こんにちは刑事(デカ)ちゃん:史上最年少の探偵登場

皆さんメリー・ユール!!本当は明日なんですが、日本ではなぜか前夜祭の本日がメインになっていて、本番の明日は事後感が漂ってますよね。信仰なしでイベントだけあやかるとこんなものなのか。

それはそれとして、北海道は大雪で大変みたいですね。札幌では積雪が90センチを超え、12月としては50年ぶりの大雪となっているとか。今は筑波嶺近辺住まいですが、3月まではお世話になっていたいわば第二の故郷。気にならないわけがありません。新千歳空港では6000人が足止めされて空港内で一夜を明かしたとか。私も飛行機が遅れてなぜかJRが止まって往生したことがありました。知らないリーマンと相乗りでタクシーに乗って札幌に辿り着きましたが、空港泊は大変でしょうねえ。北海道だから寒くはないと思いますが、中には空港内で2泊した観光客もいたとうことです。そ、それは実にツラい。

さてそういうことは全くさておいて今日の本題に。本日は藤崎翔の「こんにちは刑事(デカ)ちゃん」を紹介します。藤崎翔の作品は初めて読みました。

藤崎翔は1985年生れで茨城県出身。茨城県の高校卒業後、上京して東京アナウンス学院に進学し、ここで三島祐一と出会って2004年にお笑いコンビ「セーフティ番頭」を結成しました。同期には柳原可奈子がいます。藤崎翔はネタ作りを担当し、NHKの「爆笑オンエアバトル」に5回挑戦、1回オンエアされました。

2010年にコンビを解消(相方はピン芸人で活動)、その後アルバイトをしながら小説を執筆し、様々な文学賞に応募し、2014年に処女長編ミステリー「神様のもう一つの顔」(刊行時に「神様の裏の顔」に改題)で第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、小説家デビューしました。現役のお笑い芸人が小説を書くというのは、直木賞を受賞した又吉直樹を頂点として、ビートたけしとか島田洋七など結構いるのですが、この人の場合はお笑いからの転身組ということになりますね。

それまで書いていたのはお笑いのネタのみでしたが、ネタ作りの参考に見聞を広げるために読書はしており、図書館で松本清張や筒井康隆の全集を読んでいたそうです。早朝のバイトを終えてから、家賃4万5000円のアパートにこもって夜9時ごろまで書き続けたそうで、夏場は冷房代がもったいないので浴槽に浅く水を張って裸でつかりながらチラシの裏に書いていたとか。
「こんにちは刑事ちゃん」は文庫描き下ろしで、2016年4月25日に中公文庫から刊行されました。まんまダジャレなタイトルにちょっとひねた赤ちゃんのイラストの表紙で、結構とぼけた雰囲気ですが、結構本格ミステリー作品だったりします。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

ベテラン刑事・羽田隆信は後輩の鈴木慎平と殺人事件の捜査中、犯人に撃たれ殉職した――はずだった。目がさめると、なんと鈴木家の赤ちゃんに生まれ変わっていた!? 最高にカワイイ赤ちゃんの身体と、切れ味鋭いおっさんの推理力で、彼は周囲で巻き起こる難事件に挑む! 笑って泣ける衝撃のユーモア・ミステリー、誕生!
主人公羽田隆信は50歳。優秀な刑事を自認し、鋭い推理から「鷹」の異名を取る…と自分では思っていましたが、実際には、禿頭と死肉でも食ったのかというほどひどい口臭から「ハゲタカ」の異名を取っていました。禿はどうしようもないけど、口臭は何とかしようよと思ったら、自覚がなかったらしいです。教えてくれたらブレスケアしたのにと死んでから思ったものの、まさに後の祭り。

その羽田刑事(階級不明)、落選した市長が殺されるという殺人事件の捜査に入り、部下の鈴木慎平が妻が出産ということで先に帰したことろでドヤ顔で犯人を当てたところ、なんと犯人は拳銃を持っており、まさかの殉職と相成りました。
無念じゃ、死んでも死にきれない…という思いが誰か(或いは何か)に通じたのか、隆信の魂は転生し、なんと慎平の息子玲音(レノン)として生まれ変わったのでした。心はおっさんだけど身体は新生児。最初の数ヶ月はどうにもなりませんでしたが、徐々に身体がしっかりしてくるにつれ、刑事魂が甦ってきます。

部下夫婦に全面的に世話になりつつ、部下の妻・明奈のおっぱいを飲むことに背徳感を感じたり(授乳プレイ?)、図らずも夫婦の営みを聞いてしまったりと、いろいろ戸惑うことがありつつも、明奈と外出する際などに聞いた事件について、さりげなく慎平に事件解決のヒントをスマホで提示したりしていましたが、ついに慎平にはばれてしまいます。
色々と感情のしこりはありつつも、こっそりと隆信に捜査協力を頼み始める慎平。そしてさすが自称「鷹」だけあって、隆信の推理は冴えまくるのでした。しかしどうやら隆信のタイムリミットは1年間で、次第に本来の「玲音」になってしまう時間が増えていきます。果たして隆信は「今生の悔い」である元市長殺人(兼自分殺し)の犯人を捕らえることができるのか?

自分で現場に行かずに推理する探偵のことを「安楽椅子探偵」といいますが、ベビーカー探偵というのは史上空前ではなかろうか。隆信は推理力はあるのですが、刑事だけに「現場百回」が信条。そのため現場に行きたがるのですが、堂々と事件現場に向かう訳にもいかず、なんとか理由をこじつけて慎平と一緒に向かったりします。
1歳未満だと普通はしゃべれないのでしょうが、なにしろ精神は50歳のおっさんなので、舌足らずながらしゃべることが可能な隆信。また理不尽なガン泣きとかも一切しませんが、あんまり手が掛からなくてもそれはそれで明奈を不安にさせてしまうので、赤ん坊の行動をスマホで見て勉強したりして。ママ友とのやりとりや保育園など、隆信が初めて経験することも多く、非常にユーモアが詰まっています。やはり元お笑い芸人的にはギャグをぶっこみたくなるんでしょうか。

あと、ある事件に関して隆信の妻と娘に再会することになりますが、もちろん赤ちゃんなので全く気づかれません。なにしろ殉職なので年金とかはしっかりしているはずで、わりと元気にしているのに安心しつつ、そんなに悲しんでないのかとがっかりしたり。しかし、今まで気づかなかった妻や娘の本当の気持ちを初めて知ったりもするのでした。
基本隆信が推理して確証を得るための方法を慎平に授ける…というのがパターンですが、一冊だけで終わってしまうのがもったいない設定です。一年という時間が変えられないまでも、その間他にもいろいろあったということでもう2~3冊はいけるんじゃないでしょうか。

期限である1年が立つ直前、ついに自分を殺した犯人に遭遇するのですが、なんと人質に取られてしまったり。何しろ赤ちゃんだからろくな抵抗もできない絶体絶命の中、しかも時々玲音に入れ替わってしまうという状況で果たして隆信は血路を切り開かけるのか。
わりと感動的なラストの後、やはりお笑いの誘惑に勝てなかったのか、かなり壮絶なオチがつくのですが、その裏に続編として「こんにちは警察犬(ワン)ちゃん」を刊行予定としているのですが…これはギャグですよね?21世紀中に刊行予定とかしているし。まあ出たら出たで読んじゃうと思いますが。こういうユーモアをぶっちぎったギャグミステリーというのも毛色が変わっていて面白いですね。

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