記憶に残る一言(その95):009のセリフ(サイボーグ009 ミュートスサイボーグ編)

気づけば5月も終わりに近い訳ですが、気象庁によると、向こう3ヶ月の近畿地方の平均気温は高い見込みだそうで、そうでなくても暑い大阪の夏がさらに暑くなりそうです。暑いとどこにも行きたくなくなるんですよね。まあ暑かろうが寒かろうが働かなきゃ生きていけない悲しいリーマン人生ですが。ああ、生まれ変わったら夏目漱石の小説によく出てくる高等遊民になりたいものです。でも羨ましい枯れられも彼らなりに苦悩しているので、お金持ちになろうが権力者になろうが、一切の悩みから解放されるということはないのか。

本日は久しぶりに「記憶に残る一言」です。脇役のセリフの登用を原則しているのですが、今回は自ら掟を破って主人公のセリフを紹介します。「サイボーグ009」から009のセリフです。「サイボーグ009」は「仮面ライダー」と並ぶ石ノ森章太郎の代表作で、それぞれ異なった特殊能力を持つ9人のサイボーグ戦士が力を合わせて戦う姿は、「スーパー戦隊シリーズ」に近いものがあります。そういえば「スーパー戦隊シリーズ」の嚆矢とされる「秘密戦隊ゴレンジャー」も石ノ森章太郎原作でした。

1964年の連載開始以降、複数の出版社、複数の雑誌で連載されてたため、様々な長・中・短編が存在する作品群ですが、作者死亡により未完に終わっています。連載初期の頃の「地下帝国ヨミ編」で完結していてもおかしくないのですが、シャーロック・ホームズが「最後の事件」以後も登場するのと同じことが起きたようです。その点についてはまた次回詳しく。

「ミュートスサイボーグ編」は、最初期の連載である「週刊少年キング」連載時代のものです。途中で編集長が交代し、設定が複雑で登場人物が多すぎて、雑誌連載で読むには分かりにくいということで打ち切りになってしまい、消化不良のまま終了しましたが、後に単行本化するとベストセラーとなり、その際に約20ページに及ぶ大幅な加筆が施されました。

009達ゼロゼロナンバーのサイボーグは、世界に死と戦争を撒き散らし、利益を得る「死の商人」であるブラックゴーストが製造した試作型のサイボーグです。009は002~008まで(001は脳改造なので関係なし)の改造手術の成果の集大成であり、汎用性に優れ、基礎能力は他のメンバーより高いサイボーグですが、といってもゼロゼロシリーズ自体が、ブラックゴーストのサイボーグのプロトタイプ的シリーズなので、後発のサイボーグはさらに強力な能力を持って登場し、009達の前に立ちはだかります。

そんな後発サイボーグの代表格がミュートス・サイボーグです。ミュートス・サイボーグはブラックゴーストのサイボーグ開発に携わっていたガイア博士とウラノス博士が作り上げたサイボーグたちで、「ミュートス」とはギリシャ語で「神話」の意味です。その名のとおり、主にギリシャ神話の神々を模したサイボーグ達が登場します。

ミュートス・サイボーグでも中心的存在なのがアポロン。燃えているような髪型が特徴的な少年のサイボーグで、移動の際にはペガサス2頭が曳く戦車で空中をかけます。非常に高いプライドを持っており、ゼロゼロナンバーを見下していますが、それも仕方ないかなと思われるほどの戦力差があります。

お互い光線銃を向け合ったアポロンと009ですが、アポロンは突如光線銃を捨てます。この距離で光線銃を撃ち合っては相打ち必至だというのです。自分たちは特殊能力を持ったサイボーグだからそれでは面白くないと。

お互い加速装置搭載は確認済みですが、アポロンはドヤ顔で自分の能力を開陳します。全身から3000度の高熱を放射する能力を持ち、手からは6000度の熱波を放射し、指先からは8000度の熱量を持つレーザー光線を発射すると。


最近のバトル作品ものでは自身の能力はなるべく秘匿する傾向が強いので、このおおらかさは昭和的というかなんというか。なにしろ自身を神に擬しているので絶対的な自信があるということもあるんでしょうが。そしておまえの能力は?とおもむろに尋ねるアポロン。「まさか加速装置だけというんじゃないだろうな」というセリフが実に厳しいですが、さすがに何かあるんだろうと思っていた様子。


これに対して009は「あとは勇気だけだ!」まさかの返答に驚くアポロンですが、そのままバトルに突入し、レーザーで009を射貫いて瀕死の重傷を負わせることになります。私はここら辺に若干違和感を持っているのです。「あとは勇気だけだ!」という返事を聞いたならちょっとは忖度しろよと。勝利至上主義ではなく、プライドに見合った正々堂々とした戦いを望んでいるのであれば、「じゃあおまえは銃使っていいよ」くらい言いそうなものなのに。プライド捨てても勝ちたいというタイプなら悪質タックルでもなんでもすればいいですが。

009はその後、アポロンの実の姉であるヘレナ(009と戦って敗れた際、命を救われていた)に助けられて命を取り留めるのですが、それはまた別のお話。パチンコの演出でも使われているそうですが、それはどうなんでしょうか。


優勝候補とぶち当たった試合とか、勉強せずに臨んだ試験とかの際、「あとは勇気だけだ!」と言って立ち向かうのは一見ちょっと格好いいですね。でも「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求むる」という孫子の兵法的には、十分な戦力を揃えるとかたっぷり勉強するとかして、そもそも勝てる状況を作ってから戦いに臨むのが王道なので、地味でも本当はこっちの方が有効でしょうな。

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