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殺人の門:東野圭吾版クトゥルフ神話?

花冷えパート2

 いやいや、なんともう4月になってしまいましたよ。しかし天気は悪いしおまけに寒いですね。まさに花冷え。この前も同じようなことを言っていましたが、4月になった今日こそリアル花冷えです。エイプリルフールでもあるんですが、これは日本ではマンガやアニメのネタ程度で現実にはあんまり流行らないですね。嘘をつく主体となるべき学生達が春休み中だということも大きいのでしょうか。

エイプリルフール 

 本日は東野圭吾の「殺人の門」を紹介しましょう。「殺人の門」は2003年8月に単行本が角川書店から刊行され、2006年6月に角川文庫から文庫本が刊行されました。「秘密」でブレイクして人気作家になってからの作品ですが、「白夜行」に匹敵する大長編のわりに地味なせいか人気は今ひとつのような。「このミステリーがすごい!」では2004年に18位にランキングされています。同じ年に直木賞候補ともなった名作「手紙」が56位なんですが、そもそも「手紙」はミステリーではないような。

殺人の門 

 「手紙」と類似している部分といえば、主人公が本人の責任ではない形で不幸な人生に転落していくところですが、「殺人の門」の場合は、小中学生の頃は仕方ないのですけど、それ以降はどうしても“自己責任”という言葉がよぎってしまう部分があります(酷かな…)。それでは例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

東野圭吾の手紙 

 「倉持修を殺そう」と思ったのはいつからだろう。悪魔の如きあの男のせいで、私の人生はいつも狂わされてきた。そして数多くの人間が不幸になった。あいつだけは生かしておいてはならない。でも、私には殺すことができないのだ。殺人者になるために、私に欠けているものはいったい何なのだろうか?人が人を殺すという行為は如何なることか。直木賞作家が描く、「憎悪」と「殺意」の一大叙事詩。

歯医者さん 

 主人公田島和幸は歯医者の息子で、幼少期は結構裕福な暮らしをしてきました。しかし、祖母が70歳という比較的若い年齢で老衰で亡くなったとき、毒殺されたのだという噂が町に広がっていきます。しまいには刑事が尋ねてきたりして。表面上は黙殺の態度をとった和幸の両親ですが、水面下で不和となってやがて離婚に。和幸は父との同居を選択します。

お屋敷に住むお坊ちゃま 

 父子家庭でもちゃんとやっている家庭は沢山あるはずですが、和幸パパンは女にだらしなかったらしく、夜の店の女に入れ上げます。しまいにはその女の情夫に襲撃され、後遺症で手が動かなくなり、歯医者が続けられなくなってしまいます。屋敷など不動産を売ってアパート経営に乗り出しますが上手くいかず、再び女に入れ上げたりして借金がかさんだ末、和幸が高校生の頃に蒸発してしまいます。

 和幸の方はといえば、中学時代は激しいいじめに遭ったり、高校時代は好意を寄せた女の子が自殺したりと上手くいかない青春時代が続きます。パパンが蒸発したため、親戚の助力で高校卒業はさせて貰いましたが、その後は就職一拓です。就職先でも陰湿ないじめにあったりしているので、和幸自身にも何らかの性格的問題があったのかも知れません。

旧版殺人の門 

 が、和幸の人生に黒々とした影を落とすのは倉持修という小学校時代からの知人。友人と書きたいところですが、ぼっち同士接近したという感じであって、趣味が同じとか馬が合うという感じではありませんでした。それどころか、和幸は倉持に何かと「食い物」にされているという気持ちを抱いています。

 実は和幸にも良き友人がいなかった訳ではありません。中学時代には木原という他の小学校から来た友人が出来て親しくしていましたし、就職先では、陰湿ないじめをする先輩社員もいたものの、寮で同室となった小杉は不良上がりっぽい風貌に似合わず、腹を割って話せばいい奴でした。ですがそういう人達との交流が長続きしないというのが和幸の大きな不幸の一端でもありました。

殺人の門POP 

 そして自分の世界、自分の人生を築こうとすると突然現れる倉持。木原との別れは直接倉持のせいではありませんが、高校時代には好意をもった女の子をかっさらわれ(NTRだNTR)、その女の子は妊娠した挙げ句自殺してしまいます。また就職後も怪しげなネズミ講のアルバイトを持ちかけられ、サクラ役をやらされた結果、陰湿ないじめの先輩に逆恨みされて殺されかかり、退職に追い込まれてしまいます。 

 だったらもう倉持とは絶縁しろよと思うのですが、和幸はその後も倉持の紹介でインチキ会社で働いて老人を罠にかける片棒を担いだりしてしまいます。倉持を批判糾弾する気持ちは常に持っているのですが、自分自身の手も黒く染めてしまっては第三者に対する説得力に欠けます。

ねずみ講の仕組み 

 さすがに懲りた和幸、今度は家具屋に勤めてそれなりに平穏に暮らせるようになるのですが、またも金持ちになった倉持が登場。倉持の妻に紹介された女性と交際し、結婚したらこれがとんでもないタマでした。買い物依存症というのか浪費症というのか、とにかく借金してでも買い物をしないではいられないという。

