RE:ゼロから始まる異世界生活:主人公がどん底まで落ちて這い上がる異色の「なろう系」

今週もわりと冷え込みましたね。花冷えという言葉がありますが、雪が降ったところもあったとか。会社はもはや暖房を入れてくれないので、カーディガンを着て自己防衛したりして。しかしそのおかげかまだ桜が楽しめたりして。

さすがに葉が出てきていますが、この間激しい風雨もなかったせいか、例年になく桜を見ているような気がします。やはり桜は4月の花であって欲しいものです。北海道だと5月の花かも知れませんが。

本日はjunkyさんが最高級の評価をしているという“リゼロ”こと「Re:ゼロから始める異世界生活」の視聴が終わったのでこの感想をば綴っていきたいと思います。

リゼロは、長月達平が小説投稿サイト「小説家になろう」に鼠色猫名義で2012年4月から連載したものが原作で、書籍版はKADOKAWAのMF文庫Jより2014年1月から刊行されています。既刊26巻(本編19巻、短編集4巻、外伝3巻)の大作となっていますが、WEB版は現在でも閲覧可能だそうです。「このライトノベルがすごい!」2017年版で文庫部門第2位になっているほか、「SUGOI JAPAN Award 2017」ではアニメ部門・ラノベ部門の2部門で1位を獲得しています。この賞を複数部門で同時に制したのは史上初だそうです。

「小説家になろう」連載作品は近年続々とアニメ化されていますが、通称「なろう系」と呼ばれ、似通った設定・展開(いわゆるテンプレ)が多いといわれます。ニコニコ大百科では「なろう系」のテンプレ例として
① 主人公が何らかの理由で異世界へ転生・転移する
② 序盤で主人公がチートと呼ばれるほどの力を得る。努力を必要としないことが多い
③ ありふれた知識、能力でも異世界では英雄に等しい活躍ができる
④ ゆく先々でヒロインを助けてモテてハーレム作り
⑤ とにかく作品名が長く、作品名だけで内容がわかってしまうことが多い
⑥ ゲームの中でもないのにステータスやレベル、スキルなどがある世界観
を挙げています。うーん、最近多いですね、この手の作品。

で、リゼロも出自が「小説家になろう」なので「なろう系」でくくればくくれますし、上記テンプレのうち①と⑤は確かに該当していると言えるのですが、視聴した印象はかなり違っていました。

アニメは2016年4月から9月まで2クールで放映されました。私が視聴したのはそれからほぼ3年後ということになりますが、オバロもそうですが人気・評判の作品をおめおめと見逃しまくるスキル「海のリハクの目」の持ち主なので堪忍してつかぁさい。というか、面白い作品をぜひ紹介していただきたい(誰に言い訳しているんだ)。

高校生のくせに学校へは登校せずに好きなだけ寝て遊ぶ怠惰な生活を送っていた(それって要するにニート…)ナツキ・スバル(菜月昴)は、深夜にコンビニで夜食を買った帰り道に、突如異世界に召喚されてしまいます。突然の出来事に当惑する中、追い剥ぎの悪漢三人組に襲われますが、それを助けてくれたのは銀髪美少女エミリアと猫型精霊パックでした。何の見返りもなく助けてくれたエミリアの恩に報いるため、盗まれたというエミリアの捜し物に協力しますが、ようやく手がかりを掴みかけた時、何者かの襲撃であっさりと殺害されてしまいます。しかし、気が付くとスバルは召喚時点に戻っていたのでした。

スバルは公式のキャラ紹介で「無知無能。無力無謀。四拍子欠けた」とされているように、まあどこに出しても恥ずかしい主人公です。「このすば」の主人公カズマもヒキニート(アクア談)でスケベで腹黒く、平然と卑劣な手段を取るキャラですが、視聴者から見るとアクアをはじめとするカズマ周辺のキャラ(みんな女の子だから一見ハーレムですが)の性格がカズマ以上にぶっ飛んでいることと、なんだかんだ言ってもカズマは仲間を最後まで見捨てることはせず、困っている人・物事は放っておけない性格ということもあって、見ているとカズマへの好感度は結構高くなるのですが、スバルには正直なかなか好感が持てませんでした。というか、正直に言うと最後まで見ても好きなキャラになったとは言いがたいです。

「なろう系」にはチート能力がつきものですが、スバルに(勝手に)与えられた唯一のチート能力は「死に戻り」だけです。これは彼が死んだ場合、リセットされて特定の時間・場所に戻るというもので、RPGとかAVGなどのセーブポイントに似ています。他のアニメ作品でも類似の能力は見かけたことがありますね。私が見た作品の中では例えば「僕だけがいない街」とか「ひぐらしのなく頃に」とか「STEINS;GATE」とか。「亜人」も死んでも甦りますが、本人が生き返るだけで時間までは戻りませんでした。

