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王妃の帰還:女子校という名の箱庭で

5月はヤグルマギク

 長期休暇明けは心身ともに調子が今ひとつ上がりませんね。でも一週間未満、長くても10日未満程度の休暇を“長期”なんて呼んでいいのかどうか。フランスでは休暇は連続5週間まで取得可能となっておりそれをヴァカンスと呼ぶらしいです。これを世界基準と呼んでいいのか判りませんが、某モレシャンさんあたりには鼻で笑われて「ワータシの国では~」とドヤ顔で自慢されそう。

文庫版王妃の帰還 

 本日は柚木麻子の「王妃の帰還」を紹介します。柚木麻子の著作は初めて読みました。柚木麻子は1981年8月2日生まれで東京都出身。立教大学在学中からより脚本家を目指してシナリオセンターに通っていました。卒業後、塾講師や契約社員などの職のかたわらで小説の賞に応募し、2008年に「フォーゲットミー、ノットブルー」で第88回オール讀物新人賞を受賞して作家デビューを飾りました。

 柚木麻子

 同作を含む単行本「終点のあの子」は、「本の雑誌」2010年上半期エンターテインメントランキングで3位となるなど高評価を得ました。

終点のあの子
 
 2013年から15年にかけては3年連続で直木賞候補となっており、新進気鋭の若手小説家です。2013年には「嘆きの美女」、2015年には「ランチのアッコちゃん」がNHKでテレビドラマ化されています。

嘆きの美女
ランチのアッコちゃん 

 「王妃の帰還」は2013年1月26日に実業之日本社から単行本が刊行され、2015年4月15日に文庫版が実業之日本社文庫から刊行されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

王妃の帰還POP 

 私立女子校中等部二年生の範子は、地味ながらも気の合う仲間と平和に過ごしていた。ところが、公開裁判の末にクラスのトップから陥落した滝沢さん(=王妃)を迎え入れると、グループの調和は崩壊!範子たちは穏やかな日常を取り戻すために、ある計画を企てるが……。傷つきやすくてわがままで―みんながプリンセスだった時代を鮮烈に描き出すガールズ小説! 

 スクールカーストという表現があります。これはWikipediaによると、“現代の日本の学校空間において生徒の間に自然発生する人気の度合いを表す序列を、カースト制度のような身分制度になぞらえた表現。もともとアメリカで同種の現象が発生しており、それが日本でも確認できるのではないかということからインターネット上で「スクールカースト」という名称が定着した”と説明されています。

アメリカのスクールカースト図 

 日本のスクールカーストは明確に模式図にできていないようですが、アメリカのものは上図のように序列化が明確になっています。物語の舞台となるミッション系お嬢様学校である聖鏡女学園中等部2年B組の28人(少なっ)も、5つの派閥に別れており、序列化がなされています。

 最上位が「姫グループ」の5人。これはアメリカのスクールカーストでいえば「クイーンビー」と「サイドキックス」に該当するでしょう。続いて「ギャルグループ」。これは7人と人数的には最大派閥ですが、「姫グループ」に入ることを夢見ている「姫グループ」の二軍のような存在です。アメリカのスクールカーストでいえばワナビーといったところでしょうか。

マリー・アントワネットその2 

 さらに「チームマリア」の5人。ミッションスクールである聖鏡女学園で聖歌隊やハンドベル部に所属している女の子の集まりで、最も学園らしいお淑やかな優等生で構成されています。これは…アメリカのスクールカーストで例えるのが難しいですが、強いて言えばプレップスといったところでしょうか。

 そして「ゴス軍団」の6人。アメリカのスクールカーストの下位にゴスが存在していますが、ビジュアル系バンドのファンで構成されており、「姫グループ」の野党的存在なので、ゴスよりは階層外の「不良」あたりが適当かも知れません。お嬢様学校なので不良といっても「強いて言えばそれっぽい」という程度ですが。

単行本王妃の帰還 

 最後に主人公前原範子が所属するグループ。これには名称がないので、勝手ながら「地味子グループ」と名付けてあげましょう。たった4人の最小派閥で、放課後に図書館に集まっているので、アメリカのスクールカーストでいえばやはり階層外の「不思議少女」に相当するでしょうが。階層外が5グループ中2グループもあってはカーストが成立しない気がしますが、本作ではアメリカほど序列化されていないのでまあいいでしょう。ただし、範子の認識では頂点は「姫グループ」で底辺は「地味子グループ」です。

 アンシャンレジーム

 派閥で別れているとはいえ、特に対立抗争しているわけでは無く、それなりに平和だったクラスに風雲が巻き起こったのは2学期のこと。「姫グループ」の頂点に君臨していた滝沢さん-範子はその美貌に憧れており、敬意を込めて密かに「王妃」と心の中で呼んでいました-が失脚したのです。

マリー・アントワネット 

 実は範子はフランス革命フリークなので、「王妃」とはマリー・アントワネットに他なりません。「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」の迷言で有名ですが、本義ではケーキではなくブリオッシュのことらしいです。ケーキというよりはパン菓子というニュアンスですね。さらに言えばマリー・アントワネットが言ったという実際の記録はなく、ルイ14世妃マリー・テレーズ説や、ルイ15世の娘であるマダム・ソフィーやマダム・ヴィクトワール説などがあるようです。

