷のナウシカ」のテトを思わせます。

アガルタへの鍵

 明日菜が疎外感を持っていた理由、それは彼の死んだパパンがアガルタ人だったからのようで、明日菜の持っていた石こそ、実はアガルタへの道を開くクラヴィスの欠片でした。アガルタの人は地上では長く生きられないそうで、パパンはそれで死んだ模様。シュンも死にましたが、本来はあそこまで急死する訳ではなく、シュンの場合は病に冒され死期を悟ったので、最期に一目地上を見ようとやって来たのでした。

アガルタ
イスカンダル星

 アガルタは太古の神々と一部の人々が移り住んだ地下世界ですが、かつて地上人との交流で侵略を受けたため、入り口を封鎖して地上人との交流を拒絶したのでした。人を蘇らせるなどの太古の技術がありますが、アガルタの人々は滅びゆく定めに抗わないようで、ほぼ滅亡に向けてまっしぐらという雰囲気です。なんとなく「宇宙戦艦ヤマト」のイスカンダルっぽい感じも受けました。

戦うシン

 実はシュンとシンというアガルタ兄弟にもジブリモチーフが満載だそうです。私はあんまりジブリ作品を見ていないのですが(「もののけ姫」以降は全然見ていません)、それでも判るジブリの気配。ジブリファンなら余計感じることでしょう。

ミミとの別れ
神の船

 色々と冒険していく明日菜と森崎ですが、森崎にはどうしても亡き妻に再会したいという熱い想いがあるのに対し、明日菜にはそこまでの想いはなく、険しい崖を降りるという段になって明日菜はギブアップしてしまいます。森崎から離れて一人ぼっちになった明日菜ですが、シンと再会し、死んだミミの導きもあったのか、崖を降りずに森崎目的の地に辿り着くことに。そこはアガルタの空に浮かぶ、神々が乗るとされる船シャクナ・ヴィマーナの降りる場所でもありました。

森崎リサ
シャクナ・ヴィマーナ

 死者を甦らせる技術とは、シャクナ・ヴィマーナによるものですが、死者の魂の依代が必要ということで、苦悩しつつも明日菜を依代にしてしまう森崎。さらにそれだけでは足りないということで自らも目も失ってしまいます(このあたり一層「目が!目がぁ!!」のムスカを思い出させます)。

つかの間現れたリサ

 しかし生者を生贄にすることを許さなかったシンの妨害でリサの復活はならず、明日菜は事なきを得ました。森崎の目は戻らず、アガルタに残ることを選択。夢の中でシュンと別れを告げて目覚めた明日菜は二人に別れを告げ、地上へと帰ったのでした。

マナ

 アガルタ人と地上人の交流は禁忌ということですが、死期を悟ったシュンが脱走してきたのはともかくとして、明日菜のパパンが地上に来て結婚していたりと、結構禁忌を破っている例があるようです。さらにアガルタにはマナという女の子がいて、明日菜とは逆に父親が地上人だった模様。

夷族の群れ

 アガルタには夷族という怪物のような種族がいて、今ある世界を保とうとする仕組みの一つなのだそうで、交わりを嫌っているので地上人とアガルタ人のハーフである明日菜やマナを襲っていました。しかし純地上人の森崎は全く襲われなかったので、地上人がアガルタにいることは構わない様子。

殺しに来る夷族

 この夷族、終盤は今にも殺さんばかりの勢いで明日菜を襲っていましたが、最初に遭遇した時は、明日菜が眠っていたということもあってか、塔の上に連れ去るだけに留めていました。そこで明日菜はやはり攫われてきたマナと出会ったわけですが、何のために塔に連れてきたのかは謎です。何らかの儀式を行うつもりだったのか。

中学生になった明日菜

 生還した明日菜は以後疎外感を感じることもなくなって日常生活に戻ったようです。おそらくアガルタの旅が父のいない寂しさやシュンを失った喪失感を埋める作用をしたのでしょう。まさにキャッチコピーの「それは、“さよなら”を言うための旅」だった訳ですね。

妻の幻影

 森崎については、本来亡妻と再会するための旅だったのですが、残念な形での終了となってしまいました。明日菜を生贄にしてでもリサが復活すれば本望だったのか。しかし代償として目を失ったのでどのみち愛妻を見ることは叶わなかった訳ですが。ほんの一時でも声を聞けたのは幸いでしたが、それにしても代償が重すぎます。ムスカの場合は「ざまぁ!」と思いましたが、森崎にはもうちょっと優しくしてもという気になりました。 
 
二人の語らい

 個人的見解ですが、「秒速」の高評価でメジャー化を目指したものの、このままの作風では難しいと判断し、広く老若男女に愛されているジブリ作品を参考にしたところ、あまりにジブリ作品に寄りすぎてしまって独自の世界を見失ってしまった。そこで「言の葉」で自分の世界に戻って仕切り直した上で、本作の失敗を教訓に独自の世界を見失わない形で「君の名は。」を作り上げたという感じではないかと。