スバルの場合、異世界への召喚や「死に戻り」の能力付与を誰が何のために行ったのかは謎のままですが、「死に戻り」の能力に関することを他人に話そうとすると、謎の黒い手によって心臓を握り潰されそうな激痛に襲われるため口に出すことが出来ません。「死に戻り」をするたびに、「魔女の残り香」と言われる特有の匂い(瘴気のようなもの)が濃くなると指摘されており、またそれによって魔獣を引き寄せる性質もあります。ということは魔女がスバルを呼び寄せたということか。

なお、「死に戻り」の基準点(いわゆるセーブポイント)は固定ではなく、死の運命を回避した場合にはもっと後の時点に更新されていきます。そのあたりもゲームっぽい感じがしますが、セーブポイントの更新がまた楽じゃないのです。なにしろスバルには他にチート能力が一切ないもので。

最初の難関はエミリアの捜し物クリア。捜し物自体はみつかるのですが、正体不明の敵の襲撃が極めて厄介です。敵は強力な暗殺者である“腸狩り”のエルザ・グランヒルテ(CV能登麻美子)と判明しますが、彼女はとにかく強いのでスバルは生き残るのに何度も「死に戻り」をしました。

話はそれますが能登さんの悪役というのは新鮮ですね。お姉ちゃんこと井上喜久子も悪役をやることがありますが、その場合はいかにも悪役然とした声色を使って演技するのに対し、能登さんはいつもとあまり変わらない声色のままで悪役を演じるので、一層怖い感じがします。だがそれがいい。

剣聖ラインハルトらの助けを得てなんとかそれをくぐり抜けると(エルザは“依頼主”の存在を示唆していましたが、アニメ終了まで不明のままでした)、スバルはエミリアの庇護者であるメイザース辺境伯ロズワールの元に身を寄せることになりますが、今度はここで死ぬ運命に遭遇することになります。「死に戻り」で原因を探索しようとするスバルですが、毎回死因が異なることで謎が謎を呼ぶ展開に。死の呪いをかけてくる存在と、それとは別にスバルが放つ「魔女の残り香」が鬼族のメイド姉妹レムとラムに疑われていること(彼女らの一族は魔女を崇拝する魔女教に皆殺しにされたという過去があります)が複合していたことが判明し、いかにこの苦境を脱するかが前半の見所となります。

正直ここまでで物語の時間は一週間程度しか経過していないのですが、何度も「死に戻り」しているスバルとそれを見ている視聴者的には3ヶ月くらい経過したような印象(ほぼ1クールかけているし)です。正直ここで終了したとしても、アニメとしてはすっきり終わった感はあっただろうと思うくらいです。が、ここからスバルの醜さが全開になっていく異色の展開を見せることに。

実はエミリアは次期国王の候補者の一人で、王選開始の式典に参加することになりますが、これまでの経緯でエミリアは俺が守る、俺がいないと駄目なんだと増長してしまったスバルは、エミリアとの約束を破って式典に乱入した挙げ句に物言いの悪さで他の騎士を侮辱してしまい、ラインハルトと並ぶ位に強い騎士ユリウスと私闘を行うはめになって、当然フルボッコで惨敗。エミリアにとって約束というのは極めて重要なものだったらしいのに、他人への配慮が全くない状態のスバルは度重なるすれ違いや思いの齟齬でエミリアとも決裂状態に。


余談ですが王選候補者最後の一人は、冒頭でエミリアから掏摸をしていたフェルトでした。うーむ、馬子にも衣装というやつですな。


個人的には王にはアナスタシアを推します。経済回りそうだし(日本の首相もやって欲しい)、「最優の騎士」ユリウスに加えて「鉄の牙」という名の強力な私兵団も持っているので。一番王様然としていて権力者達からは最も支持されてそうなクルシュも悪くないのですが、自分が戦士として強いってのは王として必須なのかどうか。“剣豪将軍”足利義輝の例もありますし…



その数日後、魔女教の脅威がロズワール領に迫っていることに気づいたスバルは、エミリアたちを救うべく動きますが、大罪司教ペテルギウス率いる魔女教と折悪く現れる魔獣・白鯨に阻まれて失敗します。自分だけではどうにも打開できないことに気づいたスバルは他の王選候補者たちに協力を仰ぎますが、スバルの言動から本音を見透かされてしまい、全て断られてしまいます。確かに私もこの時点のスバルには援助したくない、というか関わりたくもないですね。


この辺り(13話~17話)のスバルの醜さ、みっともなさと、それをこれでもかと表現する展開は、チート能力ゆえにのほほんとしていることが多い「なろう系」主人公としては極めて異例ではないかと思います。何しろスバルは発狂までしますから。本物の狂人であるベテルギウスには「狂ったふり」と言われていましたので、狂気の度合いが浅かったのかも知れませんが。しかし、落ちるところまで落ちて自分で自分自身の無力さと醜さをはっきりと自覚したことで、ようやく這い上がっていくことができるようになると。

