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丕緒の鳥:「十二国記」シリーズ最新刊(4年前刊行ですが)

サムゥイ20170118

 アツゥイ!!ならぬサムゥイ!!と言いたくなる昨今です。暑いのは大嫌いですが、寒いのもそれはそれで厳しいですね。筑波嶺は雪がないだけましですが、金曜日は雪の予報も。

丕緒の鳥 文庫版 

 本日は小野不由美の「丕緒(ひしょ)の鳥」を紹介しましょう。「十二国記」シリーズの最新刊ですが、小野不由美も「十二国記」シリーズも当ブログで取り上げるのは初めてだったりして。いや読んでるんですよ「十二国記」。実は文庫化されていない「漂舶」以外は全て読みました。でもブログ開始前だったんですねえ…

小野不由美 

 小野不由美は1960年12月24日生まれで大分県中津市出身。京都の大谷大学文学部仏教学科に入学し、在学中に京都大学推理小説研究会に所属しました。同時期には、ミステリー作家となる綾辻行人・法月綸太郎・我孫子武丸がいました。綾辻行人とは1986年に結婚しています。

綾辻行人 

 小説家になろうと積極的に考えたことはなかったそうですが、大学時代に書いた小説を読んだ編集者に勧められ、1988年に「バースデイ・イブは眠れない」で講談社X文庫ティーンズハートからデビューしました。翌年から開始した「悪霊シリーズ」は足掛け5年つづく人気シリーズとなり、後にコミック化やテレビアニメ化されました。

バースデイ・イブは眠れない 

 そして1992年、「十二国記」シリーズの第1作「月の影 影の海」を発表し、同シリーズは小野不由美はの代表作となっていますが、25年を経た現在もなお未完です。実は1991年に発表した「魔性の子」も十二国記シリーズの一編なんですが、他のシリーズの作品と異なり、「十二国記」の世界が現実世界の人間社会に干渉したときの恐怖を、現実世界側からの視点で描いたホラー色の濃い物語となっています。

魔性の子 

 当初は単独作品だった「魔性の子」ですが、小野不由美はこれを執筆する際に背景となる世界を作り、地図や年表、図表なども作っていたということで、講談社の編集者からこの想定世界自体をファンタジー小説化するように勧められ、「十二国記」シリーズが生まれたのでした。

残穢 

 文学賞にはノミネートされるものの縁遠い状態が続いていましたが、遂に2013年に長編ホラー小説「残穢(ざんえ)」が第26回山本周五郎賞を受賞しました。本作は映画化され、2016年1月に「残穢 -住んではいけない部屋-」というタイトルで公開されています。

月の影 影の海(上) 

 「十二国記」シリーズは、ラノベ系の文庫レーベルである「講談社X文庫ホワイトハート」から刊行されていましたが、ファンタジーながら緻密な設定や骨太な内容はラノベらしからぬ風格があり、改めて講談社文庫からも刊行されています。ラノベだと大人が手に取りにくいので、この措置は賢明だったと思います。

 「十二国記」シリーズを語るととても一回では終わらないのですが、端的に説明すると、天帝なる存在が混沌としていた世界をリセットして再構成した世界で、不老不死の神仙や妖魔が跋扈する世界に、整然と配置された12の国が舞台となっています。各国では神獣である麒麟が資質のある人間を選んで王となし、神仙となった王は諸侯を封じ、高官を任命して政治を行います。王は不老不死なので永遠に統治しうるのですが、天が定めたとされる絶対のルールを破ったり、何らかの理由で充分な統治ができなくなったりすると麒麟が病み、麒麟が死ぬと王も死んでしまいます。

十二国の地図 
 
 この世界では生物は木から生まれるので、女性は出産しません(多分生理もない)。だったらセックスも必要ない気がしますが、なぜか性欲はこの世界にも存在し、売春宿とかもあったりします。また世界は球形をしていないようで、外海(虚海)に船出した者は二度と帰って来ません。しかしなぜか現実世界の日本とか中国とは繋がっているようで、「蝕」と呼ばれる現象が起きると二つの世界を往来することがあります。

 現実世界とはかけ離れた構造の世界ですが、そこでも不幸や不条理は絶えることはなく、一般市民は様々な辛酸を嘗めることになっています。それに世界の構造そのものの不自然さに気づく者もいて、敢えて「天帝」とか天命なるものに挑戦するような振る舞いを行ったりもしています。

 ランス世界の地図

 この世界を誰が何のために創ったのか…という話になるのかと思っていたのですが、どうやらそういう世界の謎を解き明かす方向には行かないようですね。個人的にはアリスソフトのランスシリーズの世界観に近いんじゃないかと思ったりするのですが。

創造神ルドラサウム 

 ランスシリーズの世界は、巨大な白鯨に似た姿の創造神ルドラサウムは、自分の無聊を慰めるために自身の身体から三超神を生み出して世界や管理者の神や天使、観察の対象となるメインプレイヤー(今は人間)、その敵である魔物を作らせました。人間達が様々な思惑からドラマチックに行動し、そこから生み出される苦しみ、憎しみ、哀しみ等の負の感情を心地よく思い、それを生む死や破壊を愛好し、悲劇と混乱の観賞をこの上ない愉悦としているそうです。なんという外道!と言いたいところですが、実は世界全ても人間の魂もルドラサウムの一部に過ぎず、言うなれば暇な人間が鼻毛を抜いているようなものなのです。

十二国記 

 「十二国記」の天帝はそれほどド外道ではないかも知れませんが、作中においてほとんど記述されず、王の即位の儀式においても姿を現さず、実在が疑問視されているので、案外下界の混乱を眺めて喜んでいたりなんかして。或いは引きこもりニートの「ぼくがかんがえたさいこうのせかい」的な妄想だったり…。

