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ルーティーン:直木賞作家・篠田節子のSF短編ベスト

8×4パウダースプレーの女の子

 この春電車でみかけた8×4パウダースプレーの広告。このモデルさんが清潔感があってとってもお気に入りです。汗すらフローラルな感じで、どう考えても制汗スプレーなんかいりそうにない感じですが。石橋杏奈という女優兼ファッションモデルなんですね。

8×4ワキ汗EX 

 最近は新製品らしい8×4ワキ汗EXに変わってしまいました。テレビCMでも見掛けるようになりましたが、正直最初は同じ人とは思いませんでした。パウダースプレーの広告の方が清楚でいいような気がするのですが。 

ルーティーン 

 さて本日は読み終わったばかりの篠田節子の「ルーティーン」を紹介したいと思います。厚いから読み終われるかななんて思っていましたが、ぐいぐい引き込まれました。篠田節子作品は初めて読みました。

篠田節子 

 篠田節子は1955年10月23日生れで東京都出身。東京学芸大学を卒業後、13年以上八王子市役所に勤めましたが、キャリアアップや転職志向が強く、心ここにあらず状態で、自称「困った職員だった」そうです。30歳からカルチャーセンターの小説執筆講座や講談社の小説教室に通い、35歳の1990年に「絹の変容」で小説すばる新人賞を獲得し、受賞後は作家活動に専念するため市役所を退職しました。

絹の変容 

 1997年、男性優位社会の中で生き方を模索する若いキャリアウーマン群像を描いた「女たちのジハード」で直木賞を受賞。編集者からエロティックな作品をと求められて、女性のライフスタイルや結婚、妊娠、海外での就職などをコミカルに描写し作品だったため、本人にとっては「意外かつ不本意」だったそうです。

女たちのジハード 

 作品は広義のミステリ、ホラーといったジャンルに分類されるようですが、篠田節子自身にはジャンル意識があまりみられず、日本SF作家クラブにも所属しており、SF風作品も多数発表しています。宮部みゆきや東野圭吾にもSF的作品がありますから、小松左京・星新一・筒井康隆といった日本SFの立役者達の作品を子供時代から当たり前のように読んできた世代にとっては、SFマインドというものはことさら構えなくてもごく自然にインストールされているのかも知れませんね。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

 延々と繰り返しの続く日常生活に倦み突如失踪した男が、月日を経て異常な日常へと回帰する書き下ろし表題作をはじめ、南洋の島の民族的多様性の喪失を描く文化人類学SF「まれびとの季節」、荒廃した近未来で「神の子」と呼ばれ隔離されていた少年少女たちの恐ろしい真実「子羊」など、書籍未収録作品3本を含む10短篇に加え、エッセイ、インタビュウも収録。ジャンルを越境する偉才の傑作を精選したベストSF短篇集。

 本書は早川書房から2013年12月に出版されたベスト版です。SFと銘打っていますが、そういわれればそうかなあと思いますが、ホラーとか「世にも奇妙な物語」風の作品もあって実にバラエティ豊かです。では各作品の簡単な感想をば。

神の子羊 

 「子羊」。一番SFテイストが強いかと思われますが、「神の子」と呼ばれ、他人のために奉仕の一生を送るのが使命と言われて育った少女達の物語です。これ、半端なSF者である私には正体はあっさり予想できました。オチは逆の方が良かったなと思います。彼女は逃げることを選択した訳ですが、自分の生の意義はそこにあったのかと運命を受け入れるというのもありじゃないかと。

コギャルファッション 

 「世紀頭の病」。筒井康隆風ドタバタテイストの作品。アラサーの女性を襲う恐怖の「老衰症候群」。コギャル時代にビッチな行動をした女性を襲う潜伏期12~3年の性病で、20過ぎたらババアで、30で死にたいと嘯いていた彼女らに相応しい業病ですが、一緒に遊んでいた男達にはお咎めなしかといえばそういうことはなく…。治療法が発見されて、見かけはBBA、肉体年齢はアラサーというかつての彼女達なら死にたいような状況が生まれますが、いざなってしまえばふてぶてしく生き続ける女性達。女性の描く女性はコワイなあ。

コヨーテ 

 「コヨーテは月に落ちる」。公務員として仕事に追われているうちに婚期を逃し、せっかくマンションを買ったら遠距離に転勤辞令が出るという40過ぎの女性が体験する奇妙かつ不条理な物語。オチに救いがないというべきか、あるというべきか。コヨーテは彼女にとって何を象徴しているのかをどう解釈するかによっていろいろ考えられますが、若き日に留学先のアメリカで見たコヨーテということで、かつて持っていた青春とか希望・夢なんかを象徴しているのかも知れません。

