民王:池井戸潤による政界の「転校生」?

今日の筑波嶺は30度を切っていて比較的過ごしやすいです。湿気は高めなんで動くとアツゥイ!んですけどね。昨夜はテレビで隅田川花火大会を見ましたが、雨の中開催を強行しましたね。数年前は開始後豪雨になってさすがに中止してましたが、あれほどではなかったということでしょうか。

本日は池井戸潤の「民王」を紹介します。ポプラ社のWebサイト「ポプラビーチ」で2009年8年から連載され、「鉄の骨」で第31回吉川英治文学新人賞受賞した直後の2010年5月にポプラ社から単行本が刊行され、2013年6月7日に文春文庫から文庫本が刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

「お前ら、そんな仕事して恥ずかしいと思わないのか。目をさましやがれ!」漢字の読めない政治家、酔っぱらい大臣、揚げ足取りのマスコミ、バカ大学生が入り乱れ、巨大な陰謀をめぐる痛快劇の幕が切って落とされた。総理の父とドラ息子が見つけた真実のカケラとは!?一気読み間違いなしの政治エンタメ!

総理大臣が二代続けて1年で辞任して、民政党幹事長だった武藤泰山が新首相に就任します。ところがどうしたことか息子のバカ大学生武藤翔と人格が入れ替わってしまいます。「転校生」かよ!いや古いか。「君の名は。」かよ!の方がうけるでしょうかね。
総選挙の機運が高まっており、サミットも間近という情勢下、なんとか秘密を保ちつつ乗り切ろうとする泰山。翔を国会に向かわせ、自身は就職活動に臨みますが、バカの極みの翔はろくに漢字も読めず、泰山も就職活動で面接官を偉そうに論破しては不採用になるなど、お互い不調です。

そんな中、経産大臣の鶴田もそのバカ息子と人格が入れ替わってしまいます。そればかりか、野党第一党である憲民党の蔵本も娘のエリカと人格が入れ替わりますが、エリカは政治家志望の優等生だったせいかさほど破綻せず代役をこなしています。しかし、こんなに立て続けに人格が入れ替わるということは偶然とは思えません。防衛大臣に調査をさせたところ、米CIAが研究していた技術が流出した模様。何者が、何のために仕掛けたのか?
泰山は彼なりの理想があって政治家になりましたが、政界の因習やら派閥抗争などに明け暮れた結果、当初の志はすっかり忘れてしまっており、翔はヤンキーっぽい性格で、政治には全く興味がなく、二留するなど勉強も苦手です。

どっちもクソみたいだなあと思えますが、入れ替わったことでお互いの立場や思いを知ることになります。泰山は翔の純粋さや正義感に気付き、翔も政界の因習やマスコミの愚かさに曝される苦労を痛感します。
警視庁からやってきて人格入れ替わりの調査にあたる公安部警視の新田がいい味出しています。公務員とは思えないヤクザのような強面ですが、絶大な諜報能力と格闘能力を持っています。人格入れ替わりの調査も、泰山のためとか民政党政権のためではなく、日本に対するテロ行為として当たっており、人間的にも信頼感があります。

ところで2009年という時期、二代続けて短期政権が続いたというあたりで、実際の政界の状況をモデルにしたことは間違いありません。泰山は秋葉原で人気という設定もあり、明らかに自民党が下野する直前の首相、麻生太郎がモデルなんだろうと思われます。ということは蔵本はハトポッポか。
ドタバタ劇の中、お互いマスコミや面接官相手に本音をぶちかました泰山と翔ですが、泰山は翔の第一志望の企業で最終面接にまで進み、翔はスキャンダル追及に終始するマスコミに、そんなことばかりやっているから国民がバカになるんだと啖呵を切ります。

最終的には新田らの捜査によって事件のからくりが発覚し、二人の人格は元に戻ります。女子大生との合コンに浮かれてマイウェイを熱唱していた途中の泰山はアメリカ大統領の前で元の身体に戻りますが、大統領がマイウェイが大好きだったことで好評を得てしまい、翔も第一希望の企業から内定を取り付けます。
そして法案成立と同時に衆議院を解散して総選挙に臨む泰山。結果はどうなったのかまでは書かれていませんが、現実世界では政権が交代し、新風に期待した国民を裏切りまくって暗黒の3年間が続くことになりました。せめてフィクションの中ではもうちょっと明るいといいですな。

2015年7月から9月にかけ、テレビ朝日系でドラマ化されました。泰山は遠藤憲一、翔は菅田将暉が演じました。もちろん視聴していません(キリッ)が、ドラマ化されたから誰かが図書館にリクエストしたんだろうなと思います。筑波嶺の図書館の本、読後調べると映画化・ドラマ化というパターンが多いのですが、ミーハーなリクエストがされているんでしょう。嫌いじゃないですけどね。

テレビドラマ版は平均視聴率7.1%でしたが、ゴールデンタイムではなかったので苦戦という訳でもないでしょう。内容への評価は高く、オリコンの「コンフィデンス・ドラマアワード」で第1回作品賞・主演男優賞など4部門、放送批評懇談会ギャラクシー賞の9月月間賞、ザテレビジョンドラマアカデミー賞で最優秀作品賞など4部門などを受賞しました。その結果、2016年4月15日にその後を描いたスペシャルドラマ「民王スペシャル~新たなる陰謀~」、4月22日には泰山の秘書である貝原茂平が主役の「民王スピンオフ~恋する総裁選~」が放送されました。

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