 「丕緒の鳥」は2013年6月26日刊行。最新刊というわりに4年近く経過してから手にすることになりましたが、図書館で借りているから仕方が無い(笑)。短編四編から構成されています。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

十二国記の最新刊

 「希望」を信じて、男は覚悟する。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる「大射」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕緒は、国の理想を表す任の重さに苦慮していた。希望を託した「鳥」は、果たして大空に羽ばたくのだろうか―表題作ほか、己の役割を全うすべく煩悶し、一途に走る名も無き男たちの清廉なる生き様を描く全4編収録。 

 タイトル作「丕緒の鳥」は、シリーズの中心人物である陽子が慶国の女王に就任する前後の話です。鵲(かささぎ)に似せた陶鵲を射る「大射」という儀式があり、その準備をするためだけに存在する下級役人が丕緒です。かつては創意工夫をこらして陶鵲を作っていた丕緒ですが、王の暴政で親しい人を失ったことでやる気を失っていましたが、新王に自分の思いを込めた陶鵲を見せるべく、大射に臨みます。行事は成功し、丕緒は新王に呼び出され、「今度は二人で見たい」と丕緒に語りました。丕緒は今回の一件で満足して官を退く気でいたが、陽子の言葉を聞いて、波を越えて矢をかわして彼女の下に飛び込む1羽の陶鵲を思い描きます。三代続いて女王で、しかも短命だったことで慶では女王を喜ばない風潮がありますが、陽子は多分明君になるんじゃないでしょうかね。

十二国記の人々 

 「落照の獄」は、120年続いた法治国家柳国の話です。最近どうも王に統治をする気が失せてきており、国が沈む予感に満ちている柳国。そんな気配故か、犯罪が特に少ない国でしたが、最近は凶悪犯罪が増えてきています。3度の前科がある上に16件・23人もの人間を無惨に殺した男が捕らえられます。当然死刑…と言いたいのですが、王は長年死刑を停止していました。今回も王が死刑はなしと勅令をだせばいいのですが、なぜか意欲を失っている王は「司法に任せる」としか言いません。判決を下す司法府の3人は審理に詰まり、直接犯人に面会しますが…。現実世界の死刑制度の是非に直結するような作品で、作中の議論はファンタジー世界とは思えない重さを持っています。

 「青条の蘭」は雁国の話。雁は現王の治世が500年にも及び、北方で最も豊かな国となっていますが、それ以前は先王の圧政とその後の長い空位により、国が荒れ果てていました。そんな中、山の生物を養い、保水作用により災害を防いでいたブナが石化するという奇病が発生します。山々を見回る地方官の標仲は、疫病の薬となる草木を探し、特効薬となるらしい「青条」を発見します。しかし、青条は人の手では育てるのがやっとで殖やす事は出来ませんでした。奇病が一向に収まらない中、新王が即位したという話を聞いた標仲は、王に願い出て青条の卵果を実らせてもらうため、厳冬の雪の中、王宮まで青条を届けようとします。しかし、荒廃した国土や官吏の横暴などの妨害により、その道のりは長く険しいものでした…。途中で力尽きた標仲ですが、手助けをしたのは理由も知らないままの一般市民でした。なんとなく「走れメロス」を彷彿とさせる作品です。立った王が明君で良かったことです。

十二国記の人々その2 

 「風信」も陽子即位直前の慶国の話。先王は嫉妬に狂い、国からすべての女を追い出すよう布告しましたが、蓮花の住む街では、女たちは目立たぬように外出を避けつつも家に留まり続けていました。しかし、軍隊がこの街を襲い、蓮花は両親と妹を殺されてしまいます。蓮花は生き残った女たちと共に故郷の街を脱出しますが、途中で幼馴染みが絶望から自ら命を断ったりします。途中の摂養の街で王が死んだという知らせを聞いて、女たちは故郷に戻っていきましたが、蓮花はそこに留まることを選び、暦を作る保章氏の嘉慶の園林である槐園で下働きとして暮らすことにしました。嘉慶やその部下たちは浮き世離れして暦作りに専念していましたが、蓮花はそこでの生活を楽しんでいました。ところが、偽王という噂のある新王が出現し、これに与する州の軍が、新王に恭順しない摂養の街を襲撃しました。蓮花は外の凄惨な現実に目を背けて何もしない嘉慶らの浮世離れした生活を罵りますが、嘉慶は自分たちは暦を作らないといけないし、それしかできることがないと蓮花に語り返します。摂養の街はすぐに恭順したため、街の被害は比較的軽く済みました。そして蓮花は、嘉慶の部下である候風の支僑の手伝いで燕の巣と卵の調査を行い、雛が増えていることから本当の王の即位を予感し、自分の未来を飛び立つ燕に重ね合わせるのでした。

十二国記の妖魔 

 本作については、王と麒麟の物語が主軸を占める他の作品とは違い、比較的下級の官吏や一般市民の姿を描いています。それにしてもいくらファンが多いシリーズとはいえ、12年ぶりという新刊は、あまりに遅くないですかね。それに内容が重いんですよ。特に「落照の獄」なんかは「十二国記」シリーズでやる必要があるのかと思います。シリーズの“行間”を描いた作品群ということになるのでしょうが、どうして不老不死の身になっても金銭欲や権勢欲が絶えないのかとか世界の抜本的な謎について言及して欲しいなあと思います。でも次の長編で終わりだという話が。おそらく泰麒と泰王の話に決着を付けるものとなるのでしょうが、世界の謎には食い込めるのでしょうかね。

饕餮 
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