買い物依存症 

 そんな中、家庭生活に疲れた和幸はついつい色っぽい客に誘惑されて浮気をしてしまいますが、すぐに妻にばれ、鬼の首を取った妻はさらに浪費を繰り広げます。離婚しても残された借金と月々の慰謝料を払わされる和幸。そんな中、同情の素振りを見せてぽんと200万円貸してくれたのはまたも倉持。

浮気のイメージ 

 二度と関わるまいと思いつつ、金を借りた引け目でまたも倉持の立ち上げた株売買の会社の役員に名を連ねてしまう和幸。しかしまたも顧客になんだかんだで金を返さないインチキ会社だったので、株式の暴落によって一気に破滅に向かうことになります。

 そして和幸は大きな陰謀に気付きます。そもそも和幸が結婚した相手は倉持の「昔の女」であり、浮気相手は実は結婚相手の知り合いでした。つまり結婚→離婚→借金地獄というトリプルコンボは倉持の壮大なはめ手であったのです。ついに和幸は倉持殺害を決断します。

 実は和幸、これまでにも倉持を殺そうとしたことがありました。しかし出来なかったのは、倉持の釈明がでまかせとは思えなかったことと、倉持があながち虚ばかりでもなく、実もある(ありそう)という複雑な人物だったということがあります。和幸は倉持を見極めようとしてなかなか見極められないうちに機を逃してきたという感じもあります。

 そして殺害を決断した夜も、一足先に別の被害者が倉持を刺してしまったことで決行できませんでした。その時に事情聴取した刑事は「動機さえあれば殺人がおきるというわけではないんですよ。動機も必要ですが、環境、タイミング、その場の気分、それらが複雑に絡み合って人は人を殺すんです。(中略)あなたの場合、何らかの引き金が必要なのかも知れませんね。それがないかぎり、殺人者となる門をくぐることはできないというわけです」これがタイトル「殺人の門」の意味でもあります。

 倉持は一命をとりとめますが植物状態になります。すると色々な人が見舞いにやってきます。驚くべきことに、女達は一様に好意を持っており、被害に遭った男達も「ひどい目に遭ったけど面白かった」と嫌悪一色ではない様子。そんな中、見舞いに来た経営コンサルタントを名乗る紳士に、昔の知り合いの面影を見いだした和幸は、一気に真相に到達することになります。

それはひょっとしてギャグで言っているのか 

 物語は一貫して和幸の一人称で進むのですが、まあ読んでみてこの人の頭の悪さ、要領の悪さ、懲りなさには笑えてきてしまいます。恋愛から結婚のくだりは、こちらとしてはどうせ倉持の罠だろうと感づいているので、ギャグというかコントのようにも感じました。最後の最後に、倉持が和幸に抱いていた複雑な気持ちを理解するに至り、和幸がとった行動は…これはもう実際に読んで確認していただきたいです。

ナイアーラトテップの化身の一つ 

 子供時代からこれだけ人の心を弄び、操り、騙してきた倉持は、もはや普通の人間とは思えないほどです。これだけ悪行を続けておきながら、自分の妻には騙されたという感を持たれていないというのも凄いです。実は倉持は、ナイアーラトテップ(或いはニャルラトホテプ)の化身ででもあるのではないでしょうか。

アザトースさん 

 クトゥルフ神話においては、この宇宙の創造神ともいうべきアザトースがいますが、とてつもなく巨大で絶対的な力をもった存在である反面、盲目で白痴なので、自らの分身として三つのものを生み出しました。それは闇と「無名の霧」とナイアーラトテップです。闇からはシュブ=ニグラス、「無名の霧」からはヨグ=ソトースが生まれており、それぞれクトゥルフ神話においては「外なる神」と呼ばれる、旧支配者以上の高い神格を持っています(特にヨグ=ソトースは最高級の神格とされます)が、いずれもアザトースからは間接的に生じており、唯一直接的に生まれた“這いよる混沌”ナイアーラトテップが、主人であり創造主であるアザトースや他の異形の神々に仕え、知性をもたない主人の代行者としてその意思を具現化するべくあらゆる時空に出没するとされています。

ニャルラトホテプのカード 

 このナイアーラトテップ、クトゥルフ神話の旧支配者、外なる神といった人知を超える存在の中でも最強クラスとされており、人間はもとより他の旧支配者達をも冷笑し続けていますが、自ら人間と接触したり、簡単にひねり潰せる人間をあえて騙して自滅に追いやろうとしたりするなど、しばしばトリックスター的な行動を取っています。人知を超える存在なのでその真意を推し量ることは不可能ですが、和幸という平凡な人間を生かさず殺さず的な状態に保持し続けようとする倉持の意図なんか、多分にナイアーラトテップ的であるような。

ナイアーラトテップのフィギュア 

 ナイアーラトテップの多数の化身は同時に地球上に存在可能で、中には普通に人間として暮らしている者も少なくないそうなので、倉持イコールナイアーラトテップの化身説というのも個人的にはあながち的外れではないような気がします。ニャル子さんとして和幸の前に登場していたのであれば、大分違う人生があったと思いますが。というか、ニャル子さんなら私の所にも来て欲しい。

ニャル子さんだと人生が変わる 
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