アニメ版ベルばらのマリー・アントワネット 

 いずれにせよ…肖像画のマリー・アントワネットよりは、池田理代子の「ベルサイユのばら」で描かれた愛らしいマリー・アントワネットの方が滝沢さんにはふさわしいでしょうね。史実のマリー・アントワネットは「首飾り事件」によってそのイメージを大きく損なった訳ですが、「王妃」の方は「腕時計事件」で失脚することになりました。

首飾り事件の首飾り 

 範子は今回の「王妃」の事件をやたらフランス革命に当てはめるわけですが、その場合いきなり王妃のギロチン処刑から始まることになってしまいます。実際第一章のタイトルは「ギロチン」ですし。これが若さか…。もちろん「王妃」は処刑される訳ではありませんが、それまでのクラスの頂点の座を追われ、仲間外れ、すなわちハブとなってしまいます。のみならず、地味子グループが引き受け先になってしまうという。

ギロチン 

 美貌の「王妃」を迎えられてさぞや光栄…と言いたいところですが、この「王妃」、美貌に比例した性格は持ち合わせておらず、わがままで自己中で高飛車で上から目線と、「王妃」の持つ負のイメージだけを集めて固めたような性格でした。こんなのに飛び込んでこられて地味子グループもぎくしゃくし始め、範子達は「王妃復権」を画策することになります。滝沢さんのイメージアップを図って元の「姫グループ」に復帰させようというのです。

三部会 

 派閥というのは共通の趣味とか嗜好、話題によって構成されたものだったので、それらが全く異なる地味子グループと「王妃」はまさに水と油。最初はまさに「文明の衝突」状態でしたが、やがて徐々に相互理解が深まると、「王妃」も素直になっていきます。そうなってくると範子としてはもっと仲良くなりたいという気持ちが高まってくるのですが、そうなるとこれまで親しかった親友との間に隙間風が吹いたりして。なにしろヱヴァンゲリオンがないただの14歳の少女ですから、みんな未熟だし傷つきやすいし自己中なんです。

ベルサイユ行進 

 そうやって學園生活がいろいろと大変な中、範子は別な問題も抱えます。クラス担任で生徒の人気も高い星崎先生(通称ホッシー)が、なんと範子のママンと交際中という。あ、範子ママンはシングルマザーにしてバリキャリの女性誌編集長なんで不倫とかではないのですが、クラスメイトに知れたらえらいことになりそうです。

バスティーユ監獄襲撃 

 そんなてんやわんやの中、親友の離反やいじめの標的化といった危機を迎える範子ですが、彼女はこれまでの事件の「黒幕」を突き止め、これを一気に失墜させようと「革命」を画策します。さて、その結末は…ぜひ本書を読んでいただきたいと思います。ラストは非常に感動的かつ爽やかなので、これは映像化するべきだと思いますが。出来れば私も見たいのでアニメ化がいいな。

テニスコートの誓い 

 いろいろ揉めに揉める少女達ですが、私のようなおっさんから見ると、女子には女子の世界があるだろうし、その年齢なりに一生懸命やっているので、馬鹿にする気にはなりません。「マリア様がみてる」(こっちは高校生ですが)を見る時と同じような気持ちになりますね。微笑ましくも痛ましいとでもいうか。コップの中の嵐に翻弄される少女達を笑うことは出来ません。そこで経験を積んでおかなければ、やがて迎える外界への船出に耐えられないでしょうから。

早くアメリカに行けよ綾部 

 なお女子生徒の人気を集める星崎先生。文中でピースの綾部祐二に似ているという描写があります。本書が書かれた2013年頃の彼はイケメン芸人として知られ、また熟女好きとして知られていました(だから相当年上の範子のママンと交際するのか)が…今となっては相方の又吉直樹のお荷物というか、さっさとアメリカに行けよというか(行ったんですかね?)、まあイメージが暴落しましたね。そのせいかこの人が登場する旅に綾部の顔が思い浮かんで全然彼には共感できませんでした。

A藤M姫 

 さらに「王妃」こと滝沢さん、最終盤で範子がついに彼女を名前で呼ぶんですが、その名前がある有名人を思い切り連想させるんですよ。それがまた…。いや、本書が刊行された2013年1月当時なら決して悪い印象ではなかったはずなんですが、それ以降はどうかと言えば…まあ人によるんでしょうけど、言動などから“好感度ダダ下がり”なんて言われたりもしています。会ったことはもちろんありませんが、ナルシシストな印象が強くて私も正直好感は持ってませんね。14歳だったら許すんですけど。誰のことかわからないあなた、ぜひ本書を読んで下さい。

民衆を導く自由の女神 

 なお、作者は2年B組の派閥をフランス革命当時の階層になぞらえて、「姫グループ」=王家、「ギャルズ」=貴族、「チームマリア」=聖職者、「ゴス軍団」=商工業者、「地味子グループ」=農民のイメージだそうですが、それだと「姫グループ」「ギャルズ」「チームマリア」対「ゴス軍団」「地味子グループ」という図式になってしまうような。ただし「地味子グループ」=農民はぴったりかも。「七人の侍」でも指摘されていますが、一見弱そうに見えて実は一番したたかだという。
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