アガルタ暮らしその2

 そういう意味では、本作は失敗作ではあったかも知れませんが、「君の名は。」以降の成功のための布石になっていたのではないでしょうか。つまり、本作なくして今の新海誠はなかったのではないかと。失敗は成功の母とはよく言ったもので、もし本作がそこそこヒットしていたら、今頃細田守クラス(失礼)の存在に留まっていたかも知れません。

登壇時のメインキャストと監督

 明日菜のCVは金元寿子。このキャスティングだけで私の本作への評価は上がってしまうのですが、当時の金元寿子はバリバリの新人声優で、「侵略!イカ娘」のイカ娘役がヒットした直後でした。他にも入野自由、井上和彦、日高里菜、島本須美(ナウシカ!)などビッグネームの声優陣をキャスティングしており、良いか悪いかは別として、このあたりも「秒速」以前とは異風なんですよね。

アルカンジェリ

 例によって余談ですが、本作の謎(笑)。その①森崎が所属していた秘密組織アルカンジェリ。アガルタの技術で人間世界をより良い方向へ導くことを目標としてアガルタを捜索しており、森崎は自分の目的のためにこの組織を利用し、中佐の肩書きを持っていました。森崎に言わせれば「空虚なグノーシス主義者たち」だそうですが、戦闘ヘリまで繰り出していた組織力はあなどれないものが。森崎は裏切る際、部下の兵士達を置き去りにしたので、当然組織に戻って森崎の裏切りやアガルタがあったことを報告したと思われます。

明日菜危うし

 となると、森崎と一緒にアガルタに行った明日菜が生還したことも当然把握すると思われます。こういう状況で明日菜の生活は平穏に過ぎるでしょうか?拉致監禁されて尋問を受けるのは必至と思われますが…。明日菜は知る限りのことを話すでしょうが、アルカンジェリは納得するかなあ。自白剤とか薬物を使われて廃人になったりしなければいいですが。

怯える明日菜

 少なくとも明日菜がアガルタ人のハーフであることは判明してしまうでしょうし、夷族がハーフを察知していることからも何らかの判別手段がある模様。その辺りを究明しようとされると、明日菜は組織に囚われて人体実験を受け続けるといった悲惨な未来もありえるような。そんなことにはなって欲しくはないのですが…

マナその2

 その②マナの出自。マナは明日菜とは逆で母がアガルタ人で父が地上人とのことですが、それは地上人がどうにかしてアガルタにやって来たと言うことか。母を亡くしてからは祖父が面倒を見ていましたが、父はどうなったのでしょうか。マナや祖父が住んでいるアモロート村には、やたら地上人を敵視する兵士達がいましたが、マナのパパンがどうなったのかと絡んでいるのか?ちなみにアガルタは日本語が普通に通用しているのですが、アガルタ人は元日本人なんでしょうかね。

人間に近いケツァルトル

 その③ケツァルトル。アガルタの門番で、かつて人類を導いた神々で、自分たちが役目を終えたことを知って、小数の人間たちとともに地下世界へもぐったという伝承ですが、退化して怪物じみた姿になっています。地上で明日菜を襲った怪物もケツァルトルですが、どうやって地上にやって来たのでしょうか。シュンが地上に来た際に一緒にやって来たのか。森崎たちアルカンジェリもケツァルトルの存在は知っていたようなので、時々迷い出てきたりしているのか?

物理的接触を図るタルシアン

 なんとなくですが、「ほしのこえ」に登場したタルシアンと関係あったりしないでしょうか?タルシアンの一部が地上に降りて人類を文明化し、後のケツァルトルになったとか。タルシアンの本隊は火星に留まって人類が独力でやって来るのを待っていたが、先に人類側が攻撃を仕掛けたことで、人類のコミュニケーション手段が戦闘であると誤認したタルシアンは次々と攻撃を仕掛けてくることになったとか。ま、ただの妄想ですが。民俗学者の柳田國男は、妖怪は神の零落したものと考えましたが、ケツァルトルもタルシアンの零落した姿だったりして。

タルシアンと美加子

 「ほしのこえ」で美加子が遭遇したタルシアンは、“ねえ、やっとここまで来たね!大人になるには痛みも必要だけど、でもあなたたちならずっとずっと、もっと先まできっと行ける。他の銀河へも、ほかの宇宙だって”“ね? だからついてきてね。託したいのよ、あなたたちに”と語りかけてきました。あれが美加子が見た幻影でなかったとしたら、タルシアンは人類の進化を促す存在だとも考えられます。タルシアンの一部にそれを是としないグループがいて、人々の一群を率いて地下世界に去ったという妄想も出来ますね。
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