こういう主人公が成長していくっていう展開は、他の多くの「なろう系」に欠けている部分なんだと思います。チート能力があったら成長する必然性がないし、そもそも成長が描けない作者が多いのかも知れません。あ、もしや読者(視聴者)が主人公の成長を望んでいないとか?スバルの場合は、気づきによる性格改善の他、他者との関係構築とか交渉力とか成長する部分が非常に多いのですが、反面これはそれまでの彼が本当にどうしようもないやつだったということの表れでもありますな。まあ過去はいいんだ、大事なのはこれからだ。でも言動の気持ち悪さの方ももう少しなんとかして欲しかったんですが、こっちは全然変わらないのね(笑)。

CVの小林裕介は「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」の奥間狸吉、「風夏」の榛名優、「妹さえいればいい」の羽島伊月とかを演じている声優です。今季は「なろう系」の王道作品ともいえる「賢者の孫」のシン=ウォルフォードを演じており、なにげに主人公ボイスなんですね。2017年、第11回声優アワードで新人男優賞を受賞していますが、やはりスバルの演技への評価が高かったのではないでしょうか。

スバルの変身の最も助けになったのは、メイドのレム(CV水瀬いのり)の献身だったと思います。スバルを疑っていた頃は直接手を下して殺しさえしていた彼女が、一度信頼して以降は惜しみなく献身的な愛情を一途にスバルに注ぎます。他人への警戒心と攻撃性が強いけど、主人と認めた人間には忠実な日本犬のようです。これだけ愛されたならもうレムでいいじゃないかと思うのですが…

いや、万策尽きたスバルも一度はレムだけでも救おうと、彼女とともに国外へ逃げ出すことを提案するのですが、レムはスバルを英雄視しており、運命に立ち向かうことを促してきました。スバルに絶大の信頼を寄せるレムの存在自体が、スバルの心の支えとなり、這い上がっていく原動力になったように思えますが、レムの気持ちには応えようとしないという鬼がかった鬼畜のスバル(笑)。今人気絶頂の水瀬いのりを振るとはすげえ。これだけ慕ってくれるなら、私ならエミリアからレムに即転向しちゃいますけどねぇ。

その後、「死に戻り」により得た知識の断片をつなぎ合わせてタフな交渉を行って二人の王選候補者陣営の協力を取り付けたスバルは、まず死闘の末に魔獣・白鯨を討ち取り、次いでロズワール領襲撃を目論む魔女教の討伐を行い、幾度も殺されながらも、大罪司教ペテルギウスの正体を見破り、ついに討伐に成功します。エミリアに好意を告白してアニメは終了し、実にめでたしめでたしな結末を迎えますが、物語的には王選も始まっていないし、スバルが召喚された理由なども全く判明してないので、おそらく今後二期が制作されることになるのでしょう。

エミリアは銀髪のハーフエルフで、かつて世界を滅ぼしかねなかった嫉妬の魔女サテラと容姿が似ているということから、世間からは不当な差別を受けていますが、おそらく他人の空似ではなく、何らからの(かなり深い)関わりがあるのでしょう。CVは高橋李依。本作ではやたらきれいな声を出しています。「それが声優!」の頃からこの人は売れるだろうと思っていましたが、私の予想を超えて売れまくっていますね。演技力、声質など申し分ないのですが、おそらく私の「好きな声優」には選ぶことはないでしょう。その理由は……ま、まあ、こんな場末ブログが他人の運命に影響を与えるなど微かにでもないでしょうが、悪口みたいになるのは本意ではないのでやめておきましょう。りえりーには気にせず声優活動に邁進して貰えれば。

個人的に好きなキャラはベアトリス(CV新井里美)。ロズワール家の禁書庫司書で、エミリアの精霊であるパックと親しいので彼女自身も精霊なのでしょう。新井さんの声と演技、そして高圧的な態度をとっているわりに結構お人好しな面が見られるところがいいですね。

それにメイザース領内にあるアーラム村の村娘ペトラ(CV高野麻里佳)。スバルに命を助けられたことでとても懐いている、覚えが早く物分かりのいい賢い子です。差別されがちなエミリアに対しても分け隔てなく接していた実にいい子でもあります。一期最終回に至ってもスバルに対する自分の気持ちがなんだかわからないと言っているエミリアはさておき、スバルに対して異性として好意を持っているのはレム以外ではペトラのみという衝撃の事実(笑)。数年待つ必要がありますが、ペトラでもいいZO(爆)。

男だけど無茶苦茶格好いい「剣鬼」ヴィルヘルム。剣聖ラインハルトの祖父で平時は物腰丁寧な老紳士ながら、戦闘では「剣鬼」の異名に恥じない凄まじい戦いぶりを見せます。今は亡き奥さん(前剣聖テレシア)に一途なところも好感度大。この人が妻の仇である白鯨討伐を実現させたということで、スバルに対して絶大な信頼と感謝を寄せてくれたことが、スバルの成長にも一役買いました。


好き嫌いは別としてベテルギウス(CV 松岡禎丞)の狂人演技は凄まじかったですね。彼の予備の肉体となった女狂人の日笠陽子、短髪女狂人の金元寿子も嬉々として狂人を演じていましたが、きっとやってて楽しかったでしょうね。個人的にははやみんの狂人も見てみたかった。蛇喰夢子っぽくなるのかな。

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