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お文の影:宮部みゆきお得意の江戸の怪異譚

梅は咲いたか

 あっという間に2月ですね。11月に初雪が降って先々が思いやられましたが、それ以降大した降雪がなくてなによりです。もうすぐ節分&立春ですが、まだまだ油断はできません。 

お文の影文庫版 

 本日は宮部みゆきの「お文の影」を紹介しましょう。単行本としては「ばんば憑き」のタイトルで2011年3月に角川書店から刊行され、文庫版は「お文の影」にタイトルを変更して2014年6月に刊行されました。収録内容には変化はありません。

ばんば憑き 

 短編6編から構成され、「ぼんくら」シリーズや「三島屋変調百物語」シリーズの登場人物が登場する作品が含まれています。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 「おまえも一緒においで。お文のところへ連れていってやるよ」月の光の下、影踏みをして遊ぶ子供たちのなかにぽつんと現れた、ひとつの影。その正体と、悲しい因縁とは。「ぼんくら」シリーズの政五郎親分とおでこが活躍する表題作をはじめ、「三島屋」シリーズの青野利一郎と悪童3人組など人気キャラクターが勢揃い!おぞましい話から切ない話、ちょっぴり可笑しい話まで、全6編のあやしの世界。

壺の絵の掛け軸イメージ 

 「坊主の壺」。コレラが猖獗を極める江戸末期。家族を失ったおつぎは材木問屋の田屋が設置したお救い小屋に引き取られます。コレラ菌の正体も対処法を未解明だった時代ですが、田屋の主人・重蔵はなぜか的確な指示でコレラを防ぎます。そんな中、重蔵が掛けた壺の掛け軸を見たおつぎは、壺の中に坊主がいるのを見ますが、他の人には壺しか見えない様子。おつぎの様子をみた重蔵は、不思議な話を語って聞かせます。

コレラのイメージ 

 伝染病などに対して的確な対処が可能になる代わりに、眠っている時に触手系の怪物に変化してしまうという宿命を持つ「坊主の壺」の継承者。明治大正昭和と時代が下っていくとだんだん必要性が失せていくような気がしますが、その由来とか正体とかが一切不明なのが釈然としませんが、怪談ってそういうものかも知れませんね。

影踏み 

 タイトル作「お文の影」。長屋の子供達が十三夜に影踏み遊びをしていると、主のない影が一つ混ざっているのが見つかります。相談を受けた政五郞親分は、長屋のある土地の来歴を調査してみると、かつては怪異が起きる忌み地であったことを知ります。

十三夜 

 茂七大親分の昔の捕り物譚を全て記憶している「おでこ」が語った昔話は、予想を越えたおぞましくも哀しい物語でした。独りぼっちで自分の影だけが遊び友達だった女の子・お文が無残に虐め殺されるという話は本当に胸くそ悪いですが、しかも殺した側が怪異になるという理不尽ぶり。お文の魂は西方浄土に向かったそうですが、なぜか取り残された影法師が彷徨っているというのが寂しいですね。

狛犬 

 「博打眼」。餓死した50人の死体や埋葬した地面の土を使ってこしらえるという恐怖の人造怪異・博打眼。契約者は、博打のような勝負事にはことごとく勝てる反面、すさんだ生活の中で身体を壊して短命になってしまいます。金儲けに執念を持った先祖が博打眼と契約したため、一族に取り憑いた博打眼が、新たな契約者を求めて醤油問屋近江屋にやって来ます。なんとか空き土蔵に閉じ込めますが、退治法は皆目検討もつきません。

犬張り子 

 近江屋の娘・7歳のおしゃまなお美代は、近所の古い八幡宮の狛犬が理解不能な言葉を発するのを聞き、東北から引き取られた孤児の竹兄のお国訛りに近いと感じ、竹兄を連れて来たところ、狛犬は博打眼の退治法を教えてくれました。神社の門番だけでなく、怪異退治にも役に立つ狛犬は実にありがたいですね。皆で磨いて大事にするのは当然ですが、主人筋である八幡宮の方はおろそかにしていいのか(笑)。

