Just After Sunset:スティーブン・キングの最新短編集

夕暮れを過ぎて
 
 こんばんは。明日から三連休ということになる方も多いことでしょう。心安らぐ夜をお過ごしでしょうか。それにしても10月だというのに結構暑くてマイッチングですね。環境省が提唱する「スーパークールビズ」で10月末まで夏仕様でいけるようなので、そこが救いですね。だいたい6月の衣替え前にはもう暑くて、10月の衣替え後も暑いというのがこのところの気候ですから、上着なし・ネクタイなしはありがたいです。

 それでは本日の記事です。今夜は、ちょうど読み終わったばかりのスティーブン・キングの短編集「夕暮れをすぎて」と「夜がはじまるとき」をご紹介します。

夜がはじまるとき

 2冊ですが、邦訳の際に分冊したもので、本来は「Just After Sunset」という一冊の短編集です。キングの短編集としてはこれが5冊目ということですが、分量が多いせいか日本では必ず分冊にされているようで、第一短編集「Night Shift」(1978年)は「深夜勤務」「トウモロコシ畑の子供たち」の二冊に、第二短編集「Skelton Crew」(1985年)は 「骸骨乗組員」「神々のワードプロセッサ」「ミルクマン」の三冊に、第三短編集の「Nightmares & Dreamscapes」(1993年)は 「ドランのキャデラック」「いかしたバンドのいる街で」「メイプル・ストリートの家」「ブルックリンの八月」の四冊に(文庫版。ハードカバーは二分冊)に、第四短編集「Everything's Eventual」(2002年)は「第四解剖室」「幸福の25セント硬貨」の二冊に分冊されています。「深夜勤務」「トウモロコシ畑の子供たち」「骸骨乗組員」「第四解剖室」あたりは読んだことがあるのですが、これでは第一短編集以外は半分しか読んでおらず、第三短編集は全く読んでいないということですね。第五短編集は全部読めて取りあえず良かった良かった。

 全13編はどれも面白いのですが、特に印象深いのは中編に近い長めの作品になるでしょうか。4本を上下巻から2本ずつ紹介しましょう。

 「ジンジャーブレッド・ガール」:赤ちゃんの娘を病気でなくし、夫とも離婚寸前となった女性が走ることに執着し、父の持つ島の別荘で過ごし始める物語。哀しみからの脱却を走ることで果たそうとするお話かと思いきや、中盤から女性を殺しまくっているサイコな金持ちが登場し、一気にホラーとなります。海岸を走る2人。「待て~!」「ホホホ…捕まえてご覧なさ~い!」……この場合、捕まったら死にますが。哀しみを忘れるための走るという行為が生き延びる術と変わります。

ジンジャーブレッドマン

 ところで、ジンジャーブレッド・ガールって何?と思ったら、ジンジャーブレッドマンのもじりのようですね。ジンジャーブレッドマンとは、人型に焼いたジンジャークッキーのことです。パン屋で焼かれたジンジャブレッドマンがパン釜まら逃げ出してどこまでも走って行くという童話があって、パン屋さんのほか、逃げる途中で出会った少年や牛や馬に追いかけられながらも「はしれ、はしれ、速く走れ、きみは僕をつかまえられっこないさ、僕はジンジャーブレッドマンさー」と歌い続けるのですが、最後の最後に狡猾な狐に食べられてしまうという話です。

泳げ!たいやきくん

 何となく「泳げ!たいやきくん」を彷彿としますね。しかし、ジンジャーブレッドマンのもじりなら、ジンジャーブレッドウーマンでいいのではないの?なんて思ったり。プログレッシブ英和中辞典によると、1番目の意味で「女の子,少女;未婚の若い女性(▼若い女性でもgirlと呼ばれるのをきらい,自分をwomanと呼ぶ人が多い;特に北米でこの傾向が強い)」とあるのですが、主人公のエミリーは人妻でかつ経産婦なのに「ガール」でいいの?4番目に「((略式))(年齢など問わず)女性」とあるにはあるのですが…。日本の女性は結構いい年になっても「ガール」とか「女の子」と呼ばれるのに抵抗ないみたいですけどね。いや、皮肉でもなんでもなく、比較文化論ですよ(汗)。

 「エアロバイク」:健康診断でコレステロール値を注意された中年のおっさんの話です。医者が新陳代謝を労働者に例え、彼らはいつまでも仕事が終わらず、若くもなくなっているぞと警告したことを切っ掛けに、エアロバイクを買って漕ぎ出すのですが、おっさんが画家だったことから、エアロバイクの前にテレビを置いたりせずに自分で描いた絵を置いて適宜描き続けていくのですが、そこから妙な具合に。節制のおかげでコレステロール値は下がったのですが、新陳代謝を担う労働者4人組そのために仕事を失ってしまったという。そしてそれを思い知らされる出来事が…。結論、節制はほどほどに。運動したらビールや甘い物も楽しみましょうという話ですかね。

