赤い指:“家族の闇”を暴く加賀恭一郎シリーズ第7作

最近メイトーの「なめらかプリン」にはまっています。プリン系はそもそも好きなんですが、コンビニで色々試してみた結果、コストパフォーマンスが一番優れているのはこれではないかと。公式HPでの宣伝文句は“風味豊かな牛乳と卵をたっぷり使い、卵の力だけでじっくり丁寧に蒸しあげました。クリーム感が引き立つ、上品な味わいです”ということです。一見量は少なめなんですが、密度が高くて満足感があります。

後は雪印メグミルクの「アジア茶房 杏仁豆腐」。パッケージには「濃厚とろける杏仁豆腐」と書いてあります。公式HPの宣伝文句は“とろけるような食感の、本格的で濃厚な味わいの杏仁豆腐です。「杏仁霜(あんにんそう)」にこだわった杏仁豆腐を、手軽にたっぷりとお楽しみいただけます。”ということです。トロトロ感があって名前どおり濃厚です。杏仁霜てなんやねんと思ったら、杏子の種を粉末に加工して砂糖、コーンスターチ、全粉乳などを添加したものだそうです。コンビニには色んなスイーツが売られていますが、現時点ではこの二つだけをを交互に食べてやっていけます。

さて本日は東野圭吾の「赤い指」を紹介しましょう。最近はまっている加賀恭一郎シリーズの一作で第7弾になり、以前読んだ「新参者」の直前の話となります。シリーズ第2弾「眠りの森」では警視庁捜査一課の刑事だった加賀恭一郎は、所轄刑事となって練馬署で勤めています。優秀な刑事として名を馳せている加賀恭一郎が本庁から所轄に異動したのは、「眠りの森」で恋に落ちた浅岡未緒の裁判で、弁護側の情状証人として出廷したせいのようです。そしてこの後「新参者」でさらに日本橋署に異動する訳ですね。
「赤い指」は2006年7月25日に単行本が講談社から刊行され、2009年8月12日に文庫版が講談社文庫から刊行されました。東野圭吾が「容疑者Xの献身」でで直木賞を受賞した直後に発表された、受賞語第一作の書き下ろし長編小説です。

本作から加賀の従弟で捜査一課刑事の松宮脩平や看護師の金森登紀子など、以降のシリーズ作品にも登場するシリーズキャラクターが登場します。一方、当初から確執があった父隆正は本作中で亡くなります。加賀父子の確執の詳細が判明するのも本作です。それでは例によって文庫本裏表紙の内容紹介です。
少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う直木賞受賞後第一作。

元々短編として発表したものを、長編向きに書き直した作品で、その間に6年間が経過しています。作者曰く「構想6年、執筆2か月」だそうです。「このミステリーがすごい!」 2007年版では9位、2006年の「週刊文春ミステリーベスト10」では4位になっています。文庫本は2009年8月24日付のオリコン“本”ランキングの文庫部門で首位での初登場以来、7週連続首位を獲得し、累計部数は135万部を超えています。
本作は犯罪を推理するものではなく、犯人サイドから犯行の模様が描かれた後、恭一郎達の捜査により真相が暴かれるという「刑事コロンボ」のような倒叙物と呼ばれる形式になっています。なので読者は真相を予め知っており、恭一郎がそこにどのようにして到達するかを見守るという形になるのですが、本作の場合は読者も知らなかった真相の一端を加賀が暴くことになり、驚かされます。

認知症の老人を抱える家庭の物語で、高齢化社会の断面図的な状況の中、普通のサラリーマン家庭だと自分達が思っていた家庭が、実はそれぞれの深刻な問題を抱えていることに見て見ぬふりをしていたものが、遂に臨界点を超えてしまった時に何が起きたか、そしてどのように対処しようとしたかという物語です。
息子が犯した少女殺人事件を隠蔽しようとする家族。しかし警察の追及にどうにも逃れられぬと悟った時にとった、愚かにして非道な手段とは。まあ読んでいて一番腹が立つのは殺人犯である息子・直巳なんですが、中3にして引きこもり気味でペドフィリアの傾向が強く、自らの犯した犯行について罪悪感が乏しく、あらゆる責任は両親など自分以外に押しつけようとするどうしようもない奴です。

そのバカ息子を溺愛する妻八重子が二番目に腹が立つ人物で、我が強くて、自分と息子の直巳のことしか頭になく、姑とは折り合いが悪い。まあ嫁姑問題については一方的にどっちが悪いとは言い難いですが、直巳を溺愛し、罪を償わせようともせず、彼の将来を守ることを第一にし続けます。こんなバカ息子にはろくな未来がないと思うんですけどね。
じゃあ主人公格の夫昭夫に罪がないのかといえばそういう訳でもなく、嫁姑問題や息子の問題に関し、仕事を口実ににはその場しのぎな言動を繰り返して目を背け続けていました。そして冷え切った関係の家族に安らぎを見出せず、水商売の女性と浮気をしていたりもしました。

で昭夫の母にして八重子の姑である政恵は、認知症になった夫を看取った後、掃除中に足を骨折したことで、息子一家と実家で同居することになりましたが、今度は自身が認知症となってしまいました。
唯一の救いは昭夫の妹の田島春美が近所に住んでいて、認知症になった政恵を思い出の詰まった実家から出すべきではないと考え、施設に入れたがる八重子に対し、自分が政恵の世話をすると説得して、毎日のように前原家に通って政恵の面倒を見てくれたことでした。家族に関する問題を何一つ素人もせず、八重子にも強く物を言えない兄の昭夫には呆れかえっています。

愛するムチュコたんが犯罪者になることを回避するために取った外道の手段…それは認知症の政恵が少女を殺したことにしようとするものでした。認知症だから自分が置かれた状況もわからず、故に罪も問われない公算が高く、愛する孫を救うことにもなる…一石二鳥どころか三鳥を狙った虫のいい作戦ですが、それに対して恭一郎がどのように対処するかが本書のキモです。
家族の問題の物語ですが、それは加害者一家のみならず、恭一郎の側にもあります。癌で余命僅かな父の隆正を見舞おうともしない恭一郎。従弟で警視庁捜査一課刑事となった松宮修平は、隆正の妹の子にあたり、母子家庭で苦しい家計だった松宮家に救いの手を差し伸べ、援助してくれたのが伯父の隆正なので、実の父のように敬愛しています。刑事を志したのも、隆正が就いていた仕事だということが大きいようです。

そんな修平は、病に伏した隆正の元を訪ねようとしない恭一郎に大きな不満を抱いていましたが、隆正が息を引き取った後に恭一郎と隆正の深い絆を知ることになります。隆正は、担当する看護婦の金森登紀子と将棋を指しているのですが、実は恭一郎が指示した手を打っているだけでした。つまり隆正は恭一郎と将棋を指していたことになります。恭一郎のママンは20年前に失踪し、5年前に孤独死しているのが発見されました。修平はだから恭一郎が隆正に辛く当たっているのかと思っていましたが、実は孤独に死ぬことを望んで恭一郎に見舞いに来るなと命じたのは隆正の方だったのです。修平にも来るなと常々言っていましたが、何も知らない修平は恭一郎が来ないことに反発し、却って頻繁に顔を出していたのでした。

2011年1月3日ににTBS系「日曜劇場」枠で「東野圭吾ミステリー 新春ドラマ特別企画 赤い指〜「新参者」加賀恭一郎再び!」と題してテレビドラマ化されています。恭一郎を演じる阿部寛は、本作を加賀恭一郎シリーズの中で一番好きな作品と公言しており、原作に近づけて演じたそうです。
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