旅の闇にとける:乃南アサの秘境紀行で九州に思いを馳せる

強い地震が相次ぐ熊本、心配ですね。大都市圏ではないの津波が起きなかったせいで死傷者は半身ダイン震災や東日本大震災に比べれば少ないですが、心細い気持ちで避難している大勢の方々の気持ちを思うと胸が痛みます。そして思い出す5年前の悪夢。屋根の崩れた家々の様子は、あの日の筑波嶺そのものです。

こんなブログを更新している場合ではないのかも知れませんが、テレビ各局がこぞって地震情報というのも何か違和感があります。NHKはやってまあ当然としても、他の番組を見たいという人だって被災地にもいるだろうにと思います。なので、もしや一人でもニーズがあるかも知れないと、あえて日常の話題を続けます。本日も本で、乃南アサの「旅の闇にとける」です。

2004年から2011年頃に雑誌に掲載した紀行文をまとめたもので、単行本としては2008年出版の「ミャンマー」と2012年出版の「地球の穴場」を加筆・再構成したもので、文庫版は2015年8月10日に出版されました。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

動物から「進化」した人間の、最大の武器であるイマジネーション。直木賞作家・乃南アサの「旅の物語」はイマジネーションを刺激し、時空をこえて人の心を揺さぶります。ケニアに、タスマニアに、東京の上空に、どのような物語が生まれるのか。美しい文章に浸ると不意に恐怖がしのびより、人類の原始の記憶げと誘われるのです。

単行本「ミャンマー」から収録された「ミャンマーにて」が最大の長編です。まだ軍政から民政移管がされる前のミャンマー紀行であることもあって、軍政批判を行う僧侶のエピソードも出てきます。確かに軍政は国際的批判が大きかったので、民政化は結構なことなんですが…。個人的に民主化のシンボルとされるかの女史、私は大嫌いなんです。なんでかということを語り出すとノンポリ路線が崩壊するのでやめておきます。好きだという人もいるでしょうし、それはそれで結構なんですが。名前が似てるこの美少女雀士だったら諸手を挙げて歓迎なんですけどね。

ケニア紀行、飛行船での東京上空散歩、中国紀行、道東紀行、タスマニア紀行とある中で、一番心を撃たれたのが「たまて箱列車で見る夢は」という、九州での列車紀行です。

JR九州はJR北海道と並んで観光客誘致のために様々な面白い列車を走らせています。ユニークさでいえばJR北海道を凌ぐでしょう。JR北海道の特急は全て始発から終点まで乗り倒したので、これからは九州ですね。九州転勤、ないかしらん。

今回の地震でも「A列車で行こう」「あそぼーい!」は運休なんて字幕が出てきて、なんとも面白そうな列車が走ってるんだなと思いました。私はなんちゃって乗り鉄なので、そういう不思議な名前の列車にはそそられます。

「A列車で行こう」はジャズのスタンダードナンバーですが、熊本市と天草諸島を結ぶルートの一角を形成する観光列車として2011年10月8日に運行を開始しました。「A」は、「南蛮文化が渡来した天草をモチーフに、ヨーロッパをイメージした大人の旅を演出」というコンセプトから、大人 (Adult) や天草 (Amakusa) の頭文字から取られたそうです。

「あそぼーい!」は熊本-宮地間で運行される特急で、車体や内装には「くろちゃん」と称する黒い犬のマスコットキャラクターが描かれています。某大サーカスみたいに「クロチャンです!」とか言うのでしょうかね。

この紀行文が書かれたのは、東日本大震災の直後。乃南アサは仙台で震災に遭遇したそうで、翌日には自宅に戻れたそうですが、想像以上の被害であることを知り、その後一週間はストレスで引きこもり状態になったそうです。そんな時に九州で暢気に面白列車に乗っていていいのかと自問自答したそうですが、決められた約束を守ることしかできない、と決意して出かけます。

そこで出会うユニークな列車の数々。まずは快速なのはな。指宿枕崎線という日本最南端を走る路線で、鹿児島中央駅-山川駅間で運行される、側面に大きく「NANOHANA」と書かれた真っ黄色な列車です。

続いて800系新幹線「つばめ」。博多-熊本間を走る、東海道新幹線でいえば「こだま」相当の各駅停車タイプですが、乃南アサいわく「のらくろ」。ビジネスユーズが多いせいもあって機能的一辺倒の東海道新幹線に対し、九州新幹線は内装も遊び心に満ちていて、乗るだけで嬉しくなるそうです。


九州の春の風景を見る度に、東北はまだ寒いだろうにと思い、楽しい列車に乗る度に東北の子供達に載せてあげたいと思う乃南アサ。当時被災した人々は、知らず知らずに心が傷付いていたんだなあと改めて思います。

熊本から鹿児島中央までは「さくら」。これは「のぞみ」相当で、車両も同じくN700系を使用していますが、内装は「のぞみ」とは「センスが違う」のだそうです。やはり乗って見たいですね。

そして鹿児島中央から指宿までは「いぶたま」こと特急「指宿のたまて箱」。浦島太郎伝説の本場は丹後かと思っていたら、日本各地に伝承があって、薩摩半島最南端にもあるんだそうです。あしゅら男爵とかキカイダーを彷彿とさせる黒白ツートンカラーが異色です。

ネットで見掛けてこのネコさんを思い出してしまいました。この列車は外装もユニークですが、内装も海側を向いた座席(これは伊豆急にもありますね)、ソファー席、コンパートメント席などを装備し、浦島太郎伝説にちなみ、ドアが開いた際には玉手箱の煙に見立てたミストが連結面寄りの噴出口より噴射されます。おじいさんにはならずに済みますが。

こうした列車に乗る度に、九州ののどかな風景を見る度に、東北の惨状に思いを馳せ、これらの列車を東北で走らせたい、子供達に乗って欲しいと願う乃南アサ。その九州が今回は地震の被災地に。地震列島の宿命なのかも知れませんが、こんなことになれかしとは、誰も願っていなかったのに。九州の一日も早い復興を心から祈念します。

スポンサーサイト