緋の襦袢 

 「緋の襦袢」。「女」を散々利用して男を騙して金を搾り取ってきた女性の老境の惨めな姿。それでも「女」を利用して老人ホームで波乱を起こし、福祉事務所の女性職員を困らせるわけですが、キレた彼女が斡旋したのはいわゆる「出る」マンション。そこに入ったクソババアの運命やいかに…。結局死者なんかより生きた人間の方が恐ろしいというよくある展開ではあるんですが、BBAのクズな描写がまた凄まじいです。節子それババアと違う、クソババアや!ホラーものですが、BBAの方が怖いです。

幽霊屋敷 

 「恨み祓い師」。さらにホラー。不幸に不幸を積み重ねたような人生の恨みつらみだけで生きている母と、その恨み言を延々聞かされ続ける娘。いつしか二人ともBBAになってしまいましたが…。娘視点だと可哀想なばかりなんですが、後半第三者視点が入ると一気にホラーに。やはりこの人が描く「女の一生」も凄まじかった。イヤミスもいけそうですなこの人。

ピアノを弾く絵美のイメージ 

 「ソリスト」。「四月は君の嘘」を彷彿とさせる音楽をテーマとした作品。天才ピアニスト・アンナの演奏は奇跡と呼ばれるほどのものですが、遅刻や演目変更はあたりまえで、ドタキャンすらしばしばするという興行者泣かせの音楽家です。かつて彼女と一緒に学んだ日本人女性ピアニストがアンナを招請しますが…。アンナの恐るべき過去、そして才能に愛されているというより、才能に乗っ取られているような彼女の実態を知ると、ドタキャンも仕方ないのかな、なんて思ったりもしますが。

円口類 

 「沼ウツボ」。これも猟奇的というかホラー風。万葉後光鰻、通称沼ウツボは幻の魚で、日本でただ一箇所にしかおらず、かつては大金で取引されましたが、もはや絶滅したのではないかと思われていました。グルメ番組のロケが行われ、父が沼ウツボを捕らえたのを目撃したことのある漁師が、最後の一匹であろう沼ウツボの捕獲に挑みます。沼ウツボの正体ははっきりしませんが、ヤツメウナギの親分的な円口類のようです。ほんとキメエですよね、ヤツメウナギの口って。

ムスリマファッション 

 「まれびとの季節」。おそらくイスラム教がモデルらしい、一神教が布教された辺鄙な島。どれだけ辺鄙かというと、700年前に布教されて以来、指導者が全くやってこなかった位です。日本でもキリスト教が弾圧され、300年くらい隠れて信仰していたら、本来の教えから離れてしまい、キリスト教が解禁されても戻ることがなかった「カクレキリシタン」が存在するそうですが、700年となっては。すっかり元の教えから変容してしまったと批判するのはたやすいですが、それは実は島が抱える事情に適応したアレンジであるとも言えたわけです。しかし動力船の着岸できる船着き場が完成したことで、外部との交流が活発になったところ、外から指導者がやってきて、ダメ出しをされまくります。島の事情を全く顧慮しない原理主義的な指導者の行動がもたらすものとは?まさに文化人類学的作品です。

いじわるばあさん 

 「人格再編」。老いてとんでもない性格になった手に負えないクソBBAを、本来の性格に戻しましょうという手術。脳にチップを埋め込みますが、自分の名声のために劇的な効果を狙った女医は、BBAのキャラの代わりに偉人クラスの女性のキャラを埋め込みます。その結果クソBBAは天使のように素晴らしい性格になりますが、やりすぎて…。クソBBAにはクソBBAなりの存在意義があるというアイロニーがなんともはや。何度も言いますが、クソBBA描写がとにかく達者ですな。

吾妻ひでおの失踪日記 

 「ルーティーン」。やり手の国際弁理士事務所に勤め、特に上昇志向もなく平々凡々と暮らす主人公が、うっかり電車の乗り換えをしくじり、大地震に遭遇したことから変転していく運命。描き下ろし作品なのでおそらく東日本大震災以降の執筆と思われます。それまで幸せだと思っていたものの桎梏からひたすら逃げ、失踪して自活する主人公。「失踪日記」の吾妻ひでおみたいですが、長さが半端なく、なんと20年。しかし20年たって今の自分の生活をふと疑問に思い、思い切って家族の元に戻ってみたら、なぜかあっさり受け入れられて…。これは「世にも奇妙な物語」に適しているんじゃないでしょうかね。
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