新世界より:GWに一気見した隠れた傑作アニメ

月曜日はだいたい憂鬱なんですが、GW明けの月曜日は年間屈指の憂鬱な月曜日でしょうね。新社会人の諸君、さあ五月病のタイミングだ。ところで私は実はずる休みしてしまいました。病気などでない有給休暇の取得をずる休みと呼ぶのはさすがにどうかと思いますが、つい学校時代のクセで。

お金がなかったので今年のGWもアニメ三昧だった訳ですが、その成果を紹介したいと思います。まずは2クールの大作「新世界より」。原作は貴志祐介の同名小説で、2008年1月に刊行され、第29回日本SF大賞を受賞しています。

貴志祐介は堂々たる人気作家ですが、私はデビュー作で映画化された「十三番目の人格 ISOLA」とやはり映画化された「青の炎」しか読んでいません。なぜかと言えば図書館にないから。あ、単行本はあるかもですが、主に文庫本を読んでるもので。

アニメの方は2012年10月から2013年3月まで2クール全25話が放映されました。まだ作品チョイス力が高くなかったせいか、完全に見落としていました。この時期放映していた名作「ガールズ&パンツァー」も見落としていますから、完全に海のリハク状態。今もだろ!との突っ込みには返す言葉もありませんが。


舞台は1000年後の茨城県鹿行地方の神栖市。自然豊かな集落「神栖66町」となっており、人口は3000人程度。牧歌的で現代よりも文明レベルは引くそうですが、人々は平和に暮らしています。一見理想郷なんですが、その背後にちらつく不穏さ。子供達も薄々感じていたそれが次第に明らかになっていくと、理想郷の歪んだ実相が明らかになっていきます。

というか、放映したテレビ朝日の「『新世界より』超スッキリ講座」という動画があるのでこれを見ていただけば世界観は判りやすいだろうと思います。
これだけ見れば世界観の把握はバッチリです。主人公は渡辺早季で、彼女とその友人達が12歳、14歳、26歳のそれぞれの時代を描いており、三部構成となっています。早季のCVは種田梨沙で、テレビアニメ初主演。前期主題歌「割れたリンゴ」も歌いました。本作では冒頭の7歳から26歳までの早季を演じましたが、ナレーションを勤めた36歳時点の早季のみ遠藤綾が演じていました。

種ちゃんは大学を卒業してから声優デビューなので、本作の時点で24歳でしたがまだまだ新人。一回り年上の36歳は演じきれなかったのか。14歳と26歳ではちゃんと早季の成長ぶりを演じられていたので、やればできそうですけどね。

この時代の人間は全員が呪力という名のサイコキネシス(PK)を使えるのですが、子供時代は使えません。呪力が発現すると小学校(早季が通っていたのは「和貴園」)を卒業します。同級生の中では奥手だったのですが、上級学校「全人学級」に入ると、先に来ていた友人達から早季が一番最後だと言われます。え…?じゃあまだ和貴園に残ってた同級生は…?

さらに同じ班にいた麗子という呪力の使い方が下手だった女の子は突然いなくなってしまいます。CV堀江由衣だというのに何という無駄使い。

次第に呪力の使い方が下手だったり、ルール無視を平然と行う倫理感が乏しい子供達はどういう訳か不意にいなくなってしまうことがあり、子供達の間には小学校を卒業できない(=呪力が発現しない)子供を連れ去ると言われるネコダマシという妖怪が噂になっていますが、実は「不浄猫」という名で実在していることが明らかになります。

ターニングポイントは4話で、ここで班で夏季キャンプに遠出をした際、先史文明の遺物である国立国会図書館つくば館の自律進化型・自走式アーカイブであるミノシロモドキに遭遇し、神栖66町で繰り返し教えられる「悪鬼」と「業魔」の正体、呪力がもたらした文明の崩壊、そして現在の社会が作られた経緯といった、禁断の知識に触れてしまいます。それらは社会の動揺を防ぐため、ごく一部の人間しか知ってはならないとされる知識でした。

早季達と並んでもう一方の主役ともいうべき存在がバケネズミ。ハダカデバネズミから進化したとされる生物で、女王を中心とした巨大なコロニーを形成しています。なんと人間並みの知能を持ち、独自の言語で意思疎通する他、人間の言語を使って会話することができる個体も存在します。武器の使用、生物の品種改良、擬態など、およそネズミとは思えない科学技術力を持っており、個体数では人間を圧倒していますが、呪力を持つ人間には敵わず、人間を神と崇め、絶対的に服従しています。本作のキャッチフレーズは「偽りの神に抗え」ですが、その意味はバケネズミの視点になったときに初めて理解できるものです。

裏主人公とも言える狡猾なバケネズミのスクィーラ(後に野狐丸)は12歳編から登場し、早季達未熟な子供達を口車に乗せて手玉に取ります。早季達も手玉に取られているのを判っていながら彼らを利用せざるを得ないというジレンマを抱え、それは14歳編でも変わりません。実はバケネズミの呪力は人間に、他の生物に対する圧倒的なアドバンテージを付与していますが、地球の支配者となるのに十分な知能を持っているバケネズミがその人間を打倒するためにはどうするか?

