記憶に残る一言(その74):ドズル・ザビ中将のセリフ(機動戦士ガンダム)

ハナミズキが紅葉しています。初夏には花が咲き、秋には紅葉と一粒で二度美味しいアーモンドキャラメルのような樹木ですが、紅葉はあんまり綺麗ではないんですよね。他の木に先駆けてるところに価値があるというか。そういえばサクラの方は紅葉するやいなや、あっという間に散ってしまっていますな。

本日は記憶に残る一言です。今回は「機動戦士ガンダム」からドズル・ザビ中将のセリフを紹介しましょう。

ドズルはジオン公国を牛耳るザビ家の一人で、デギン公王の三男です。兄にギレン総帥、妹にキシリア少将がいますが、じゃあ次男じゃないの?と思われがちですが、次男のサロスは爆弾テロで死亡しているのです。サロスは本編開始時既に故人なので、画面には一切登場しませんが、アニメの準備稿に設定として存在し、小説版で初めて名前が登場しました。

デギンにはジオン公国の創始者であるジオン・ダイクン(シャアとセイラの父)を暗殺して権力を簒奪したという噂があり、サロスの死はジオン・ダイクンの国葬後の爆弾テロによるもとで、一説にはダイクン派の報復とされています。ドズルもこの事件の際に負傷しましたが、顔の傷跡はその時のものだそうです。

身長210cmの大柄な体格とゴリラかフランケンかという容貌なので、ロボットアニメに良く登場する力押しタイプの悪役のように見えます。軍服の肩には不必要なトゲが付いてたりしますし。しかし、指揮官としての統率力・指揮能力は十分にあり、部下の信望も篤いものがありました。また愛妻家としても知られており、家族に深い愛情を注いでいました。

妻はゼナで娘はミネバ。ミネバはネオ・ジオンにおいて唯一のザビ家の直系としてハマーン・カーンに祭り上げられていました。父に全く似ずに可愛い顔立ちをしていますが、おそらく母親似ということなんでしょう。顔だけはパパン似でなくてとにかく良かった。

ギレンやキシリアはやたら政治的な動きが多い人達でしたが、ドズルは純粋な武人として振舞っていました。宇宙要塞ソロモンを拠点とする宇宙攻撃軍司令で、当初はシャア(当時少佐)の上官でもありました。シャアの有能さはちゃんと評価していたようですが、溺愛していた四男のガルマが死亡した際には、彼を守りきれなかったとしてシャアを左遷しました。ドズルは処刑を主張したそうですが、デギン公王の裁定で左遷に留まったそうです。


弟を守り切れなかったから死刑とういうのは無茶な主張に思えますが、実際にはガルマの死はシャアの謀略の結果でもあったので、間接的な殺害犯ということで死刑の主張はわりと正鵠を射たものだったということに。その後シャアはキシリアに拾われて重用されることになるのですが、キシリアなら事件の真相を知っていてもなおシャアを使った気がします。このあたりが策謀家と武人の差なのかも知れません。


ドズルがガルマを愛していたのは、ママンの面影を強く残していたからだともされますが、その能力も高く評価していたようで、ドズル自身をも使いこなすような将器があるとしてその成長を楽しみにしていたので、失った悲しみは尋常ではなかったようです。

余談ですが、デギン公王といいドズル中将といい、ザビ家は美人を嫁に迎える傾向があるのでしょうか。ギレン総帥もかつてクラウレ・ハモンが愛人だったとか、秘書のセシリア・アイリーンが事実上の愛人だとかいう説がありますね。セシリアはCVが井上喜久子であるという“裏ドラ”ものっていて実にグッドです。


さて直接的にガルマを殺害したのはホワイトベースに違いないので、ドズルはガルマの仇討ち部隊としてランバ・ラル隊を地球に派遣した他、ホワイトベースが宇宙に出てからは連邦軍艦隊ににソロモン攻略戦の兆候も見えるというのにコンスコン少将麾下の機動部隊を派遣したりしていました。これは自分が左遷した後キシリアに登用されたシャアを牽制するという目的もあったようですが、肉親への情が濃いというよりは私怨で軍を動かしているようにも見えますな。

そして今回の記憶に残るセリフがこれです。連邦軍によるソロモン攻略作戦(チェンバロ作戦)が迫る中、ドズルはギレン総帥に増援を要請するのですが、結果送られてきたのは試作モビルアーマー「ビグ・ザム」1機のみでした。ギレンはビグ・ザム1機で2~3個師団にも相当する戦力だと嘯きますが、これに対してのドズルの返事がこれです。その後、「偉そうにふんぞり返る前に勝つための手だてを…」と続きます。

