ロシア紅茶の謎:有栖川有栖版「国名シリーズ」第一弾

ウィークデイになかなか時間が取れなくなったので、始まった春季アニメを日曜日にまとめて見たのですが、今後日曜日はスーパーアニメタイムにたってしまうのかも知れません。というのもチョイスした作品がほぼ当たりばかりみたいなので。「はいふり」だけかなり思ってたのと違いますが(「ハイスクール・フリート」の略とは思いませんでした)、「ふらいんぐうぃっち」はかなり良い感じな気がします。

アニメの話はまた別途やるとして、今日は有栖川有栖の「ロシア紅茶の謎」を紹介したいと思います。これからは長距離通勤の副産物として「本」カテゴリーをガンガン増やしていくつもりです。
「ロシア紅茶の謎」は1994年に出版された、「火村英生シリーズ」とも呼ばれるシリーズの第一短編集です。探偵役である犯罪学者・火村英生と、ワトソン役の推理作家・有栖川有栖が主な登場人物であり、作品の多くは有栖川有栖の一人称で語られる形となっています。例によって文庫版裏表紙の内容紹介です。

作詞家が中毒死。彼の紅茶から青酸カリが検出された。どうしてカップに毒が? 表題作「ロシア紅茶の謎」を含む粒ぞろいの本格ミステリ6篇。エラリー・クイーンのひそみに倣った〈国名シリーズ〉第1作品集。 奇怪な暗号、消えた殺人犯人に犯罪臨床学者・火村英生とミステリ作家・有栖川有栖の絶妙コンビが挑む!

「国名シリーズ」というとエラリー・クイーンの初期長編作品群が有名です。私も「ローマ帽子の謎」「オランダ靴の謎」「ギリシア棺の謎」「エジプト十字架の謎」などを読みました。「ニッポン樫鳥の謎」も含めて全10作と言われることが多いですが、これの原題は「The Door Between」で国名は入っていません。

雑誌掲載時のタイトルが「日本扇の謎(The Japanese Fan Mystery )」と題されていたという説があり、日本ではこれを事実と仮定して「国名シリーズ」最後の作品としていますが、実際には改題はなかったとも言われています。被害者の女流作家がマンハッタンの真ん中で優美で閑静な日本庭園を持っていたという設定なので、日本のミステリーマニアが国名シリーズに入れたくなる気持ちはわかりますが。
有栖川有栖は本作のあとがきで、クイーンにならって「国名シリーズ」を10作続けたいと言っていますが、今のところ8作までしか執筆されていません。あと2作の中にぜひ日本を入れて貰いたいものです。クイーンとの大きな違いは、多くが短編~中編となっているところです。本作では6編が収録されています。

動物園の暗号
動物園の猿山で、夜間勤務をしていた飼育係の男性の遺体が発見されます。被害者は動物の名前が羅列された不思議な暗号が書かれたメモを握りしめていました。暗号は一体何を意味するのか?「鶴、牛、鰐…」と続く暗号は、一見動物園で飼育されている動物かとも思われますが、魚、鳥といっ動物の種類が入っていたり、竜なんて架空の動物も入っています。
この謎を解く火村英生も凄いですが、もっと凄いのはこんな暗号を考えついた被害者ではないかと思ってしまいます。火村は犯罪臨床学者で名探偵の役どころなのでともかく、一介の飼育係が良く考えつくなあ。ま、被害者にも意外な別の側面はあるんですけどね。
屋根裏の散歩者
言わずと知れた江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」のオマージュ作品です。連続して若い女性を殺害する事件が起きる最中、あるアパートの管理人が殺害されます。残された日記によると、被害者は屋根裏を徘徊し、住人達の生活を覗き見る趣味がありましたが、どうやら彼は偶然にも住人の中に連続殺人鬼を発見したようで、恐喝しようとして逆に殺害されたようなのです。

