コミック版星を継ぐもの:星野之宣による“補正”入りハードSF

NASAがケプラー宇宙望遠鏡によって新たに1284個の太陽系外惑星の存在を確認したと発表しました。2009年に打ち上げられたものの、2013年に姿勢制御系のトラブルが復旧できずに主観測ミッションの終了を発表していましたが、それまでに得られた探査データは膨大で、分析に数年かかるとを発表されていました。その後2014年に太陽光圧を姿勢制御に取り入れて観測を再開しています。

確認された惑星群のうち550個は地球のような岩石質の大地があり、さらに9つの惑星は、ハビタブルゾーンと呼ばれる、生命の誕生に適した環境に位置していることが判明したそうです。地球外生命の存在は確認も遠くない未来にありえるんじゃないでしょうかね。スゴいね宇宙。

ということで宇宙ネタを前振りに、本日はGWにマンガ喫茶で読んだ「星を継ぐもの」を紹介したいと思います。オイオイ、GW前の4月28日に紹介済みだろう、ですと?こういうツッコミをおれァ待ってた!!!(ゾロか)
そう、本日紹介するは星野之宣によるコミック版「星を継ぐもの」です。2011年5号から2012年16号にかけて小学館の「ビッグコミック」で連載され、単行本は全4巻。タイトルは「星を継ぐもの」ですが、内容は続編の「ガニメデの優しい巨人」と「巨人たちの星」までを含んでいます。さらに原作にない独自の解釈やエピソードを加えていますが、これはホーガンの小説版の発表以降、科学の進歩によって陳腐化してしまっ部分に補正を行って「近代化」したものと思われます。その甲斐あって2013年には星雲賞コミック部門を受賞しています。

実は原作は「星を継ぐもの」しか読んでいないので、どれほどの改変が加えられているのかについては全てを承知しているわけではないのですが、判るところでは、チャーリーの遺体はDNA検査を行う直前に、何者かの手によって焼却されてしまいます。
武器を持たない軍隊である国連宇宙軍の上部組織として国連平和委員会という組織があり、ここは世界の大富豪達がメンバーに連なり、「金で武器を買いたたく」とまで称された積極的な武装解除を行い、今や地球には武器らしい武器がありません。実はこの国連平和委員会、かつてミネルバで死闘を展開した二大勢力の一方、ジェブレン人の尖兵だったのです。

地球から二酸化炭層の上昇を防ぐために、ガニメアン(自らをテューリアンと名乗っているので今後はそっちを使います)によって惑星ミネルバに連れて行かれた動植物。その中には人類の先祖である類人猿も含まれていました。それら地球の生物にはミネルバに適応できるように特殊な酵素が注入されたのですが、実はこの酵素、知力を大幅に向上させる効果があったほか、極めて好戦的にしてしまうという副作用が。
テューリアンのテラフォーミング(そういう言い方もちょっと妙ですが)は結局失敗し、テューリアンはミネルバのほぼ全資源を使って宇宙船団を構築し、他星系に旅立ちます。ミネルバの地上は残された地球産の動物で満ち、類人猿は急速に進化していきました。

協力より闘争を好んだ彼らは最終的に南部のセリオスと北部のランビアンに二極化して抗争を展開します。その結果ミネルバは失われ、両勢力は共倒れになったかと思われましたが…
実はテューリアンはランビアンの生き残りを救出・保護し、他星系に移住させていたのでした。そして月面(当時はミネルバの衛星だった)に比較的生き残りの多かったセリオスについては、月を地球の軌道に映して地球の衛星にしてやることで、地球移住を容易にさせたのでした。

ランビアンは惑星ジェヴレンに住むジェヴレン人になりましたが、仇敵セリオスへの恨みは決して忘れず、テューリアンの科学力の恩恵を受けながら地球の監視にあたり、ミネルバ崩壊後の人類の様子をテューリアンに報告していましたが、それは戦争や魔女狩りといった残虐シーンに限定したような偏向したものでした。
ジュヴレン人としては、テューリアンが地球と接触して彼らの科学の恩恵を受けることを怖れ、地球に潜入した工作員は平和運動を推進して人類の武装解除を進めて無防備にする一方、テューリアンに対しては地球の軍事化による危険の拡大をことさら吹聴し、これに対抗するという名目で彼らの高度な科学技術を引き出していたのでした。

この状況をしったハント博士らは、しかし既にジュヴレン人の地球侵攻のための宇宙艦隊はほぼ完成住みで、そればかりはテューリアンの惑星を隔離する秘密兵器まで用意していました。テューリアンの方は、ジュヴレン人の企ては承知していたものの、全ては自分達の先祖が犯した悪行の報いとして、従容として運命を受け入れるつもりでいたようです。どこまで優しいんだ。

