ビッグ・ドライバー:いずれも映画化されたスティーヴン・キングの中編集

12月はボーナスシーズン!ということで、カードを使ってつい買ってしまいました。新たな腕時計を。スマホがあれば腕時計なんかいらないという人もいますが、いちいち取り出してボタンを押すよりも、パッと見て時刻が判る腕時計はやはり便利に思います。ファッションにはほとんど興味のない私が唯一関心を示すのが腕時計かも知れません。

ということで購入したのがシチズンのエクシード。ライバルはセイコーのドルチェあたりでしょう。昔、セダン車に明確なヒエラルキーが感じられた時代に例えれば、トヨタのマークⅡとか日産のローレルクラスといったところでしょうか。

当ブログでも記事にしましたが、2013年3月にオシアナス マンタOCW2400-1AJFを購入しておよそ3年半使ってきました。デザインとか性能に不足はなかったのですが、問題がないわけでもありませんでした。
① 意外に傷つきやすい…いやあ、チタンって結構柔らかいんですね。自分的には結構高い買い物したので、早いうちから傷ができたのには凹みました。ま、それも個性といえば個性なんですが。
② 札幌では電波を拾いにくい…これは深刻でした。夜にベランダに出して福島方向に向けても何度もチャレンジしないと電波を拾ってくれませんでした。これはカシオだからというより、地理的な問題なんでしょうけど。

そこで世界中で電波を受信できるというGPS衛星電波時計が欲しいなと思いまして。知り合いがセイコーアストロンを購入してドヤ顔していたこともあって、向こうがセイコーならこっちはシチズンしかあるまいと。当初はオシアナスに近い色あいのアテッサのこのモデルを考えていたのですが、店で見た瞬間エクシードに一目惚れしてしまいました。



実はこれまでの腕時計人生(?)において、私とセイコーってあんまり接点がありませんでした。アルバのデジタル時計くらいでしょうかね。一方シチズンは、大学入学時にVEGAのアナデジを買い、就職時にFORMAを買ったのを覚えています。どちらも普通はお祝いに貰いそうなものですが、誰もくれないから自分で買うしかなかったという(涙)。

そして20世紀最後に買ったのがアテッサのエコドライブモデル。これが動かなくなって、それ以降カシオのオシアナスに寵愛が移って10年間が経過したというところで再びシチズンに回帰することになりました。シチズンの時計に感じることは、とにかく丈夫で傷つきにくいということでしょうか。エクシードというと上品かつシンプルなデザインと思っていたのですが、今回購入したのはアテッサのそっくりさんです。それもそのはず、ムーブメントのキャリバー(F900)は同じなんです。子供時代に松本零士のメーターに脳をやられているせいで、もう年なんだからシンプルなのにしようよと思っても、どうしても多針式を選んでしまいます。限定500本モデルということで、幾久しく共に。

それでは本題です。本日はスティーヴン・キングの「ビッグ・ドライバー」を紹介しましょう。本書は2010年に刊行された中編集「Full Dark,No Stars」に収録された4本の中編中の2本が収録されたものです。残り2本は「1922」という名で分冊されています。このあたり、短編集の「Just After Sunset」が「夕暮れをすぎて」と「夜がはじまるとき」の二冊に分冊されているのと同様、日本市場では一冊にするにはボリュームが大きすぎるのでしょう。

「モダン・ホラー」の開拓者にして第一人者とされるキングは作家生活40年を超えている訳ですが、まだ70歳前ということで精力的に書き続けているのですね。もうお金は十分に稼いだだろうと思いますが、金のために物語を紡いできたわけではないそうなので、金持ちになったとかいうことは「そんなの関係ねぇ!」なんでしょうね。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

小さな町での講演会に出た帰り、テスは山道で暴漢に拉致された。暴行の末に殺害されかかるも、何とか生還を果たしたテスは、この傷を癒すには復讐しかないと決意し…表題作と、夫が殺人鬼であったと知った女の恐怖の日々を濃密に描く「素晴らしき結婚生活」を収録。圧倒的筆力で容赦ない恐怖を描き切った最新作品集。

本書には「ビッグ・ドライバー」と「素晴らしき結婚生活」の2本が収録されています。「ビッグ・ドライバー」は2014年に同名で映画化されており、「素晴らしき結婚生活」は2015年に「ファミリー・シークレット」というタイトルで映画化されています。どちらも女性が主人公で、超常現象などは起きないという共通点があります。

「ビッグ・ドライバー」はそこそこ名の知れたアラフォーの女性小説家が、依頼された講演会に出席しての帰途、恐ろしい目に遭うという話です。トラック運転手にレイプされ、殺され掛かったテスは、死んだふりをして窮地を脱しますが、他にも同様の目に遭って殺された女性達がいることを知り、また予め仕組まれた計画的な犯罪だったことに思い至り、復讐を開始します。

こういうとき、とりあえずは警察に任せるのが一番とは思うし、ポリティカリー・コレクトでもあるんでしょうが、トランプが大統領に当選する昨今、ポリティカリー・コレクトなんかクソ食らえという状況もあるわけで、テスの場合はまさにそれでしょう。そしてアメリカにおいては弱者でも復讐をしやすい環境があります。そう、銃の入手が容易なのです。