日記に登場する「大、太、く、I、ト」が5人の住人を示す記号で、「大」が犯人らしいのですが、さあそれは一体誰?という作品です。こちらの暗号は案外に単純で、私にも検討がついてしまったのですが、屋根裏を散歩出来るようなアパートというのは実際にはなかなかないようです。本作では建築家の意見に従って木造平屋という設定にしているので有り得るのだそうですが、長屋形式であれば屋根裏にも界壁というのもを塗り上げるので散歩は出来ないとか。
赤い稲妻

おお、冥鳳島十六士の一番手か!と思ったあなたは「魁!!男塾」にかなり脳をやられています(ワシもじゃ、ワシもじゃみんな!!)。

ジョニー・ライデン少佐じゃね?と思ったあなた。惜しい!彼は「真紅の稲妻」です。

「青いイナズマ」は僕を責めて、炎カラダ灼き尽くすのですが、赤い稲妻は妻と愛人を一気に失ったお琴のお話です。金満弁護士の愛人であるアメリカ人モデルがマンションから転落死し、それからほどなく彼の妻が踏みきりで車に乗ったまま列車に衝突して死亡します。愛人の方は目撃者により誰かと争って突き落とされたようなのですが、ドアは内側からチェーンがかかっており、誰も脱出できない状態になっていました。さあ、この密室状態を火村英生はどう解くのか?と思ったら、拍子抜けするほどあっさり解決してくれました。
ルーンの導き
京都に日本通の外国人が集まった中、編集者のアメリカ人が殺害されます。彼はルーン文字の描かれた石を4つ握っていました。一種のダイイング・メッセージらしいのですが、その4つのルーン文字の意味するところは…というお話です。実はルーン文字には特に意味はなく、その数に意味がありました。被害者が編集者というのがカギです。

本作ではルーン文字がもっぱら呪術的に使用されたとしていますが、Wikipediaでは“ルーン文字は「呪術や儀式に用いられた神秘的な文字」と紹介されることもあるが、実際には日常の目的で使われており、ルーン文字で記された書簡や荷札なども多数残されている。呪術にも用いられていたが、それが盛んに行われるようになったのは、むしろラテン文字が普及しルーン文字が古めかしくいかにも神秘的に感じられるようになった時代に入ってからである。”と説明されています。
ロシア紅茶の謎
新進の流行作詞家の男性がパーティの最中に中毒死します。ロシア紅茶を飲んだ直後に苦しみ出したのですが、カップからも砂糖からも毒は検出されず、誰にも毒を盛る暇がなく、どのようにして毒を盛ったのか皆目見当がつきません。

そこで警察は火村に相談を持ちかけることになりますが…。加害者もある意味カラダを張った犯行で、その度胸は凄いです。なおロシア紅茶(ロシアンティー)というと、ジャムを直接紅茶に入れたものを連想するケースが多いようで、本作でも被害者達はそのようにして飲んでいますが、こちらはどちらかというとウクライナやポーランドにおける飲み方で、ロシアではティーカップとは別に一人分ずつ小さな器に供されたジャムをスプーンですくって直接舐めながら、軽く口に含んだ状態で紅茶を飲むそうです。
八角形の罠
有栖川有栖の推理小説を原作とした劇を行う劇団で起きる本当の殺人事件。しかも警察の到着と捜査開始後に起きる第二の殺人。大胆不敵な殺人はどのようにして行われたのか?

8人しかいない劇団に渦巻く複雑な愛憎劇がおどろおどろしいです。劇団ってこんなもんなんですかね?美男美女が多いからそりゃあ惚れた腫れたはあるんでしょうけど。ちなみに「八角形の罠」とは8人の劇団で起きた“八角関係”と、演劇を行う予定のホール(尼崎市アルカイックホール・オクト)の形状が八角形だったことのダブルミーニングとなっています。

なお、本作の「動物園の暗号」「ロシア紅茶の謎」は、麻々原絵里依作画により漫画化されています。
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