好きな声優さん(番外):肝付兼太~70-80年代の名声優

今日も良い天気で思わず秋深し…なんて人の俳句を呟きたくなる時候ですが、なんと明日は立冬。暦の上では冬ということになりますね。でも私の中では11月は秋。同様に立春のある2月は冬で、立夏のある5月は春で、立秋のある8月は夏です。

さて本日は「好きな声優さん」の番外編で、先日(10月20日)亡くなった肝付兼太を取り上げたいと思います。深夜アニメというのがなかったせいで、今ほど本数がなかった60年代から80年代のアニメ作品にはとにかく出演していたという印象があります。

肝付兼太は1935年11月15日生まれで鹿児島県出身。肝付氏というのは大隅の戦国大名で、島津氏と激しい勢力争いを繰り広げた挙げ句に敗れて家臣になりましたが、元は朝廷で物部氏と共に軍事を司っていた大伴氏だそうです。

当初はエノケンこと榎本健一に憧れて映画俳優を志したそうですが、祖母から「映画俳優をやれる容姿ではない」と諭され、ラジオドラマなどで声のみで出演する声優の仕事を目指したそうです。声優としてデビューした後もそれ一本では食べていけず、様々なアルバイトをしていたそうですが、その辺りは今の若手も変わらないような。

60年代中盤の頃にアドリブが藤子不二雄に気に入られ、以降藤子作品には必ずといっていいほど出演するようになりました。特に「ドラえもん」のスネ夫役は26年間も務めたことで知られますが、2クールで終わった幻の日本テレビ版「ドラえもん」ではジャイアンを演じていたという意外な事実もあったり。

それでは肝付兼太の演じたキャラの紹介です。非常に多いので、特に私の印象に残っているキャラに限定させていただきます。ほぼ年代順ですが、まずは初主演作品「ジャングル黒べえ」の黒べえ。アフリカの密林に住むプリミー族の王子である黒べえが得意の魔法や呪術で騒動を巻き起こす、というギャグタッチの作品でした。呪文の「ウラウラベッカンコー!」や「これジャングルの常識」が記憶に残っています。

「ちびくろサンボ」を一時絶版に追いやった「黒人差別をなくす会」が猛威を振るった際、藤子作品でも「オバケのQ太郎」のエピソードがやり玉にあげられました。「ジャングル黒べえ」は直接の抗議を受けませんでしたが、後難を避けるために自主回収され、「封印」されてしまいました。漫画作品の方は2010年に復刊され、80年代以降は長らく再放送がなかったアニメ版も2015年にようやくDVD-BOXが発売されました。

「はじめ人間ギャートルズ」の父ちゃん。園山俊二原作の原始人ギャグアニメです。主人公ゴンの父ですが、固有名称は全く不明で、ただ「父ちゃん」。これは「バカボンのパパ」の上を行っていますね。

年齢は40歳で、好物は猿酒。これは猿に果実を食わせて吐き戻させたものを発酵させるという、お相伴にはあずかりたくない製法の酒です。いつも赤ら顔で猿酒呷って「プハー」とやっていた印象が強いですが、一人でマンモスを仕留めたり、死神と戦ったりと結構勇ましいところもあります。ただ強さは安定せず、猪に負けるポカもあったりして。

「勇者ライディーン」のベロスタン。ライディーンの宿敵である妖魔帝国の祭祀長です。物語前半ではベロスタンが石の山に呪文を唱え、悪魔王バラオ像の眼から怪光線が発せられることで化石獣が生まれていました。「命さずけよ~」。

第27話でシャア・アズナブルの原型ともいえる仮面の美形敵キャラのプリンス・シャーキンが激闘の末倒れますが、死の間際に捧げた祈りによって石像に封印されていた悪魔方バラオが復活するのですが、その際に地割れに飲まれてあえなく死亡してしまいました。

「ドカベン」の殿馬一人。明訓高校では主人公山田太郎の同級生で、岩鬼、里中とともに明訓四天王の一角です。ポジションはセカンドで打順は不動の二番。ドカベンでは数々のライバルが登場しましたが、投手としては最高峰と思われる白新高校の不知火守は、山田太郎をしばしば手玉に取っていたのに対し、殿馬を非常に苦手にしていました。