実はこのセリフ、本編第35話「ソロモン攻略戦」には存在せず、映画版の「機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編」で追加されたものです。テレビ本編では
ドズル「パプア艦でたった一機のビグザムだけだと?」
ジオン士官A 「は、現在はこれしか出せぬ、と」
ドズル「ええい、兄上は何を考えているのだ?今あるリック・ドムでは数が足りんのだ。新鋭モビルスーツの一機をよこすくらいならドムの10機もまわさんのか?」
というやりとりになっています。


まあ実際にはビグ・ザムは連邦軍艦艇を多数撃沈し、ティアンム中将座乗の旗艦「タイタン」まで沈めるという殊勲を挙げました。これはリック・ドム10機どころでは到底不可能な大戦果であり、奇しくもギレンの言う「ビグ・ザム1機で2~3個師団にも相当」を実証する結果となっていますが、ビグ・ザムの稼動時間は20分以下という短いものであったところ、劇中ではドズルが生還を期さない特攻出撃を行ったため、それよりも長く動いていたようです。

「孫子」軍形篇には「勝兵は先ず勝ちてしかる後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いてしかる後に勝を求む。( 勝兵先勝而後求戰、敗兵先戰而後求勝)」という有名な一節があります。これは、勝利する軍はまず勝利を得て、それから戦をしようとするが、敗北する軍はまず戦を始めてからあとで勝利を求める戦い方をする、という意味でしょう。戦を開始する時点ですでに勝つ状態を作っておく、すなわち確実に勝利できるだけの戦力・物資を用意して、それから戦うのが勝利への道だと言っている訳です。


寡兵で大軍に勝利するというのは一見見栄えはいいのですが、そんな奇跡のようなことはそうそう起きるわけもなく、戦で最も重要なのは、凡将でも勝利できるだけの算段を整えることだといっている訳で、話を広げれていけば富国強兵政策にまで辿り着くという。太平洋戦争でいえば、圧倒的な国力を持つアメリカは最初から「先ず勝ちてしかる後に戦いを求め」る状態にあったと言えるでしょう。日本がなんとかするには、短期間で圧倒的な戦果を得て、なんとか譲歩を引き出して休戦するしかなかったのでしょうが…

それはともかく、「ドムの10機もまわさんのか?」とギレンのしみったれぶりを嘆いたドズルですが、実はそれ以上の戦力をプラスすることは可能でした。そう、コンスコン艦隊を出撃させなければ良かったのです。コンスコン艦隊はチベ級重巡1隻とムサイ級軽巡2隻で構成され、12月5日と6日の戦闘で18機のリック・ドムを繰り出してホワイトベースに挑みましたが、ガンダムの大活躍により全滅してしまいます。この艦船3隻とMS18機がソロモンに温存されていたら、戦局はまた違っていたかも知れません。

まああっさりソーラーシステムに焼かれて全滅ということも考えられますが、意外にソーラーシステム展開前のティアンム艦隊の発見に成功して、照射を未然に防いだ可能性もあるかも知れませんよ。


ジオンサイドから見ると、ホワイトベースはまさに死神部隊で、これに遭遇した部隊はほぼ壊滅しています。ランバ・ラル隊、黒い三連星、水陸両用MS、モビルアーマー…。そんな中には、かつてシャアの副官だったドレン大尉率いるパトロール艦隊の3隻のムサイ級軽巡と6機のリックドムもいました。これもホワイトベースに遭遇していなければソロモンの戦力に加えられたと思われるので、連邦軍首脳は単なる囮としか見ていなかったかも知れないホワイトベースですが、実際には彼らの想定外の戦果を挙げていたと言えるでしょう。


それにしても…コンスコンが少将で小艦隊の指揮を執るのはいいとして。物語冒頭、少佐だったシャアはムサイ級軽巡一隻の指揮官でしたが、ドレンは大尉にしてムサイ級3隻の小艦隊の指揮官に。ジオン軍という組織は高級将校、なかんずく将官が非常に少ないという印象があるのですが、そこまで不足していたのでしょうか。

なにしろ主力である宇宙攻撃軍の司令が中将のドズル、突撃機動軍の司令が少将のキシリアですから。広大な地域を制圧下に置いているはずの地球方面軍の司令はなんと大佐のガルマです。その後の作品で他にも将官がいたことが描かれていますが、本来ならドズルもキシリアも大将で、他にも副司令として将官級が複数いるくらいでも良かったと思います。権威より実力主義ということなのかも知れませんが、開戦時中尉だったシャアが戦功で少佐になり、左遷後はなんと大佐に昇進と、一年足らずの間に四階級も昇進しているのを見ると、戦意高揚とか士気の維持とかのためにも昇進がたくさん行われていてもおかしくないのですが。ドレンも少尉から大尉へと短期間に二階級も上がっていますしね。がドレンの場合、叩き上げだったせいでしょうが、年齢といい経験といい、登場時に少尉だったことこそがそもそもおかしい感じがします。


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