使命と魂のリミット:停電した手術室をめぐる医療サスペンス

昨日の夜から降り始めた雨でしっとりした一日でした。ちょっと生温いような感じもしましたが。
さて本日は昨日ラスト数十ページを一気読みした東野圭吾の「使命と魂のリミット」です。東野圭吾というとミステリー作家というイメージが強いですが、本作はもう一つの顔であるサスペンス小説で、刑事も出てきますが医療サスペンスということになるかと思います。
例によってAmazonの内容紹介です。
心臓外科医を目指す夕紀は、誰にも言えないある目的を胸に秘めていた。その目的を果たすべき日に、手術室を前代未聞の危機が襲う。あの日、手術室で何があったのか? 今日、何が起きるのか? 心の限界に挑む医学サスペンス。
…やけに短いですね。これじゃ物足りないので、文庫版の裏表紙の内容紹介を。
「医療ミスを公表しなければ病院を爆破する」突然の脅迫状に揺れる帝都大学病院。「隠された医療ミスなどない」と断言心臓血管外科の権威・西園教授。しかし、研修医・氷室夕紀は、その言葉を鵜呑みにできなかった。西園が執刀した手術で帰らぬ人となった彼女の父は、意図的に死に至らしめられたのではないかという疑念を抱いていたからだ……。あの日、手術室で何があったのか? 今日、何が起きるのか?大病院を前代未聞の危機が襲う。
うん、これくらいは必要でしょう。本作は2006年に刊行され、ちょうど一年前の2011年11月にNHKの「土曜ドラマスペシャル」で2回にわたって放送されました。これも例によってみていません(笑)。
主人公の氷室夕紀の父・健介は、夕紀が中学生時代に比較的安全と思われた動脈瘤手術で帰らぬ人となりました。その前後に母・百合恵が西園教授と不自然に密会していることに気付いた夕紀は、不穏な想像をします。西園教授と母が不倫関係となり、故意に父を死に至らしめたのではないか?夕紀が医者を、特に心臓血管外科医を目指した背景にはこの疑惑がありました。

母百合恵が西園教授と再婚するという告知に動揺する夕紀は、表面上は平静を保っていますが、父を殺したかも知れない西園教授に真の敬意を払えません。ましてや父と呼ぶなど。さらにその後、父は元警察官で、現役時代に非行少年のバイクを追跡したところ、その少年が運転を誤って交通事故で死んでしまったこと、そしてその少年の父が西園教授だったという事実にたどり着きます。手術の「失敗」は母のNTRだけではなく、息子の復讐だったのか?
こうした夕紀の想いとは別に、入院中の自動車会社の社長(やはり動脈瘤手術のため)に対する個人的怨恨から復讐を実行しようという男が存在します。ミステリーではないので犯人は前半から判明していますが、彼は病院を脅迫し、なるべく入院患者を退転院させた上で、社長の手術中に電源を落として殺害しようとするのですが……
ということで、後半は犯人を追う七尾刑事(昔夕紀の父に世話になっている)と追跡劇と、トラブルの連続の中で手術を続行する夕紀と西園教授ら手術室メンバーの手に汗握るサスペンスということになります。懐中電灯で患部を照らしたり、氷で血液を冷やしたり、はたまた使い捨てカイロで血液を温めたりと、停電の中で知恵を尽くす医療陣。そうした中で、夕紀は自分の使命のために全力を尽くす西園教授を見て、疑惑を払拭するのです。“この医師は不器用な医師だ。持っている力をすべて発揮しないのであれば、そして患者を救う気がないのであれば、最初からメスを持たないだろう。”という確信は、その執刀ぶりを目の当たりにして始めて生まれたのでした。

本作には本当の悪人というのは登場しません。犯人からして、復讐のために心を鬼にしようとしますが、病院に潜入するために近づいた看護婦にも、巻き添えになる他の患者達にも罪悪感を感じ続けています。この人も自動車の欠陥によって結果的に恋人を失っているので、あんまり憎む気になれません。
本作の見所は、使命のために全力を尽くす医師・看護師・医療スタッフと刑事達の姿ということになるでしょうか。ただ、あんまりにも後味爽やかなので、東野圭吾の「秘密」とか「さまよう刃」とか「白夜行」といった、主人公が救われないストーリーを読んで来たこちらとしては、少々「?」という感じもあります。もっとダークな展開でも良かったんじゃないでしょうかね。夕紀の母を父の生前から寝取っている西園教授とか、ようやく心が通じ合ったのにラストに狭心症で死んじゃう西園教授とか。
なお、NHKドラマ版では、化粧っ気のないすっぴんでもすごい美人という設定の夕紀は石原さとみが演じています。なるほど、この人ならすっぴんでも綺麗ですね。

西園教授は舘ひろし。なんだこのダンディな医者は。舘ひろしが演じている時点でもう悪役の可能性はないではないですか。

犯人に利用される看護師・真瀬望は倉科カナ。ちょっとイメージより綺麗すぎますね。愛想の良い笑顔の看護師ということになってますが、こんなに可愛かったら犯人が接近する前にもう引く手数多だ(笑)。

七尾刑事は吹越満。特に感想はないけど、七尾刑事は事件解決の立役者なのに今後も多分冷遇され続けそうで可哀想です。私生活も荒れているし、一番救いのない人だったり。

犯人直井穰治は速水もこみち。電子機器の操作に長けた人なので、もこみちではちょっとイメージが狂いますね。もっと賢そうな人のほうが良かったんじゃ。

夕紀の母百合恵は高島礼子。お母さん綺麗すぎです。そりゃ舘ひろしがちょっかい出すわけですよ。

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