音楽の天才で世界一の指揮者から楽団に招聘を受けたほどです。音楽センスを生かしたリズム打法による打撃を得意とし、奇想天外な打法で放つ数々の「秘打」が代名詞です。有名なのは「秘打・白鳥の湖」。守備も超一流で、リズムを刻みながらこなします。語尾に「づら」がつくのが特徴的な口癖です。

「銀河鉄道999」の車掌さん。この前も取り上げましたがやはり外せません。本名は不明な銀河鉄道株式会社の職員で、星野鉄郎、メーテルと並ぶ主要レギュラーでした。駅に到着する前に、停車駅と停車時間を知らせるために登場するのがお約束でした。


規則に忠実でくそ真面目な性格で、最初期は規則を破った乗客を宇宙空間に放り投げることもありましたが、旅が続くうちに親しみやすい人物として描かれるようになりました。目だけが光る異形のせいで、肝付兼太は今まで演じてきたキャラクターの中でも一番演じるのが難しかったと語っています。高圧ガス体の透明人間であるという正体は教えられていなかったそうですが、「最初から正体が空気だと分かっていたら、演じようがなかった(笑)」とも述べています。

「ドラえもん」の骨川スネ夫。会社社長の息子で裕福な家庭の子ですが、ジャイアンの子分的な立場にいます。キツネ顔で前から見ても横から見ても山形に見えるという独特な髪型をしており、ナルシストでイヤミで強者には徹底してへりくだっており、まさに「虎の威を借る狐」を地でいっています。

有名私立中学への進学を志望しているそうで、資力にものを言わせて塾に行ったり家庭教師をつけられたりしていますが、そのわりに成績は平凡で、劣等生ののび太やジャイアンよりは優れていますが、しずかちゃんには劣ります。体力も低め。じゃあ家が裕福というのが唯一の取り柄か(笑)。リッチでレアなコレクションと体験談で他人を羨まらしがらせたり悔しがらせることを好みますが、特に反応するのがのび太で、のび太がドラえもんに道具を出してくれるよう懇願する発端の多くはスネ夫の自慢話です。そういう意味では狂言回しとしては優秀とも言えますね。

「おそ松くん」のイヤミ。これはアニメ第二作のフジテレビ版です。原作者の赤塚不二夫は、早口で紳士的な口調でしゃべる第一作の小林恭治イヤミと全く違う、嫌味な部分やずる賢さを全面的に押し出した肝付イヤミに否定的だったそうです。

「10年前にこの役をやれたら、もっとテンション上げられたのに」と語っていますが、それでも「今日は毛細血管が7本切れた」というくらいテンション高く演じていました。余談ですが、当初見かけが良く似ていると言われる明石家さんまにイヤミ役のオファーがあったそうですが、ギャラが合わなかったらしく事務所が勝手に断ってしまったそうです。後日さんまは「心残りだ」と語っています。

「それいけ!アンパンマン」のホラーマン。骸骨のオバケで見掛けによらずひょうきんです。ばいきんまんが住むバイキン城の居候で、お調子者だが憎めない性格で、基本的に優しいため誰とでも仲良くなれます。当初はアンパンマンを襲撃していましたが、失敗ばかりして敵味方に笑われ、そのうちアンパンマン達とも仲良くなってしまいました。

そのため公式サイトでは「アンパンマンとばいきんまんの両方の仲間」と紹介されている中立キャラで、積極的に悪事に加担する事は少なく、仲良くなったゲストキャラクターを守る為にばいきんまんに攻撃を仕掛ける事も厭わず、ジャムおじさんのパンの配達を手伝ったりもしています。モデルは淀川長治で、やなせたかしはホラーマンは一回で消えるキャラクターだと思っていましたが、いつの間にか人気者になり、本人もお気に入りになったそうです。

スネ夫を降板した後も、ホラーマンとしては今年の劇場版アンパンマンまで出演していた肝付兼太。後任は誰がやるんでしょうかね。アニメの他にも「おかあさんといっしょ」の「にこにこぷん」でじゃじゃ丸を演じていました。謹んでご冥福をお祈りします。どうか安らかに。
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