討債鬼

 「討債鬼」。家督を巡って兄弟が争った過去がある紙問屋大之字屋。結局兄が急死して弟の宗吾郎が相続しましたが、毒殺説など穏やかでない噂もあります。そこへ謎の乞食坊主・行然坊が突如やって来て、大之字屋の跡取り息子・信太郎には討債鬼が取り憑いていると言い出します。後ろ暗い過去がある主人はあっさり信じて息子を殺そうとしますが…

寺子屋 

 討債鬼とは中国に古くから伝わる怪異で、金を奪われたり借金を踏み倒されたりした者が、加害者の子供に転生して、奪われたり、踏み倒されたりした金額だけ分だけ親の金を蕩尽するというものだそうです。

願人坊主 

 侍だからと信太郎殺しを依頼されたのは、息子が通う寺子屋の若先生・青野利一郎ですが、とりあえず行然坊の狙いを探索すべく、寺子屋の腕白トリオに探らせつつ、信太郎を保護します。利一郎から逃げ回っていた行然坊ですが、腕白トリオの手引きもあって無事会見に辿り着きます。そこで判った意外な真実。二人は図り合って、討債鬼退治を演出します。100ページ近くあって一番長い短編ですが、それだけに展開が二転三転して面白かったです。

ばんば憑きその2

 「ばんば憑き」。元はタイトル作でした。小間物商伊勢屋の若夫婦がなかなか子宝に恵まれないということで箱根に湯治に行き、その帰りに戸塚で雨に降られます。お嬢様育ちのお志津は雨の中の旅など考えもせず、婿養子の佐一郎は一生懸命にご機嫌取りをしますが、足止めされた旅客が増えて老婦人と相部屋しなければならなくなります。すっかり機嫌を損ねて大酒を飲んでふてくされるお志津。その明け方、佐一郎は老婦人から過去の奇怪な話を聞くことになります。

憑依? 
憑依?その2 

 ばんば憑きとはある地方に伝わる奇怪な風習で、殺人事件が起きたとき、被害者の魂を加害者の身体に取り憑かせるというものです。横恋慕から起きた若い女性同士の殺しに際し、ばんば憑きが行われた結果、被害者の魂は加害者に宿ったということですが、昔話を終えた後、老婦人は首を吊ってしまいます。実は昔話のばんば憑きをされたのは老婦人本人だったのではないかと思う佐一郎は、息苦しい婿養子生活に戻ろうとする中で、なんとかその方法を知ろうとします。それだけが唯一の逃げ場だという重苦しい運命が辛いです。

 水木しげるによる野槌

 「野槌の墓」。「野菊の墓」のパロディみたいなタイトルですが、別にそういうことはなかったぜ。ネコマタや付喪神などの怪異がたくさん登場する面白いけど哀しい作品。妻に先立たれて娘の加奈と裏長屋に住んで何でも屋をやっている柳井源五郎右衛門。そこに依頼に来たのはなんと長屋の猫・タマ。実は100年生きるネコマタだったんですね。タマがいうには、仲間の怪異が人を殺めてしまった。もう仲間にしておけないので退治して欲しいと。

龍王ノズチ 

 その人殺しの怪異が「野槌」です。木槌の付喪神ですが、時間が経過すると蛇のような怪異になってしまうとか。むしろ蛇のような怪異としての野槌の方が有名で、野の精霊(野つ霊)が由来だとか。蛇のような怪異として知られ、有名なUMAであるツチノコは野槌の伝承に由来しているそうです。つまり「野槌の子」という意味ですね。メガテンシリーズには龍王ノズチとして登場していました。龍王は大袈裟過ぎる気もしますが、蛇系の怪異ということで龍族に分類されたのですね。

猫又 

 本作の野槌は、実は子供を殺すのに使われた木槌で、付喪神になって平穏に他の怪異と暮らしていたところ、怪異達の住処付近に捨てられた子供の遺体を見たことで「心が破れ」て人に仇成すようになってしまったそうです。実は付喪神ではなく殺された子供の魂が怪異になっていたのでした。これも哀れな話ではあるんですが、救いは男やもめの源五郎右衛門の娘の加奈がひたすら愛らしいこと。男手一つでこんな健気な娘が育つのか。こんな娘がいたらどんなお父さんでも頑張っちゃうぞ。そして嫁に出して泣くと。

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