記憶に残る一言(その144):本田豊のセリフ(SHIROBAKO)

冬至も間近な今日この頃、昼間の時間が本当に短いですね。高松は筑波嶺よりはるかに西にあるので日没は比較的ゆっくりなのですが、その分朝が暗いですね。不定時法だった江戸時代なら一刻の長さが季節によって変わるので、冬は仕事時間が短くて有利なんですが…。でも夏は地獄を見そうなのでやはり導入は慎重に(笑)。

本日は「記憶に残る一言」です。先日「映像研には手を出すな」を記事にした時に思い出した「SHIROBAKO」から、本田豊のセリフを紹介したいと思います。

「SHIROBAKO」は2014年10月から2015年3月まで2クール24話が放映されたアニメで、アニメーション業界を描いていました。制作はP.A.WORKS、監督は水島努のオリジナル作品で、「花咲くいろは」に続く「働く女の子シリーズ」第2弾でした。このシリーズは「お仕事シリーズ」に改称されて今季の「白い砂のアクアトープ」まで4作が作られています。2クール構成なのが特徴で、毎回楽しく視聴しているのですが、「SHIROBAKO」が一番面白かったように思います。

メインキャラは山形の高校でアニメーション同好会を結成していた女の子5人組で、まさに「映像研には手を出すな」の3人組が卒業後もアニメに関わったとしたら…という“その後”が描かれた作品が「SHIROBAKO」になると思います。主人公宮森あおいは制作進行担当なので、ルックスはだいぶ違いますが「映像研」の金森さやかのポジションといえるでしょう。

制作していた作品にちなむなら、第1クールが「えくそだすっ!」編、第2クールが「第三飛行少女隊」編ということになるかと思います。「えくそだすっ!」は宮森あおいが武蔵野アニメーション入社後に初めて関わる作品であると共に、同社にとっても7年ぶりに元請制作することになった作品ですが、1話開始時点で既にスケジュールが逼迫した状況となっていました。

本田豊は「えくそだすっ!」担当の制作デスクで、あおいの上司にあたる存在です。恰幅がよく、人柄は穏やかで優秀ですが、かなり心配性なきらいがあります。

1話が放映され、3話のオールラッシュ(全カットを並べ、チェックすること)を行うという段になって、トラブル発覚。原画が絵コンテのままで効果音も付いていません。

3話の制作進行担当の高梨太郎が土下座。彼の進捗管理の不備が原因でした。こいつは「えくそだそっ!」編では根拠の無い自信家で責任感がなく、無自覚に周囲に迷惑をかけ続けるトラブルメイカーでしたが、水島監督がモチーフになっているとか。

今回のセリフはここで天を仰いだ本田の「万策尽きたー!」です。それでもこの時は周知を絞って危機を回避することに成功しました。

あおいは本田と共に太郎の尻拭いに奔走。あちこちに頭を下げ、文句や嫌味を言われまくるあおい。グチグチ言われるのが制作進行の仕事なのか。

その後も度々トラブルが発生し、スケジュールが遅れてピンチになる度に本田の「万策尽きたー!」が発せられました。このセリフはアニメ流行語大賞2014の第13位になっていました。

余談ですがこの年のアニメ流行語には、「ごちうさ」の「こころぴょんぴょん」(4位)、「魔法科高校の劣等生」の「さすがはお兄様です」(7位)、「ガールフレンド(仮)」の「(^q^)くおえうえーーーるえうおおwww」(9位)などがランクインしていました。1位は「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」の「レロレロレロレロ」。これは花京院がチェリーを食べる時に発した擬音のようなセリフですね。

なお2位と3位は「妖怪ウォッチ」からランクインしていましたが…ポストポケモンのように言われていた「妖怪ウォッチ」、今では跡形もなくなってしまったような。それも妖怪のせいなのね?そうなのね?

再三「万策尽きたー!」になりつつも、なんとか「えくそだすっ!」は完成します。その後、なんと本田は武蔵野アニメーションを退社し、近くのケーキ屋「Ourrin(ウルリン)」で働くことに。これは制作進行に疲れたということもないではないでしょうが、元々将来の夢がケーキ屋になることだったためだそうです。あおいがいっぱしになって自分がいなくてももう大丈夫だと思ったこともあるのかも知れません。

なお第2クールの「第三飛行少女隊」編に入ったらトラブルはないかといえば、全然そんなことはなく、「えくそだすっ!」編以上のトラブルに見舞われることになります。

なんと入社一年目にも関わらず、あおいが本田に代わって制作デスクに抜擢されることに。そして本田に代わって「万策ポーズ」を取る役目も担うことになります。「第三飛行少女隊」は人気コミックが原作ということで、原作者サイドからの口出しも多く、「えくそだすっ!」以上に大変そうでした。

一方、ケーキ職人になった本田はまさかの激やせ姿に。ケーキ作ってたらむしろ太りそうな気がしますが。どうやら本田はストレス太りだった模様。制作進行は恐ろしい仕事のようですね。

さすが「SHIROBAKO」のパロディ回だった「ハッカドールTHEあにめ~しょん」7話「KUROBAKO」で「アニメ制作現場全体を回すクソな仕事だ」と言い切っていただけのことはあります。

公式がLINEスタンプでこれを作っているくらい、本田の口癖となっていましたが、「SHIROBAKO」放映後はアニメの制作スケジュールが間に合わず落としてしまったと思われるような状況があった時、それを揶揄して「万策尽きた」と表現されるようになりました。

ではどういう時が「万策尽きた」なのかと言えば、予定外の総集編や出演声優の顔出し番組が放送されるなどしたときにしばしば囁かれるようです。昨年は、新型コロナウイルスの世界的流行により、アニメ業界全体が「万策尽きた」状態となり、新作アニメの大半で制作・放送・配信の延期や休止を余儀なくされる事態になってしまっていました。

アニメの制作進行で「万策尽きた」状態はいかなるものか…その興味深い実例として2018年秋季アニメの「俺が好きなのは妹だけど妹じゃない」(通称「いもいも」)が挙げられると思います。



綺麗なPVにより視聴者の期待を集めていたにも関わらず、放映開始直後から作画崩壊が目立ちました。画の使い回し、キャラの顔面崩壊、妙な間取りや体格、シーン切り替えでいきなりスマホがガラケーに変わるといった怪現象の嵐が視聴者から相次いで指摘される事態に。途中からは完全に作画崩壊を楽しむ作品とみなされ、思い出したかのようにまともな作画があった際はそちらがネタにされたりして。

そして6話EDで実に興味深いクレジットがなされました。おわかりいただけただろうか…

該当部分をアップにしたものです。原画に「正直困太」とのクレジットが。これが出てきたのはこの一話のみであり、原画スタッフであること以外一切の素性こそ不明でしたが、鬼スケジュールに悲鳴を上げているスタッフの心の叫びではないかと大きな話題を呼びました。そして直後の7話は遂に放送延期。さらに作品が短縮され10話で終了し、れブルーレイおよびDVDの発売延期に。まああのまま発売しても売れないでしょうね。「万策尽太」もクレジットして欲しかった。

アニメ制作会社には、幾度も万策尽きて各方面に迷惑をかける札付きの会社もあるようです。ここであげつらうのはやめておきますが、水島監督の代表作と言って良い「ガールズ&パンツァー」(略称「ガルパン」)も2回放送延期となっていましたね。それどころか映画版の公開まで延期になっていたりして。後から完成した作品を見るとクオリティは非常に高いので、作画崩壊よりは放送延期の方がましな気もしますが、リアルタイムで視聴している人からすればやはり迷惑千万でしょうね。
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