地下鉄に乗って:ほろ苦SFファンタジーテイストの浅田次郎初期の名作

リアル明里パパンから届いたお正月のリアル明里ちゃんです。相変わらず食欲旺盛のようですね。たくさん食べて元気に育って欲しいけど、フードファイターへの道はどうかなとかおじさん思ってしまいますよ(杞憂)。

本日は浅田次郎の「地下鉄に乗って」を紹介しましょう。「地下鉄」と書いてメトロと読みます。浅田次郎は様々な職業を遍歴しながら投稿生活を続け、1991年に小説家としてデビューしましたが、当初は悪漢(ピカレスク)小説を中心とした作家として認知されていました。1995年刊行の本作が吉川英治文学新人賞を受賞したことで、初めて新聞に著作の広告が載ったそうです。

さらに1997年に「鉄道員」で直木賞を受賞して地位を確固たるものとしました。その後も、2000年に「壬生義士伝」で柴田錬三郎賞、2006年に「お腹召しませ」で中央公論文芸賞と司馬遼太郎賞、2008年に「中原の虹」で吉川英治文学賞、2010年に「終わらざる夏」で毎日出版文化賞、2016年に「帰郷」で大佛次郎賞と、数々の受賞に燦然と輝く、日本を代表するベストセラー作家の一人となっています。その源流が鉄道関係というのもは何かの縁なんでしょうか。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

永田町の地下鉄駅の階段を上がると、そこは30年前の風景。ワンマンな父に反発し自殺した兄が現れた。さらに満州に出征する父を目撃し、また戦後闇市で精力的に商いに励む父に出会う。だが封印された“過去”に行ったため……。思わず涙がこぼれ落ちる感動の浅田ワールド。吉川英治文学新人賞に輝く名作。

主人公の小沼真次は40代半ばの冴えないおっさんで、スーツケース一杯に詰め込んだセクシーなランジェリーなどを水商売のお姉様方に売り歩く営業を行っています。オイオイしがないな~と「上から目線」になりそうになったのですが、実は妻子持ちながら会社のアラサー美人デザイナーと情事を重ねているという、なんなんだよこのリア充はよー!と文句を言いたくなる境遇(べ、別に羨ましい訳じゃないんだからねッ!!)。

しかーし、真次のリア充ぶりはただ事ではないのです。なんと父は一代で大企業を築き上げた立志伝中の人物で、旧華族の豪邸に住み、一流高校に通っていました。じゃあなんで落魄した生活をしているのかと言えば、その父があまりに家族に対して暴君で、兄が父と衝突した挙げ句に自殺した夜の父の態度があんまりだったので家を飛び出しているんですね。

謝って帰宅すればすぐ大企業の役員になれそうですが、真次にはその気は全くなく、むしろ父が倒れて重態だと知っても病院に行こうともしません。母も家を出てしまい、弟だけが父の会社の副社長となっていますが、収入は高くても家庭は崩壊状態となっています。

そんな一族バラバラな小沼一族ですが、兄の命日、真次は不思議な体験をします。地下鉄の出口を上がったら、なぜか30年前、兄が死を選んだその夜にいることに気づいたのです。生前の兄に遭遇した真次は、兄を説得して家に帰します。これは過去改変か?バックトゥザフューチャーか、はたまたSTEINS;GATEなのかと思いましたよ。

ですが、元の世界に戻ってみたら、別に世界は変わっていませんでした。ただの夢だったのか?それとも運命線はそう簡単に変わらないのか?ですが、タイムスリップはその後も続き、なぜか真次の愛人であるみち子までもが巻き込まれるようになります。戦後の闇市の銀座、戦中の新橋での出征風景、さらには戦前のモボモガが闊歩していた銀座と、果てはソ連軍進行中の満州と、様々な時代を体験する二人ですが、共通して登場するのがどうやら父の若き日の姿であることに気づきます。これは何者の意志なのか?そして目的は?

過去改変によるハッピーエンドものなのかと思いきや、実は全然違ったという良い意味での裏切りがさすがは浅田次郎だと思います。結局過去改変はないのかと言えば…実はあるんですが、その結末は非常に苦いですね。ほろ苦いけど、結局はそれでいいのかなあ…。いや、個人的にはやはりちょっと納得できんなと思ってしまいます。過去改変は自分自身に対してしか可能ではないのでしょうか。あんまり書くとネタバレになってしまうし、結末を知らないで読んだ方が絶対いいと思うのでこれ以上は止めておきますが。

それでも敢えて言わせてもらえばですね……これって本当にいい話なのかな?誰かを犠牲にした幸せって本当の幸せなの?それに、そういうの(意味深)って、昔はタブーじゃなかったみたいですよ。あんまり気にしなくてもいいんじゃないですかね、当事者が良かったら(さらに意味深)。あとSF者的には思いっきりタイムパラドックスが発生していまっせ。

本作は2000年にミュージカルとして舞台化され、2006年には映画化がされています。さらにテレビ朝日系で「もういちど地下鉄に乗って」というタイトルでアナザーストーリーがドラマ化されています。例によってどれも未見なんですけどね。

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