しかし、本作品の場合、復讐劇よりも九死に一生を得たテスがレイプされたという事実を伏せたまま何とか家に帰り着くまでの描写が恐ろしくも哀しいです。エロ小説とかエロ同人誌とかだと「悔しい…でも感じちゃう!」ビクンビクン的展開になりますが、実際のレイプなんてこういう恐ろしいばかりの蛮行なんでしょうね。レイプはいかん、レイプはやめましょう。それにしても…私なら絶対無理なこういうシチュエーションでもやれちゃう男がいるというのがなんともなあ。これが“業”なんでしょうか。

テスの復讐は完全犯罪を企図したものでした。しかし、ある誤解により無関係な人物までも殺害してしまったテスは、復讐完遂後、遺書を残して自殺しようとします。が…その寸前、攻殻機動隊的に言えば彼女にゴーストが囁きかけたのでした。

テスも酷い目に遭いましたが、テスにとって力になってくれるある女性の過去の体験も非常に恐ろしいです。「やったねたえちゃん!」すら超えるかも知れません。ホント、いくらモテなくても女性には優しくしたいし大切にしたいですね。

続いて「素晴らしき結婚生活」。税理士と結婚して一男一女に恵まれて銀婚式も過ぎたダーシー。夫と始めたサイドビジネスのコインやトレーディングカードなどの流通も上手くいき、子供達も独立し、悠々自適な後半生が待っていると思いきや、ふとしたことから未来予想図は崩壊してしまいます。

なんとビルは税理士として出張した際に、コイン蒐集などをする傍らで猟奇殺人事件を引き起こしていたのでした。「ビーディー」と名乗るシリアルキラーは、被害者の身分証や免許証などを警察に送りつけては挑発するたちの悪い殺人鬼(たちの良い殺人鬼というのはいないでしょうが)として世に知られていましたが、まさか夫がそれだったなんて。

しかもダーシーがその事実に気づいたことをあっさりと看破するビル。次の犠牲者はダーシーか!と思いきや、そうはならないのでした。こちらもポリティカリー・コレクトは、夫が殺人鬼だと判明した時点ですぐに通報することでしょう。しかし、それは子供達(事業を始めた息子と結婚を控えた娘)の人生を無茶苦茶にするばかりでなく、ダーシーの生活も破壊してしまうでしょう。

そしてそれを自ら指摘するボブ。そしてもうやらないから黙っていてくれと妻に頼むのです。知らぬが仏とは言いますが、知ってしまったらシリアルキラーと寝室を共にするなんてなかなかできないですよね。ですが、確かにボブには16年間犯行を行わなかった時期がありました。ダーシーと結婚して子供が生まれ、育っていた時代はボブは良き夫、良き父、良き社会人として振る舞っていたのです。

ボブによれば、少年時代の親友で事故で死んだブライアン・デラハンティが心の中に棲み着き、ボブに犯行を唆すのだそうです。その「ビーディー」という名前もそのイニシャルから取られているのですね。その夫の主張が正しいのかでまかせなのかは判りませんが、とりあえずもう二度としないという誓いを受け入れてそれまで通りの生活を続けようとするダーシーでしたが…

こちらも、夫が連続殺人鬼であると知ってからの妻の懊悩がリアルできついですね。女性を酷い目に遭わせるのが好きなのか、キングは?が、どちらの作品も「苦い勝利」といった終わり方をしており、読後感は必ずしも悪くはありません。というか、暗黒のトンネルを抜けた先には明かりがあるようです。

この夫が殺人鬼であることに気づかなかった妻という設定にはモデルがあり、2005年に逮捕されたデニス・レイダーが31年前にマスコミに“BTK”として犯行声明を送りつけていたた連続殺人犯だったという実話に着想を得たものです。

BTKとは、「縛る(bind)」「拷問する(torture)」「殺す(kill)」の頭文字で、レイダーは1974年から91人にかけて合計10件の殺人を犯しましたが、妻と成人した子ども2人を持ち、大学で司法行政の学位を修め、市職員(法令順守監督)として野犬収容や市民の迷惑対策などを担当し、ルター派教会の信者会長を務めたこともあるという、社会的にはごくまっとうな人物として生活していました。

逮捕後、レイダーは法廷では一切争わず、全ての容疑を認めた上で、175年の禁固刑となりました。カンザス州では1994年に死刑制度が復活されましたが、BTKの犯行は全てそれ以前のことだったので、死刑は免れましたが、事実上終身刑で生きている間にシャバに出ることは不可能でしょう。

シリアルキラーというのはどの国、どんな民族・人種にも出現するものなんだとは思いますが、殊の外アメリカでのそれは目立つというか多いような気がするのは私だけでしょうか。別に全世界での統計を調べたとかではなく、あくまで直感的なものなんですが、アメリカという国にはそういう怪物が出現しやすい土壌というか歴史的背景みたいなものがあるのではないかな~なんて思ってしまいます。

レイダーが捕まった時、家族(特に妻)が、夫の裏の顔に全く気づかないと言うことがあろうかと話題になったそうです。全く判らなかったという妻の発言を多くの人は信じなかったそうですが、キングは信じたと言っています。そしてそこから生まれた本作はキングなりの回答なんでしょう。

なおレイダーBTK事件に関してはキングとは別に、「BTKキラー」とか「監禁拷問殺人者」という映画も作られています。「BTKキラー」では“K”が被ってますが…。「監禁拷問殺人者」はBTKを直訳していますね。

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