しかしそんな折、100年前にミネルバを救う別な手段の実証実験のために他星系に向かったシャピアロン号は推進機関のトラブルで時空の狭間に迷い込み、現在にいたって漸く太陽系に帰還しましたが、ガニメデに墜落したテューリアンの宇宙船のビーコンに呼応し、ガニメデ基地の人類に接触を求めて来ました。
テューリアンの突如の出現に驚愕する国連平和委員会のジュヴレン人達。彼らは地球を訪問したシャピアロン号がテューリアンに真実を告げることを怖れ、亡き者にしようとしますが、さすがに同胞を見殺しにする気はなかったテューリアンに救われます。テューリアンはそれでも地球とジュヴレンの争いに介入する気はありませんでしたが、殺されそうになったシャピアロン号の乗員達は別の考えを持っており、地球側にある提案をしてきます。

ハント博士ら地球人と、シャピアロン号のガニメアンがひねり出した逆転の秘策、それは「攻殻機動隊」風というか「グッドラック 戦闘妖精雪風」風というか…つまりは情報戦を行うのです。ジュヴレン側の人工知能(これはテューリアンのものと同格の高性能でしたが)を騙して架空戦争をでっち上げ、地球側が密かに建造していた宇宙艦隊の先制攻撃によりジュヴレン艦隊は全滅したと信じ込ませます。
慌てたジュヴレン人の独裁者は脱出を図りますが、焦りのせいで超光速航法に失敗し、5万年前の滅亡寸前のミネルバに激突してしまいます。これによりミネルバは砕け散り、また宇宙船が使用していたミニブラックホールのせいで大半の質量が吸収されてしまうのでした。ご都合主義と言われても仕方ないですが、これによって、小惑星帯の質量の少なさを説明している訳ですね。

コミック版ではセリオスはクロマニヨン系、ランビアン(=ジュブレン)はネアンデルタール系で、この種の違いも共存できなかった理由とされています。地球に脱出したセリオス人はクロマニヨン人と混血し、ネアンデルタール人を滅ぼしたようです。一方、国連平和委員会のジュヴレン人達はネアンデルタール人顔をしています。

テューリアンは実に優しい巨人なんですが、彼らは完全草食性で、ミネルバの地上には草食動物しか存在しなかったようです。海中には肉食動物も発生しましたが、草食動物側が強力な毒を持つに至って滅んでしまったようです。それでは種のバランスが取れないじゃないかと思いますが、毒が強すぎ、またわずかな負傷でも毒が全身に回って自家中毒で死亡することでバランスが取られた模様。それゆえテューリアンにとっては弱肉強食自体が信じられないほどショッキングな光景で、地球は地獄の星とみなされていたようです。

地球を訪れた異星人が、生命に溢れて、食い合いを行っている様を地獄と見なすのは、新井素子の「グリーン・レクイエム」とか半村良の「妖星伝」でも見られましたね。「妖星伝」では、地球は異星人によってあえて地獄のような星に作り変えられたということになっていました。宇宙では生命は貴重にしてごくわずかしか存在しないので、相互に尊重しあっており、無機物を摂食しているとか。

「妖星伝」の異星人には、あえて地球を地獄のような星に変えるにあたっての明確な理由があるのですが、テューリアンと違って反省とか後悔は一切なく(確信犯なので)、その後の責任も全く取らないというところがまさにこれ。

作中不倶戴天の敵のように扱われているクロマニヨン人とネアンデルタール人ですが、ミトコンドリアDNAの解析結果に基づき、ネアンデルタール人は我々の直系先祖ではなく別系統の人類であるとする見方が有力で、ネアンデルタール人とクロマニヨン人は混血できなかったとする考え方が有力でしたが、2010年に、われわれホモ・サピエンスのゲノムにネアンデルタール人の遺伝子が数%混入しているとの説が発表されています。アフリカに留まったネグロイドを除く現生人類の核遺伝子には絶滅したネアンデルタール人特有の遺伝子が1~4 %混入しているとか。

ネアンデルタール人は約35万年前に出現し、中東・欧州に居住していたようですが、白っぽい皮膚、金髪や赤毛、青い目などいくつかのコーカソイド的な特徴はネアンデルタール人から受け継いだ可能性が高いとか。出アフリカした人類は早い時期にネアンデルタール人と接触し、混血したことで現在のような肌の色の差が生まれたんでしょうか。天文学と同様、人類学もまた科学技術の進展による新発見が相次ぐので、今後またどうなるか判りませんが、ネアンデルタール人が滅亡したというより、混血によって吸収されたという方が平和的でいいような気がします。

あ、最後に「星を継ぐもの」冒頭に登場する巨人コリエルですが、彼は大きいだけで普通の人類であって、ガニメアン(=テューリアン)ではありませんでした。彼はチャーリーと別れてからも生き残り、地球にまで達した模様です。彼をガニメアンかもと思ったのは私だけでしょうかね(苦笑)。

スポンサーサイト