ぼんくら:二度読んでしまった宮部みゆきの時代小説

なかなか暑さがひきませんが、そうこうしているうちに9月も中旬に突入していくわけです。田んぼをみれば稲穂が金色になって、さあ刈れ今刈れすぐ刈れとアピールしています。やたら来た台風は収穫に影響を与えているでしょうか。
ところで、9月8日に60万アクセスを突破しました。50万アクセスが3月9日でしたので、およそ半年で10万アクセスということですね。
2012年
0 ( 8/31)→ 1万(11/ 3) 64日間(平均156アクセス)
1万(11/ 3)→ 2万(12/15) 43日間(平均233アクセス)
2013年
2万(12/15)→ 3万( 1/13) 30日間(平均333アクセス)
3万( 1/13)→ 4万( 2/19) 37日間(平均270アクセス)
4万( 2/19)→ 5万( 4/10) 50日間(平均200アクセス)
5万( 4/10)→ 6万( 5/26) 46日間(平均217アクセス)
6万( 5/26)→ 7万( 7/ 1) 36日間(平均278アクセス)
7万( 7/ 1)→ 8万( 8/ 5) 36日間(平均278アクセス)
8万( 8/ 5)→ 9万( 9/ 3) 30日間(平均333アクセス)
9万( 9/ 3)→10万(10/ 8) 36日間(平均278アクセス)
10万(10/ 8)→11万(11/14) 38日間(平均263アクセス)
11万(11/14)→12万(12/23) 40日間(平均250アクセス)
2014年
12万(12/23)→13万( 1/22) 31日間(平均323アクセス)
13万( 1/22)→14万( 2/20) 30日間(平均333アクセス)
14万( 2/20)→15万( 3/22) 31日間(平均323アクセス)
15万( 3/22)→20万( 7/12)113日間(平均442アクセス)
20万( 7/12)→25万(10/19)100日間(平均500アクセス)
2015年
25万(10/19)→30万( 2/23)128日間(平均400アクセス)
30万( 2/23)→35万( 6/20)118日間(平均424アクセス)
35万( 6/20)→40万( 9/15) 88日間(平均568アクセス)
40万( 9/15)→45万(12/12) 89日間(平均562アクセス)
2016年
45万(12/12)→50万( 3/10) 90日間(平均556アクセス)
50万( 3/10)→60万( 9/ 8)182日間(平均549アクセス)

9月に達成出来ればと思っていましたが、予定通りとなりました。いや、そんなに悪そうな顔をする必要はないんですが。少しずつ平均アクセス数は減少傾向ですが、昔に比べればそれはそれは多いです。最近は更新も減っているから更新回数あたりのアクセス数はむしろ増えているかも知れません。来年3月あたりに70万アクセス突破を期待したいですね。

話は変わって本日の本題です。今日は宮部みゆきの時代小説「ぼんくら」を紹介しましょう。「ぼんくら」は講談社の「小説現代」1996年3月号から2000年1月号まで掲載されたものを加筆・訂正したうえで、単行本が2000年4月20日に刊行され、文庫版が2004年4月15日に上下巻で刊行されました。

実は以前読んでいるのですが、今回全く気づかずに図書館から借りてきて、だいぶ読み進んでから「ん!?前に読んだかな…」とアミバの「ん?間違ったかな…」的に気づいたのですが、展開はほぼ忘れていたので再読とはとても思えませんでした。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

(上巻)「殺し屋が来て、兄さんを殺してしまったんです」―江戸・深川の鉄瓶長屋で八百屋の太助が殺された。その後、評判の良かった差配人が姿を消し、三つの家族も次々と失踪してしまった。いったい、この長屋には何が起きているのか。ぼんくらな同心・平四郎が動き始めた。著者渾身の長編時代ミステリー。
(下巻)「俺、ここでいったい何をやっているんだろう」。江戸・深川の鉄瓶長屋を舞台に店子が次々と姿を消すと、差配人の佐吉は蒼白な顔をした。親思いの娘・お露、煮売屋の未亡人・お徳ら個性的な住人たちを脅えさせる怪事件。同心の平四郎と甥の美少年・弓之助が、事件の裏に潜む陰謀に迫る「宮部ワールド」の傑作。

主人公は井筒平四郎。南町奉行所の同心で、役職は本所深川を担当する「本所見廻」です。本所・深川は拡大する大都市江戸の新興居住区域で、江戸前期は江戸の外という扱いでした。何しろ江戸町奉行の他に本所奉行というのが設置されていた位ですから。

その後、18世紀初頭に江戸町奉行所の管轄に移管され、江戸の一部と認められましたが、一般行政や住民に請負わせていた事業の管理は「本所見廻」が行うことになったのです。作中、平四郎は自分の役目は「臨時廻」だと言っていますが、これは犯罪捜査と犯人逮捕を担った「三廻」(定廻、臨時廻、隠密廻)の一つで、定廻が犯罪捜査、犯人の逮捕の中心で、臨時廻が定廻同心の補佐、隠密廻が文字通り身分を隠して隠密活動を行っていました。要するに平四郎は本所深川地区で臨時廻をやっているという認識のようです。

