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日暮らし:「ぼんくら」シリーズ第二弾

暑い五月

 梅雨寒のような天候が続いていたと思ったら…いきなりきました「アツゥイ!」の陽気。暑さに慣れていないからあんまり急には来て欲しくないんですが…とりあえず扇風機は出しました。

日暮らし文庫版 

 本日は宮部みゆきの「日暮らし」を紹介します。いわゆる「ぼんくら」シリーズの第二弾です。第一弾の「ぼんくら」は2016年9月10日の記事で紹介しております(http://nocturnetsukubane.blog.fc2.com/blog-entry-1386.html)。

 主人公は井筒平四郎という南町奉行所の本所深川を担当する「本所見廻」の臨時廻です。「ぼんくら」の直後から話はスタートするのですが、前作に続いてダークヒーローとでもいうべき湊屋総右衛門と彼の周囲の女達の物語が因縁のように展開されるので、「湊屋総右衛門」シリーズと言う方がいいような気もします。まあ総右衛門自身が直接登場することはあまりなく、登場人物からああした、こう言ったと語られることが多いのですが。

日暮らし単行本 

 「日暮らし」は単行本が2004年12月22日に講談社から上下巻で刊行され、文庫版は講談社文庫から2008年11月14日に上中下三分冊で刊行されました。三分冊は不評だったのか、2011年9月15日に新装版が上下巻で刊行されています。例によって文庫版裏表紙の内容紹介ですが、私が読んだのは三分冊版なのでそこからどうぞ。

 (上巻)浅草の似顔絵扇子絵師が殺された。しかも素人とは思えない鮮やかな手口で。「探索事は井筒様のお役目でしょう」―。岡っ引きの政五郞の手下、おでこの悩み、植木職人佐吉夫婦の心、煮売屋のお徳の商売敵。本所深川のぼんくら同心・平四郎と超美形の甥っ子・弓之助が動き出す。著者渾身の時代ミステリー。

植木職人佐吉 

 (中巻)佐吉が人を殺めた疑いを受け、自身番に身柄を囚われた。しかも殺した相手が実の母、あの葵だという。今頃になって、誰が佐吉に、十八年前の事件の真相を教えたりしたのだろう?真実を探し江戸を走り回る平四郎。「叔父上、わたしは、本当のことがわからないままになってしまうのが案じられるのです」。

 (下巻)「ねぇ叔父上、ここはひとつ、白紙に戻してみてはいかがでしょう」。元鉄瓶長屋差配人の久兵衛からもたらされた築地の大店・湊屋が長い間抱えてきた「ある事情」。葵を殺した本当の下手人は誰なのか。過去の嘘や隠し事のめくらましの中で、弓之助の推理が冴える。進化する“宮部ワールド”衝撃の結末へ。

葵さん 

 シリーズものを順番に読むのが不得手(だって図書館になかなかないから…)な私ですが、「ぼんくら」シリーズは第一弾、第二弾と順番通り読むことができました。特に「日暮らし」三分冊を同時に借りられたのは大きかったですね。そして思います。これのシリーズは順番どおり読まないとダメだと。
 
 平四郎、弓之助、岡っ引きの政五郞といった捜査側の面々は実に清く正しく清々しく生きているのですが、とにかく湊屋が抱える闇が深くて大きい。平四郎も作中で言っていますが、もっと早い段階で大なたをふるべきだったのだろうと思います。

美人すぎるお徳 

 三分冊のうち、上巻は短編が四編収録されています。政五郞配下で昔の膨大な捕物噺を記憶している「おでこ」が寝込むほどの苦悩を抱える「おまんま」。湊屋総右衛門の姪の息子で「ぼんくら」では鉄瓶長屋の差配人をやっていた佐吉が本来の植木屋に戻り、お恵と結婚したものの、二人の間に隙間風が吹く「嫌いの虫」。江戸時代にも凄まじいストーカーというかサイコパス野郎がいた!娘二人を持つ未亡人の奉公人・お六のために葵(湊屋総右衛門の姪にして愛人。そして佐吉の母)が打った大芝居を描く「子取り鬼」。鉄瓶長屋から幸兵衛長屋に移っても煮売り屋をやっているお徳。その近所で突如始められた大赤字覚悟の惣菜屋。その意外な意図を描く「なけなし三昧」。