その答えが秘密兵器として26歳編で炸裂する訳ですが、膨大な犠牲に臆しない非情な戦略は幼女戦記を思わせます。英雄になり損ねた英雄、それがスクィーラで、蝦夷の大将アテルイとかインディアンのシャーマン・ジェロニモのような存在と言えるでしょう。戦後彼に課された無間地獄という刑罰の恐ろしさは「カンタン刑」に匹敵しますな。

呪力は攻撃にも防御にも使えますが、攻撃に使う方が圧倒的に便利で防御にはあまり向いていません。言ってみれば全員が機関銃とかバズーカで武装しているような状態なので、それを人間に向けないための仕組みが苦心して作られて訳です。特に怖れられているのが「悪鬼」「業魔」の発生で、その芽を早い内に摘み取るために教育委員会が存在しているという。それが子供達が不意に消える理由で、早季達少年少女には極めて歪な社会構造として映るのですが、一度「悪鬼」の発生を許した場合の悲劇は、早季達が26歳で目の当たりにすることになります。

村の外には奇怪な動物が多数存在しており、特に東京は1000年前の戦争によって破壊され、不気味な生物が跳梁跋扈する地獄と化しています。近未来の奇怪な生物については、椎名誠もSF三部作「アド・バード」「水域」「武装島田倉庫」で描いていますが、本作では奇怪な生物の出現理由について、呪力の無意識な漏出の影響ではないかというと仮説が挙げられています。

そしてラストで明らかになるバケネズミの正体…これが驚きの一言でした。なるほど、知能が高いのも判ります。“良き主人”のつもりでいたのに奴隷に反乱されたらご主人様側は激怒するでしょうけど、奴隷側からすれば良かろうが悪かろうか奴隷の地位に置かれることに我慢が出来ないのだという。

最初は6人居た班の仲間は、12歳編中で5人となり、14歳編ではなんと2人だけになってしまいます。それぞれの運命については本編をぜひ見ていただきたいですが、折々挿入される36歳早季のナレーションが静かな抑えめのイントネーションなのにその内容がおっかないんですよね。

好きなキャラとしては主人公早季は「好きなアニメキャラ」で紹介するとして、その他にはバケネズミの奇狼丸ですね。ネズミというよりはライオンのような威風堂々たる姿といい、武人のような性格といい実にカッコイイです。その彼にしてもチャンスがあれば人間を打倒しようと考えていたという。でも最後は自分のコロニーの存続と引き替えにスクィーラとは違う選択をしました。

スクィーラは…好きというにはあんまりな容姿と性格なんですが、革新的な思想は評価に値しますね。もしこれが眉村卓の「司政官」シリーズのように他の惑星の知的生命体であったら、興味深く観察して対話を重ねたに違いありません。極力在来生命体への不干渉を貫く司政官型の統治だったらきっと良好の関係が築けたことでしょうが…それでもなにがしかの知識や技術の習得を試みるでしょうね、彼なら。

結局のところ歪な社会構造を破壊するとかいう画期的な方向には進まないので、悪鬼や業魔の出現は極力阻止するという従来の路線は変わらないようですが、バケネズミとの関係は早季達の努力で以前より良い方向に変わるのではないかと思われます。それで第二第三のスクィーラが出現しないかは保証できませんが。

原作がしっかりしていて、2クールかけてじっくり描いた(それでも早急感はなきにしもあらずですが)だけあって、どうして今まで知らずにいたんだろうという傑作でした。渡辺早季(種田梨沙)が歌う前期主題歌「割れたリンゴ」もいいんですが、秋月真理亜(花澤香菜)の歌う後期主題歌「雪に咲く花」はもっといいですね。

直接物語の根幹に関わる謎ではないですが、神栖66から逃亡した真里亜と守はそんなに遅くない時期に死亡したようですが、スクィーラが手にかけたのか否か…。提出した骨は本人達のものだったようですが、不慮の死だったなら許す。積極的に殺したのであれば無間地獄待ったなし(いやもう既に無間地獄にされたけど)。でもあいつの性格からしてやってそうな気がしますね。


それにしても早季の心の中には相思相愛だった瞬が今もなお存在しているって、覚的にはどうなんでしょうね。「秒速5センチメートル」に例えるならば(なぜ例えたし)、明里=早季、貴樹=瞬、祐一=覚ということになるんですが。「ファイアーエムブレム」に例えるならば、ニーナ姫=早季、カミュ=瞬、ハーディン=祐一。気にならないというのなら別にいいんですが、「ファイアーエムブレム」では嫉妬と苦悩に苛まれたハーディンが闇堕ちしてしまいましたっけ。


まあ瞬と覚は14歳当時「ウホッ!」な仲だったのでいいのかな。その頃は早季は早季で真理亜と「キマシタワー!!!」な関係でしたが。まあ百合はいいんですよ百合は。ウホッの方はどうもなあ(笑)。まあ本作の世界では攻撃力の抑制=争いの回避のためにボノボに倣った、同性異性を問わない濃密な性的接触によるストレス解消が奨励されているので、本番意外はホモもレズもショタもロリも(双方が同意すれば)ありらしいですけど。これを「ボノボる」とか言っていましたが、それにしては早季達意外はそういうシーンがなかったような。


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