時代小説によっては、三廻を熱望しながらなかなかやらせて貰えず忸怩たる思いを抱いている同心の姿などが描かれていますが、平四郎は同心の家の四男坊だったので、最初から別の暮らしを思い描いていたのに諸事情で家を継ぐことになったという人で、そもそもやる気があまりありません。でも上司の与力に言わせれば、ぎちぎちにやる気の同心よりそういう人物の方がいいとか言われてやらされています。
そんな訳で仕方なく見廻りはしていますが、岡っ引きは大嫌いで誰も雇わず、奉行所から押しつけられた中間一人だけを連れて歩いています(流石に“八丁堀の旦那”が一人で歩くのはダメらしいです)。そんな平四郎が、いつも昼食場所としている煮売り屋がある鉄瓶長屋で、奇妙な事件が連発します。

「殺し屋」が来たという殺人事件、博打のカタに娘を売り飛ばしたド外道な親、どこからともなく突然やってきた子供、壺信心という妙な信仰。一つ一つの事件はそれぞれ真相などが解って解決らしきものに辿り着くのですが、その度に鉄瓶長屋の店子は減っていきます。まず最初の事件で差配(大家。といっても現代のように所有者(家主)ではなく、家賃を集めたり、管理を任されている者)が姿を消し、変わって家主の親戚という佐吉という若者が新差配になるのですが、差配というのは老練な親父がなるのが通例なので、異例な措置です。
そのせいか、事件が起きる度に去って行く店子。櫛の歯が欠けるように空き部屋が出来てきて、佐吉のしくじりぶりが明白になっていきます。平四郎から見れば佐吉はよくやっているのですが、なぜ店子がどんどんいなくなるのか。これはもしや家主である湊屋総右衛門が、何らかの理由で自然な態を取りながら長屋を取り壊そうとしているのではないか。ではその理由とは何か。平四郎がそういう疑念を持つに至り、短編続きの本作は長編「長い影」に突入します。何しろ上下二巻の本作の1.5巻分は「長い影」ですから。

そしてここから平四郎の推理と捜索を助けるサブキャラクター達がどんどん登場してきます。まずは平四郎の妻(びっくりするほどの美貌の女性)の甥っ子である、やはり超美少年の弓之助。平四郎夫妻には子供がおらず、奥さんはこの子を養子にと思っています。平四郎側の甥っ子にも候補者はいるのですが、ろくな人材ではないとか。弓之助は12歳にもなっておねしょが治らないという困った癖をもっていますが、何でもかんでも計測する(できる)という不思議な特技を持っています。

そして好きじゃないといいながら捜査の都合上やむなく力を借りる岡っ引きの政五郞。この人は、「初ものがたり」という別の作品に登場する、本所深川一帯をあずかる、清廉潔白で知られる「回向院の旦那」こと茂七の子分です。「初ものがたり」では50代でバリバリ現役だった茂七も、「ぼんくら」では米寿を越えていて、もはや一線には出てきませんが、その心意気は政五郞がしっかり継いでいる模様です。政五郞の手下には「おでこ」と呼ばれる三太郎という子がいて、なんでもかんでも暗記するという特技を持っています。弓之助とおでこで強力子供タッグ完成です。

そして、鉄瓶長屋が出来る以前に何があったか、大店の旦那となっている湊屋総右衛門のそれまでの経歴など、過去の探索の中から浮かび上がるのが、タイトルどおりの「長い影」です。これはアガサ・クリスティーがポワロによく言わせている「遠い過去の犯罪は長い影を引く」というセリフそのままで、過去に起きた事件が確かに現在の変事を引き起こしているのです。ではその過去の事件とは何か?

実は事件の真相は明らかになるのですが、あまりすっきりしません。これは平四郎がなんでもかんでも断罪するというタイプではなく、むしろ「今さら騒ぎ立てても誰も幸せにならない」と穏便に済ませることを指向するタイプであることから来ており、本人とその周辺は真相を知りますが、それを知ることで幸せにならない人には告げないままにしています。
そういう訳で、「ぼんくら」での目立った成果は、湊屋総右衛門との過去のいきさつから、彼を失脚させることを目論んでいる執念深い岡っ引き・仁平(政五郞も毛嫌いしている極道)を獄に沈めたことくらいなんですが、まあこいつがいなくなるだけでも江戸の庶民は大助かりでしょう。

若干もやもやするんですが、クリスティとかクイーンの作品でも、真相の解明に地道をあげた探偵が、真相を知った後も告発などせずに黙っているというパターンはよくあるので、そういうのもありかなとは思います。ただし、そういう場合は、止むにやまれぬ事情とかがあるので読む側も「そりゃ仕方ない」と思える場合が大半なんですが、「ぼんくら」の場合、湊屋総右衛門は決して善人とは言えず、それなりの処罰があってもいいのになと思えるので、もやもやが残るんですよね。ま、現実だとこんなもんなんでしょうかね。
湊屋総右衛門とその一党はいがみ合っていますが、基本的に全員好きになれないタイプですが、最後の最後に煮売り屋のお徳が、図らずも当事者の一人にやらかしてくれるのでちょっとだけスカッとします。その内容はまあ伏せて起きますが、湊屋総右衛門も肥だめに落っこちるとかあれば良かったのに。

平四郎を主人公とした作品がその後も「日暮らし」「おまえさん」と続いており、ぼんくらシリーズと呼ばれています。図書館にあったら是非読むことにしましょう。

また、2014年にNHK木曜時代劇で連続テレビドラマ化されており、平四郎を岸谷五朗が演じました。それはいいのですが、決して美人ではない設定の煮売り屋のお徳が松坂慶子ってどういうことだ。むしろ美貌で知られる平四郎の妻にこそ相応しいんじゃないでしょうか。

また菊池昭夫・画でコミック化もされています。こちらは2010年8月19日刊行。井上雄彦っぽい絵柄な気がしますが関係あるのかどうかは不明です。
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