記憶に残る一言(その105):露店の店主のセリフ(ブレードランナー)

本日は夏至。イギリスのストーンヘンジではヒール・ストーンと呼ばれる高さ6mの玄武岩と、中心にある祭壇石を結ぶ直線上に太陽が昇ることから、毎年恒例の夏至の祭りが行われるそうです。今年は約2万3000人もの人が集まったそうです。日本でも夏至祭があるのなら、恋占いをするBBAの水晶玉を砕きに行きたいところですな。「みつめてナイト」をプレイしたことのない人にはさっぱり判らないネタですけど。

本日は記憶に残る一言。前回に続いて古い洋画からです。1982年公開のSF映画「ブレードランナー」から露店の店主のセリフを紹介したいと思います。

「ブレードランナー」はフィリップ・K・ディックの名作SF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作としていますが、設定や登場人物、物語の展開、結末などが翻案により大きく異なっており、原作というよりは原案に近い扱いになっています。

酸の雨が降る、暗く退廃的なロサンゼルスが舞台となっていますが、何と時代設定は2019年なんですね。こんな世界になってなくて良かったと思いますが、反面作中に登場する人造人間(レプリカント)も空飛ぶ車「スピナー」もブラスターもまだこの世にはありません。80年代初頭の人々が思い描いていたほど文明は進んでいないということなんでしょうかね。

過酷な作業に従事させられるレプリカントは、高性能すぎるが故に感情が芽生え、しばしば脱走して人間社会に紛れ込もうとしますが、それを見つけ出して処分するのが警察の専任捜査官「ブレードランナー」です。ハリソン・フォード演じるデッカードはブレードランナーを退職していましたが、捜査のため強制的に復職させられます。

大ヒットしていたスピルバーグの「E.T.」とかちあってしまったことや、当時は明朗なSF映画が主流で、暗く退廃的な未来を描いた本作は受けが良くなかったことなどから、興行的には振るわず、新聞や雑誌の評価も二分されていました。日本でも「帝国の逆襲」や「レイダース」のようなアクションを期待していた多くの観客にとっては期待外れで、ロードショーは軒並み不入りで、早々に上映が打ち切られてしまったそうです。キャッチコピーが「レプリカント軍団、人類に宣戦布告!」じゃあまずいですよ。

しかし、名画座での上映では映画マニアから好評を博し(私も名画座で見ました)、リバイバル上映が行われるようになってからはカルト映画的な人気を得、ビデオ化で内容をより精査して繰り返し観ることが出来るようになると評価は更に高まったそうです。

大学生時代に劇場で鑑賞した小島秀夫は、後に本作に大きな影響を受けて「スナッチャー」や「ポリスノーツ」を制作したそうです。「スナッチャー」はプレイしましたが、確かに人間になりすます謎のアンドロイド・スナッチャーとそれを判別・処分する捜査官ジャンカーの関係は本作に似ていますね。また、「装甲騎兵ボトムス」序盤の舞台である酸の雨が降る退廃の街・ウドは、本作のロサンゼルスに大きな影響を受けているんじゃないかと思います。

正直スマンかったな話なんですが、私は当時はあんまり面白くないなあと思っていました。やはり図らずもアクションSFを期待してんでしょうか。前回の「コマンドー」とか、「レイダース」「インディジョーンズ」みたいな作品方が好きでしたね。まあ内容とか評価の方が見て頂いた上でそれぞれにしていただくとして、本題のセリフは映画の冒頭に登場します。

日本語で書かれた看板やネオンサインが並び、多国籍の人々が行き交うロサンゼルス。デッカードは露店の席について店主と次のような会話をします。

「なんにしましょう」
"Give me four"(「四つくれ」)
「二つで十分ですよ」
"No four. Two,two,four."(「いや四つだ。二と二で四つだ」)
「二つで十分ですよ!」
"And noodle"(「うどんもくれ」)
「分かって下さいよ」

ここでデッカードは英語で、店主は日本語で話しており、お互いそれで意思疎通ができているところが面白いんですが(現実の世界もこうだったらどんだけ…)、洋画に突如日本語が出てくるのはインパクトがありました。外国では店主のセリフに字幕が出るんでしょうか。

さてここで問題になるのは、何を四つだ二つだと言い合っているのかということです。うどんに稲荷寿司を付けたとかいう話なら、二つで大体間に合うけど大食らいなら四つくらい軽いでしょうとか思いますが、デッカードは四つというリクエストを諦めて代わりにうどんを要求しているんですよね。なので麺類のオプションという訳ではないようです。

デッカードは丼を見てしゃべっているので、丼に乗せる何かの数を言い合っているのだと思われますが、映画には肝心な丼の中身が映っていなかったのでした。カツ丼、親子丼、牛丼などでは数を指定するということがそもそもないので、例えば天丼のエビ天の数とかなのかなあと思ったり。確かにエビ天丼ならエビは二つで大体十分だろうとは思いますが、金さえ払ってくれるなら四本でも五本でも乗せてくれるんじゃないかという気がします。

2007年に発売された製作25周年記念アルティメット・コレクターズ・エディションのDVDに、この場面のワークプリント版が収録されており、それでこの丼の正体がようやく明らかになりました。丼の中のご飯の上に奇妙な魚のようなものが。デッカードはこの深海魚のようなトッピングを四つにしろと言い張った挙げ句、諦めてうどんを追加注文した様なのです。

パクチーだかの香草と奇怪な魚、そしてタレなどが染みている様子もない白米。はっきり言って不味そうです。これを食べるのはキッツいですね。もしや店主が二つで十分だと言い張ったのは、不味くてそんなに食べられないからなのか(笑)。YouTubeに動画がありました。店主とのやりとりがないのが実に残念ですが。
まあデッカードがあんなに欲しがったくらいなので、見てくれはともかく実は味はいいという可能性も微レ存じゃないかといも思えますが、一説によると3大「SF映画に登場するマズそうな料理」の一角なのだとか。じゃあ残り二つは何かと言うと…

一つは「マトリックス」のネブカネザル号で出されるお粥ないしオートミール。脱脂粉乳のような色の水に、黄色い何かがまばらに浮いています。欧米のファンは「snot」(鼻汁)と形容しているとか。

もう一つは「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」でスカベンジャー(廃棄物回収業)のきつい仕事の対価として配給されるレーション。帝国軍の戦地非常食で、粉末のポーションに水を加えると化学反応で加熱され膨張が始まり、パンのようなものになります。色の悪いメロンパンというか、カルメ焼きというか。

どれか食べないと殺すと言われたら…う~ん、フォースの覚醒のポーションパンですかね。深海魚丼は嫌だけど、うどんの方だけで良ければそっちにしますけど。しかしあのロサンゼルスなので、出汁は深海魚から取ってるかも知れませんな。あのうどんに稲荷寿司か小さいおにぎりなら、確かに二つで十分だけどなんとなれば四つでもいけそうです。

なお主演のハリソン・フォードは「ブレードランナー」に長年否定的だったそうですが、それは興行的に失敗したことの他に、撮影が一旦終了したにも拘らず、何度も追加撮影のために呼ばれたのに我慢ができなくなったことによるそうです。まさかあの深海魚丼のせいではないでしょうね(笑)。しかしある時期からは態度を軟化させ、続編となる「ブレードランナー 2049」への出演も快諾したそうです。

しかしハリソン・フォードももう76歳。「『ブレードランナー』シリーズ、実はあと2本作りたいんですよ。Two,two,four.」なんて言われたら「二つで十分ですよ!」と答えたりして。
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