 「N」:これは明らかにキング版「クトゥルー神話」です。なにしろ「くとぅん」ですから。キングはラブクラフトの影響を受けている(アメリカの恐怖作家に影響を受けていない人がそもそもいるのかと思いますが)ようですが、明確に「クトゥルー神話」と思われる作品がこれが初めてではないでしょうか。異世界や異形の者と関わって破滅するという筋立てはクトゥルー神話によくあるものですが、流石にキング、緊迫感溢れる描写で追い詰められていく人の状況をくっきりと描いています。

 ところで「N」というのは精神科医にやってきた患者(そして最初の犠牲者)の名前らしいのですが、なぜ「N」だけなのでしょうか?ふとした切っ掛けで異世界に関わってしまったことで強迫性障害に苦しむ患者「N」はそれに耐えられずに自殺し、彼の話を聞かされた精神科医も自殺し、その手記を読んでしまった精神科医の妹も…という自殺の連鎖が起きていますが、「N」が単に哀れな犠牲者第一号というだけなら「N」なんて記さないでフルネームで書けばいいのに。
 
 もしや、「N」というのは迫真の演技で被害者にみせつつ、その実精神科医とその妹(さらにはその幼なじみの関与も示唆されていますが)を破滅させるための「仕掛け人」だったのでしょうか。だとするとクトゥルー神話でそういうことをしそうなのは……

ニャル子さん

 そう奴、ニャル子さんではなくニャルラトホテプです。綴りも「Nyarlathotep」でまさしく「N」。千もの異なる顕現を持ち、狂気と混乱をもたらすために暗躍し、人間はもとより他の旧支配者達をも冷笑し続けているというニャルラトテップならやりそうなことです。

ニャルラトホテプの顕現の一つ

 ニャルラトホテプといえば「旧支配者」でありながら唯一封印されることなく自由に行動でき、他の「旧支配者」に使役されるメッセンジャー的存在でありながら、旧支配者でも最強クラスの力を有するという存在です。そうでありながら、その気になれば簡単にひねり潰せる人間と積極的に接触したり、騙して自滅させようとするなど奇怪な行動が多く、クトゥルー神話ではトリックスターのような役割を担っています。では精神科医を破滅させるための迫真の演技だったのでしょうか?

 一方、ニャルラトホテプは千の異なる顕現を持ち、それらは同時に地球上に存在可能で、中には普通に人間として暮らしている者も少なくないとか。だとすると、「N」はニャルラトホテプの顕現の1人に過ぎず、案外本気でこの世に顕れそうになっている異形を恐れていたとかいうのもありでしょうか。だとすると、ニャルラトホテプ唯一の天敵であるクトゥグアでも顕現するところだったんでしょうかね。

 それとは別に、本編に出てくる「くとぅん」というのが気になって、そういう名前の「旧支配者」とかはいないのだろうかと探したら、ンガ=クトゥン(N'gha-Kthun)というのがいました。こいつも「N」から始まりますね。TRPG「クトゥルフの呼び声」においては、惑星トゥンツァ(Tthunngtthua)の地下に広がる亜硫酸の海に潜む旧支配者だと競ってされているそうです。無数のおぞましく震える触手の生えた球状の体を持ち、頭頂部にある大きな口からは、聞いた者を麻痺させる嘲笑うような声を漏らし続けているとか。そして理由は不明ながら、ニャルラトホテプとその眷属を極度に恐れているのだそうです。

ミ=ゴ

 またWikipediaによると、ンガ=クトゥンはユゴス(冥王星)支配するミ=ゴという生物の指揮官の名前だとされています。ミ=ゴは特殊な鉱物資源を採取するために地球を訪れているようで、ユゴスもあくまで拠点のひとつに過ぎず、本拠地は遥か彼方の外宇宙、あるいは異次元にあると思われます。よくアメリカはリトルグレイと密約を交わし、人類の拉致などを容認する見返りとして様々な技術提供を受けているなんて話がありますが、このリトルグレイはミ=ゴが対人インターフェースとして創りだしたロボットであるなんて設定もあるとか。

仮説トイレ

 「どんづまりの窮地」:これは他の作品とは違った恐怖を描いていますが、一番恐いといわばこの作品かも。自分がそういう目に遭ったらと思うともう…考えたくありませんね。考えるんじゃない、感じるんだ…ってもっとやばいわ!迫真の描写はむしろ超迷惑(笑)。私は読み切りましたが途中で気分が悪くなる人もいるかもしれません。そうですね、筒井康隆の「最高級有機質肥料」が読める人ならまず大丈夫でしょう。でも食事前や食事中は絶対読まないように。

今日の早川さん

 ところで、「夜がはじまるとき」巻末の解説に出てくる漫画の「今日の早川さん」が気になっています。面白そうなので買ってみようかと思ったら、結構高いのね。図書館に置いてくれないかな…。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

ユースフ

Author:ユースフ
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
カテゴリ
リンク
ブロとも一覧

秒速5センチメートル・・・桜花抄の軌跡を追ってみた

心理兵器:秒速5センチメートル
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
FC2カウンター
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
日記
33位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
会社員・OL
4位
アクセスランキングを見る>>
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

最新トラックバック
検索フォーム
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