万能鑑定士Qの事件簿Ⅲ:凜田莉子歌手デビュー?

梅雨が明けて猛暑襲来…というところなんでしょうが、とっくに来ていた猛暑。空梅雨でマイッチングな訳ですが、猛暑を防ぐ科学というのはないんでしょうかね。「こうすれば涼しい」といった対症療法ではなく、抜本的に猛暑を防ぐようなヤツ。SFには天候を操る気象兵器なんてのが登場しますが、その平和利用的なのが欲しいですね。

本日は松岡圭祐の「万能鑑定士Qの事件簿Ⅲ」を紹介しましょう。「催眠」「千里眼」と彼のシリーズの第一作は読みましたが、続けて読みたくなったのは万能鑑定士シリーズのみ。モデルのように美人だけど天真爛漫で、まるで沖縄の海のように清らかな心の持ち主の凜田莉子は素敵ですよね。恋愛要素とかいらんのですけど、雑誌記者小笠原とくっついてしまうのでしょうかね。
ⅠとⅡは凜田莉子の人となり、そしてかなりお馬鹿な波照間島の純真女子校生が万能鑑定士になるまでが描かれていましたが、ここからが本当の事件簿という感じでしょうか。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

人気ファッションショップで、ある日突然、売り上げが落ちてしまう。いつも英語は赤点の女子高生が、東大入試レベルのヒアリング問題で満点を取る。この奇妙な事象をともに陰で操っていたのは、かつてミリオンセラーを連発した有名音楽プロデューサー・西園寺響だった。借金地獄に堕ちた彼は、音を利用した前代未聞の詐欺を繰り返していた。凜田莉子は鑑定眼と機知の限りを尽くして西園寺に挑む。書き下ろし「Qシリーズ」第3弾!
西園寺響…あからさまにモデルは小○哲○ですね。90年代に一大ブームを築き上げ、数々のミリオンセラーやヒット曲を打ち立て、各メディアにおいて「小○ファミリー」「小○サウンド」「小○系」といった名称でカテゴライズされる社会現象を起こしたあの人です。

その小○とは別人のはずの西園寺ですが、独立やブーム消滅、離婚などで財産はなくなって借金地獄。ですが、もう一度スターダムに登るという夢(というか妄執)に囚われ、なお熱狂的ファンでいてくれる40代の男女(バブルを引き摺ったまま時代の変化を拒絶している)をも手駒&金づるにしています。
発端は、飯田橋のコンサバファッションのブティックで突如売り上げが急落し、売り上げの35%を振り込めば元に戻るという脅迫まがいの電話が来たことから。牛込警察署に相談したものの相手にされず、「週刊角川」が取り上げた、流行っていたはずの店が突如閉店するという「ストアシック症候群」の記事を見て記者の小笠原に接触します。実はその記事は海外記事の翻訳だったのですが、それなら頼りになる人がいるということで、凜田莉子が紹介されます。

莉子はすぐに原因を突き止めます。JASRACに金を払いたくないために、著作権フリーのBGMを無料で配信しているサイトが、咳やくしゃみの音を送り込み、ハース効果で客が寄りつかなくなる、すぐに立ち去るという現状を自然に起こしていたのです。
ハース効果とは、①同じ音が②複数の方向から③同音量で、音が発せられたときに、最も早く到達した音の音源の方向からすべてが聞こえているように感じてしまう現象のことです。左右同時に音を発した場合は、その中間点から音が聞こえたように感じます。店の中央付近にいた客は、自分のすぐそばに咳やくしゃみを聞くことになり、風邪やインフルエンザを忌避して思わず立ち退いていたというのが真相でした。

それとは別に、私立神楽坂学園高校では、出席日数が足りない美人JKを卒業させろというモンペチックな親に対し、担任の英語教師がテストで高得点を取ったら認めるということにします。教師だけが利用出来る、毎日ヒアリング問題を無料で提供するサイトからランダムに選択して作ったヒアリング問題を出題しますが、なんと満点を取るJK。東大レベルの問題も入っていたのになぜ?これも莉子が早稲田の氷室准教授の協力を得て、正解のセンテンスにモスキート音が入っていたことを突き止めます。

モスキート音は、鬼の哭く街・A立区の公園に導入されたことで有名ですが、小型スピーカーから17キロヘルツという、非常に高周波数のブザー音を流すもので、20代後半以降の者には気にならない者が多いですが、聞こえる者にとっては、かなり耳障りであり、強く不快に感じる者も出ます。先生はおっさんなので聞こえませんでしたが、若いJKは聞き取って、モスキート音がした選択肢をチェックして満点をとっていたのです。

この両方のサイトとも、巧妙に尻尾を出さないようになっていましたが、警察にも協力していた自称「サウンドコンシェルジェ」西園寺が浮上してきます。これら以外にも様々な詐欺まがいな手法を駆使して小金を集めては再起を期す西園寺。元歌手で妻の如月彩乃も心配する中、誰にも計画を知らせずに謎の行動を取る西園寺を莉子は止められるのか?

インドネシアまで飛んだり(ⅠとⅡの沖縄行きと同じで空振りですが、結果的には役に立つ)と、相変わらず人のためにとことん尽くす莉子。鑑定士の商売の方でちゃんとご飯食べていけるのか心配になりますが、単に美人なだけではなく、どこまでも心が綺麗なのが莉子の魅力。途中西園寺にスカウトされて自宅に連れて行かれたり、その後謎のリムジンに拉致まがいに連れ去られたりと、頭は切れるけど腕っ節の方はからっきしであろう莉子危うしな展開もありますが、幸い西村寿行流ハードロマンな展開はありません。というか、莉子には暴力沙汰は似合わないですけどね。莉子だけは勘弁してやってつかあさい。

ことごとく計画を莉子に邪魔される西園寺は、最後には思いあまって莉子の毒殺を示唆します。二人は高級料亭で食事をしますが…。万能鑑定士の名に恥じない博覧強記ぶりで自分の安全保障まで確実にしている莉子に、西園寺もかたなし。一緒に花火を見て綺麗綺麗と素直に喜ぶ莉子にはきっと西園寺も毒気を抜かれたことでしょう。前作の犯人もそうですが、莉子にはそういう力があるんですね。

ところで「催眠」も「千里眼」もそうでしたが、松岡圭祐は各章にサブタイトルをしっかり記載する人ですね。各章にサブタイトルを付ける作家は珍しいわけではありませんが、280ページくらいの本作にはなんと30章もあって、全部サブタイトルが付されています。これぐらい細かくサブタイトルを付ける作品とえば、昔読んだ、子供向けに改筆・圧縮されて翻案作品となったホームズシリーズややルパンシリーズを思い出しました。そのあたりのテイストを狙っているんでしょうかね?
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