るんるんカンパニー:とり・みき初期の傑作ギャグ漫画

今日の宵以降は肌寒いほどでしたね。元気だった虫の音もだんだんかそけき音色になってきて、11月になる頃には息も絶え絶えになっていくことでしょう。
ところで、とり・みきという漫画家を知っていますか?既に54才ということで大御所レベルといっていいレベルかも知れないので名前くらいは知っているという人も多いのではないでしょうか。

熊本県出身で、中退した明治大学では落語研究会や小松左京研究会に入っていたそうで、現在は日本SF作家クラブに所属してます。星雲賞コミック部門は2回受賞(1994年の「DAI-HONYA」と1998年の「SF大将」)しており、1995年には「遠くにいきたい」で文藝春秋漫画賞も受賞しています。
70年代後半から80年代前半期、私は「少年チャンピオン」を毎週購読していました。今そんなことをしていると、

私の好きだった吾妻ひでおも少年チャンピオンで漫画を書いていましたが、70年後半はSFテイストの作品が書きたいのになかなか書かせて貰えない(そして書いても人気が出ない)ということで次第に登場しなくなり、寂しく思っていたところに、1979年の「第12回週刊少年チャンピオン新人まんが賞」において、投稿作「ぼくの宇宙人」が佳作になり、デビューしたのがとり・みきだったのです。本人も認めていますが、当時の私もこの人の漫画に吾妻ひでおの匂いを感じたものでした。当時の私の読書傾向はSF一辺倒だったので、きっと共通の(マイナーな)雰囲気を感じ取れたんでしょうね。

そんなとり・みきの初期の傑作として私が推すのが「るんるんカンパニー」です。初期作品群で有名なのは、岩井小百合主演でテレビドラマ化された「クルクルくりん」かも知れません。無論チャンピオンを購読していたので私も読みましたが、実はあまり好きではありませんでした。なんかこう、メジャー化を指向しているというか、売れよう売れようとして一般大衆に媚びているというか、そういう「非マイナー指向」を嗅ぎ取っていたのでしょう。実際テレビドラマ化したということは、それなりにメジャー化は成功したといっていいのでしょうが、以後とり・みきは少年チャンピオンで書くことはなくなり、私もチャンピオンを購入しなくなっていくのです。これはとり・みき作品が掲載されないからというよりは、人気連載が次々と終了して、新連載がことごとくダメダメだったためですが、その一方で80年代中盤以降のジャンプの勢いは私といえども無視できなかったということがあります。以後89年まではジャンプを購入することになりました。

「るんるんカンパニー」に話を戻すと、これは1980年から82年にかけて連載されたギャグ漫画で、「クルクルくりん」の前作品となります。少年チャンピオンコミックスから全6巻が出版されました。ちなみに4巻から6巻は遙か昔shoubonoさんに貸してそのままなんですが、もう持ってないですよね?怒らないから先生に正直に言って下さい(笑)。

舞台は私立とりかま学園(高校)で、学園ギャグ漫画ということになります。初期は主人公の葵達郎と、向いのマンションに引っ越してきた三人娘-野泉かつら、北沢静、深水くるみを巡るストーリーとなっていました。この三人娘、生徒会三役であるとともに、「女性至上主義」を目的とする「裏の生徒会」=るんるんカンパニーでもあり、学園や生徒に危機が迫ると、手製のコスチュームに着替えて悪人を成敗するのですが、達郎が正体を知ってしまったことから下働きにさせられ、反発しながら共に行動していました。
しかし、回が進むにつれて次第に他の登場人物が台頭してきたため、連載中期以降はるんるんカンパニーは全く変身することがなくなり、三人娘は生徒会役員のまま活動することになります。また達郎も主人公というよりは、突っ込み役に徹するようになっていきます。

で、主役達を喰ってしまったキャラの筆頭が、秋田兄弟です。秋田冒険王が達郎やくるみの担任教師(担当教科は国語ですが、不在の教師等が出ると何でも代行します)で、双子の弟が秋田まんが王(精神科医のはずですが、なぜか健康診断もやります)で、年齢は30才です。秋田兄弟の名前は、かつて秋田書店から刊行された漫画雑誌「冒険王」と「漫画王」からとられており、妹が1人いますが、名前は「ひとみ」(秋田書店から刊行された少女漫画雑誌)です。

この2人が本作品のメインとなるギャグキャラクターであり、特に秋田冒険王は、とりかま学園内の関係者が相次いで倒れるたびに、その代理を勤める設定で、本職からことごとく脱線した行動を取って葵達郎や3人娘らを悩ませ続けます。ちなみに3人娘のうちかつらと静も突っ込みキャラ化しますが、当初から天然だったくるみだけはボケキャラになって秋田ブラザーズと一緒にギャグを展開したりします。

この狂気の秋田ブラザーズに唯一対抗できるキャラは、PTA会長で大金持ちの羽高伝求(はだかでんきゅう…)の執事・吉田さんでしょう。吉田さんは羽高家に長年勤めていますが、連載中期からは羽高家と関係なく秋田兄弟に並ぶギャグキャラクターとして頻繁に登場するようになり、主役を務めた回もありました。本作以後もとり・みきの他作品で度々描かれる「スター」となりました。
この狂気トリオが中心となって展開するギャグはすさまじくシュールで、今見ても大笑いです。また、回ごとのストーリーには作者の造詣が深いSFや落語が下地になっているのもあります。また、とり・みきは本作連載中に画力が大きく向上(特に5巻以降)し、可愛くてポップな女の子が描けるようになりました。それが次作「クルクルくりん」に生きたといえるかも知れません。

「雪合戦出口なし」とか「銭湯準備完了!」なんかは絵とギャグのバランスが良くて好きだったなー。あと後半になって登場した秋田クリニックの秘書兼助手の三崎けいこは、なかなかの美人として描かれていて、なぜか秋田まんが王に好意を持っていて、まんが王とコンビで主役としても描かれてました。後半の絵柄で10巻くらいまで書いて欲しかったのですがね…。「クルクルくりん」の分まで「るんカン」をやって欲しかった!
マイナーかも知れませんが、当時一番面白いと思ったるんるんカンパニー、早川書房か文庫版全4巻で全話収録されているらしいです。ということは、3-4巻を買えば長い間失われたままの少年チャンピオン・コミックス版の4-6巻を補完できるのかも知れません。それとも中古でオリジナルを買いそろえたものか…いつでも手に入るとなると悩みますね。

スポンサーサイト