ゲームの名は誘拐:トリックにあっと驚く達人同士のゲームの行方

一気に暖かくなってまさに陽春。桜の花も満開モードです。花が咲くのは結構なんですが、そろそろあいつらも元気に登場ですね。そう、MUSIの輩。虫といってもいろいろいますが、特に嫌なのはGですね。毒があるわけでも刺すわけでもないので、家にさえ入ってこなければ勘弁してやるんですが、なぜにお前らは家に入ってくるのか。火星に行け火星に。そしてタルシアン(by「ほしのこえ」)と殺し合え。


本日はご存知東野圭吾の「ゲームの名は誘拐」を紹介しましょう。光文社の男性向け月刊ファッション誌「Gainer」に2000年10月号から2002年6月号まで連載され、2002年11月19日に光文社から単行本が刊行され、2005年6月14日に光文社文庫から文庫版が刊行されました。

「ゲームの名は誘拐」は、先日紹介した「殺人の門」や、だいぶ前に紹介した「レイクサイド」とほぼ同時期の作品ですが、「このミステリーがすごい!」では2004年版の11位(「殺人の門」は同年18位、「レイクサイド」は2002年版の28位)、「本格ミステリ・ベスト10」では2004年13位(「レイクサイド」は2003年の16位)で、ミステリーとしては両作を上回る評価を得ています。個人的にはもっと評価が高くてもいいのではと思いますが、内容が狂言誘拐だということが軽いものとみられる原因なのかも知れません。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。
敏腕広告プランナー・佐久間は、クライアントの重役・葛城にプロジェクトを潰された。葛城邸に出向いた彼は、家出してきた葛城の娘と出会う。“ゲームの達人”を自称する葛城に、二人はプライドをかけた勝負を挑む。娘を人質にした狂言誘拐。携帯電話、インターネットを駆使し、身代金三億円の奪取を狙う。犯人側の視点のみで描く、鮮烈なノンストップ・ミステリー!

自動車会社の大規模宣伝プロジェクトの中心にいた佐久間は、同社副社長の葛城にプランを「ちゃぶ台返し」されてプロジェクトから外されてしまいます。ここまで広告業界でエリート街道を突っ走り、連戦連勝だった佐久間は大ショック。やけ酒を飲んで酔ったまま勢いで葛城の豪邸を見に行ったところ、屋敷から塀を乗り越えて抜け出す女の姿を目撃します。
追いかけていって接触したところ、女は葛城の長女・樹理でした。実は葛城の昔の愛人に産ませた娘で、愛人が死んだために引き取られたものの、現在の妻や異母妹には煙たがられ続け、針のむしろである家を早く抜け出したい願っていたところ、異母妹の千春と揉めて衝動的に抜け出してきたのだと言います。

自慢のプロジェクトを自称「ゲームの達人」葛城に潰された恨みもあり、佐久間が考えついたのが狂言誘拐。樹理の独立生活資金の奪取と、葛城の鼻を明かすという一石二鳥の作戦ですが、やるからには勝たなければならないというのが佐久間のポリシー。警察の介入も計算に入れて、どうしたら葛城を出し抜けるのかを考え抜きます。
“飛ばし”と呼ばれる他人や架空の名義で契約された携帯電話機、使い捨てメールアドレス、インターネットの掲示板と、15年以上前の作品ですがまだ色あせないテクニックを駆使する佐久間。作戦中に樹理ともわりない仲になったりして。

念願の3億円を首尾良くゲットした佐久間は、一割の3千万円だけを受け取り、残りを樹理に渡します。あとは帰宅した樹理がさんざんシミュレートした警察の事情聴取対策を実行すれば完全犯罪成立だぜということなんですが、帰宅したはずの樹理はなぜか姿を隠したままで、それどころか葛城家は警察に捜索願いを出します。
これは一体どうしたことか?しかしマスコミに報じられた樹理の写真を見て唖然とする佐久間。それは一緒に過ごした樹理とは全く違う顔なのでして。それでは、今まで一緒に狂言誘拐をやってきた樹理は何者なのか?

ということで、狂言誘拐事件を実行中よりも、実行後にあっと驚く展開が待っている作品です。佐久間は色んな女性と遊びますが、結婚をする気はさらさらなく、効率と時間節約をモットーとしているエリートで、物語が彼の視点で進行していなかったらかなり鼻持ちならない人間であるような気がします。
そして被害者側になる葛城も、佐久間視点ということもあるでしょうが、エリートにして上流階級出身という思わず革命を企てたくなるブルジョワジー。いわば悪人対悪人といった様相です。じゃあ樹理だけは…と思いきや、「お前誰やねん!?」ということになってしまいます(笑)。

ストーリー中にあったいろいろな出来事が、真相究明のための伏線となっており、ちゃんと全て回収されているのが凄いです。言ってみればエリートが行うゲームなので、深刻さはあまりないため、そのあたりが重厚さに欠けるとみなされてしまうのかも知れませんが、ゲームといっても全身全霊を傾けて行っているので、読んでいて非常に面白かったです。特に後半。でもこれは是非読んでそのどんでん返しを堪能して貰いたいです。

本作は「g@me.」(ゲーム)のタイトルで映画化され、2003年に公開されています。映画化に際しては、結末部分や登場人物の性格などが大幅に付け足されているそうです。例によって未見ですが。
佐久間役は藤木直人、樹理役は仲間由紀恵、葛城役は石橋凌。仲間由紀恵では美人過ぎる気がします。あと当時仲間は24歳ですが、原作では樹理は20歳そこそこなのでちょっと老けすぎかも。なお東野圭吾も一場面だけ出演しているそうです。原作者が自身の映画に出演するのってよくありますが、東野圭吾は映画好きでかつては映画監督になりたかったのだとか。

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