藤屋敷にて 

 そうかそうか、連作短編集なのかと思いきや、中巻下巻が長編「日暮らし」となっており、上記四短編は「日暮らし」のイントロとなっているのです。下巻末尾の「鬼は外、福は内」はエンディングとなっています。中巻の内容紹介のとおり、「日暮らし」では葵が殺され、佐吉に容疑がかかります。内々に済ませようとの湊屋の計らいによって佐吉は解放されますが、それは佐吉が犯人と決めつけてのものでした。佐吉が犯人ではないとして、真実を知るべきだということで平四郎と弓之助が奔走します。その過程で短編の登場人物が登場してくるので、人となりを知っておくために短編がいい仕事をしています。

葵と総右衛門 

 葵は佐吉の実母なので、普通に考えたら佐吉が殺す訳がないのですが、なにしろ湊屋をとりまく闇のせいで、佐吉は葵が大恩ある湊屋に後足で砂を掛けるように愛人と出奔したと教えられており、以後怒りと恨みを抱きながら成長しています。だからこの親子に限っては殺人もありえる、と湊屋総右衛門は思ったようです。実は平四郎も「あり」か「なし」かなら、ありえることだと思っていますが、自分はやっていないという佐吉を信じて動きます。

 怨恨ということなら、葵は佐吉の他にも湊屋総右衛門の正妻おふじからも滅茶苦茶恨まれています。というか18年前に首を絞められて殺されたのですが、おふじは殺したと思っていますが実は葵は後で息を吹き返したのでした。葵が死んでいないことは極秘とされてきましたが、もし何かの拍子におふじが知ったら再び殺意を抱く可能性があります。ですが、おふじ自身も良心の呵責に苛まれていたらしく、心を病んで廃人のようになってしまっていました。惟故に湊屋総右衛門は佐吉の犯行と確信した訳ですが…

平四郎と弓之助 

 本作、実はミステリーとしてはやや弱いです。というのは犯人の見当がついてしまうのと、犯行理由は犯人自身の過去にあるのですが、それは湊屋総右衛門関連とは全く関わりがないことなので、ある意味出会い頭の不幸な事件ということになっているので。だから殺害動機をいくら探っても正しい方向に進むことはできなかったので、ある難事件といえば難事件なんですが、ちょっとフェアじゃない気も。冒頭短編集に犯人の過去の話も載っていればフェアなんですが、それをするといきなり犯人がばれる可能性があるので難しいですね。

 時代小説として読んだ場合は非常に面白いです。「ぼんくら」に登場した人物がたくさんでてきて懐かしいし、食べ物の描写がいいんですよね。飯テロ小説家も知れません。上等な料理よりも、街角で売っているふかしたての饅頭とか焼きたての灼き団子みたいなのがとっても旨そうで、江戸のB級グルメという感じもします。

平四郎、小平次、弓之助 

 少年探偵弓之助の推理が冴えまくるので、もう平四郎の跡継ぎは弓之助しかないような気がしますが、本作でもまだ完全には踏ん切りが付いていません。第三弾「おまえさん」では跡継ぎになっているんでしょうか?図書館にはあるはずなので、近日ぜひ読みたいですね。

 伯父と姪の近親相姦、間男の托卵によるお家簒奪、超ストーカー、男喰いと女喰いなど、エロ小説・エロゲーに登場してもおかしくないシチュエーションがてんこ盛りですが、それでいていやらしくなっていないのが宮部みゆき作品の持つ上品さですね。

ぼんくら2 

 なおNHKの木曜時代劇で、「ぼんくら2」として「日暮らし」のエピソードが2015年10月22日から7話放映されました。葵が「ぼんくら」では佐藤江梨子だったのが、「ぼんくら2」では小西真奈美に変わっていますが、年齢的にも小西真奈美の方が適切な気がします。

ぼんくら2最終話 
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